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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第三話

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圧倒的な差

 優七達が最終的に辿り着いたのは四階の奥。屋上へと続く通路近くに、たむろしている男子達を発見した。


「おお、不良ね」

「……そうだね」


 優七は内心怯えつつ応じる。それに雪菜は不服のようで、


「自信持ちなさいよ」

「で、でもさ……」

「はあ、こういう所は見ていて腹立つわね」


 辛辣なコメント。けれど優七は態度を一切変えない。


「まあいいわ……行くわよ」

「もし戦いになったらどうする?」

「相手のレベル次第だけど……少なくとも魔王の露払いをしていたレベルはいないでしょ。それなら、相手にならないって」


 大した自信。けれど向こうは数がいる。


「物量で一気に……というのはないかな?」

「あるにしても、私達のレベルじゃどうこうないわよ……それに」


 と、雪菜は笑みを浮かべる。


「引き返そうにも、もう遅い」

「え?」


 聞き返した直後、真正面から視線を感じ取った。首を向けると、優七達へ視線を送る不良達の姿が。


「よし、行くわよ」


 雪菜はすかさず言うとメニュー画面を呼び出す。優七は動揺しつつ声を掛けようとするが、突き進んでいく彼女を見てやむなく追い掛ける。

 さらに念の為武器を出そうとメニューを呼び出す。使用するのはホーリーシルフ。以前の事件以後愛用している剣。これは完全に桜から優七の所有物となっていた。


 同時に雪菜も槍を生み出す。すると、不良達が警戒を始めた。プレイヤーであることに今気付いたらしい。

 優七は近づく間に周囲を確認する。彼らのいる場所は駐車場でも端の方で、彼らの背後にある壁の隙間から青空が見える。そして、彼らの周囲の駐車スペースには不自然なほど車が無い。その場所に留まっているため、駐車できないというのが正解だろう。


 そして彼らは口々に相談を始める。現れた二人に対し協議しているようで――


「あっ!」


 アウトレットモールで出会った男性が声を上げる。今ようやく気付いたらしい。

 その声により、彼らは顔を見合わせ――男性が尾行されていたと気付いたらしく、当該の人物を詰問し始めた。


「おい、お前ちゃんと後ろ確認したのか?」

「し、してましたよ……」

「目が泳いでいるな。嘘だろ」


 上背で一回り高い男性が彼へ言う。改めて優七は観察すると、明らかに自身よりも年齢層が高かった。おそらく、高校生異常が中心のグループだろう。


「い、いえ……あの……」

「ちょっと、無視しないでもらえる?」


 そこへ好戦的な雪菜が槍をかざし発言する。


「態度からして、私達が政府の人間だとは察しがついているようね……で、私達がここに来るまでの過程はどうでもいいでしょう? 大事なのは、今私達がここに来てあんた達がどう応じるかよ」

「……ずいぶんとまあ、強気だな」


 進み出たのは百八十センチを超えるような男性。五分刈りかつやや細身の男性で、優七は甲子園のピッチャーを想起させる。


「腕に自信はあるようだが……この人数でやる気かよ?」

「私としては、いっぺんにかかって来てくれると嬉しいわね」


 平然と答えると、雪菜は素早くメニュー画面を呼び出し、


「人数無制限にしてあげる。好きなだけ仲間を呼べばいいわ」


 すかさずデュエル告知ボタンを押す。同時に優七の指輪が反応し、デュエルを承諾するかについての表示が映し出される。


「すげえ好戦的なお嬢ちゃんだな」


 皮肉っぽく言うと、周囲の男子達が笑う。


「この手合いは良くいるんだよな……政府の下で評価されたもんだから、自分は強いと思い込む奴」

「実際やってみればわかるわよ」


 不敵に笑い雪菜は槍を向ける。


「もし負けたらおとなしく引き下がってあげるわ。けどもしこちらが勝ったら、全員政府の管理下に入ってもらうよ」

「……自信過剰もここまで来ると恐れ入るな」


 男性は肩をすくめ雪菜に告げる。


「まあいいさ。一度こらしめて、身の程を弁えさせるべきだな」

「やれるもんならやってみればいいわよ」


 そう言いつつ、雪菜は優七へ視線を送った。


「はい、それじゃあ頑張って」

「……は!?」


 唐突な展開に、優七は目を丸くする。


「俺!?」

「先陣切るのはあんたの役目でしょうが」

「誰が決めたんだよ……そんなこと」


 頭を抱えたくなりそうな心境の中、目の前の一行はやり取りを聞いて爆笑する。


「ほら、バカにされているわよ。悔しくないの?」


 そんなことより、できれば関わり合いになりたくない――などと優七は思ったが、口に出したが最後、彼女からの鉄拳が来ると思ったので何も言わなかった。


「……わかったよ」


 優七は渋々前に出る。そしてデュエル承諾のボタンを押し、雪菜の仲間という形でホーリーシルフを構えた。


「で、誰が戦う?」

「はっ……後悔させてやるよ」


 先んじて話し出した五分刈りの男性が前に出る。そしてデュエルを承諾し、装備画面から獲物を取り出した。それは片手で握るには大きい剣だったが、彼は悠々と操っている。


「後悔するなよ、小僧」


 すごみながら男性は口を大きく開け、突撃を仕掛ける。一方の優七は相手を見据え、まずは牽制的な意味合いで『エアブレイド』を放つ。


「はっ! 何だ、基本技か!」


 嘲笑するように叫ぶと当時に、彼は切り払おうとした。その時、優七はあることを直感する。


(あ……これってまさか)


「おらっ!」


 男性は『エアブレイド』を叩き伏せるべく、剣を振り下ろした。そして剣戟と風の刃が衝突する。

 その結果――剣が弾かれ、風の刃が男性に直撃した。


「え――」


 彼が呻く。同時に後方にすっ飛び、床に倒れ込んだ。さらに追い打ちをかけるように手首に蒼い腕輪が浮かび上がる。HPゼロの合図だった。


 ――通常、双方の攻撃が衝突した場合は、判定がなされる。とはいえプレイヤー同士の技量が同一、もしくはそれに近いレベルであった場合はつばぜり合いとなり、プレイヤー同士が駆け引きをすることになる。これは『エアブレイド』のような遠距離攻撃でも同じだが、遠距離攻撃は設定上直接攻撃よりも威力が落ちるため、相手が多少レベルが低くとも叩き伏せて終わり、という処理になるケースが多い。

 しかし、今回の場合は遠距離攻撃の優七の技が勝利した。片方のレベルが圧倒的に高い場合、こうした現象が生じる――つまり、


 優七と倒した男性の間には、圧倒的な壁が存在する。


「な、何だ……今の……?」


 途端、取り巻きの面々がざわめく。まさか一発。しかも遠距離攻撃を防げなくてやられてしまうとは予想もつかなかっただろう。

 そして優七は彼らの顔色を窺い、なんとなく理解する。倒した男性は、この面子の中で強い方だったようだ。


「さて、圧倒的な力の差は理解したかな?」


 そこで雪菜が前に出て、彼らへ告げる。


「で、どうする? おとなしくID情報渡すか、私達にボコスカやられて掲示板にでも言いふらされるか……どっちがいい?」


(完全にこっちが悪役だな)


 そんな風に優七が思い始めた時――一人が、叫んだ。


「お、お前らなんかタクマさんが来れば!」

「……タクマ?」


 優七は首を傾げ聞き返す。どうやらその人物がリーダーのようだ。


「ああ、悪い。僕だよ」


 と、今度は横手から声。視線を向けると、ペットボトルを片手に歩み寄ってくる男性が一人。灰色のパーカーに藍色のズボン。ボサボサの髪にいかにも起きたてという顔をしている人物。さらにやや顔が濃く、鼻筋がしっかり通っているのも特徴的だった。


「名前は野々矢(ののや)拓馬(たくま)。高校二年で、一応メンバーの中で強いから、リーダーを任されている」

「ずいぶんと悠長ねぇ」


 雪菜は腰に手を当て、頭をボリボリとかく拓馬を見据える。


「真打登場といったところだろうけど、どうする気?」

「どうもこうもしないよ。事情を聞いて謝るだけだ」


 ずいぶんと低姿勢。そして彼の言葉を聞いた周囲の面々が驚く。


「た、拓馬さん!?」

「僕の監督不行届だからね……言い訳がましく聞こえるかもしれないけど、今回の騒動は僕がここに来る前、度胸試しということで企画されたものだ。止められなかったのは、謝るよ」

「……拍子抜けするくらい腰が低いけど、場合によっては普通の人が犠牲になったかもしれないのよ?」

「本当に、申し訳なく思っている」


 彼は頭を下げる。優七は本心の言葉だと思ったのが、雪菜は違うようだった。


「言葉だけじゃあ信用できないわね」


 そう言って、彼女は腕を組みじっと拓馬に視線を送る。


「戦意がないのはわかったけど……あなたがそうだとしても、他の人達がまたやるかもしれない」

「うーん、そうだな。とはいえ政府関係にID情報をすっぱ抜かれたくはない」

「というか、被害の可能性を考えれば今すぐ指輪取り上げても良いレベルなんだけど」

「……ははは」


 苦笑する拓馬。彼としてはどうにか穏便にと思っているようだが、雪菜が一歩も引かないため、困っている様子。

 優七はそこで周囲の男性陣を眺める。あくまで平和的に済まそうとする拓馬に苛立っている雰囲気の人物もいる。


(これは……まずいんじゃないか?)


 優七がそう胸中で呟いた時、


「た、拓馬さん! やっちゃいましょうよ!」


 男性の一人が声を上げた。



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