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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第三話

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馬鹿者

 正直に言えば、本心を訊くのが怖かった――雪菜は調査名目で歩いていて、今はっきりと確信した。


 自分の気持ちを整理しなければならないと感じながら、結局デートの日を迎え、今こうして騒動に巻き込まれ優七と共に事件を追っている。優七から見れば紛れもなく厄日だろう。けれど、雪菜にとってはほっと胸を撫で下ろす状況だった。


 なぜか――きっと、あのままデートを続けていれば頭が爆発したかもしれないから。


(どうして自分はこうまでバカなのか……)


 自分の顧みない性格に難儀しているのは雪菜本人だった。けれどそう思っても口から出るのは高圧的な言葉。優七を含め、色んな人達に申し訳なかった。


「――どうやら、周囲にはいないみたいだな」


 優七の声。視線を転じると、彼は難しい顔で周囲を見回している拓馬に目を向けているところだった。


「拓馬、他に白い光が出ている場所とかは知っている?」

「いや、俺が見つけたのはこの場所だけだが」

「そっか……待ってもいいけど、他の場所を調査した方がいいのかな……雪菜はどう思う?」

「待ってみてもいいんじゃない?」


 硬質な声――優七はどこか怯えた眼を見せながら拓馬と視線を交わし、歩き出した。


(何をやっているんだか……)


 自嘲的な言葉が胸中漏れる。勝手に約束を取り付け、彼の見えない所で七転八倒しているのが現在。滑稽この上ない。

 今の所、この状況がバレている様子は無い。それだけが唯一の救いなのだが――


 ふいに、前を歩く拓馬が優七に声を掛ける。距離は近いが小声で何を話しているか聞き取れない。


「……で、どういったところが好みだったんだ?」


 いや、かろうじてその言葉だけ聞こえた。どうやら関係性について尋ねている――


「二人とも」


 すかさず雪菜は呼び止めた。それに優七はやや肩を震わせ、拓馬は何気なく後ろを振り向き、

 彼らの正面に、デビルウルフの姿を認めた。


「――敵よ」


 反射的に雪菜は告げる。二人は即座に反応し、


「ふっ!」


 優七が『エアブレイド』による攻撃。結果、デビルウルフはあっさりと消滅した。


「ここの敵はやっぱり強くないな」

「だからこそ、経験値稼ぎに来るやつが多いんだよな」


 優七の意見に拓馬は肩をすくめる。


「いっそのことナイトサイクロプスくらい出てきてくれれば、ここに来ようとする奴らも減ると思うんだが……」

「その口上だと、下級クラスの魔物しか出て来ないみたいだね」

「ああ。だからこそ困っている……実際、事件も起きてしまった」


 拓馬は言った後、ため息をついた。


「……二人の責任者はああ言ってくれたけど、一日に二件も不祥事を起こしたとなると、追及は免れないかな……」

「両方とも拓馬のせいじゃないんだし、大丈夫だと思うよ」


 優七はフォローを入れるが、拓馬は苦笑を浮かべるばかり。


「もっと厳しいルールなんかを立てておけば、食い止められたかもしれない話だからな……ま、覚悟だけはしておくよ」


 彼の瞳には、悲しげな感情が見え隠れする。

 そうまでしてなぜ肩入れするのか理解できないし、理由を語りそうな雰囲気でもない。けれど大切にしているのは間違く――雪菜は半ば無意識の内に、口を開いた。


「後悔したって、今更遅いわよ」


 切って捨てる言葉。それを優七は慌てて止めようとしたが、


「過去のことに対し感傷的になる間、状況はどんどん悪化していく……後悔するのは後でもいいから、さっさと動きなさい」


 そう煽るように言うと――拓馬は再度苦笑した。


「確かに、な……ま、今は少しでも状況を改善するために頑張ろう」


 どこか陽気に告げた拓馬は、続いて雪菜へと近寄る。


「……何?」

「いや、気にかけて悪いと思ってさ」


 そう言いつつ彼は接近すると、優七に聞き咎められない声量で告げた。


「もし良かったら、優七と二人きりに――」


 瞬間、雪菜の槍が拓馬へ飛ぶ。


「うおっ!?」


 対する彼は即応し、かわした。


「……おいおい、親切心で言っているのに」

「余計なことはしなくていいわよ」


 雪菜の顔が途端に険しくなる――拓馬の背後にいる優七も、頼むから余計なことはするなと顔に書いてあった。


「……わかったよ。とりあえず調査続行だ」


 拓馬は一転、肩をすくめ歩き出す。そこで雪菜は優七へ視線を送り――彼は、ぎこちなく頷くと前を歩き出した。


(……何やってんだか)


 頭の中に自身の声が響く。徹頭徹尾優七を困らせ、怯えさせるような態度になっている。


(ただ、優七は元々そういう態度だと言うこともできるか)


 そんな風にも思う――出会いからして優七は怯えていた。

 雪菜自身小遣いを溜めて機械を購入し、ロスト・フロンティアにのめりこんだ。当初はソロプレイばかりだったのだが、やがてパーティーを組むようになり、気付けば自分がリーダーをやっていた。


 その折、優七――ユウ達のパーティーと出会った。魔王を打倒する身として共同戦線を張った他、時には宝物を奪い合ったりと、敵同士となったこともある。

 最初雪菜自身はユウに対抗意識を燃やしており、だからこそ対立していた節もあった。


 そうした関係が変化したきっかけは、ユウのパーティーが誰もダンジョン探索に参加できず、一時的に雪菜のパーティーに加わったことにあった。

 最初、冗談を交えユウを小馬鹿にしながら戦っていた。けれど彼はそれに不満一つも言わず、なおかつ戦線が崩壊していく中ただ一人前線に残り続け、雪菜と共に戦い続けた。


 結果的にボスまで到達することはできなかったのだが、その寸前、退却する間際二人で戦った時、それこそ言いようもない高揚感に包まれた――それをきっかけとして、雪菜はユウ自身に興味を抱くようになった。

 気付けば、彼に目を掛けるようになった――と思っていたのはおそらく雪菜だけ。優七にとっては邪険に扱われていると思われているのは理解しながら、話すきっかけを得たくて干渉していた。


 やがて、ユウという存在に恋をしている自分に気付く――馬鹿じゃないかと雪菜は自分に言いたくなった。バーチャルな世界で恋をするということ自体、雪菜自身は首を傾げる思いであったため、こんなものは気のせいだと必死に誤魔化すようにしながら過ごし――



 例の事件が起きた。



 雪菜は援護することもできず、やられてしまった面々のことを思い、沈鬱な感情となった。そしてプレイヤーであるユウが魔王を倒したと聞き、単純にすごいと思った。

 そうした中、雪菜は魔王とも張り合える戦力ということで、政府管轄の下戦うようになり――優七本人と出会った。出会いの時点で身長が低いことなんかを茶化すような感じで接し、共に戦い、


 僅か一週間で、彼に恋愛感情を抱いた。


(この上なく馬鹿だ……)


 そう思ったのは他ならぬ雪菜自身。けれどこの感情は止まらず、最終的に告白し今に至る。

 ちなみに現在雪菜は、その点については激しく後悔している――同時に、優七自身に好きな人がいると知り、胸が痛む。しかも相手が優七と共に行動していたオウカ――桜という人物。プロフィールなんかを見る限り、自分に勝てる要素は無い。


 無意識の内に槍に力を込める。するとそこで拓馬が振り向き雪菜を一瞥した。声は発さなかったが、先ほどの質問を「どうだ?」と再度問い掛けている。

 雪菜は無言で槍の刃先を向ける。それで彼は首を戻した。


「……ん?」


 そこで、優七は何かに気付く。指輪を見て、二人に呼び掛けた。


「通信だ。ちょっと待ってもらえない?」


 彼の言葉に、雪菜達は同時に足を止める。優七が画面を開き、江口の声が聞こえ――会話を始めた。

 雪菜は話し始めたのと同時に疲労を感じ、槍を地面に突き立てた。


「なあ、雪菜」


 拓馬が近づいて雪菜に声を掛ける。


「なんというか……ずいぶんとギクシャクしているな。喧嘩でもしたのか?」

「そのズケズケとした物言い、直した方がいいわよ」


 雪菜は言ってから槍を握り直そうとした。


「ま、待てよ。悪かったって」


 すぐさま拓馬は後ずさり、今の話は無かったことに、という雰囲気でさらに言う。


「まあ、その……色々あったんだな」

「そうね」


 雪菜はため息を漏らし同意する。その表情をどう見て取ったのか――急に拓馬の顔が真剣なものとなった。


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