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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第三話

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白い光

 次いで、他の面々も食事を終える。そして食後の紅茶を飲んでいる時、再度雪菜から拓馬へ要請が。


「もう一度確認させてもらえない」

「……わかった」


 どこか申し訳ない顔つきで彼は言うと、自ら席を立ち彼女の横に立つ。


「えっと、どうぞ……」

「何でいきなり低姿勢になっているのよ」

「いや……それは……」


 語ろうとせず、レーダーを呼び出す。理由は明白なのだが、そこを追及すると話がややこしなくなるので、優七は何も語らない。


「まあいいわ……とりあえず、異常はないようね」


 雪菜はレーダーを一瞥すると、そうコメント。しかし、


「……ん?」


 今度は拓馬が声を上げた。それに優七は反応し、問い掛ける。


「どうしたの?」

「……またあの場所に踏み込もうとしている奴がいるな」


 呻き、拓馬はレーダーの一点を見据えた。そこで優七は興味を抱き、再度拓馬へ尋ねる。


「何か、あるの?」

「ああ。街近くにある小さい山に、低レベルの魔物が出現するためそこによくプレイヤーが侵入するんだよ」

「経験値稼ぎ?」

「そんなところだろうな……で、少し前に変な情報が舞い込んできたため、そこへ行くのは固く禁じ、他のプレイヤーにも伝えるよう指示したんだが」

「情報って?」


 質問に、拓馬はしばし口を止める。そして優七と雪菜を交互に見てから、話し出す。


「……その場所に、白い光の塊が現れるらしい」

「白い、光?」


 聞き返したのは雪菜。


「それは、危ないものってこと?」

「一応、政府側には連絡したんだけどな……まあ、捨て置いても大丈夫だろうと判断したのかもしれない」


 そう言って肩をすくめる拓馬。けれど、瞳の奥には不安が混じっている。


「突然、その場所に現れては消え、また現れては消えというのを繰り返すようになった。間違いなくロスト・フロンティアに関することだとは思うんだが、そういった挙動をゲーム上で見たことが無いから、対応もできないし触らぬ神に、ということで放置しておくことに決めた」

「今の所、それで問題は出ていないの?」


 雪菜が問うと、拓馬は険しい顔をした。


「それに攻撃を仕掛けた人間もいたらしいんだが……どうも、攻撃が飲み込まれどこかに消えたらしい」

「消えた……?」

「俺はなんとなくだが、吸い込まれたら最後……消えてしまうんじゃないか、という風に思っているわけだが」


 彼の言葉に、優七もなんだか不安を覚える。そうだとしたら、かなり厄介な事案――


「で、レーダーには俺の仲間内で山に行こうとしている奴がいる……これはさすがにまずいから、行かないと」

「ああ、それなら私達も行くわ」


 唐突な雪菜の提案。それに優七と拓馬は同時に驚いた。


「おいおい、スノウ……どうする気だ?」

「その内容も気になるし調べようかと思っただけよ。それと――」


 と、雪菜は真っ直ぐ拓馬を見据えながら続けた。


「その事件に関して少しばかり真面目に取り組んでくれたら……フォローするかもしれない」


 ――暗に、信用できるかどうかを試すと語っている。すると拓馬はチャンスだとばかりに意気揚々と頷き、


「なら、案内させてもらうさ。今からでも?」

「ええ、いいわよ」


 拓馬の言葉に雪菜は立ち上がる。優七もまた合わせるように立ち上がり、店を出ようとした――


「あ、優七」


 けれど、雪菜に呼び止められ、おもむろにレシートを渡される。


「はい、私のは払ってね」

「……わかった」

「あ、そうか。君が払うのか」


 優七を見ながら拓馬は言う。そしてなんだかニコニコとしており――


「言っておくけど、シェーグンは自分で払ってね」


 ぴしゃりと言うと、拓馬は「当然だよな」と呟きつつがっくりと肩を落とした。



 * * *



 目の前に現れたスラッシュウルフを倒し、桜はどうにか息をつく。


「数が多いな……」


 呟きつつ、一度深呼吸をした。レベル的に桜に適う魔物はいないのだが、連戦続きで疲労が溜まり始めていた。

 アイテムを使用しても良いかもしれないが、とりあえず保留。魔物がエンカウントし続け材料等は無限に手に入るが、直接購入ができない以上作るのに手間が掛かる。できれば浪費したくなかった。


「さすがに、疲れますよね」


 話を合わせるように浦津が言う。それに桜は頷きつつ、辺りを見回した。

 商店街を進み、現在は公園に辿り着いていた。立て看板による地図を確認したところ、この商店街は公園を中心として十字に店が立ち並んでいる構図。ただし、桜達が入った入口が一番繁盛していた部分であり、公園を挟み真っ直ぐ進むと、山手へ向かうことになる。


 おそらくそこが、魔物と本拠地となっているはず。


「このまま山方面に向かう? それとも、まずは地盤固めで周辺の敵を倒す?」


 弓を構え直し麻子が二人へ尋ねる。桜は彼女を一瞥した後、どうするべきかを思案し始めた。

 ダークデュラハンがいると守山は語っていた――桜達にとって、それは油断できない相手。なので、周囲の魔物を倒し安全を確保してから進むというのも一つの手ではある。


「おそらく山側から出現しているんですよね」


 浦津が言う。それに頷いて見せたのは、麻子。


「それを調べるのが目的……守山さんは詳しく語っていなかったけど、この調査は掃討作戦の前哨戦といったところでしょうね。魔物のエンカウントが無いと判断できればそのまま私達で撃滅。もし新たに出現しているとわかれば、退いて作戦を組む」


 ――麻子の言葉は正解だと、桜は思った。もう一つ付け加えるのであれば、ここで生態系の調査をするのはどのレベルで部隊を組むかを検証するためだろう。

 桜にとって、このような調査は初めてだった。そもそも前線に立つ二課でないため今までお鉢が回ってこなかったというのもあるが――


「あの人は、その辺のこと詳しく話さないからね」


 考えている間に、麻子が続ける。


「ま、プレイヤーに配慮してでしょ。尖兵になっているようなものだし、そういう扱いを嫌がる人もいるでしょうから」

「お二人は、気になりませんか?」


 浦津が疑問を寄せる。それに桜は肩をすくめた。


「私は、別に」

「私も桜に同じ。浦津君は?」

「僕も別に……この辺りは、何を主眼に戦っているかで変わってしまいますね。僕の場合は治安を守るという意志があるので、進んで仕事をしますけど」

「政府の中には、純粋にゲーム感覚で一番になるのを目的とする人もいますからね。そういう人は、やりたがらないかも」


 桜は言いつつ、そういう人物達のことを思い出した。

 魔王と戦える戦力は、最初の事件で大きく減った。けれど優七や桜を始め、残っている面々も十分存在する。


 戦うことを辞めた人や、桜達と同様戦い続ける者もいる。そうした中、自分自身は強いと自負し、プライドが肥大するケースも存在する――というより、政府が管理を始めそういう感情が芽生え始めている、というのが実情かも知れない。

 プレイヤー達は政府という枠組みの中で戦い、多くの人に頼られている。それにより自己顕示欲が肥大し、人によっては自分に従う人を集め派閥を作ろうとしている――という噂が流れるくらいには、色々と問題が生じ始めていた。


「ま、プレイヤーも人だからね……むしろ、私や桜みたいに機械的に仕事をする人の方が珍しいんじゃない?」

「私達は、優七君の影響が大きいけど」


 桜の言葉に麻子は「そうね」と答える。すると、


「高崎優七君、ですか」


 興味ありげに、浦津は呟いた。


「そういえば、僕は彼に会ったことないんですよね」

「あ、そうなんですか?」


 桜が聞き返すと、彼は頷く。


「はい。一度お目通り願いたいと思っているんですけど……『影の英雄』に」

「本人は、結構重たいみたいだからその単語は直接言わないであげて」


 麻子が忠告を入れる。浦津は「了解しました」と丁寧に告げ、


「さて、また出てきたようですよ」


 言うと、剣を構え直した。

 見ると山側から新たに狼。種類はバラバラだったが、スラッシュウルフが最高ランクの一団であり、恐れるに足らない。


「やっぱり、山から魔物が出現しているかも」


 弓をかざしつつ麻子は呟く。桜は心の中で賛同しつつ剣を向け、


「では、行こう――」


 告げた瞬間、麻子の矢が狼達へ飛んだ。先頭に立っていたデビルウルフに直撃し、狼達は散開。交戦が始まる。

 とはいえ、戦いは一方的なものだった。基本は攻撃速度の高い浦津が倒し、向かって来ようとした魔物を桜が魔法により迎撃していく。


(途中で一度スタミナ回復のアイテムを使って、山に侵攻、かな?)


 桜は胸中で今後の展開をまとめつつ、炎の槍を生み出しスラッシュウルフの頭部を撃ち抜いた。

 それにより、短い戦いが終わる。こちらは無傷。圧倒的な勝利。


「山に進めば、ダークデュラハンが現れるのでしょうか」


 浦津は剣を素振りしつつ呟く。答えの無い問いであるため桜は無言。


「……このまま。先に進む?」


 そこで麻子が問う。さっきの言葉通り地盤固めをするか、それとも直接山へ向かうか――


「……進もう」


 やがて桜は、声を発した。


「山までそれなりに距離もあるみたいだし、ここで時間を食うと夜になるかも」

「……それならそれでいいんじゃない? 別に全部調べなくてもいいんでしょ?」


 麻子のやる気のない返事――けれどすぐさま彼女は肩をすくめた。


「……とは言っても、成果は出したいところよね。守山さん達は、そういうところを見込んで私達に仕事を回したわけだし」

「だね」

「ま、この辺りで少し株を上げて、派閥作ろうとしている奴なんかに牽制しときましょうか」


 麻子は面倒そうに呟くと、進路を山方面へ向けた。


「では、進みましょう」


 浦津もまた同意するように歩き出す。桜はそれに無言で追随し、一行は山側に進む商店街へと入った。


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