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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第三話

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強情な人物

「わっ!」


 桜が視界に男女を捉えた時、男子が大声を上げながら倒れる。彼らの正面には黒い全身鎧姿の騎士が一体。見覚えのある魔物だ。


「ファントムナイトか……!」


 中級クラスの魔物であり、桜にとってみれば苦戦するレベルでもないのだが、二人のプレイヤーは苦戦していたようで、険しい顔をしながら獲物である剣を構えていた。


「やっ!」


 そこで後方から麻子が矢を射出して援護を行う。それは男女を避けるようにファントムナイトの横手の地面へと突き刺さり――それにより、ファントムナイトは桜達に振り返った。

 目の前にいる魔物はカウンター型であり、攻撃をした相手に対し反応するようになっている。だからこそ麻子は矢を放ち、気を逸らした。


「私が!」


 桜は叫び、突撃を開始する。男女は新たに登場した一行を見て驚いた様子だったが、桜は無視し足を動かす。

 すかさず反応するファントムナイト。相手もまた攻撃態勢に入り、桜が接近すると同時に、右手に握る剣を横に一閃する。


 対する桜はそれを平然と捌く。そして、


「ふっ!」


 小さな声と共に一撃。それにより、ファントムナイトはあっさりと消滅した。


「――大丈夫!?」


 桜はすぐさま二人に呼び掛ける。男女はそれに小さく頷いたが、なおも両者は桜達を見て驚いた目をしていた。


「えっと……どちらさまですか?」


 女子の方が問い掛ける。それに桜はどう答えようか少し迷い――


「政府の人間よ」


 後方から麻子がフォローに入った。


「ここに特殊な魔物がいるって情報があって、調べ回っているところなのよ」


 ――さすがに白い光について言及するわけにもいかなかったためか、そんな風に麻子は説明。すると、


「え……魔物……」


 男子が小さく呻いた。


「と、特殊な魔物、ですか……?」

「ええ」


 麻子は男子の問い掛けに頷いた。その時、桜は二人の様子が少し変だと気付く。


(なんだろう、魔物に対して恐怖しているような様子はないけど……)


 桜はじっと制服姿の二人を見据える。それに対し彼らはやや表情を引きつらせ、耐え忍ぶような雰囲気を見せた。

 なんとなく、桜は直感する――特殊な魔物と聞いて恐れたという様子ではない。これはむしろ、何か隠し事がバレてしまったのでは、と危惧を抱いた表情。


「……ふむ」


 桜と同様それに気付いたのか、浦津が小さく声を上げた。それにも反応する二人。ますます怪しい。


「……二人とも」


 桜はどうにか聞き出そうと声を上げようとした。途端、二人は踵を返そうとする。


「え、えっと俺達は何も知らないから――」


 そう言って男子が先んじてこの場を後にしようとする――いや、これはどちらかというと、桜達から逃げようとする態度。


「え、ちょっと――」


 桜はすぐさま声を出そうとした。その時、

 彼らの目の前にある林から、新たな魔物が出現した。それはまたもファントムナイト。


「うわっ……!」


 男子は驚き慌てて剣を構えようとする。けれどファントムナイトの動作は意外と早く、先に攻撃を仕掛けた。

 その時点で桜もまた動いている。魔法を刀身に込め仕留めるつもりで、握った剣を振ろうとした。けれど、魔物が攻撃を仕掛けるのと比べて少しタイミングが遅かった――


(いや……まだ!)


 桜は半ば本能的にスキルを併用し、反応速度を上げた。刹那、一瞬で剣を振り抜き、現れた炎の槍がファントムナイトの頭部へ見事直撃。消滅した。


「あ……」


 ファントムナイトが炎によって消滅する姿を見て、男女はは呆然と立ち尽くす。その間に桜は近寄り、二人に声を掛けた。


「……どんなことでも良いから、この辺りで起こったことを話して欲しいの。もちろん、二人が喋ったという事実は、絶対に言わないから」


 プレイヤー二人がゆっくりと振り向く。そしてぎこちなく桜に視線を向け、


「……本当に?」


 逃げられないと悟ったのか、女子が小さく確認するように問い掛けた。


「ええ、もちろん」


 桜は深く頷く。それを全面的に信用したとは思えなかったが、二人は二度助けられたことで少しは心を開いたらしく、口を開こうとした。


「その……この辺りにいる魔物は――」

「話さなくていいぞ」


 後方から声。桜が振り向くと、そこには新たな男子の姿。やはり学生服を着ており、


「ここは俺達のテリトリーだ。余計な真似はしないでくれよ」


 決然と告げた。途端に、麻子が渋い顔をする。


「自分達のテリトリーって……」

「この場所は、俺達が国から預かって魔物を抑えるように言われているんだ」


 だからこそ、協力しようと――そう桜は返答しようとしたのだが、口が止まった。男性学生の視線が、敵意に満ちていたためだ。


(なぜ……そんな表情を?)


 政府関係者であることを疑っているのか――それとも、何か他に理由があるのか。


「……はい、わかりましたと素直に頷くことはできませんね」


 そこで憮然とした表情を伴い、浦津が男子へ告げた。


「こちらも色々と調査を任されている身なので……苦戦しているようなので、協力しますよ」


 そこまで語った時、一層男子の顔が険しくなる。そうまでしてなぜ、遠ざけようとするのか――


「ここに、何かあるわけ?」


 麻子が頭をかきながら問う。すると、男子は僅かに眉を動かした後、


「……別に。ただ部外者に干渉されたくないだけだ」


 そんな風に答えた。怪しいことこの上ないのだが、態度から理由を喋り出すとは思えない。


(どうするべきなのか……)


 桜はこのまま押し通るべきなのか判断に迷った。その時、


 狼の遠吠えが周囲に響いた。


「また魔物みたいね」


 嘆息しつつ麻子は弓を構える。直後、男子がそれを押し留めるように手を突き出した。


「俺達がやる……だから、邪魔しないでくれ」

「え……?」


 さすがの桜も、不審に思った。魔物が出現したにも関わらず、頑なすぎる。

 麻子や浦津も困った表情を見せている――そしてこのまま押し問答を続けていても解決しないと桜は深く理解できた。


「……わかったわ」


 そこで麻子があきらめたのか、ため息をつきつつ答えた。


「ところで……一つ質問があるの。君がここを任されているリーダーみたいだけど……名前は?」


 男子は問われ、一度は口とつぐんだ。しかし、


「……二宮忠志だ」


 面白くない顔ではあったが、答えはした。


「二宮君、ね。わかったわ。とりあえずここは任せることにする」


(……後でこの人のことを調べて、上司に文句でも言う気かな)


 桜は推測しつつ、麻子が元来た道を戻り始める光景を視界に捉える。桜は仕方なくそれに応じように足を動かし始めた。

 その時だった――先ほどよりも明らかに近づいている狼の雄叫びが聞こえ、桜は警戒の眼差しを周囲に向けた。


「森の中から来るのかな……?」

「ここは任せてくれ」


 けれど二宮はなおも告げ、自身はメニューを操作し剣を取り出した。それは街で買えるものではあったのだが、高級品の部類であり、桜は彼のレベルもなんとなく推察ついた。


「……来ますね」


 浦津が呟く。二宮や先ほどの男女は武器を構え直し、迎撃しようという態勢を整えた。

 桜は彼らの行動を注視しつつ、ふと二宮に呼び掛けようとした。場合によっては援護をする――そんな風に言おうとした時、


 魔物の群れが濁流となって広場に雪崩込み、二宮達は交戦を開始した。真正面から二宮が相対し、敵を屠っていく。


(能力的には、武器に準ずるステータスで間違いなさそうね)


 桜は胸中呟く。現れた魔物の中には中級レベルの魔物もいたが、それを彼はいとも容易く倒していく。

 反面、最初にいた男女はやや苦戦――とはいえ二宮が上手くフォローに入り、事なきを得る。


(彼がこの辺りのリーダーなのかな?)


 彼の動きを見て、桜は思う。となれば、少なからず優七とも知り合いである可能性が――


(あまり角が立たないようにしたいけど、彼はどうも私達のことを好ましく思っていない様子だし……)


 桜としては優七のことがあるので、目立つような行動は避けたいと思っていた。しかし、それも二宮の出方次第となる。

 彼は上手く男女をフォローしつつ戦いを進める。桜は胸中複雑な思いを抱えながら、目の前の光景を見据え続けた。


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