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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第三話

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調査目的

 桜達が江口と共に辿り着いた場所は、寂れた駅前の商店街だった。


「ここで守山さんから事情を聞いてくれ」


 江口はそう言うと再度ゲートを出現させ、いなくなった。桜は多少気になったが、とりあえず周囲の建物を見回すことにする。

 人気が全くない。それには麻子も気付いたのか、口を開いた。


「シャッター街ってやつね。ま、この場合は人が来なくて寂れたんじゃなく、魔物が現れるようになってしまったから廃れた、ということだろうけど」

「みたいだね」


 桜はそれに同意しつつ頷き、入口からじっと商店街の中を眺める。


 アーケードなどは存在していない、下町風情の残る通り。けれど今は無人であり、ゴーストタウンそのものだった。

 麻子の言う通りで間違いない。先ほどのアウトレットモールは魔物が出現しないため繁盛していた。しかし、この商店街は魔物が出現するために誰もいない。


 ――現実世界のエンカウント設定は、基本的に人がいない場所に魔物が出現するようになってはいる。最初の事件はイベントということで例外であり、魔王を倒した以降はある程度法則に従っている。

 どのような設定にしたかわからないが、現実にある街など人口の多い場所をそのまま街に落とし込んでいると予想できる。けれど、目の前にある商店街のように街と設定されず魔物がうろつく場所も多い。


 その辺りのシステム解析も政府は行っているが、現状把握できていない。桜が聞いた話によると、人手が足りないため調査もままならないとのこと。


「さて、守山さん。ここからどうするの?」


 麻子は体を反転させ、後方にいる守山に声を掛ける。


「調査って具体的には?」

「この周辺にいる魔物達に関する生態系の調査だ。加えて近くには人が住んでいる場所もあるため、魔物の殲滅も行う」

「……人、か」


 麻子は守山の声に反応。


「場合によっては、その人達を避難させることもある?」

「活動領域外だとは思うが……調査結果を勘案し、考えるとしよう」


 守山の言葉に麻子は「オッケー」と答え、桜へ向き直る。


「それじゃあ早速、始めよう」

「うん」

「おっと。待った」


 そこへ、守山からの制止。


「もう一人呼んでいるから少し待ってくれ」

「もう一人?」


 桜が聞き返した瞬間、守山の後方で空間が歪み始める。そして奥から江口が現れ、さらにもう一人出現した。


「あ、直原さんと小河石さん」


 告げたのは黒い学生服を着た人物。桜も覚えがあり、声を上げた。


「ああ、浦津さん」


 その人物は浦津誠人うらつまこと――優七や雪菜と同様二課に所属する、桜と同学年の高校生。雪菜と同様魔王と戦えるレベルを所持していながら、最初の事件時距離があったため戦闘に参加せず生き残ったプレイヤーの一人。


 パッと見た印象は、爽やか系。色素の薄い髪に加え、非常に親しみやすい笑顔を振りまく好青年。桜としては腹黒ければ小説にでも出てくる悪役だと思っているのだが、実際は見た通りの性格である。


「彼を含め数人に調査依頼をしたのだが、別件で他のメンバーが外れてしまった。だからやむなく君達を呼んだ」

「すいません、ご迷惑をおかけします」


 浦津は頭を下げる。対する桜はあまり気にしていないため、


「いえ、同じ仲間ですから。そうですよね、麻子さん」


 言って、桜は同意を求めるべく首を向ける。するとそこには、


「あー、そう来たか」


 なぜか頭を抱える麻子の姿。


「どうしました?」


 桜は眉をひそめ、問い掛ける。態度に浦津も首を傾げ、問い掛けようと口を開きかけたが、


「ああ、ごめん。独り言。それで、守山さん」

「ん、ああ」


 話の流れをぶった切り、麻子は守山に話を向ける。


「事情は分かりました……で、この三人で魔物を倒しつつ調査、だけでいいんですか?」

「今のところはそれでいい。ある程度情報を収集したら戻って来てくれ……江口」


 守山が呼び掛けると、江口はポケットから車のキーを取り出す。


「私達は魔物が出現しない方向から戻る。報告は……そうだな。直原君に頼もう。江口に連絡してくれ」

「わかりました」


 彼女が承諾すると、守山と江口はやや離れて置いてある一台のセダンへ近寄っていく。あれを使って離れるのだと桜は心の中で断じつつ、改めて浦津へ声を掛けた。


「浦津さん、よろしくお願いします」

「ええ、こちらこそ」


 にこやかにほほ笑む彼。桜としてはどこか胡散臭く感じてしまい――そんな風に感じてしまうことに、なんだか申し訳なく思う。


(漫画とか小説の読み過ぎかなぁ……)


 或いはロスト・フロンティアのやり過ぎかもしれない。こういった性格をしたキャラが裏切るみたいなイベントを経験したことのある桜は、変に疑ってしまう。


「さて、それじゃあ気を取り直し進むとしましょうか」


 そこで仕切り直しとばかりに麻子が言う。桜は「そうだね」と応じ、浦津もまた頷いた。


「出現した魔物の記録は私が後方支援しながらやるわ。で、桜と浦津君は話しあって前衛後衛決めて」

「……どうします?」


 浦津は武器を出しながら問う。彼の獲物は、紅蓮に染まった二振りの剣――彼は、二刀流の剣士。


「……浦津さんって、攻撃特化でしたよね?」

「はい。僕は連撃を中心に戦います」


(優七君とは真逆だなぁ……)


 一撃で大技を決めようとする彼とはスタイルが違う。そもそも桜はゲーム上優七と組んでいたため、連撃で勝負する相手との連携は経験が浅い。


(……ま、なるようにしかならないか)


「えっと、それじゃあ私が後衛で。といっても私はどっちもできるので、ケースバイケースで考えていきましょう」

「わかりました」


 軽く剣を素振りして彼は言う。剣を持ったことで、表情は変わらないのに威圧感だけが増える。


「相変わらず、怪しさ満点ね」


 そこへ、麻子のコメント。どうやら彼女も桜と同じように思っているらしい。


「そうですね、よく言われます」


 さらに浦津本人も言う。どうやら色んな人に指摘を受け、表情から結構気にしていることがわかる。


「ゲームキャラではなく本人になってから、さらに言われるようになりましたよ」

「でしょうね……ちなみに、普段からもそう言われているの?」

「ええ、まあ」


 言葉を濁す浦津。それを聞いて、桜は口元に手を当て微かに笑う。彼はそれに気付き、僅かに口を尖らせる。


「あ、小河石さん。笑わないで下さいよ」

「ごめんなさい……さて、麻子さん。行きましょうか」

「ん、そうね。それじゃあ二人ともよろしく」


 麻子は言うとメニューを開き、操作を行い弓を取り出した。続いて桜もメニュー画面を呼び出し、装備を選ぶ。


「よし、今回はこれで」


 と、言いながら出したのはいつもの魔法剣。


「あれ、霊王の剣は?」


 すかさず麻子が問う。それに桜は首を振る。


「今日は別の人に渡しているので」

「そっか。まああれは強力だし、引っ張りだこの武器だからね。仕方ないか」

「僕達は調査なので、必要ないでしょう。おはいえ挟撃されないよう注意を払いつつ、進みましょう」


 続いて浦津。桜は「そうですね」と同意し、商店街を見つめる。

 その中で、ふと犬の形をした生物が奥に出現するのを目に留める。灰色の毛並み――野良犬ではなさそうだ。


「早速か。ダークデュラハンもいるようだし、気を付けて行きましょう」


 麻子は弓を構えながら二人へ告げる。


「そうですね……浦津さん」

「ええ、任せてください」


 彼は桜の言葉に頷くと、先頭に立って歩き出す。

 それに桜と麻子は追随する。こうして、調査が始まることとなった――

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