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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第二話

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生き残った者達

 牛谷の携帯電話にメールが訪れたのは、午後七時過ぎだった。


 番号を見て影名の携帯からだとわかった牛谷は、ハザードランプを点灯させ一時停止する。無人の道路であるためこんなことをする必要はないのだが、染みついた運転技術がそうさせた。


「逆探知されないよう、これも使うのはやめるべきだな……」


 呟きつつ文面を確認。そこには、


『悪いけど私だけルームの中から逃げ出して、今現実世界にいる。あんたの潜伏先候補が知られたくなかったら、私を迎えに来なさい』


 そういう言葉と共に、場所が記載されていた。そこは、とあるサービスエリア。


「何……?」


 牛谷は呻き、文面を読み返す。

 最初、これは自分をおびき出すための罠ではと思った。あの状況下でルームから抜け出すというのは通常ありえない。ましてや、彼女はルーム内でリーダーだった。なおさら出られるはずがない。


 既にルームは制圧されているだろう。となれば彼女の携帯から政府側が何かをしたとしか思えないのだが――潜伏先候補、という言葉が気に掛かった。


「もし本当に影名がこのメールを送ったとすると……リーダーを降りた、というのが確実か。となれば、稲瀬あたりに押し付けたな」


 呟き――僅かに逡巡した後、牛谷は電話を掛けた。

 耳の奥でコール音が響き、三回目で相手が出た。


『ハーイ、牛谷』

「周囲に人はいないのか?」

『政府の人間が出ると思った? 残念だけど、私一人よ』

「そうか。無事だったようだな」

『見捨てるつもりだったのに、よく言うわね』

「お見通しか」


 悪びれることもなく牛谷は言う。言葉に影名は電話の向こう側で大きく息をついた。


『……一つ質問していい?』

「いいぞ」

『メールを見たから電話を掛けてきたんだと思うけど、警戒しなかったの?』

「潜伏先候補というのが気になった。その様子からだと、嘘のようだな」

『まあね……見捨てる?』

「さすがにこの状況下で見捨てたら、寝覚めが悪いな」

『よく言うわ……私はルームの出口が家とかじゃないから当分ここに人が来ることはないと思う。時間はあるからお迎えよろしく。不安なら建物の外を狼使って確認すればいいでしょ?』

「わかった。いいだろう」


 端的に答えると牛谷は電話を切った。そして一つ息をつき、


「全て予定通りとは、ならないものだな」


 呟き、牛谷は携帯をポケットにしまいハンドルを握った。






 そこから八時前にサービスエリアに辿り着いた。方向的には逆だったのだが、仕方ない。


「影名」


 建物の中で牛谷はすぐに彼女を見つける。フードコートの中にある一席で、呑気にラーメンを食べていた。


「ああ、どうも」


 彼女は応じながらラーメンをすする。食べ終わるくらいらしく、中身がほとんど残っていなかった。


「いやー、ここのラーメン美味しくて。あんたも食べる?」

「遠慮しておく。それより、他に人はいないのか?」

「いないわよ。全部見殺し」

「私のせいだと言いたいのか?」

「半分は、ね。私も彼らを見捨てたわけだし、その辺を咎めるつもりはないわ」


 あっさりと答えると、影名は箸を置く。そして水の入ったコップを手に取り、一口飲んだ。


「私が聞きたいのは、なぜこんな真似をしたのかということよ。ハードディスクまでルームの中にあったでしょ? 結局、何がしたかったの?」

「……まず、ハードディスクの件はそちらに注意を向けさせるためだ」


 影名の問いに、牛谷はそう切り出した。


「ハードディスクからシステムを多少なりともいじれるとなれば、彼らも調査せざるを得ないだろう。なおかつ彼らの問題は魔物のエンカウントに注がれる。稲瀬の口からか、独自の解析で魔物のエンカウントが停止しないことはすぐに気付くだろう。それに注意を向けてくれれば、しばらくは時間が稼げる」

「また時間……その時間で、何がしたいの?」

「以前言った、協力者の望みだ」

「望み?」

「現在、その望みのために人や物資を動かしている。それを気取られるわけにはいかないため、政府にはロスト・フロンティアを解析や魔物の掃討に力を入れてもらいたかった。そうなれば、準備を秘密裏かつ手早く進めることができる」

「……そう」


 牛谷の解説に、影名は釈然としない表情を示した。

 顔には協力者の望みが何なのか訊きたいと書いてある。けれど牛谷は問われても答えないつもりでいた。


 すると、影名はそれを察したのか別の話題を口にする。


「で、私達を見捨てた理由は?」

「協力者の指示だ」

「指示?」

「重要な立場の人間だからな。言い方は悪いが、影名や稲瀬のような人間を家に入れたくないようだった」

「ずいぶんね。まあ、どういう人なのか想像つくし、仕方ないとは思うけどね」


 影名はため息をつき、背もたれに体を預けた。


「で、私は一緒に行けるの?」

「……こうなってしまっては仕方ないな。その人物は逆に胆力あると見なして好感するかもしれない」

「なんか、使い捨てられる未来しか見えないんだけど……ま、こうなったらそうならないよう頑張るしかないわね」


 ため息と共に影名は立ち上がり、ラーメンの器が載ったトレイを手に取った。


「じゃ、片付けてくるから待っていなさいよ」

「ああ……そういえば、ここに来るまでの足はどうした?」

「歩いてきたのよ。ここは普通の道路からも入れるから。車は家だしね」


 答えた後、彼女はトレイを返却しに行く。その姿を見ながら、牛谷は苦笑した。


(彼女だけ、残ってしまったか)


 ただ、事情を聞けば納得してくれるだろう――そんな風に思いながら、牛谷は立ち上がる。


(そして、ここからが始まりだな)


 胸中で呟き影名を待つ。稲瀬に手伝わせたシステム解析は大きな情報となった。何より、重要だったのは――


「お待たせ」


 影名が呼び掛ける。牛谷は思考を中断し「ああ」と答える。


「では、行こうか」

「ええ」


 そして二人は建物を後にする――牛谷の胸には、新たな野望が生まれ始めていた。

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