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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第三話

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改めて捜索開始

『――なるほど、かなりまずい状況なのは理解した』


 事情を聞きとった相手である守山は、そう感想を漏らした。

 優七達はひとまず山を離れ、魔物が出現しない場所まで移動しロスト・フロンティアの機能を用いて江口に連絡を行った。結果、その場に守山もいたため、一連の報告を行ったのが今となる。


『とはいえ、現状他の問題にかかわっているため、すぐにそちらの調査というのも難しい』

「他の問題?」


 聞き返したのは雪菜。それに守山は頷く。


『慢性的な人手不足であるため、四苦八苦しているんだよ……それで君達の問題だが、調査するにしても人員確保するのが難しいのではと思う』

「私達でできるところまでやりますけど」


 雪菜が提案。優七はてっきり守山達に任せると思っていたので、少なからず驚いた。


『君達が……? 私としてはありがたいが、いいのかい?』

「こんな状況じゃあ、休みもへったくれもないですし」


 雪菜はあっさりと答える――と、守山は申し訳なさそうに苦笑した。


『何かしらの形で埋め合わせはしよう』

「どうも……それで、一つ提案があるんですけど」

『提案?』

「ええ。人手不足ということならこちらにも良い人材が」

「待て、待ってくれ」


 そこへ彼女の後方から割って入る拓馬。


「どさくさに紛れて俺を政府の組織に加入させようとしてないか?」

「そこまでするつもりはないけど、色々問題を起こした以上、今回くらいは仕事手伝いなさいよ」

「いや、それは別にいいんだけどさ……この流れだと、なんだか採用されそうな気配――」

『彼は?』


 守山が問う。雪菜は拓馬を一瞥してから、改めて紹介する。


「プレイヤー名はシェーグン。魔王とも戦える能力者で、それなりに信用してもいい人。ただし、午前中彼とつるむ人がアウトレットモールで問題を起こした」

『ああ、その辺りの報告は直原君から聞いているよ』


 守山は返答すると、目を細めた。まるで、拓馬を値踏みするような雰囲気――


「は、はは……」


 緊張からか、拓馬は乾いた笑い声を上げる。


「え、えっと……今回の仕事をしてお咎めなしとは、いかないですよね……?」

『……被害が出なかったにしろ、問題を引き起こしたのは事実だろう。さすがに、要求と引き換えにというわけにはいかない』


 厳しい声音で応じる守山。対する拓馬は肩を落とし、それでいて目線を相手に合わせながら問う。


「……問題起こした当人がIDを明け渡しているような状況なので、問題になっているのはわかります。けど、なんとか穏便に済ますことってできませんか?」

『……ふむ、ここで私達が無理に介入すると、反発を呼ぶ可能性もあるな。では、君は仲間達に今後ああした真似をしないよう説得はできるか?』

「は、はい」

『言っておくが、二度何かを引き起こしたなら、擁護できないどころか君にも罪が被ることになるかもしれん』


 守山の言葉に、拓馬は呻く。けれど、それでも大きく頷いた。


「わかりました」

『……そこまで彼らを擁護するとは、驚いたな』

「まあ、色々あったんです」


 拓馬は言葉を濁すように発言する。優七はその辺りの事情を詳しく訊いてみたかったが――本筋から外れるので、控えた。


『わかった。そこまで言うのなら信用しよう。今回事件に参加してもらえれば、多少なりとも考慮には入れる』

「わかりました。ありがとうございます」


 拓馬は丁寧に頭を下げる。守山はそれに小さく頷いた後、雪菜へ話を移した。


『こちらもできるだけ早く調査するようにはする……が、もし調べられるのなら頼む』

「はい。とはいえまずは、消えた人を探さないといけませんけど」

『無論そこを最優先だ……それでは、頼んだ』


 そう言って、通信が切れた。


「……さて、まずは行方不明になった人の捜索ね」


 気を取り直し雪菜が語る。優七はそこで拓馬の顔を一瞥し、


「……今から捜索に入るけど、大丈夫?」

「ああ。覚悟はできてる。どういう風にやるのかは、二人に任せるけど」

「なら、まずは私についてきなさい」


 雪菜は告げると足を山へと向ける。


「まずは山周辺から探すわよ。拓馬、案内しなさい」

「了解……けど、白い光に対しては注意してくれよ。ミイラ取りがミイラになるのだけは勘弁」

「こっちのセリフよ。で、拓馬。山周辺を探すのはもちろんだけど、掲示板で行方不明になった人を見かけていないか調べる必要があるわ」

「掲示板で?」

「白い光は単なるワープゾーンか何かで、どこかに飛ばされただけかもしれないでしょう?」

「ああ、そういう可能性もあるのか」

「というわけで、山で捜索しつつ情報収集よ」

「調べながら掲示板に書き込むのか?」

「そんなに大変なことじゃないし、可能でしょう? 拓馬、頑張ってね」

「……無茶言うなあ」


 愚痴を零すように拓馬は呟くが、彼女の言葉に従うつもりなのか、メニュー画面を開いた。


「とりあえず仲間内にメールと、掲示板でプレイヤー名を上げ、いないかどうかの確認はするよ」

「わかった。あ、さらに白い光に関する情報を探してもらえると助かる」

「そっちの方がメインになりそうだな……了解した」


 あっさりと頷いた拓馬は、掲示板に書き込みを始めた。


「優七」


 そこで、雪菜が名を呼ぶ。


「さっき山で遭遇した子のことを考えると、あの山にはたいしたレベルの魔物は出ないと思う。けど、油断はしないように」

「もちろんだ」


 頷く優七を見て、雪菜は「頼んだわよ」と告げ、前を歩く。

 その後姿を見ながら――ふと、優七は彼女のことを考えた。


 先ほどまで不機嫌だった様子から、下手に例の件を質問すると、藪蛇になる――ことに加え、人目もある。デート当初彼女は「話す」と言っていたが、結局の所何も話さずに終わるのは確定のようだ――


「優七」


 ふいに雪菜が声を上げる。


「……そのうち話すから、覚悟しなさい」


 ――まるで心を読んでいたかのような発言。優七は言葉を失くし沈黙。


「気になっているんでしょ? ま、心配しなくとも喋らないまま終わるなんてことはしないから」

 それは果たして良かったのか、悪かったのか――優七は思案しつつとりあえず「わかった」とだけ返すことにした。

「よし、終了と」


 そこへ、後方から拓馬の声。


「掲示板の書き込みは終わったぞ。次は白い光のことを調べればいいのか?」

「そうね」


 雪菜が言うと同時に、正面に山。戻って来た形となる。


「魔物が出るのは間違いないし、ここからは要警戒ね」


 そう告げた直後、ガサリと物音がした。

 優七達の立つ場所から見て斜め左。そこには紫色をしたスライム系の魔物が一体。


「拓馬、魔物が出現するのはこの山の周辺だけで確定だよね?」


 優七はスライムを見ながら問い掛ける。


「ああ。白い光が出る場所も同じだ」

「なら、その白い光とやらに注意しつつ、山周辺を丹念に調べよう」


 結論を出した瞬間――スライムがこちらに気付いたか近寄ってくる。


「よし、戦闘開始」


 彼女は声を上げた瞬間、交戦。雪菜が先行し槍で一撃を加え――あっさりと消滅。


「拓馬、悪いけど『千里眼』」

「わかったよ」


 彼は応じるとメニュー画面を操作し確認。


「ん、三体ぐらいいるな」

「その魔物を逐一観察しつつ、探しましょう」


 雪菜はなおも指示しつつ、槍を握り締め悠然と歩き出す。


「……なんか、絵になるなあ」


 拓馬が呟く。聞こえた優七は首を振り向け、どこか感心するような態度の彼を捉えた。


「優七、彼女のああした雰囲気に惚れたのか?」

「いや……その……」


(どう説明すればいいんだろうか……)


 途端に困る。短く説明するのは難しい上、長ったらしく説明するにしても話がややこしくなる。

 なので、できれば何も話したくない――というより、話さないことが正解なのだが、


「なんだ? やけに反応が鈍いな」


 告げながら拓馬は悪戯っぽい笑みを見せる。優七は即座にこれはまずいと思い、声を上げた――


「え、えっと……雪菜とは――」

「優七!」


 進行方向から雪菜の声。それに驚き優七は恐る恐る振り返る。

 そこには、憮然とした面持ちの彼女。


「さっさと行くわよ」

「……はい」


 怖くなってすぐさま返答する。そこへ、拓馬が一言。


「……尻に敷かれているのか?」


 優七はその問いに答えることなく歩き出した。そして、なおも表情の硬い彼女に視線を送り――小さく、ため息をつくこととなった。


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