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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第三話

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遭遇した人物

「……ひとまず、休憩ですね」


 浦津はスタミナ回復のドリンクを飲みつつ言及。桜や麻子は小さく頷き、彼と同じものを口に入れる。


 ひとまずダークデュラハンを突破し――現状は、山に近い場所でアイテムによる簡易的な結界を張ったところだった。ちなみに結界は、使用者のレベル未満の敵を寄せ付けない効果があり、現状魔物が桜達を素通りしているような状況。

 本当はルームのゲートを開き退却したい所なのだが――この山周辺はダンジョン扱いになっているらしく、ゲートを開くことができない。 


(あまり使いたくなかったんだけど……)


 結界は合成するにしても、手に入りにくいレアリティの高いアイテムであり、供給もほとんどない。本来ならもしもの時以外使いたくなかったのだが――


(いや、今回がそのもしもの時か)


 桜は思う。全能力低下などという処置を施されては満足に戦えない。貴重な一つを使うのはやむなしと言えるかもしれない。


「うーん、駄目ね」


 そこで麻子の声。桜が視線を送ると、電話を掛けていた。


「守山さん達は繋がらない……ま、報告は後回しにしましょう。それで桜。話は変わるけどこの結界、ブラッディクラウンには通用しないわよね?」


 麻子がドリンクを飲み干し尋ねる。桜はしばし思案し――小さく頷いた。


「デスペレイトリザードもそうだけど、設定レベルは私達より高いはず」

「となると、あのペアだけは警戒しないといけないわね」


 はあ、と息をつき麻子はメニューを開けた。


「……とりあえず状態異常の効果は消えたみたい。今日は引き上げでいいんじゃない? ブラッディクラウンみたいな魔物が出ている時点で、対策立てないとまずいでしょうし」

「そうですね。僕も同意です」


 浦津が口を開く。桜も同意見だったので無言で頷いた。


「よし、それじゃあ……どうする? ルームを開くにはここを抜けないといけない。スタート地点まで行ければ確実にゲートを開けることができるけど、またあいつらと遭遇するかもしれないわよ」

「迂回するにしても、道がわからない……」


 桜はどちらの選択をとるか迷う。魔物も流動的であるため、来た道にいないと考えることもできるのだが……先ほど交戦した経験が思い出され、不安を抱く。

 なら別ルートを通り、ダンジョンを抜けるまで移動するのも手。だが初めての道でそんなことをすれば、迷って状況が悪化する可能性もある。


「僕の意見を言ってもいいですか?」


 そこへ、浦津が提言。桜と麻子が同時に頷くと、彼は口を開いた。


「商店街は公園を中心に十字に形成されていました……僕達は道を真っ直ぐ進んでここに辿り着いたわけですが、脇道に入っても方角があっていれば、商店街の大通りには辿り着くはずですよね?」

「つまり、商店街の構造を把握している以上、迷う可能性は無いと言いたいわけね」


 麻子が断ずると浦津は頷いた。


「元来た道をそのまま通るのはなんとなく危険な香りがしますし、脇道から入り通りに出た所でゲートが生み出せるか確認すれば良いと思います」

「ま、一理あるわね。桜、あなたはどう?」

「私も、それで」

「なら、そうしましょう」


 言うと、彼女はぐるりと周囲を見回す。魔物は目に見える範囲にはいない。山を中心に魔物が出現しているにしろ、周辺に散らばっているのかもしれない。


「結界を閉じるわよ」


 麻子は言うと、腕を軽く振り――結界が消滅した。


「進みましょう」


 桜が号令を掛け、三人は進み始める。進路は元来た方向だが、最初に入ったのは適当な脇道。

 次に桜はメニュー画面を呼び出し、アイテムを使用した。


「これも、あまり使いたくなかったけど……」


 索敵系のアイテム――使用頻度が高く消費が激しいため、やや希少価値が高くなっている――けれど、仕方ないと割り切った。

 周囲にはまだ魔物が存在し、ウロウロしているのがわかる。詳細まではわからないが、とりあえず間近にいないことを確認し、さらに歩を進める――


「……え?」


 その時、レーダーの一点を見据え、立ち止まる。


「ん? どうしたの?」


 反応したのは麻子。けれど桜は答えられず、レーダーの中にある――プレイヤーのマーカーを見続ける。

 数は一つ。一切動いていないため、なぜこんなところにいるのか理解できない。


「プレイヤーが、いるみたいですけど」


 桜はどこか信じられないような心境で語る。すると麻子が近づき、訝しげな顔つきでレーダーを覗き見た。


「……本当ね。私達以外に調査員が?」

「いえ、今回は僕達だけのはずです」


 浦津が首を振り告げる。そこで桜は、いくつかの可能性を思い至る。


(ここに経験値稼ぎにやってきた……? それとも、前の事件のように何かをするために入り込んだプレイヤー?)


「どういう人物であれ、確認しないといけないわね」


 麻子が結論付ける。桜は頷き、浦津もまた「はい」と同意の返事を零す。

 そこから目標を変更し、桜達は最大限の警戒をしつつ進み続ける。プレイヤーは一切動かない。それが逆に不気味にさえ思え――


「ねえ、桜」


 ふいに、麻子が口を開いた。


「そのプレイヤーについてだけど、もし見つけたら交戦する可能性もある……防御魔法だけは、お願い」

「はい」


 承諾した時、大通りに出た。十字に形成された大通りの一つだ。


「ここまでは何事もなく来れたけど……」


 桜は呟きながらレーダーを確認。すると、プレイヤーにゆっくりと近づく魔物がいた。

 観察していると、魔物はさらに近付くのだが、プレイヤーは動かない。誘い込んでいる、という見方もできなくはないのだが、ここに至り桜は別の可能性を見出した。


「……二人とも、プレイヤーの所に」


 桜が告げる。麻子と浦津は一瞬首を向け――表情を見て何かしら思ったのか、追随する気配を見せた。

 そうして三人は商店街を進む。目標のプレイヤーは商店街中央の公園とは逆方向。直進し、路地に留まっている。


 魔物はさらに近づく。魔物とプレイヤーの距離は数十メートルといったところで、位置的にプレイヤーの視界に捉えているはずだった。けれど、動かない。


「やっぱり……!」


 桜は推測した瞬間、走り出した。後方で麻子と浦津が無言で走り、とうとう当該の路地へ到達。そこには――


「あ――!」


 麻子が声を上げる。桜の正面――路地に倒れている女性と、にじり寄るオーガ系の魔物の姿があった。


「私が!」


 瞬間桜は叫び、剣を握りしめ猛然と駆ける。同時にレーダーに視界を移すが、他に魔物はいない。ならば――桜は思いながら、剣を振った。

 刃先から炎が生み出され、それが槍状となり放たれる。相手であるオーガは桜に気付いたようで声を上げた――が、頭部に槍が命中し、一撃で倒すことができた。


「大丈夫ですか!?」


 桜は呼び掛けつつ彼女に駆け寄る。藍色のトレンチコートを着た茶髪の女性で、呼び掛けてもピクリともしない。

 そこで桜は脈を取る。同時に指輪をはめているのを目に留め――脈は、動いていた。生きているのはわかった。


「桜!」


 そこへ、麻子の声。見ると、商店街の通りで待機していた二人が、歩んできた方向を見て警戒していた。

 直後、野獣の雄叫びが上がる。レーダーを確認すると、魔物が一体近づいていた。


「……さすがに、ここに残してはおけないし」


 桜は呟き、まずはルームのゲートを作れるか試す。だが魔物が近くにいるためか、それともダンジョン設定であるためか失敗に終わる。

 次は素早くスキルを発動させる。筋力強化系のものを腕に収束させ――女性を、抱きかかえた。


「急がないと――!」


 桜はできる限り速く麻子達のいる場所に戻る。既に交戦が始まっており、浦津が迎撃しているのか、時折魔物の咆哮が聞こえた。


「麻子さん!」


 そして大通りに出ると名を呼び、女性を下ろそうとした。


「待って!」


 すかさず麻子が制止にかかる。直後魔物の断末魔が聞こえた。見ると、浦津が牛型の魔物を倒した所だった。


「その状態で移動を再開するわよ。今度は全速力で」

「はい……けど」

「公園側に戻る必要はないでしょう。レーダーもあることですし、魔物を避けながら進みましょう」


 これは浦津の言葉。ただ中には転移してくる存在もいるので、確実というわけではないのだが――


「わかった。それでいきましょう」


 桜は賛同を示す。この場を一刻も抜け出すこと――それが、至上命題。


「桜、あなたはその人を抱えたままでいいわ。それと、レーダーを見て敵がいないか教えて」

「うん」


 返事と共に移動を再開。歩き始めてすぐ前方から新たな魔物がやって来るが、雑魚だった。


(後は、祈るしかないか)


 負傷者を抱えつつの移動でブラッディクラウンと遭遇すればかなり危険――最悪もう一度麻子の『神力の矢』で追い払えばいいかもしれないが――ブラッディクラウンは特性上同じ技を連続で受けると特殊攻撃を発動する。それはランダムで状態異常を引き起こす厄介な仕様であり――できれば、出会いたくない。


 桜はレーダーを見ながら逐一指示を送りつつ、ふいに抱える女性のことを考える。身なりからすると、政府の人間ではないようだが――


(目覚めてから事情を訊くしかないか……)


 桜は心の中で断じ、さらに歩を進める。やがて商店街を抜け車が行き交うような二車線の道に入った。


「さて……」


 麻子は呟きながらゲートが開けるかの確認を行う。


「……駄目か。もう少し進まないと無理みたい」


 彼女は断じるとメニューを消去し桜へ顔を向ける。


「まだ大丈夫?」

「うん。スキルを併用しているから」

「……というか、こんなの普通あり得ないわよね」


 そう言って彼女は苦笑。桜もわかっていた。女性とはいえ、桜の細腕で人一人を抱えて進むなんて芸当、無茶苦茶だ。


「……こういう光景が出てくるのも慣れないといけないわね。さて、進みましょう」

「魔物は周囲にいないみたいなので、このまま進んで大丈夫ですよ」

「わかった。浦津君、最初の入口方向に行こうと思うけど、異存はない?」

「同意見です」

「よし、では浦津君を先頭にして行きましょう」


 麻子が音頭をとり、足を動かす。その中桜は小さく息をつきつつ、女性を抱えながら街の中を歩み続けた。


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