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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第二話

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勝負の結末

 指示の下作業をする中で、ルームの中もいよいよ茜色に染まり始めた。

 優七はポケットから携帯電話を取り出し時間を確認する。六時半を回っていた。既に外は真っ暗のはずだが、ルームの日没時間はこのくらいに設定されているらしい。


「やっと一日が終わるのか……」


 先ほどの稲瀬という人物の言葉――あれに不安を覚えつつ、優七は呟いた。

 同時に疲労がずっしりと肩にのしかかる。思えば昼以降戦い続けていた。途中訪れた工場内で休憩を挟みはしたが、神経を使う戦いが続き体が休息を欲している。それを茜色の空を見て改めて感じた。


「優七君」


 ふいに、近くに来ていた守山から声が掛かった。


「あ、はい」

「君は、引き上げてもらって構わないよ」

「え、俺だけ?」

「城藤君にも先ほどと伝えた。昼間から戦い続けていただろう? そろそろ君達も休まないと」


 まだ帰れないと思っていた優七にとっては朗報。すぐさま「わかりました」と答えると、守山は「お疲れ」と言い残し砦へ歩いて行った。

 優七は視線をゲートへ移す。その前では砦から出した物資の整理をしている者や、何やら話し合う桜の姿が見えた。作業している間に敵方は全員外へ送り出されたようで、ルームの中には影も形も無い。


 そこで優七はどう家に帰ろうか思案する。データ上、優七はルームからゲートを作成すると家に帰れるようになっている。けれどそれは自分が所持しているルームについてだけ。


(ここで下手にゲートを作ると、ここに入った会議室に出そうだな……一度外に出て、自分のルームに入り直そう)


 ここでゲートを作るのも試すわけにはいかず、優七は決心し設置されているゲートへと足を向けた。

 そちらへ歩いていると、桜が気付き手を振った。それに振り返しつつ労いの言葉を頭に浮かべ、口に出す用意をして――


「優七」


 すぐさまそれが霧散した。

 声は背後から。振り返るとそこには腕を組む城藤の姿が。


「……何?」

「帰るんでしょう? けれどその前に一つ決着をつけておかなきゃいけないことがあるわよ」

「決着?」

「勝負のこと」

「ああ……」


 色々と立て込んでいて忘却していた。優七は稲瀬を倒す前に約束していたのを思い出す。さらに戦いのことを振り返り――


「えっと、あれって同時じゃなかった?」

「違うわよ。私の方が一歩早かった」

「……根拠は?」

「何よ、文句あるの?」


 意見したらやっぱりこれだ、と優七は思った。

 目に見えて大勢が決していれば良かったのだが、今回は微妙な結末。こうなれば優七は退かざるを得ない――のだが、


(でも、今回の場合は……)


 問題は約束について。目の前の相手の言うことを聞いていると、厄介なことになりそうだと、優七は思った。


(できれば、ここは回避したい所だな……)


「……いや、俺の方が絶対早かった」


 なので、優七は強弁する。すると城藤が僅かに動揺の色を見せた。反撃されると思っていなかったらしい。


「へ、へえ? じゃあ根拠を教えてよ」

「どちらが先に刃を当てたかというのはわからないけど、振り抜いたのは俺の方が早かった。だから、攻撃したタイミングだって俺の方が――」

「その理屈は変よ。私の攻撃動作が遅かっただけじゃない」

「でも城藤がとどめを刺せる段階で、そんな遅い攻撃をするとは思えない」

「言うじゃない」

「何だよ?」


 優七は強気に出る。内心かなりビビっているのだが、もう後には引けない。


「はいはい。喧嘩はやめる」


 と、そこへ桜が近寄ってきて手をパンパンと叩いた。さらに不穏な空気を悟ったか他の面々まで近寄ってくる。


「どうしたの? いきなり口論し始めたみたいだけど」


 桜は二人へ尋ねる。優七はすぐさま話をしようとして――


「……優七、ここは引き分けということにしよう」


 城藤が声を出した。


「同時に攻撃が決まったということで、双方が一つ要求する。これでどう?」


(そういう場合は勝負は次の機会に、とかじゃないのか?)


 優七は思いながら、毒気が抜かれた表情を彼女に送る。桜達が来たことにより、気勢が削がれた形となった。


「はあ、わかったよ」

「何の話?」


 なおも桜が尋ねる。優七はため息をつき一連の事情を説明した。


「へえ、勝負、ねえ……」


 桜は興味ありげに城藤を見る。対する彼女は、射抜かれ視線を逸らす。


「……で、城藤は何を要望するんだ?」


 優七はさっさと話を進めたくて城藤へ尋ねる。ここに至り、もし無茶な要望をして来たら「今のは無しで」と言えばいいやと思った。


「……それは」


 途端に、城藤が口ごもる。様子がおかしいと感じながら、優七は再度ため息をつき、


「次会った時に聞くとかでもいい? さすがに疲れたし」


 そう告げながら桜へ視線を送った。


「桜さん、仕事はまだ終わらないの? こっちは守山さんに言い渡されて帰ってもいいと言われたんだけど」

「あ、そうなんだ。私はもう少しかかるかな」

「そっか……俺は一足先に失礼するよ」

「お疲れ様」


 桜がにこやかに言う。優七は一瞬、気の利いた言葉でもと思ったのだが、周りに人がいる以上下手なことを言わない方がいい――そういう結論に達した次の瞬間、

 城藤から明確な視線を感じ取る。首を向けると、優七と桜を交互に見て複雑な顔をする彼女。


 優七は大いに訝しみ、その辺を指摘しようとした。その時、


「……来週」


 彼女が声を発する。


「ん? 来週?」

「ええ。来週、予定ある?」

「予定?」


 城藤からの言葉に、優七は首を傾げる。そして唐突に何を言い出すのかと思いつつ、予定を思い出し語る。


「予定って……来週は、特にないけど」

「そう、なら」


 と、城藤は槍をぎゅっと握りしめ、なおかつ桜を一瞥した後、


「私とデートして」


 はっきりと、そう言い放った。


「……は?」


 間の抜けた声を、優七は上げる。いきなり、彼女は何を言い出すのか――


「……理由とか、訊いてもいい?」


 要求された言葉の意味をイマイチ理解できないまま、質問する。

 刹那、桜は「まずい」という顔をした後、優七へ声を発しようとした。


 けれど、


「あんたのことが好きだからよ」


 そうはっきりと告げられ、優七は二の句が継げられなくなった。


「は……?」


 さらに優七は理解できず声を上げた瞬間、城藤の槍が勢いよく振るわれた。

 それは先ほどのどの戦いよりも遥かに鋭いもの――首筋に刃先が到達しようとして、優七は慌てて回避する。


「な、何を――!?」

「答えはイエスかノーかだけよ! どうなのよ!?」


 何度も槍を振り回し、城藤が叫ぶ。優七は驚きながら後方に下がりつつ――近寄って来た面々の笑い声が聞こえてきた。


「答えなさいよ!」


 その時、城藤の槍がさらに放たれる。優七はそこで冷静に、茜色に染まった世界の中で城藤の顔が紅潮しているのを悟る。


(……本気で、言っているってことか!?)


 冗談でも何でもなく――優七は続いて桜へ視線を送る。彼女は難しい顔をしてほほをかいており、なんとなく察していたのだと理解した。

 その間も槍が舞う。優七はこのままではまずいと思い、慌てて叫んだ。


「わ、わかったから!」


 言葉を放った瞬間、城藤の槍が止まる――刃先が優七の胸元に到達する寸前だった。

 優七は刃を見て無意識に両手を上げながら、城藤へ問う。


「じ、時間とかは?」

「後で連絡する」


 それだけ言い放つと、彼女は大袈裟に構えを崩し、なおかつ大股で歩き出した。なおも笑う人々の中を通り過ぎ、彼女はゲートの奥へと消えた。

 後に残ったのは、周囲の人々の笑い声と、優七自身の沈黙。


「……大変な目に遭ったわね」


 そこへ後方から声。優七が錆きった歯車のごとく振り向くと、麻子が腰に手を当て立っていた。


「まさかこんな堂々告白するとは……」

「えっと、麻子さん。もしかして……」

「私は知ってたわよ。だからこの戦いが始まる前に忠告したわけで」


 頭をかきながら応じる彼女。優七は押し黙るしかない。


「たぶん桜と共に行動しているのを見て、対抗心とか燃やしたんじゃないの?」

「え、あ、と……」

「モテモテで良かったわね優七君。ま、来週頑張りなさい」


 そう言って、麻子は近寄り優七の肩にポンと手を置く。


「彼女は好きなわけだし、無茶なことはしないだろうから」

「……いやいや、ちょっと待って」


 優七は思わず反論した。状況についていけない中、どう考えてもおかしいだろうと思った。


「ほら、城藤は俺のことを結構邪険に扱っていたというか……」

「無理矢理にでも前線に立たせて、活躍させてあげようとかいう魂胆だったんじゃない? ま、彼女にとっての気遣いといったところね」

「き、気遣い……!?」

「きっと、優七君が境遇に色々と不満を抱いていたことを察していたんじゃないかな」


 言われ――優七はピタリと口が止まった。


「ま、これは推測だけどね。知りたかったら本人に訊くこと。以上、解散」


 そして麻子は冗談めかしく告げると、そのまま歩き去った。けれど優七は呆然と佇むことしかできない。

 それから少しして、ゲートのある方角に体を向ける。桜の存在が視界に入り、複雑そうな彼女を見て、優七は思わず口を開いた。


「あ、あのさ……桜さん……」

「……えっと」


 桜はひどく困った顔をしながら、一言だけ。


「勝負で決まったことだから……守らないとね」


 そんな風に告げ、優七は完全に言葉を失った。

 先ほどの深刻な問題もどこかに吹き飛び――新たな問題により、優七はひたすら立ち尽くすこととなった。

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