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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第三話

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尾行の先

 後を追う優七達が辿り着いたのは、アウトレットモールから結構離れた大通りにある、アミューズメント施設だった。


「ああいう人達が溜まってそうな場所ね」


 外観を見て、雪菜はそう評した。

 立体駐車場も完備されたその施設は、休日ということもあってか車で埋まっている。親子ずれなんかもきっといるであろうその場所に、優七は一抹の不安を覚えた。


「もしここで戦闘なんかあった日には……」

「大丈夫でしょ。それにやるとしてもデュエルくらいよ」

「デュエル?」

「そう、デュエル。そして政府に目を付けられないよう、見咎められないような場所でやるのが普通」


 解説する雪菜は、優七へ視線を送りさらに続ける。


「政府に従わず好き勝手にやっている人っていうのは、いくつか種類に分かれる。戦わないように過ごすタイプ。戦わない人達でプレイヤー同士のコミュニティを作り、そこにこもるタイプ。そして――」


 雪菜は入口へと進む男性を見ながら、続ける。


「現実世界で徒党を組んで、不良のようにたむろするタイプ」

「つまり、今回はそのケースか」

「ガラの悪い人達の中には結構過激な人もいるからね。私の学校でも噂が立っているのよ。政府関係でもないのにデュエルの現場を見たとかさ」

「なるほど……で、どうするの?」

「乗り込むわよ」


 断言。優七は途端に驚いた。


「いや、あの……まずは報告しようよ」

「彼らは徒党を組んでいるだけで、何をしているわけでもないからID情報だって取得する口実が無い。だから、江口さんなんかに報告しても取り合ってくれる保証はない」

「さっきのID情報取得の件を話せばいいんじゃ……」

「私達はあくまで推測の上で行動しているんだよ? だから協力を仰ごうにも、人を呼ぶことはできないよ」


 そう言うと、雪菜は目を建物へ移した。


「けれど力を無闇に使わないということが決められている以上、見過ごせないでしょ?」

「それは、そうだけど……」


 優七は自然と建物の入口へ目を向ける。なんとなくだが、少しだけ怖くなった。

 彼女の言った通り、入口へ足を向ける男性の後を追えば、そうした一団に辿り着く可能性が高い。そしてそういった人物達がどういう相手かと言うと――


「何よ、ガラ悪い人が怖いの?」


 全く恐れを知らない雪菜が問い掛ける。


「あんたのレベルに対応できる奴なんていやしないわよ。もっと自信を持ちなさい」

「いや……まあ、その」

「悪いけど、私は止まるつもりない。で、私一人にしておくとどうなるか……」


 雪菜は怪しげな笑みを浮かべた。そこで優七は――彼女が男性の関係者を一切合切両断している姿が思い浮かんだ。


「わかった。行くよ」

「……どういう想像をされたかはっきりわかって癪だけど、決断したなら良しとしましょう」


 不服そうに言いながら、雪菜は建物へと足を向ける。


「戦いが終わったら、どこかでお昼を食べよう」

「いいけど……当てはあるの?」

「美味しそうなお店を一軒見つけてるの。高いわけじゃないから安心して」

「それは何より」


 そんな会話を重ねた時、男性が入口の自動ドアを抜けた。


「追うよ」


 短く雪菜は告げると早歩きとなる。優七は追随し、すぐさま建物中に入った。


 二重の自動ドアを抜けた次の瞬間、優七の耳に騒々しい音が舞い込んでくる。一階にはボウリング場とゲームセンターが併設され、一瞬顔をしかめるくらいには音が激しい。

 おまけに、結構人が多い。優七は慌てて男性の姿を探し、ゲームセンターの敷地で姿を認め安堵する。


「それじゃあ、改めて尾行開始」


 うるさい中雪菜は告げ――突如、優七と腕を組んだ。


「え?」

「ここではぐれたらまずいでしょうが。ほら、追う」


 驚く優七に彼女は指摘を入れると歩くよう急かす。優七は多少戸惑いつつも、後姿を追い始めた。一方の男性は、危機を脱したためか警戒を行う素振りすら見せず、どんどんと先へ進んでいく。

 対する優七達は混雑した中どうにかこうにか先へ進む。時折雪菜の体が密着し、服越しではあったがなんだか柔らかな感触が――優七は必死に、考えないようにした。


 やがて男性はゲームセンター奥の通路へと消える。その上には駐車場へ繋がるという表示の看板が見受けられた。


「ゲームセンターが目的地じゃないわけね」


 雪菜は指摘しながら優七へ指示を出す。


「駐車場のどこかで集まっている感じかな。よし、優七。覚悟を決めなさい」

「……了解」


 優七は答え、その通路へ足を向ける。

 少しずつ喧騒が静かになっていく。そして一枚扉を抜けると、正面に駐車場へ続く扉と、階段があった。


 加えて、階段上から金属音特有の高い足音が聞こえる。


「上、か」


 声が反響しないよう雪菜は小声で呟くと、優七に向け上へあがるよう指を差す。

 優七はそれに小さく頷き、足音をできるだけ立てないよう慎重に動き始めた。


「ここが終着点だし、見つからないよう慎重に行くわよ。どうせ敵は逃げないだろうし」


 さらに後方を歩く雪菜の助言。優七はそれにも頷き――ひたすら慎重に階段を上り続ける。

 やがて、上階からの足音が途絶えら。そこで優七達は二階へと上がり、雪菜はそっと駐車場を覗き見る。


「……いないわね。まだ上か」

「表示を見ると五階が屋上みたいだけど」

「とすると三階か四階かな。さすがに屋根の無い場所でたむろしているようなことはないと思うし」


 雪菜は結論付けると、優七を一瞥。


「さっさと片付けてお昼、行くわよ」

「……わかった」


 不敵な笑みを見せる彼女に優七は承諾。内心不安になりつつも、足だけは上へと向けた。



 * * *



 同時刻、彼は浅い眠りから覚め、目を開けた。


「……ん」


 起きた時白く汚れた天井が目に映り、数度瞬きをする。しばし寝起きのフリーズした状態が続き――少しして、頭が動き出す。


「……ああ、ゲーセンだったか」


 どこで眠っていたのか理解すると、彼は上体を起こす。安物のパーカーに無地かつダブダブの藍色ズボン。ふと視線を転じると頭が置かれていた部分にニット帽が一つ。


「おっと」


 手を伸ばし――途端、全身に僅かな痛み。ベンチで寝ていたためだと、すぐに理解する。


「家に帰るかな……寝直したい」


 呟いた後、今度はベンチ隣に設置された自販機へ目を移す。水でも買おうかと彼は立ち上がり、ズボンのポケットから財布を取り出そうとした。


「た……拓馬さん!」


 そこへ、背後から呼び掛け。振り向くと、中学生くらいの野球帽をかぶった男子が駆け寄る姿。


「アイツ、帰ってきました!」


 ――その言葉を聞いて、彼は自分が何をしにここにいるのかを思い出す。


「ああ、そうか。じゃあ待たせておいて」

「はい!」


 元気よく答えると、すぐさま踵を返し立ち去る少年。それを見送りつつ、何の気なしに左腕をかざした。

 その人差し指には青い宝石の指輪――振ると、メニュー画面が姿を現す。


「一応、確認しとかないと」


 彼は呟きつついくつか操作をして、索敵画面を呼び出す。本来アイテムを使用しなければ使えないその機能だが、彼はとあるスキルを保有しているが故、いつでも呼び出すことができる。

 プレイヤーを示すアイコンが一斉に表示される。けれどスキルの追加効果により、自身と関連しているアイコンは星形となっており――


「……ん?」


 画面を見回し、彼は見慣れない二つのアイコンを発見した。


「あらら、見つかったか」


 彼はどこか面倒そうに呟くと、ため息をつく。


「あれほど背後は気を付けろと言っておいたんだが……仕方ない。行くとするか」


 彼は呟き――水を買おうとしたのを思い出し、まずはそちらを済ませる。


「たぶん政府関係者だろうな。どう折衝するか……」


 呟きつつ、彼はペットボトルの水を購入し――それを手に取ると、男子の後を追うべく、静かに歩き始めた。

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