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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第三話

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怪しい人物と彼女の決心

 彼の説明によると、友人と通信機能で会話をした後、アイテム欄の並び替えをしていたら迂闊にも魔物を生み出すアイテムを使ってしまった、らしい。

 優七は事情を訊きながら魔物を取り込むアイテムを思い出す。特定の条件を満たすと魔法を使い魔物をアイテムとして封じることができる。ただし現行のバージョンで取り込めるのはデビルウルフを始めとしたレベルの低い魔物ばかり。以後のバージョンで色々と実装される予定だった。


 そんなことを思い出しながら優七はしどろもどろに話す相手を眺める。少しばかり疑いながらも話を聞き続け――桜が「わかりました」と告げたのを耳にした。


「今後、気を付けてください……というか、このような場所でメニュー画面を開くこと自体が違反行為なので。場合によっては罰則があります」

「は、はい」


 男性は委縮しながら応じる。態度を見て桜は大丈夫だろうと思ったのか、大きく頷いた。


「では、あなたのIDだけ教えてください。今後、このようなことをしないように――」


 そう言った時、携帯の着信音が響く。桜のものらしく「ごめん」と優七達へ言うと、その場を離れた。

 残された優七達は座っている男性を眺める。彼は視線を向けられ多少なりとも動揺している様子。


「あ、あの……まだ何か……?」

「……とりあえず、ゲームIDなんかを教えなさい」

「は、はい」


 雪菜に急かされ男性はメニュー画面を呼び出す。そこから個人情報を調べ、雪菜は歎息した。


「規則は規則だからね。もう二度とこんなことしないように」

「は、はい」


 頷いた時、桜が戻ってくる。それに雪菜は首を向け、


「ID情報とかはそちらに送っておくよ」

「あ、ありがとう……もうしないように」

「はい、わかりました」

「では、行って良し」


 桜の声に男性は一礼し、そそくさと立ち去った。入れ違うように麻子が優七達へ近寄ってくる。


「お店の人達で色々と事情を説明するそうだから、大丈夫そう」

「そう……なら、ひとまず解決だね」

「桜さん、電話みたいだったけど、何かあったの?」


 優七は先ほどの携帯電話について言及すると、彼女は小さく頷いた。


「うん、仕事が入った……前の事件で人員不足みたいだし、私や麻子さんに話が回って来たみたい――」

「問題はそこじゃないでしょ」


 雪菜が声を出す。途端に桜は呻いた。


「今回は良かったけれど、何でこんな魔物も現れない場所を巡回していたのよ?」

「あ、えっと、それは……」

「まさか私達の後をつけていたとかじゃないわよね?」


 強い口調で問う雪菜に、桜はたじろぐ。


「そうなのよね?」

「いや、それは……」

「雪菜、もういいじゃないか」


 そこで優七が割って入る。瞬間、彼女は口を尖らせる。


「良くないわよ」

「ほら、桜さんも色々と事情が立て込んでいるみたいだし」


 優七のフォローに桜はなんだか申し訳なさそうな顔をした。そして雪菜の顔はさらに険しくなる。

 けれど何かしら連絡があったことも事実――だからなのか雪菜は歎息し、


「わかったわよ。でも詳しい事情は後でしっかりと教えてもらうからね」

「……わかった」


 桜はどこか覚悟を決めた顔つきで答える。それに雪菜は険しい顔を示したが、


「……優七、行こう」


 そう言って、歩き出した。

 優七は桜に小さく頭を下げた後、ズンズン進む雪菜を追い始める。すると、


「良かったわね。あの人と会えて」

「……え、えっと?」

「様子見に来たんだと思うよ」


 彼女の言葉に対し、優七は小さく呻いた。


(気になったってことかな……)


 横槍を入れるような行為ではあるが、多少なりとも気に掛けてくれているというのは嬉しい気もした。けれどそんな感情を表現すると目の前の彼女は不機嫌になるはずで――


「優七、買い物は中止。さっきの男を追うよ」


 考えている最中、雪菜が声を上げた。


「え、追うって?」

「どうも挙動が怪しかったからね。何かの拍子じゃなくてわざとやったんじゃないかと思うのよ」

「わざと……?」


 優七は呟きながら、雪菜へ問い掛けようとした――その時、先ほどの男性が歩いているのを目に留める。


「よし、追うよ」

「ID情報取得したし、大丈夫だと思うけど……」

「あの人に関わる誰かが似たようなことするかもしれないでしょ?」


 そう言われると否定しようもない。優七も「そうかも」と同意するしかなく、黙って雪菜と共に彼を追い始めた。



 * * *



 色んな意味で窮地を脱した桜は心底安堵。そして横にいた麻子は必死に笑いを堪えていた。


「……麻子さん」

「ごめんごめん」


 口元を抑える麻子はどうにか笑いを収めつつ、話を戻す。


「えっと、それで……さっき、何の電話だったの?」

「今からすぐ調査をしてくれと」

「調査? 何の?」

「詳細はルームで、とのことなので、今から行きましょう」


 そう言うと桜はメニュー画面を呼び出し、ルームを解放した。

 歪んだ空間の奥には見慣れた草原とログハウス。そして、家の前にスーツ姿の男性が一人。


「ああ、守山さんね」


 麻子は理解し、先んじてルームへ入り込む。その後に続き桜が進入すると、穏やかな風が肌を撫でた。

 ルームの中は先ほどまでいたアウトレットモールよりも気温は高い。しかし四季の設定をしているこの場所では十分寒い。


「お疲れ」


 家の前で、桜達に気付いた守山が声を上げる。見えてはいないが、江口もこのルームにいるはずだ。


「すまないな。緊急で調べて欲しいことがあり、連絡したんだ」

「何でしょうか」


 ――桜と麻子は前線に立つ二課の人間ではない。本来魔物の出現などに対する討伐は管轄外。


「君達のレベルが必要になると断じ、今回連絡させてもらった」

「レベルが、必要ですか?」


 小首を傾げる桜。どうも大事のようだが――


「ああ。他にも色々と魔物が出現していて、君達の方に話を回す他なかった」


 ――彼がそう言う理由としては、エンカウントの設定により魔物が出現するようになったことに由来する。


 システム上、魔物の数は規定の範囲から出ない上、一定以上には増えない。しかし魔物達は数を増やすことで活発となり、活動領域が不明確な現状では人を襲いかねないため、多少なりとも抑え込む必要があった。


「報告によると、その場所にはダークデュラハンがいたらしい……魔王に挑める君達なら通用するといったレベルの敵だ。本来は二課の仕事であるため優七君などに任せることなのだが……」


 と、守山は肩をすくめた。


「事情は知っているし、ここは休ませてあげたい……協力してもらえるか?」

「……はい。わかりました」


 にべもなく頷く桜。先ほど覗き見していたという後ろめたい気持ちもあり、二人の役に立つならということで了承した。


「良かった。それなら今から江口が出口を作る。そこから先行してくれ」

「先行……? 守山さん達は?」

「私や江口はまだ動き回らないといけないからな……君達を外に出したところに車が置いてある。それで移動だ。帰りはルームに戻れば問題ないだろ?」

「そうですね。では行きましょう」

「ああ……江口!」


 守山は声を上げながらログハウスへと入って行った。


「やっぱりエンカウント設定だけでも解消しないとまずいわね」


 そこで麻子が言う。表情は憮然としたもの。


「こっちは人手がまるで足らない……もう少しプレイヤーを政府が集められればいいんだけど……」

「仕方ないですよ。それにプレイヤーを集めるといっても、統制効かなくなるのもまずいですし」

「その辺は痛しかゆしね。未成年が多いから厄介よね」

「私も未成年ですけど……」

「桜くらいに利発な子ばかりだったら、楽なのにね」


 そう言うと麻子はログハウスへ背を向ける。


「ところで桜……話は変わるけど、いい?」

「……どうぞ」


 嫌な予感を抱きながら桜は返答すると、


「優七君との関係は進展してるの?」


 訊かれてしまった。桜は口をつぐみ、押し黙るしかない。


「雪菜のこともあると思うけどさ、自分の気持ちには素直になった方がいいよ」

「……そうはいっても、会えるような時間もありませんし」

「逆よ。会える時が少ないからこそ、会った時こそ濃密な時間を――」

「変な方向に、話を持っていこうとしていません?」


 今度は桜が問う。すると麻子は沈黙し――


「すまない、待たせた」


 守山が帰ってきた。

 桜が視線を送るとパンをかじる江口の姿。彼は桜達を一瞥すると「ははは」と笑う。


「いや、すまん。朝食を食べてなかったからな」

「……別に構いませんよ」


 桜はそう答えた後、麻子を見る。彼女は睨まれたとでも思ったのか苦笑いを浮かべる。


「ごめん、怒らないで」

「……怒っていません。それに、多少なりとも事実ですし」


 桜は答えると、頭に優七を思い浮かべ、言った。


「そうですね。もう少し関わるようにします」

「それが良いと思うわ。その方が個人的にも楽しめ――」


 と、言った所で彼女は慌てて口をつぐんだ。桜は何が言いたいのか察し――すぐさまジト目となる。


「……麻子さん」

「ご、ごめん……心配して言った所もあるし、この通り」


 手をパンと合わせ拝むように謝る麻子。一方守山達は意を介さない様子で桜達の会話を聞き入っているだけ。


「……わかりました」


 そんな空気の中で桜は頷く他なかった。加えどこかあきらめた心境を抱きつつ、守山へ口を開く。


「では、案内してください」

「わかった」


 守山と江口はどこか聞きたそうな表情をしたが――それも一瞬のこと。表情を改め歩き出した。


(ここは、頑張らないとね)


 そうした中桜は胸の中で呟く。確かに優七は現在別の人とデートをしている――けれど、命のやり取りを離れ、休息しているのもまた事実。


(不本意だけど……優七君にばかり無理は負わせられないし)


 頭の中で結論付け、桜はしっかりとした足取りでルームの出口へと向かった。

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