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闇の中の戦い

 魔王の居城はいかにもというもので、古典的な和製RPGの雰囲気そのものだった。永遠に昼にならない暗黒の雲を下ろす闇に、城周辺は魔物だらけの森。そして何より荘厳美麗かつ、恐怖を与える漆黒の城。


 その中で、ユウのパーティーは城門付近にいた。目的は勇者達の退路確保。クラスメイトである木ノ瀬やジェイルを含めたパーティーは城奥深くに潜入を果たし、魔王と交戦しているはずだ。


「ふっ!」


 声と共に森から迫りくる魔物を一体両断し――ユウは息をつく。


「こうも数が多いと気が滅入るな」


 呟きつつ周囲を見る。ユウのパーティー以外にも味方が多数交戦していた。長期戦のため、戦闘不能となり街へ戻っている人もいる。

 その状況下で魔物の数は一向に減らない。情勢は悪くなるばかり。


「はっ!」


 近くにいたマナが矢を放ち、迫りくる狼型の魔物を打ち倒す。その横ではシンが回復魔法により、近くにいた味方を治療していた。


「ユウ、まだ大丈夫?」


 そして、隣にいるオウカがユウに問い掛ける。


「ああ、大丈夫」


 ユウは体の横に表示される自分のHPを確認しつつ剣を構え直す。正面には新たな魔物が出現していた。


「クリムゾンベアか……」


 オウカが警戒の声でその魔物を見た。

 限りなく血の色に近い真紅の体毛を持った熊。さらに五メートルはあろうかという巨体と通常の熊と比べてリーチの長い前足と共に、悠然とユウ達に歩み寄る。


「ユウ、確認だけどあいつを倒したことは?」

「ソロでは一度もない。マナと、何人かの味方と一緒に倒したことはある」


 ユウは答えながら再度HPの残量を見る。そしてこのまま戦えば一撃でやられると確信し、メニュー画面を素早く出した。

 慣れた手つきで回復アイテムを選択し――小瓶に入った薬液が光を伴って正面に現れる。それを手に取ると素早く飲み干し、HPを満タンにした。


「よし……行くぞ!」


 ユウの号令と共にオウカも駆け、二人でクリムゾンベアに挑む。直後敵はユウ達を視界に捉えたか、重い雄叫びを上げた。

 そこへ、別の味方から援護がやってくる。右から雷、そして左からは風が放たれ、クリムゾンベアに直撃した。


「よし――!」


 ユウは声を発すると同時に、剣先に力を込め立ち止まる。さらに剣を両手で掲げるようにして構えた。

 瞬間、剣先から光が溢れ、刀身の長さを三倍にする青白い光が生み出される。


 そしてユウは走り、剣の射程距離まで近づくと――


「はあっ!」


 掛け声と共に、上段から振り下ろした。光をまとった一撃は、援護により怯んだクリムゾンベアに直撃。倒すとまではいかなかったが、巨体を大きくのけぞらせた。


「オウカ!」


 ユウはさらに攻撃を加えながら叫んだ――同時に、オウカが魔物へ走り込み、剣を構える。彼女の握る剣からは、紅蓮の炎が生み出されていた。


 ユウは彼女が走り込んだ瞬間攻撃を中断し、事の推移も見守り――


「やあっ!」


 オウカは叫び、剣を薙ぐ。巨体に剣がヒットすると刀身の炎が魔物全体に一瞬で迸り、全身を包みこんだ。

 やがて聞こえたのは魔物の断末魔。燃え盛る炎の中で巨体は沈み、やがて消滅した。


「ありがとう!」


 即座にオウカは援護してくれた人に礼を告げる。ユウも合わせてお礼を言うと、周囲の状況を確認し始めた。


 状況はさらに悪化。魔物のレベルが高いこともそうだが、中にはここにしか現れないような魔物もいるため、対応に手間取りやられてしまうケースもあった。

 ユウは人数が減っているのを記憶した後、オウカに話す。


「援軍要請、するか?」

「今頼んで間に合うのかな?」


 彼女からは疑問が口をついて出る。ユウは予想がつかず沈黙した。


 魔法により転移ゲートが設置されているので、味方を呼ぶのは難しくない。しかし、このフィールドにいる敵のレベルはかなりのもので、呼ぶ味方も相当な精鋭でなければならない。そんなレベルの能力者がそう簡単に集まるのだろうか――


 考えている間に、新たな敵が森から出現する。今度は一本角を持った黒い悪魔。大きさはクリムゾンベアと同じくらい。


「ユウ、あれは手ごわいよ」

「わかっている」


 オウカの言葉にユウはどう攻めるかを思案する。先ほど使った技――名を『セイントエッジ』と言い、手持ちの技の中で強力な部類――を使用するのも一つの手。しかし、その攻撃では決定打にならない――クリムゾンベアとの交戦で、はっきり理解できた。


 残りの技で、通用しそうなのは一つ――名を『グランドウェイブ』という、地面に剣を走らせ放つ攻撃――


「オウカ! 少しアイツを抑えてくれ!」


 ユウは叫ぶと、剣を両手で握り振りかぶりように構える。刃先を下に向け、先端を地面に当てた。動きで何をするか察したオウカは、小さく頷くと剣を軽く振った。

 同時に彼女の剣から炎が生じる。目の前の悪魔はそれに気付き雄叫びを上げ、巨体を揺らし突進してくる。


「――はあっ!」


 直後オウカが叫び、一閃した。同時に刃から炎が放たれ、ユウ達の正面を紅蓮に染める。それは強力な炎の壁となり――悪魔の動きを大いに鈍らせた。


「――今!」


 オウカは言い放つと同時にユウは駆けた。剣の先端を地面に滑らせながら接近し、そのタイミングで壁が消える。

 そしてユウは悪魔へ向け、すくい上げるように斬撃を放つ――


 刹那、剣に宿った力が解放され、白い衝撃波が悪魔を飲み込んだ。地面に宿る魔力すらも取り込み、巨大な衝撃波となって五回もの多段攻撃を加える――これがユウの切り札である『グランドウェイブ』の効果。隙は生じるが、持ち得る中で最強の攻撃。


 悪魔は攻撃を受けると弱弱しい声を上げのけぞるが、滅びはしない。あと一撃――ユウが思った時今度はオウカの攻撃が入った。剣先に風を纏わせ、刺突の体勢に入る。


「ふっ――!」


 僅かな呼吸と共に彼女は悪魔へ剣を突き出した。次の瞬間風が小さな竜巻となって悪魔を襲う。狙いは、胸部。


 悪魔はそこでようやく、体勢を直した。どうやらオウカの攻撃に気付いたようだが、避ける暇なく風が衝突し、胸に大穴が空く。そして悲鳴すら上げず、消失した。


「やった……!」


 ユウは悪魔の消滅と共に静かに息をつくと、次の行動を考えようとした――

 その時、後方から声が聞こえた。野太い、周囲に反響する大絶叫。


「な……?」


 ユウは驚き振り返った。城に変化は無い。しかし、城が包む圧倒的な気配が消え去るのを、はっきり認識する。


「……勝った、のか?」


 味方の誰かが、声を上げた。ユウはまさか、と思いながら周囲を見回した。こちらに向かってこようとした魔物達が立ち止まり、あまつさえ逃げるように森へ退散していく。


「勝ったんだ……勇者達が……!」


 さらなる誰かの声と同時に、周囲の人々から歓声が上がった。ユウも事態を把握し声を発しようと口を大きく開け――途端、城から轟音が生じた。


 その場にいた全員が声を止め城を眺めると、城壁にヒビが入り始めた。さらには城の頂上付近の構造物が崩れ、地面に飛来してくる。

 慌てて門付近にいた味方が退避し始め――やがて、城は一気に崩壊を開始し、音を立てユウ達へ全てが終結したことを理解させる。


「……ジェイル達は?」


 轟音が響く中、ユウはふと魔王と戦っていた勇者の顔を思い浮かべる。崩れ落ちる城と勇者達。ゲームをやってきた者なら既視感この上ない光景だろう。これからの展開も予想できるが、それでも安否を案じずにはいられない。


 そして――城が原型を無くし音が止んだ時、空から一筋の光が差し込んできた。漆黒の闇が払われ、太陽がその姿を現す。暖かい陽を見てか、味方の中には安堵の声を漏らす人もいた。


「……やれやれ、なんつう典型的な」


 そこへ、城方向から声が聞こえてきた。注目すると、瓦礫の中から人影が複数現れる――ジェイルを含めた勇者一行だった。


「けど、まあ。これで終わりだな」


 ジェイルはユウ達に気付くと小さく手を振った。同時に誰かが歓喜の絶叫を上げ、それをきっかけとして再び歓声が周囲を包んだ。


「いやぁ、まさか魔王を倒したら城が崩壊するお約束までやってくれるとはなぁ」


 ジェイルが呑気に告げる中、彼は仲間達に手を引かれユウ達の立つ場所へと進む。なおも他の仲間達が勇者を称える言葉を出し、彼は逐一それに応じるように笑みを浮かべ、皆に言った。


「魔王打倒、これにて完了した……多重に結界を張ってHPを減らさないようにしていたのは驚いたよ。ゲーム始まって以来の、長期戦だった」


 彼の言葉に、おおお、と口々に声が上がる。


「さらに、一枚結界を破壊するごとにカウンターまで用意されてたよ。もし最初の攻撃を上手く回避してなかったら、全滅の憂き目にあっていたかもしれないな」


 その声にまたも歓声。やがて、次々と仲間達が質問を始める。


「これで、終わりだね」


 その時、ユウの隣にいたオウカが言う。ユウはげにもと頷いた。


 やがてジェイル達が間近まで来る。彼は一度だけユウに視線をやると、微笑を浮かべた。対するユウは、会釈で返した。

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