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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第三話

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最悪の敵

「二人とも、気合入れ直してよ」


 麻子が告げる。桜はわかっているとばかりに頷き、浦津も「はい」と元気よく返事をした。

 三人はそのまま商店のある道を進んでいく。どこからか鳥の鳴き声や犬が吠えるような音が聞こえるが――決して、動物の類ではないだろう。


「……いかにも、という感じですね」


 少しして、浦津が呟く。桜は訊かずともわかっていた。真正面にいよいよ山が見え――社か何かがあるのか、上り階段が存在しているのが遠巻きにも確認できた。

 加えて次の瞬間、山から明確な遠吠えが聞こえた。桜はあの場所が魔物の出現場所だろうと心の中で断定した。


「あの山周辺だけ、魔物が出現しているとみていいのでしょうか?」


 浦津が問う。それに桜と麻子は互いに目を合わせ、


「……その辺りを、詳しく調査した方がよさそうね」


 麻子が述べる。桜と浦津は同時に頷き、先へ進もうとした。

 その時――前方から非常に重い足音が聞こえ始めた。音の根源は、商店街の脇道。


「この音……」

「どうやら、真打ち登場みたいですね」


 桜の呟きに浦津が反応。それと共に三人は一斉に武器を構えた。

 直後、路地の奥から漆黒の全身鎧が現れる。頭部から上は無く、右手には黒い剣。左手には盾――


 それこそ、守山が言及したダークデュラハンだった。上級の魔物としての風格を持ち、桜達に多少ながら威圧感を与える存在。相手は桜達の進路を阻むように仁王立ちして、動かなくなる。


「私が先んじて攻撃するから……桜も、魔法攻撃よろしく」


 麻子は告げ、弓を引き絞る。浦津は「頼みます」と告げ前方を注視。桜もまた同様に目の前の魔物を観察し、魔法を撃つタイミングを見計らうため動向を窺うことにした。

 その時、ふと桜は予感めいたものを抱く――それが何なのか具体的に表現することはできなかったが、気配のようなものだと思い振り返った。


 そこに、いつのまにか別の魔物がいた。見覚えがある。赤いマントで体を覆い、顔の部分には笑みを浮かべた白い道化師の仮面。

 それも、目の部分から血が流れている――


 途端に、桜の背筋に悪寒が走った。当該の魔物は、ゲームにおいて最大級に警戒しなければならない魔物。


「ブラッディクラウン――!」


 声を発した直後、麻子と浦津が目を見張り――ブラッディクラウンが金切り声を上げた。


「っ!」


 桜は途端に息を詰まらせる。その声には状態異常を発する効果が付与され――平衡感覚を失い始める。

 そうした状態異常は、スキルやアクセサリによって防ぐことができる。しかし現在の桜は麻痺や毒の対応をしているだけで、今回の攻撃に対応できなかった。


 さらに他の二人も同様らしく、共に動きを止めていた。

 そこで、桜は前方にいるダークデュラハンのことを気に掛ける。


(まずい――!)


 心の中で呟くと同時に僅かに後悔する。現実世界で魔物が出現する場合、種類についてはかなり曖昧であった――それはとりもなおさず、ブラッディクラウンのような警戒すべき魔物が出現する可能性があったことを意味している。


 ――ブラッディクラウンは、以前魔王城へ到達する前に交戦した砦でも現れた魔物。HPは比較的低く、桜が持つ全力攻撃ならば一撃で倒せる。しかし、その真価は状態異常攻撃にある。

 ロスト・フロンティアにも状態異常というものは存在している。基本的な毒や麻痺を始め、石化や千鳥足となるような錯乱といった効果などもあり――当然、魔物の中には毒を持ったスライムやメデューサといった、ロールプレイングゲームでもメジャーな魔物が多数存在し、知名度に違わない能力を振るう。


 その中でブラッディクラウンは特級――言わば状態異常攻撃の王とでも言うべき存在で、ゲーム上に存在するあらゆるステータス異常攻撃を仕掛けるという非常に厄介な相手だった。実際こいつと出会ったばかりに精鋭メンバーが半壊、あるいは全滅という憂き目にあったのを桜は何度も聞いてきた。


 だからこそ、注意しなければならなかったのに。


「くっ!」


 桜は剣を振りかざそべく腕を動かそうとするが、視界は歪み自分が立っているのかさえわからなくなる。この状況でダークデュラハンに襲われれば一方的に攻撃されるのは火を見るより明らかであり、すぐにでも態勢を整えなければならない――

 そんな風に考えた刹那、ズドン! という重い音が響き渡った。同時にブラッディクラウンの哄笑にも等しい叫び声が上がり――視界が正常に戻る。


 正面にまず浦津が見えた。次いで矢を撃った後なのか、弓を掲げた麻子が見えた。

 桜はすぐさま後方に視線を転じる――そこにブラッディクラウンはいなかった。


「今、のは……」


 呻きつつ、どうにか理解する。間違いなく麻子の攻撃――彼女の手持ちには、威力は低くなるが矢が誘導弾となり確実に当てられる、絶対必中の弓技『神力(しんりき)の矢』がある。おそらくそれを使い、ブラッディクラウンにダメージを与えたのだ。


 あの魔物は一撃で倒せない場合はテレポートしてどこかに逃げる。それにより攻撃が終わり、視界が正常に戻ったというわけだ。

 桜は息をつき、前方を見る。ダークデュラハンが真正面に佇み、桜達と対峙している。仁王立ちした場所から、動いていない。


「……専守防衛のタイプだったか」


 呟き、桜は運が良かったと思った。

 魔物は大まかに二種類の動き方がある。プレイヤーを見つけると一目散に向かっていく攻撃型。そして、一定のテリトリーに入ると襲ってくる専守防衛型。目の前のダークデュラハンは後者らしい。


「確かに、さっき襲われればひとたまりもなかったわね」


 麻子が頭を抑え、息をつく。


「けど、専守防衛型も長時間同じ場所にいれば襲ってくる……一度、退く?」

「……でも、後方も危ないですよ」


 浦津が唐突に告げる。反射的に桜は振り返った。視界の奥、やや遠くではあったが、銀色の鱗を持つトカゲのような魔物が一体いた。


「あれって……」

「デスペレイトリザード……ブラッディクラウンとペアで登場することが多い魔物ですね。見た目は大したことありませんが、近づけば広範囲のブレスを吐く厄介な奴です」


 桜がじっと視線を送っていると、デスペレイトリザードはしばし動かず立ち止まり――やがて、横に移動を開始。視界から消えた。


「ブラッディクラウンが消えたため、襲ってこないみたいですね……で、ここからはダークデュラハンを倒し安全を確保。その後アイテムを使って休憩、の方が良いのでは?」

「……そうね」


 桜は頷いた。ブラッディクラウンには万全の態勢で臨みたい――先ほどの金切声は、最悪な部類のステータス異常を押し付けてきた。


「さっきの攻撃、全能力低下が追加効果だったみたいね」


 麻子はメニュー画面を開き、嘆息する。桜は聞かずともわかっていた。何せ、体が異常に重い。ロスト・フロンティア内でこの感覚は経験したことがある。この状況でブラッディクラウン達と戦うのは、かなり危険。


 桜は頭の中で結論付け、麻子へ口を開いた。


「麻子さん、落ちた能力でも三人でいけばダークデュラハンは倒せると思うし、ここはまずブラッディクラウンから離れることを考えよう」

「了解」

「それと……さっきの攻撃、ありがとう」

「やらなかったら私もまずかったし、当然よ」


 言いつつ、麻子は魔法の矢をつがえる。途端に、攻撃意志があると悟ったかダークデュラハンが身じろぎした。


「山に行くことになるけど……とりあえず、先ほど以上に警戒しながら進みましょう」

「うん」

「わかりました」


 桜と浦津は相次いで答え、剣を構え直す。体が重いままであったが――時間切れなのか、ダークデュラハンが一歩足を踏み出す。能力が落ちた状態で戦うのは、確定だ。


(……優七君)


 そこでふと、共に戦った彼の名を思い出す。こんなところでやられるわけにはいかない――そんな風に心の中で断じつつ、麻子の攻撃を皮切りに、桜は浦津と共に突撃を開始した。


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