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現実世界への顕現

 優七はマンションから徒歩で最寄りのコンビニに入ると、弁当コーナーで適当な物を見繕い購入した。ついでに優七自身もお菓子を買い、店を出ようとする。


「……ん?」


 そこでふと、雑誌コーナーに目がいった。一人ゲーム雑誌を立ち読みする、部活帰りと思われる制服姿の男子の横にある棚に、ロスト・フロンティアの文字がでかでかと記載されていた。


「……ちょっとくらいは、いいかな」


 優七は手首にビニール袋を引っ掛けつつ、雑誌を手に取る。読み始めるとすぐに、ロスト・フロンティアのアイテム特集なのだとわかった。レアアイテムとして死天の剣も載っていた。ちなみに解説文は『プレイヤーキラー専用剣』とだけ。


 さらにページをめくる。今度は勇者の詳細について書かれていた。ジェイルのこともバッチリ書かれている。一応確認してみるが、自分のパーティーに関することは――


「あ、あった」


 オウカの項目だけはあった。読んでみると『魔法戦士の中でトップクラスの火力を持ち、前衛後衛任せられる強力キャラ』と記されていた。


「オウカくらいの能力者だと、載せてもらえるのか」


 驚きながら優七は他の記事を斜め読みする。それ以外にめぼしいものは無く、今度は別のゲームに関する情報を読み――ふいにオウカの記事について考え始める。


 オウカはかなりのレベルに達しており、ジェイル達の勇者パーティーの中にいても遜色ない人物である。実際ジェイルはユウとパーティーを組んでいたオウカを勧誘したことがある。ついでにその時、シンやマナも冗談交じりに打診していたが、あいにくユウには来なかった。


「……なんだかな」


 優七は苦笑しつつ本を戻す。横手を見るとなおも本を読む男性――だと思っていたのだが、様子が違うことに気付く。

 本ではなく窓の外を凝視し、硬直していた。優七も合わせて外を見る。コンビニの正面にあるアスファルトの道路。そこにはコート姿の女性と、もう一つ――


「え――」


 優七は目を見開き、外を注視した。女性は進行方向とは異なる背後に振り返って、驚き身をすくませていた。

 彼女に迫っていたのは――優七もはっきり見覚えのある、ロスト・フロンティアに出てくる、人の身長と同じ胴と漆黒の毛並みを持った、狼型の魔物。


「は……?」


 優七は間の抜けた声を上げ、呆然と立ち尽くす。反対に横にいた学生は本を置き、床に置いていた鞄を手に取って、携帯電話を携えコンビニを出る。

 そこで優七は我に返り、コンビニ店内を見回した。異変に気付いた店員もまた外を見て様子を窺っていた。他には主婦らしき女性が買い物をしていたのだが、レジにカゴを置いて同じく外を眺めていた。


 直後、その狼による雄叫びが聞こえた。見ると声に反応し女性が悲鳴を上げて逃げていく姿。そして、狼型の魔物が女性に興味を失くし、コンビニに首を向けた光景。

 狼の視線を眺めながら、優七はあの魔物が確かデビルウルフという名前の魔物だと記憶から引き出す。


(一つ目のダンジョンやその周辺のフィールドで徒党を組んで出現する……そして、数に物を言わせ突撃してくる……)


 ユウのレベルであればさしたる苦労も無く倒すことができる――思った時、優七はじっとデビルウルフを見据えた。まさか現実世界の動物ではあるまい。ならばなぜあんな所にいるのだろうか。


 それは純然たる興味だった。何か特殊な映像機器を使ってどこからか投影しているのか。


「一体……?」


 優七は本を戻し魔物を眺める。出て行った男子学生は携帯のカメラ機能を使い、デビルウルフの写真を撮っていた。優七はそれに倣おうと思い、ポケットから携帯電話を取り出そうとする。

 だが魔物の遠吠えによって、それは阻まれた。優七は即座に硬直し、やがて気付く。


 デビルウルフの攻撃パターンとして、吠える行為は仲間を呼び込むことを意味している。


 優七はここに至り僅かに警戒を抱いた――瞬間、同じような体躯をしたデビルウルフが複数体視界に現れる。


「――っ!」


 優七が短く声を上げると同時に、一頭の狼が一気にコンビニ目掛け走り始めた。

 店員や主婦は悲鳴を上げ、慌てて逃げようとする。学生も狼の動きを察知したか、横に逃れようとする。


 優七もまた横手に移動した――直後、盛大な音を立てて狼一頭がガラスを突き破り、店内に侵入してくる。同時に起こったのは、主婦の悲鳴。優七は驚愕しながらも後退し、店の奥に位置する飲料コーナーまで退避する。


(何なんだ……これ……!?)


 異常事態――そうはっきり認識する。現実世界でロスト・フロンティアの世界が生じている。しかも目の前のデビルウルフは、現実世界の物を破壊できている――すなわち、明確な現実ではないか。

 一瞬夢かと思い動きを止めた優七だったが、すぐに我に返った。唖然とするのはいつでもできる。今はここを離れるべきではないか――判断し、コンビニの入口に目を向けた。


 デビルウルフの一頭が店内にいるが、他はまだ外にいる。優七は店の奥から音を立てないよう注意しつつ、外と店内を交互に見やる。

 まず店内では店員がレジ前で主婦を庇うように立っていた。そして外は、男子学生の姿が消えていた。


(逃げたのか……?)


 思った時、デビルウルフが店員へ突撃を開始する。相対する店員は両手を広げて目を瞑り、一撃に耐えるような仕草を見せた。

 瞬きをする時間でデビルウルフが店員と衝突する。優七があっと声を上げた次の瞬間、突如店員の体が淡く発光した。


 何を――見つめていると、店員の体が手足の先から白い光となり――消えた。


「……え?」


 優七は目の前の光景が半ば信じられず、呟いた。同時にいなくなった店員の立つ場所を、見た。その間に主婦はさらなる悲鳴を上げ逃げようとし、デビルウルフが吠え、逃げる主婦を追い始める。


 この状況下で、優七は決断した。逃げなければ。

 一瞬主婦を気にしたが、店員が消滅する姿を目に焼き付いてしまい、構う余裕がなかった。


 なぜなら、知っていたからだ――ゲーム上で無抵抗な市民NPCがやられた場合、ああして光となって消えることを。


(あれは……ゲーム上の、死だ……そして現実に魔物が現れて、現実世界の人がゲーム通りの死に方をしている……!)


 もしやられれば自分もまた死ぬと、はっきり確信した。


 恐慌に陥りそうになりながら、優七は駆けた。足音に気付かれたかデビルウルフが再度吠える。だが決して足を止めることはできない。もし気に掛かり目をやれば、その隙に近寄られ自分が死ぬ。


 必死の思いで外に出た。 まだ陽の高い外には、残りのデビルウルフが学生の立っていた場所にたむろしていた。

 そこに注目すると、地面に落ちた携帯電話が一つ。


(彼も――)


 優七は途端に背筋が凍り――デビルウルフの雄叫びによって弾かれたように走り始めた。こちらに襲い掛かってくるかもしれない恐怖と戦いながら、必死で足を動かす。

 結果として、運よく攻撃対象に入らなかったらしく、距離を取ることができた。優七はなおも足を動かし、


(このまま家に……!)


 思いながらも、一度だけコンビニを確認した。店内ではデビルウルフが動き回り、中を荒らしていた。そして、先ほどまでいた主婦の姿がない。

 どうなったのか――結末は、明白だった。


「……っ!」


 身震いしつつ、優七は走り出す。この時点で買っていた物を放置してきたことに気付くが、最早それどころではなかった。

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