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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第三話

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平和な場所の騒動

「いやー、結構雰囲気良いわね」


 横から、面白おかしく同意を求める声が聞こえる。


「なんだか色々話しているみたいだけど……まあ、いきなりのデートってことで身の上話とかしているのかもね」


 と、声の主は口を歪ませニンマリとした。


「で、桜としてはどういう心境?」

「……えっと、さ」


 問われた桜は、頬をかきながらどうにか返答する。


「いや、あくまで私達は――」

「この辺の警備という建前、でしょ? でも私の誘いに乗って魔物が出現しない場所まで来ている以上、誤魔化しても意味は無いんじゃないかな」

「う……」


 相手――スーツ姿の麻子の言葉に桜は呻く。実際の所、彼女の発言が正鵠を射ていた。

 本日、桜は警備任務を言い渡され制服姿で動き回っていた。その中で麻子がやって来て「二人のデート場所がわかったんだけど、ちょっと覗いてみる?」と言われ、誘惑に負けてこの場所に訪れたというわけだ。


 ちなみにこのアウトレットモールは魔物が出現しないポイントであると確定しており、だからこそ繁盛していると言える場所だった。本来ならば警備に来る必要が無い場所――よって、ここにいることがバレたなら非常にまずい。


 とはいえ、苦しかろうともっともらしい理由は必要だろう。


「ち、近くに来たから念の為ということで……」

「ま、そういうことにしておきましょう」


 麻子は答え、とことん笑う。

 誘った時点から態度を一切変えず、麻子は始終ニコニコとしていた。桜としてはその笑顔の裏が透けて見えるため、ありがた迷惑という言葉が頭に浮かぶ。しかし――


(けど、ここに来ている以上私も麻子さんと大差ないか)


「で、桜。個人的にはどういう心境なの? やきもちとか妬いてる?」


 思考する中麻子が問い掛ける。桜はそれに困った顔で応じた。


「やきもちって……」

「ほらほら。せっかく告白したのに別の女の子に優七君がとられちゃうかもしれないわよ?」


(そういう言い方は、ずるいと思う)


 ちょっとだけ胸の奥が痛みつつ、桜は無言で二人の入った店を眺めた。


 ――ロスト・フロンティアが現実世界に顕現した最初の事件以降、桜は優七とロクに会えない日々が続き、多少なりとも不満を抱えていた。その中で先週優七と共に戦い、終わったらデートの約束でもとりつけようか、と構えていた矢先雪菜が告白をしてしまった。


 桜は波風立てないよう勝負であった以上守らないと、という風に言ったはいいが、穏やかならぬものを感じていた。あの戦いの時麻子から多少なりとも事情は聞いた。何でも、彼女を見知っている人にとっては周知の話だったらしい。


「詰めが甘いのよね、彼女。態度からバレバレだったし」


 と、店を眺めながら麻子は声を発する。


「なんというか、色々と目を掛けていたのに、優七君自身最終的には邪険に扱っているように感じていたわけで……」

「でもそんな風にしていたってことは、それだけ好意を持っているということですよね」


 桜が顔を向け言うと、麻子は肩をすくめた。


「それに優七君がなびくかどうかはわからないけどね」


 どこか傍観者的な物言いで語った。桜は改めて、彼女が興味本位で今回のことに首を突っ込んでいるのは確信できた。

 視線を戻す。店の奥に消えた二人を頭の中で想像し――和気あいあいとした光景を想像することは一切できないが、並んで歩いている事実だけで心の中がモヤモヤとする。


(……嫉妬、かな)


 桜は心の中で呟くと自嘲的な笑みを浮かべ、今までのことを思い返す。


 最初の事件で、優七に勢い余って告白した。が、後になって返事を聞いていなかったことに気付いた。優七自身は感情が顔に出るので好意を抱いているのは予想できたが、直接言葉を聞いていない以上胸のどこかで不安もある。


「あ、出てきた」


 麻子が言う。見ると、袋を持ちつつルームを呼び出す雪菜の姿があった。


「荷物を全部ルームに入れる気ね。上手いやり方ね」


 麻子はどこか感心するように言う。


「日常生活における、上手な使い方ね。いつかは消さなきゃいけない仮想世界だけど、使えるのなら使わないと損よね。今度真似しよう」

「……麻子さん」


 そこで、桜は声を上げた。


「優七君がどう思っているかって、わかりませんよね?」

「その辺は聞いていないし……不安になった?」

「不安、というか……」


 真意を一度聞いてみたい、という思いに駆られる。自分のことをどう思っているのか――


「お、また別の店に入った」


 麻子がさらに言う。桜が視線を送ると、別の店へ消える二人の姿。


「よし、さらに近づきましょう」


 麻子が提案。桜はそろそろ巡回に戻るべきだと考えたのだが――色々な想いが錯綜し、


「はい、わかりました」


 と、頷いてしまった。

 そこから店の近くへ歩み出す。桜は店舗の近くに隠れられそうな場所が見当たらないかを探しつつ、ふと何をやっているのかと自問する。


(なんか、ストーカーみたい)


 もし見つかったら大変なことになるだろう――そう思いながらも、足は止まらない。

 前を進む麻子は嬉々として先行する。桜としては有難いのか、それとも悪知恵を吹き込んだことで色々と言うべきなのか判断に迷う。


(けど、どちらにせよ……今回のことが終わったら、麻子さんに言っておくべきかな)


 そんな風に桜は結論付けた、その時――

 周囲に、狼の遠吠えがこだました。



 * * *



 優七達が遠吠えに気付いたのは、雪菜が店の奥でスカートを選別している時だった。


「……犬?」


 途端に雪菜は持っていたスカートを戻し呟く。優七も一瞬で顔を引き締め、彼女と視線を合わせる。


「何だか、聞き覚えがあるな」

「そうね……嫌な予感がする。行ってみましょう」

「うん」


 二人は即座に入口へと駆け、店を出た。優七は剣を出す準備をしようとして――

 店の右側に、デビルウルフと交戦している制服とスーツ姿の女性がいた。


「あ……!」


 その人物に気付いた雪菜が声を上げる。同時に優七はどうするか逡巡し、二人の援護に回ろうか思案した。

 けれど、判断する前に決着はついた。制服姿の人物が剣を一閃し、デビルウルフを打ち倒した。


 優七は即座に周囲を見る。不安な顔を見せる人もいたが、倒したことにより安堵する様子の人も多かった。

 そこまで確認してから視線を戻し――優七は二人が誰であるのか気付く。


「あれ……?」


 呟きつつ優七は彼女達へと歩み寄る。ふと横を見ると、険しい顔をする雪菜がいて、反射的に目を戻した。

 そうして相手を改めて確認し、声を上げる。


「桜さんと、麻子さん?」


 問い掛けた直後、制服姿の桜の肩を大きく震えた。そしてぎこちなく首を優七達へ向け、やや頬をひきつらせて笑う。


「あ、ああ……どうも、優七君……奇遇、だね……」

「何やってるのよ」


 と、雪菜は険悪な声で桜へ告げる。


「いや、ほら。警備よ。警備」

「魔物がいない場所なのに、警備?」

「実際いたでしょ? その、デビルウルフが」


 桜が魔物が消えた場所を指差した――瞬間、優七の視界の端に男性の走る姿が映った。


「あ、ちょっと待ちなさい!」


 麻子がすぐに声を上げ、その男性を追う。


「あの人が魔物を生み出したのを見た!」


 そして彼女は端的に告げ――優七達も走り出した。

 男性は結構足が速い。おそらくスキルを使用していると優七は断じ、相手に合わせて速力の強化スキルを使用。


「優七! 回り込むよ!」


 雪菜が指示する。優七は無言で頷き、一気に駆け抜け――逃げる男性の前に辿り着いた。


「っ……!」


 彼は短く呻く。同時に優七は剣を取り出そうとして、


「ま、待ってくれ! わざとじゃないんだ!」


 男性は観念したのか手で制しつつ、叫んだ。


「そ、その……設定とかをしていて、アイテムを使ってデビルウルフを召喚してしまって――!」


 言い訳くさい口上で男性は告げる。見た目は優七と比べ年上。ジャンパーに綿パンという出で立ちで、短く刈り上げられた髪が特徴。


「そうは言われても……経緯くらいは訊かないといけないですね」


 そこへ、後方から桜達がやって来て男性に告げる。


「すいませんが、その辺で事情を訊いてもいいですか?」

「わ、わかった……」


 男性は桜を見返し、観念したのか沈鬱な面持ちで答えた。優七はそこで大丈夫だろうと思い、雪菜へ声を掛けようとしたのだが、


「私達も話を聞きましょう」


 彼女は言い放ち、桜の後を追い始める。

 優七もそれに従う他なく、移動を開始した。同時に周囲へ目を向ける。騒動を聞きつけてやって来たモールのスタッフに、麻子が事情を話している姿が目に付いた。


(……大丈夫そうだな)


 胸中優七は呟き、桜達のいる場所へ向かう。やることは、主にID情報の取得だ。


 ロスト・フロンティアの世界と融合した世界は、プレイヤーをやっていた人間の力が強くなっている。一般人ではロスト・フロンティアの能力に太刀打ちできない以上、そうならざるを得ない。

 加え、政府側はID情報をまとめてはいるが、全ての人間を魔物討伐に参加させることなど強制できない。国によっては強制させるところもあるようだが、日本では志願という形となっている。


 そうした中、当然政府機関に所属していないプレイヤーのいざこざも発生する。そこで政府は戦っていない人達に対し能力の使用を制限した。魔物がいないような場所で能力を使用することは違反行為と見なされ、監視対象となる。以後能力を使用した場合、最悪逮捕という可能性がある。

 厳しい罰則なのではという声もあったが、プレイヤーが圧倒的優位に立ってしまう現状では、政府が強い態度を示さなければまずいというのが最終結論だった。


 優七達は男性を道の端にあるベンチへ誘導する。桜は男性や共にやって来た優七達をチラチラと見ながら――やがて、口を開いた。


「えっと、それではなぜ魔物を生み出したかの経緯ですけど」

「あ、はい……」


 男性はそこから慎重に言葉を選び、話し始めた。

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