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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第三話

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見えた光

 情報はあれど見つかるかどうかもわからないものを探すのには、それなりの精神力が必要となる――優七達がその事実に気付いた時、体力はあれど精神的な疲労が極まっていた。


「終わりが見えないな……」


 拓馬はひどく疲れた声で呟く。優七は内心同調しつつ、重い空気を振り払うように肩を回した。

 そこで右手に痛みが走る。ずっと『ホーリーシルフ』を握ったままだったからだ。


「時間は……」


 優七は肩が重くなったと感じつつ、携帯電話をポケットから取り出す。デジタル表示の時計は、十五時過ぎだと語っていた。


「……雪菜。その内夕方になる。今日は成果なしということで引き上げてもいいんじゃないかな」

「……今、何時?」

「三時」


 言うと、雪菜もふうと息をつく。


「そう。結構動き回ったわね……拓馬、どうやら成果はなかったみたいだけど」

「仕方ないさ……いなくなった仲間については、無事であることを祈るしかないな」


 沈鬱な表情で語る拓馬は、さらに自身の見解を示す。


「実害が出た以上、あの兄弟はグループを離れることになるだろうな。残ると言っても、親御さんが否定するだろう。政府の人は白い光の件を公にしたくないだろうから、俺達のことは黙っていてくれると思うけど……最悪、グループの中で騒動があるかもしれない」

「そこを食い止めるのは、あんたの仕事よ」


 雪菜はそう述べると、拓馬はしっかりと頷いた。


「無論だよ。その点については任せてくれ」

「……それじゃあ、一度切り上げて戻る?」

「そうだね。ひとまずルームに……拓馬は?」

「俺はあのグループで話の分かる奴に連絡して、白い光に関する注意を促しておくよ」

「もう二度とこんなこと起こさないようにしないといけないよ?」

「わかっているさ。よく厳命しておく」


 拓馬の顔は真剣そのもの――優七はそれを見て大丈夫だと思い、ゲートを開くべくメニュー画面を開き操作しようとした。


「……ん?」


 その時、視界の端に何かチラついた。目を向けると、そこには――


「……あれは?」


 優七の声に、雪菜と拓馬も視線を注ぐ。枯れた雑木林の一角。そこに、白い光の塊が存在していた。


「最後の最後で、見つけたみたいだな」


 拓馬は警戒の声を上げ、優七達に向き直る。


「どうするんだ?」

「……近づいて確認しよう。行こう、雪菜」

「ええ」


 雪菜は頷き、歩き出す。優七は白い光をしっかりと見据えながら、じりじりと近寄っていく。

 遠目から見て、何の変哲もない白の塊――いや、現実世界にあんなものが存在している時点で、奇怪極まりないのだが。


「ゲーム上で見たら……バグでも発生している、という風に思うだけだろうな」


 近づきながら優七は呟く。そこで、もしゲーム上であればどのように対応するのかを思案した。


 そもそも、ゲーム上でこうした現象はそれなりに存在していたと、優七は記憶している。ただゲーム上では故意に近づくような真似はしなかった。バグの領域に触れると使用しているキャラがおかしくなり、最悪取得しているアカウントのデータが飛ぶ――という風に運営が説明していたからだ。


 それが真実かどうかまでは、優七にはわからない。けれどロクなことが起こらないということだけは理解しており、だからこそこういうトラブルの元には近寄らなかった。


「雪菜……あれに触れたらどうなると思う?」


 優七はなんとなく雪菜に問い掛ける。


「単なるバグだとして……ゲームの世界が現実に反映しているから……」

「データ喪失なんて話もある事実を考えると、最悪死ぬかもしれないわね」


 雪菜は恐ろしいことを言いながらも、表情は極めて冷静だった。


「とりあえず発見したのはいいけど……どうする? 目立った動きもないし、あれだと観察しかできなさそうだけど」

「解析担当に連絡しよう……江口さんを呼んでみる」


 優七は言いながらメニュー画面を操作。白い光を視界に捉えながら通話ボタンを押し、


『どうした?』


 少しして江口が画面上に出現した。


「白い光ですけど、見つけました」

『おお、そうか……画面で見せてもらっていいか?』


 言われ、優七は白い光に背を向けつつ江口に見えるように画面操作を行う。


『奥にあるやつか……ふむ、光は一定の場所に留まり、渦を巻いている感じだな……何か干渉はしたか?』

「いえ、正直怖くて」

『そうか……よし、解析班をそちらへ回すよう伝えるから、しばし待機していてくれ』


 言って江口は通信を切った。優七は雪菜や拓馬に視線を移すと、二人は聞いていたのか小さく頷いていた。


「しかし、また待機か……」


 愚痴っぽく零す拓馬は、白い光を見ながら悔しそうに顔を歪める。


「あの光に攻撃でもすれば、あいつは帰って来るのか……?」

「触らぬ神に崇りなし、よ。おとなしく解析班を待ちましょう」


 雪菜が告げる。しかし拓馬は不服なのか口を尖らせた。


「その解析班とやらが来て、解決するのか?」

「……ゲームの中身を知っている人なら、可能性はある」

「そうか……けど――」

「焦る気持ちはわかるけど、今は落ち着こう」


 そこで優七が会話に割り込む。


「白い光は見つかり、解析がもうすぐ始まる。情報が手に入れば見つかる可能性だって高まるし、事態は好転していると考えようよ」

「……そうだな」


 拓馬はあまり納得していない顔つきで返答するが――それ以上話す気は無かったのか、押し黙った。

 彼が沈黙すると、優七はおもむろに白い光を注視する。


「……その内、消えたりしないのかな」

「どうでしょうね。解析班が来るまでに消えちゃったら、厄介よね」

「そういうことを言うと、フラグが立って実際にそうなるかもしれない――」


 優七が肩をすくめて発言した時――ふいに、白い光が波を打つように揺れた。


「……気を付けて」


 雪菜は半ば反射的に槍をかざし、警戒する。優七もまたそれに触発され剣を構えるが――それ以上、動きは無かった。


「……何も、なさそうだな」


 拓馬はそうコメントするが、優七はじっと白い光を眺め続ける。

 やがて一分ほど経過し、何もないことを確認すると優七は静かに構えを崩した。


「……現実世界を飲み込んでいく、なんて真似にはならないよな?」

「どうだろうね」


 優七の不安に対し、雪菜は淡泊に応じた。


「けどそんなことが起きていたら、早い段階で気付いていたでしょうし、可能性は低いと思う……疑問は、なぜこうした光が発生するようになったか、かな」

「きっかけは、例の件か?」


 拓馬がいる手前婉曲的に優七は呟く。しかし、雪菜は首を左右に振った。


「直接的に関わっているかはわからないけど……まあ、事件に関連する人物が何かしでかした、という可能性はあるわね」

「何の話だ?」


 一人話題について来れない拓馬が問う。けれど優七は首を左右に振り、


「守秘義務があるから、話せない」

「そっか……もし知りたいとなると、政府組織に入らないといけないわけだ」

「入る?」


 優七はそんな提案をしてみるが、拓馬はすぐさま首を左右に振った。


「遠慮しておく。俺はまだ死にたくないし」

「その言い草だと、俺達が死ぬみたいじゃないか」

「俺の生存確率が低い、と言いたいだけだ。実際、ゲーム上では死にまくっていた」

「拓馬って前線にいることが多かっただろ? だったらそれは仕方ないんじゃ?」

「でも目の前に、どんな危機でも生存率の高かった剣士がいるから、自信を失くす」


 そう言いながら彼は優七をじっと見据えた。


「……俺?」

「他に誰がいるんだよ」

「そんな生存率高かったようには思えないけど……」

「仲間の協力があったため、と考えることもできるけどな……まあいいや。とにかく、政府組織に組み入れられるのは、勘弁だ」

「そっか……」


 優七としては残念だったが、強制するわけにもいかないため、勧誘の言葉をぐっと飲み込むことにした。


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