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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第三話

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女性に対する疑問

 桜達がルームに入ったのは、移動再開から十五分程経過した時だった。


「案外早かったわね」


 ゲートを抜け、麻子はさっぱりとした口調で言う。


「まあ、調査結果としては上々でしょう。何せ最高ランクの魔物と遭遇したわけだし、それを正式に報告すれば政府も上手く対策立ててくれるわ」

「そうであるといいですね」


 浦津が返答した時、桜は抱えた女性を地面に下ろし、スキルを解除。再度脈を確認。

 やはり動いている。ほっと息をつき、麻子達へ告げる。


「とりあえず無事みたいですけど……」

「外傷もなく倒れている、というのが解せないわね」


 麻子は呟きつつ女性の近くに寄ると、屈み体を触り始めた。


「ふむ、出血した後もないか……顔色も良いし、普通に眠っているようにも見える」

「あんな場所で寝ないと思いますけど……」

「さすがにそうね……うーん、情報が少なすぎるし、倒れていた原因はわからないわね」

「……身体検査とかしますか?」


 桜はちょっと気後れしながら問う。現在はただ眠っているだけ。何か起こしたわけでもないので、やるのもどうかと思う。


「検査、ねぇ……プレイヤーキラーならそういう表示が出るでしょうし、少なくとも敵ではないと思うけど……」


 呟きつつ、麻子は立ち上がった。


「とりあえず、江口さんと連絡とってみるわ」

「お願いします」


 桜は言うと女性の顔を見ながら――思考する。

 あんな危険な場所で一人――経験値稼ぎに来た、という見方もできるし、あの近所に住んでいた人物で、家に物でも取りに行ったという見解もできる。


(起きたら厳重注意しとかないといけないかな……)


「……え? 優七君達が?」


 そこで、麻子の声が聞こえた。想い人の名が出たため桜は思わず彼女へ向く。


「何かトラブルでしょうか?」


 近くにいた浦津もまた麻子を見ながら呟く。桜はどうとも答えられず、麻子の会話が終わるのを待つしかない。


「というか、優七君達は休みではありませんでしたっけ?」


 そこへ、さらに浦津の質問。桜は答えなかったが、何が起こったのかなんとなく推測がついていた。


(城藤さんがアウトレットモールで遭遇した人を、追っかけたといったところかな)


 断じた時、麻子が通信を終えた。


「とりあえず、大久保さんが来てくれることになったわ」

「そう……さっき、優七君の名前が出ていましたけど?」

「城藤さんと休み返上で仕事をするらしいわよ。あの後少年を追っかけたらしいわ」


(やっぱりか)


 桜は胸中で自分の推測が間違いなかったことを理解し――そして、


「はあ、せっかくのデートだというのにもったいなかったわねえ」


 と、麻子が言った所で浦津が驚いた。


「デート……!? あの二人、付き合ってたんですか!?」

「あ、しまった」


 麻子が口元に手を当てる。どうやら浦津がいることを忘れ呟いてしまったらしい。


「えっと、正確に言えば一方的に城藤さんが好きというか……」

「そうなんですか……となると、彼女がやっていたことは優七君を活躍させようとかいう魂胆だったわけですか……」


 納得できるものがあったのかうんうんと頷く浦津。


「てっきり嫌っているものとばかり……」

「この件については両極端ね。私は彼女の気持ちに気付いていたわけだけど。嫌っているか好きだとわかっているか……ちなみに桜はどうだった?」

「私も、嫌っているとばかり……」

「そう……まあ、この話は部外者だしこのくらいにしておきましょう。で、一つ気になる情報が」


 言いながら麻子はメニュー画面を呼び出し、さらに掲示板を開いた。


「どうも彼らは、おかしな騒動に巻き込まれたみたい」

「おかしな騒動?」

「白い光……ゲートみたいなものが突如現実世界に現れ、それに巻き込まれ一人行方不明となった」

「行方不明……?」


 桜は呟くと――すぐさま、女性の方を向いた。


「まさか……」

「ああ、違うわよ。吸い込まれたのは男の子だそうだから」


 あっさり否定した麻子だが、掲示板を眺める目線は変えない。


「けど、彼女がそれに吸い込まれた、などという可能性もゼロじゃない……家の近くまで来ていたという理由の方がもっともらしいけど、なんとなくそんな雰囲気じゃなさそうだし」

「では今から、それについて調べますか?」


 浦津が問う。それに麻子は動きを止め、彼を見ながら後口を開く。


「……今はひとまず、彼女の容体が本当に大丈夫か、病院に運び込むのが先よ。大久保さんが間もなく到着するから、待機していて」


 指示に桜が「はい」と答えると、麻子はメニュー画面に視線を移した。


「私は白い光について少し調べるから」


 そう言って地面に座り作業に没頭し始める。

 桜はそれを一瞥した後、ルームの中を見回す。綺麗な青空と澄んだ空気。冬の設定であるため気温はそれなりに低いが、凍えるほどではなく風もないためそれほど寒いとは思わない。


「小河石さん」


 そこで浦津が呼び掛けた。目を向けると桜に向かって何かを放り投げる姿。

 受け取ると、それは液体の入る、蓋のされた瓶。


「単なる蒸留水です。少しばかり休憩しましょう」


 言って、彼は地面に眠る女性の傍らに座った。桜は彼の動きに同調し、座りつつ蓋を開ける。

 水を飲む前に改めて女性を確認する。血色は、じっと観察すると胸の辺りが上下しているのがわかる。


(一体、この人は……)


 考え水を飲み――横から気配。視線を転じるとゲートを抜けた、眼鏡にスーツ姿の大久保の姿。


「どうも、皆さん……その人ですか?」


 確認のため大久保が尋ねる。桜は頷くと、彼女が倒れていた概要を説明し――


「指輪をしているのでプレイヤーに間違いないと思いますけど……」

「わかりました。病院と繋げてありますから、そこに移動しましょう」

「はい」


 承諾した桜はすぐさま女性を抱えようとしたが、


「僕がやりますよ」


 率先して浦津が彼女を抱えた。そこで麻子はメニュー画面を閉じ、立ち上がる。


「では、行きますよ」


 そして大久保が先導してゲートを開放。浦津が続き桜と麻子がその後ゲートを抜け――目の前に大きな病院施設が見えた。話は通してあるのか病院入口に担架が用意されていた。

 桜達はそこまで到達すると、女性を担架に乗せ医師達に引き渡した。


「さて、これで終わりですが……皆さん、ここからの予定は聞いていますか?」

「いえ、他にやることが?」


 問い返したのは麻子。大久保はそこで大きく頷き、


「優七君達が調査している案件についてですが、別所で白い光を見たという報告があったんです。そこの調査に行ってほしいのですが」

「わかりました」


 即座に頷く桜――とはいえ、さすがに休憩は欲しい所。

 携帯電話を取り出して確認すると、二時近かった。ここで桜は要望する。


「私達、昼とかまだなんです……ルームで休憩してからでもいいですか?」

「もちろん構いませんよ。その場所は江口さんが担当しているので、準備が整ったら彼に連絡してください」


 語った後、大久保は病院へ視線を移す。


「私は彼女の様子や他に情報が無いかを確認します……何かわかったら報告しますよ」

「お願いします」


 桜は小さく頭を下げ、麻子がゲートを作り、再びルームの中へと入った。


「午後も大変そうね」


 麻子が伸びをしながら呟く。桜は心底同意しつつ、ログハウスを見ながら彼女へ告げた。


「なら、力をつけるべく肉料理とかにしましょうか」

「お、いいね。浦津君もそれでいい?」

「構いませんよ」


 にっこりと応じる浦津。桜は「なら」と呟きつつ、


「腕によりをかけて作ることにします……次の調査については、昼食が終わった後考えるということで」

「了解」

「はい、わかりました」


 意見が一致した後、桜達はログハウスへと歩き出す。食材はまだまだ残っていたはずなので、調理には問題ない。


(……そういえば)


 ふと、桜は優七に料理を振る舞う約束をしたのを思い出す。結局、その辺りのこともできずじまい。


(今日のデートで、城藤さんはどうするつもりだったんだろ……)


 まさかお手製の弁当――は、ないと思った。ウィンドウショッピングなのだから、どこかに食べに行くのが定番だろう。


(仕事、ということは結局その辺りも流れちゃったのかな……だとしたら、二人がなんとなく不憫のような気も――)


 だが、心の中では安堵した心境も――


「と、いけない」


 なんだか思考がおかしな方向になっていることに気付き、首を左右に振る。


「どうしたの?」


 と、動きを見た麻子が問い掛ける。桜はすぐさま誤魔化すように口を開き、


「あ、ごめん。考え事をしていただけで――」

「二人の事?」


 核心を突かれ――桜は、思わず言葉が止まった。


「まあ、そうよね。気になるわよね」


 なんだか楽しげに語る麻子。それが桜にとってはたまらなく嫌で、途端に口調が刺々しくなる。


「何か、言いたいことがあるんですか?」

「怒らないでよ。ごめん」


 麻子はすぐさま謝り――それを傍観者的に見て首を傾げる浦津。


「あの……?」

「ああ、気にしなくていいから」


 麻子は笑いながら彼に向かって手をパタパタと振った。


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