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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第三話

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戦う理由と田舎の風景

「……なあ、話は変わるんだが、何で政府の組織で戦うことにしたんだ?」


 言葉の直後、雪菜の心の中で自身の本音が漏れる。


 ――彼が参加すると決めていたから。


「……親に、楽させてあげられると思ってね」


 けれどそれを口には出さず、肩をすくめて誤魔化すように答えた。すると拓馬はなるほどといった顔をする。


「学費免除に加え、さらに給料をもらえるんだったか? けど死ぬ可能性を考えると、リスクの方が大きい気がするけど」

「確かにそうかもしれないわね。けど、私は悩んだ結果戦う道を選んだ」

「後悔はしていないのか?」


 ――彼と共にいられるのなら、後悔はしていない。


 そんな心の声が響き、雪菜は自分の感情に苛立ちながら答えた。


「していないわ。両親も喜んでくれているし」

「……そんなもんかなぁ」


 頬をかきつつ、拓馬は返す。雪菜はそこでため息をつく。


「あんたは死ぬのが怖いから参加していないんでしょう? 私はそのリスクをとってでも求めるものがあったから戦うことにしただけ。誰も彼もがあんたと同じような見解を抱いているわけじゃないわ」

「確かにそうだな……で、優七はどうなんだ?」


 拓馬は視線を優七へ向ける。まだ彼は江口と話をしていた。


「なぜ、彼は戦うことにした?」

「……優七の場合は、求められたというのが大きいかもしれないわね」

「求められた?」

「魔王を倒した英雄、なんて言い方をされることもあるし、政府が組織を結成する時最初に声を掛けたのも、優七のいたパーティーだったし」

「はあ、なるほど……英雄ともなると、色々な人に目を掛けられるんだな」

「それはただの結果論だろうけどね……厳しい戦いを勝ち抜いて、英雄となったわけだし」

「なるほど……苦難の末に、手に入れた称号か」

「ほとんど放り出しているけど」

「中学生には、荷が重すぎるだろ」

「確かに」


 双方笑う。ほんの僅かだが意見が合ったことで、多少なりとも親近感が生まれた。


「……ま、実際優七のパーティーは有能揃いだったしね。優七や他のプレイヤーも死線を越えたことで、政府に協力的だし」

「協力的、か」

「最初の事件で色々なことを見て……二度と、あんなことが起きないようにと心の中に誓いを立てて、人のために戦っているのかもしれない」


 雪菜の目には、少なくとも優七と桜はそう見えていた。麻子もそうだろうし、彼らのパーティーにいたシンという人物も同じだろう。


「なんだか、詳しいな」


 拓馬がそこに言及する。雪菜としては予想通りの言葉だったので、用意していた答えを告げた。


「ゲーム上で関わっていたから、ある程度知っているのよ……パーティー全員がお人好しだとわかっているから、こういう推測ができる」


 そう言って、また笑った。その段になって、優七の通信が終わる。


「お待たせ……って、どうしたんだ?」

「何でもないわ。それより、何か進展があったの?」

「ああ。桜さん達が白い光が確認された所を見に行くらしいよ」

「ここだけじゃなかったんだな」


 拓馬が答えると、優七は神妙に頷く。


「他にもそれらしい場所があるって話で……もしかするとこの現象は、各地で起きているのかもしれない」

「ちなみに、桜という人はどこを調べるんだ?」

「その辺は詳しく知らないよ……というか、江口さん達も情報をまとめるので精一杯らしく、とりあえず情報があった場所を手あたり次第みたいだ」

「無茶苦茶だなぁ……こうなる前に調べろって話だよな」


 優七の言葉に拓馬は憮然とした面持ちとなる。


「あいつが吸い込まれるようなこともなかったはずなのに……」

「政府の人間というのは、基本後手で対応するしかないんだよ。そもそも噂程度のレベルで調査なんてできないし」


 優七は肩をすくめながら応じる。それを聞いた拓馬は小さくため息をついた。


「これがお役所仕事ってやつか……まあいいさ。で、探索再開だな」

「うん」


 優七は頷くと歩き始めた。


「先はまだ長いみたいだし、頑張らないと」

「そうね」


 雪菜は同意し槍を地面から抜くと、肩に担いだ。


「優七、今度はあんたが先頭ね」

「了解」


 笑いながら優七は了承――それを見て、雪菜は小さくため息をつく。


(これだから……)


 雪菜は自分の心に苦笑しつつ、歩き出す。別に今のだって、何でもない会話のはずだ。


(表情に出ないのは幸いだけど、どうにか是正しないと)


「おーい、どうした?」


 ふいに、拓馬がニヤニヤしながら問い掛ける。雪菜はそれに内心苛立った。まさか、目の前のこの人物には心が透けて見えるのだろうか。


「……何でもないわ。行くわよ」


 雪菜はそうした考えを全て心に封じ込め、決然と告げる。拓馬は「ああ」と答えつつも、笑みは絶やさず雪菜達に追随した。



 * * *



 桜達が訪れた場所は、田畑が広がる田舎だった。


「おおお……なんか逆に新鮮」


 麻子が呻き、水の張っていない土だけの田んぼを眺める。


「この辺りは、魔物が出現することも少なめで平和ですねえ」


 語る相手はプレイヤーであり、この周辺にある交番の警官だった。まだ若く、勤務を始めて二年目らしい。


「見送り、ありがとうございます」


 桜はペコリと頭を下げる。警官は「ははは」と小さく笑うと、敬礼した。


「皆様の無事を祈っております」

「はい」


 桜は応じると、麻子や浦津と共に歩き出した。


「しっかし、のどかねぇ……ここに白い光があるって?」


 先んじて問い掛けたのは麻子。桜は頷き口を開く。


「うん、掲示板の情報ではここの近隣で戦うプレイヤーがそういうものを見たって報告が」

「……なんか、ガセって気もするけど」


 麻子は頬をかきつつ一言。桜もそれには同意するように首を縦に振り、


「けど、可能性があるなら調べないと」

「……ま、平和だというのなら遭遇する魔物のレベルも低いでしょう。このメンバーなら楽勝だろうし、のんびりいきますか」

「油断大敵ですよ」

「わかっているわよ」


 浦津の意見に麻子は当然と言わんばかりに答えると、首をぐるりと見回し、


「……けど、少なからず生活に影響はあるみたいね」


 その言葉で――桜は正面を見据え、やや表情を硬くした。

 正面に続く道を進むと、学校らしき場所の裏手に行き着く。そして背後は山が広がっており――桜達から見て学校の左。その方向の道路にはいくつも進入禁止の看板が立っている。


「山から学校左手にかけて、魔物が出る感じね……雑木林があるから、そこから魔物が出るのかも」

「学校は封鎖されなかったんでしょうか」


 浦津は校舎を見ながら呟く。桜達から見て、学校の右側に運動場が広がっており、サッカー部らしき面々が練習をしている。


「魔物が近くに出現しても、境界外であれば安全よ。ここはきっと、あの進入禁止の看板を越えなければ大丈夫なはず」

「そんなものですか」

「私が調べたんだから、間違いないわよ」


 麻子は胸を張って答える。確かに、彼女はプログラマーとして現在ロスト・フロンティアのことを良く知っている人物の一人。


「だからこそ、あの学校は安全……で、桜。掲示板情報で、光がどの辺から出るのかわかるの?」

「情報によると、学校帰りに立ち寄った修行場だとか」

「……経験値稼ぎする人って多いけど、できればこちらの目の届くところでやって欲しいわ」

「ルームの中のダンジョンを使ってくれと言いたいわけですね」


 桜の言葉に麻子は大きく頷く。


「そうよ、隠れて強くなった方が良いとか、一人で修業した方が強くなれるとか思っている節があるのよね……まあいいわ、本筋から逸れるし。で、あれがその学校かな?」

「小中高どれなのか明言されていないからわからないけど……とりあえず、行ってみましょう」

「そうね。じゃあひとまず学校近くへ」


 麻子の提案に、桜達は歩みを進めることで応じる。


(学校か……厄介だなぁ)


 桜は内心そう思う。同年代のプレイヤーと出会うのは珍しくもないのだが……自分達の能力を知られた時、大騒ぎされる可能性がある。

 それだけで世界を救ったパーティーだと露見されるようなことは決してないのだが、噂でも立てられたら厄介。


(ま……なるようにしかならないか)


 桜はそこであきらめにも似たような心情を抱きつつ――正門側に回り、名称を確認。


『公立羽場根中学校』


 正門の看板には、そう書かれていた。


「……はばね、って読むのかしら」

「でしょうね」


 麻子の呟きに、浦津は同意。しかし、

 桜は答えられなかった。


「……桜?」


 気付いた麻子が問い掛ける。そこで桜は――


「……ここ、聞き覚えがある」

「え? 聞き覚え?」

「うん、江口さん達から聞いた覚えがある……」


 と、桜は信じられない面持ちで言った。


「ここ……優七君が暮らしている場所だ――!」


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