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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第二話

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43/137

勝負の告知

 なんだか改まった態度であったため、優七としては少なからず警戒を抱いた。


「何? そういえばさっき何か言い掛けていたけど」

「まあ、ね」


 どこか険しい雰囲気を帯びながら、城藤は言う。


「変なこと、訊くんだけど」

「ああ」

「……マナから、聞いたんだけどさ」


 マナ――戦いが始まる前の、麻子との会話だろう。

 彼女の言葉により、優七は何が訊きたいのか察し僅かばかり狼狽える。


「あ、えっと……」

「……やっぱいいわ。反応見て間違いないんだと確信できた」


 すぐさま城藤は引き下がった。そしてくるりと優七に背中を向ける。


「し、城藤?」

「ごめん」


 そして、謝罪の言葉がやって来た。


「変なこと言って、ごめん」


 ――優七にとっては、何が起こっているのか理解できなかった。

 なぜこの場において謝るのか。そして、その言葉は一体何を指して告げたものなのか。


「え、えっと……城藤?」


 優七は驚きつつ、どうにか声を絞り出そうとした。しかし、


「……これじゃあ、意味が無いか」


 一人でブツブツ言った後、急に振り向いた。

 その表情が半眼であったため、優七は驚き顔が固まる。


「優七、勝負よ」

「……は?」


 唐突な展開に優七は思わず聞き返す。


「しょ、勝負?」

「どちらがここのリーダーを倒すかで、勝負しましょう」

「な、何を……? というか作戦中なのにいきなり勝負なんて」

「約束したからといって、戦いにそれほど関わるわけじゃないわよ。いいじゃない」

「それは……」


 否定しようとして、優七は口をつぐむ。どこか闘士を秘めた瞳に、これまでの経験から反論すると言葉の猛攻を仕掛けられると思い、躊躇う。


「じゃあ、決まりね」


 全身に力を入れるように彼女は言う。優七はその迫力に圧され、無言を貫いてしまう。

 その行動により大勢は決した。続いて上から爆音が聞こえ――城藤は、続けた。


「どちらかがリーダーにとどめを刺した場合、相手の言うことを聞くこと。いい?」

「……わかったよ。でも、俺達がそこに行けるとは限らないぞ?」

「わかっているわよ。でも白黒つけるにはそのくらいしか――」


 彼女が告げた直後、これまでより大きい爆音が轟いた。

 建物が振動により僅かに揺れる。一際大きいそれに、優七は微かな不安を覚えた。


「今のは……」

「苦戦しているのかな?」


 城藤が槍を揺らしながら言う。声質としては、警戒の度合いが強い。


「優七君!」


 さらに桜が戻ってくる。振り返ると、麻子と共に走り寄る姿が。


「外で見ていたけど、砦の中央付近で煙が」

「煙……? 爆弾を一斉投下でもしたのか……?」


 どうやらあまり悠長にしていられる状況ではない――優七が考えていると、麻子が口を開いた。


「優七君、確認だけど二人は指示を受けてここにいるんだよね?」

「はい。江口さんから言われて……」

「わかった。二人は援護に行って。私達はこの周囲で警戒に当たる」


 麻子は言いながら自身と桜を指差した。


「奇襲に対応できるよう私達二人でここに待機しようと思うけど……いい?」

「桜さんが前線にいた方が魔法により攻撃の幅が増すと思うけど……」

「他にも魔法使いはいるし……それにこっちは二人だから、何にでも対応できる万能型がいた方がいい」

「わかった……城藤」

「ええ」


 優七の呼び掛けに応じた城藤は歩き出した。


「さっさと片付けましょう」


 ――槍を引っ下げ進む後姿は、結構様になっている。けれど優七としては先ほどの約束も相まって、無謀な突撃でもやらかさないか不安で仕方がない。


「優七君」


 と、麻子の声。首を向けると、心配そうな瞳を投げかける彼女がいた。


「城藤さんのこと、注意してあげて」

「ああ、わかった」

「麻子さん、やっぱり……」


 桜が声を上げる。それに優七は首を傾げ、


「桜さん、何か知っているの?」

「あ、いや、それは――」

「優七!」


 城藤の叱責が飛んだ。優七は首をすくめ、慌てて振り返る。


「今行くよ!」


 答えると話を切り上げ歩き出す。

 直後、後方から麻子と桜の会話が聞こえた。何を話しているのかはわからず――優七としては多少なりとも気になったが、城藤の急かす表情に優七は足を前に出す。


「行くよ」

「……ああ」


 表情が先ほどとは異なり、工場で見せていた好戦的なものに変わっていた。そこから、優七は諌めようと口を開いた。


「城藤、あのさ――」

「大丈夫よ」


 途端に、彼女は言葉を紡いだ。


「勝負こだわって馬鹿な真似はしないから」

「……わかったよ」


 優七としては、そう言う他なかった。






 階段を進み踊り場に到達すると折り返した左右に階段がある。優七は視線を上に転じると、瓦礫が転がっているのが見えた。


「私が先行する」


 宣言した城藤に優七は「わかった」と答えた。

 右手の階段から二階へ上がり、一度周囲を確認する。左右に伸びる廊下と、真正面にはテラス。そして背後横――正面玄関と同じ方角に突き進む階段がある。


「いたわね」


 城藤は警戒を込め呟き、槍を構えた。

 優七も同様に剣を握り締める。階段は直進方向に進み、踊り場を挟んで三階へ到達するようになっている。さらに言えばもう一つ踊り場を挟んで遠目ながら四階まで見ることができた。


 味方側は三階で応戦していた。敵は上の踊り場付近に三人たむろし、迫ろうとする味方側を押し返している。

 目を凝らすと江口の姿も発見できた。周囲の確認を終え、中央階段以外の場所から上の階へ進み、援護に赴いたのだろう。


「行くわよ!」

「ああ」


 端的に叫ぶ城藤と共に優七は走る。スキルを活用し一気に三階まで駆け上がると、相手の一人が大きく振りかぶった。


「爆弾だ!」


 近くで戦っていた、江口が叫んだ。

 同時に相手の手から爆弾が離れる。瞬間、優七は剣に力を込め、大きく振りかぶって対応した。


「はあっ――!」


 叫び声と共に『エアブレイド』を発動。放物線を描いて落下してくる爆弾と、ちょうど中間地点で衝突した。

 生じる発光と爆音。優七はすぐさま退避と叫ぼうとしたが、つんざくような音によって全てがかき消された。


 その状況下で、江口他戦っていた面々は距離をとるために左右に伸びる廊下へ退避し始めた。

 優七も退避――しようとしたが、ある人物を見て足が止まった。


「――城藤!」


 慌てて呼び掛けた優七だったが、彼女には一切聞こえていないようで構わず槍を大きく振りかぶる。

 そして腰をやや落とし――まさか攻撃するのかと、優七は思った。


 閃光が消え、階段を煙が覆う。敵が見えていないため、優七は追撃の爆弾を気に掛けながら、城藤へ叫ぶ。


「おい――!」


 けれどそれもまた遅く、城藤は槍を大きく横一文字に薙いだ。

 次の瞬間、優七は槍の先端に投下された爆弾が触れたのを、しかと目に入れた。


「っ!」


 ほぼ反射的に、優七は城藤へ走った。直後、槍の衝撃によってそれが爆発し、光の中に城藤が飲み込まれる。

 攻撃エフェクトが発生した以上、もう間に合わない――けれど優七の足は止まらず、ナイトサイクロプスと交戦した時と同様、城藤を救うべく突撃する。


 爆風と衝撃波が優七を襲い、さらに手に何かが触れた。それをぐっと掴むと半ば抱えるようにして、跳んだ。

 直後煙の中から脱し、階段横の廊下へと退避に成功する。けれど足が止まらず数歩たたらを踏み、あまつさえ城藤と共に倒れ込んでしまった。


「うわっ――と!」


 床に手をついて、どうにか動きが止まる。続いて見えたのは、画面いっぱいの城藤の顔。


「へ……」


 彼女は呻き、間近に迫った優七と目を合わせた。

 完全に押し倒したかのような状況で、鼻と鼻がくっつきそうなくらいに近くあり――


「――がはっ!」


 放たれた城藤の膝蹴りが腹部に直撃し、優七は顔を離し呻いた。


「ご、ごめん……咄嗟に逃がそうと思って」

「余計なことしなくていいよ」


 そう答えながら、城藤は上体を起こす。顔が真っ赤になっていた。


「こんなことで死なないわよ」

「それはどうかわからないじゃないか……とにかくHPは、大丈夫みたいだな」


 優七は言いながらゆっくりと立ち上がった。自分のHPも合わせて確認。残量としては三割減った程度。

 完全に巻き込まれていたら、三割所ではすまなかったかもしれない――優七は思いながら回復アイテムを二つ取り出し、その内一つを城藤に渡す。


「ありがと」


 城藤は立ち上がりながら応じた後、小瓶に入った液体を一気に飲み干した。


「……よし、これで大丈夫。で、敵は?」


 問われ、優七はすかさず振り向く。爆弾による煙は晴れておらず、加えて江口他味方は反対側の廊下にいるのか、この場にいるのは優七達だけ。

 優七は剣の切っ先を階段へ向けつつ、城藤へ問う。


「城藤、さっき技使ったよね?」

「ええ」

「使用したのは……」


 優七の言葉に、城藤は僅かに胸を張った。


「もちろん『レーヴェハウリング』だけど」


 槍系の中で最上級に位置する範囲攻撃である。レーヴェとはドイツ語で『獅子』の意味なのだが――獅子を象った光が前方に突進し、膨大な衝撃波を撒き散らすという攻撃。


「今の、決まった?」

「攻撃は煙の中に突っ込んでいったから、発動はしているよ」


 優七は敵の動向が気になり始める。まだ煙が収まらぬ中を注視し、飛び出してもいいようにじっと佇む。


「もう一発くらい叩き込んどく?」

「……いや、様子を見よう」

「わかった」


 優七の言葉に城藤は同意し、槍を構えた。二人がじっと見守る中煙は次第に晴れ始め――やがて、階段を挟んで廊下が見えるようになった。

 そこには江口を含めた味方。よく見ると、残り三人だった。


「江口さん達はしてやられたのね」


 城藤は淡泊に呟きつつ、じりじりと前に進み始める。優七は特攻しそうな彼女に注意しつつ、階段に視線を送った。


「……結果、オーライか」


 そして呟く。階段上に三人いたが、全員が両腕に青い腕輪――つまり、武装解除状態になっていた。


「やれやれ、無茶をする」


 江口が優七達へ近づきながら発言した。城藤の動きを一部始終見ていたようだ。


「ともあれ、どうにか階段は突破できたな」


 彼は息をつきながら言うと、優七達を一瞥。


「こちらは武装解除した面々を連れて帰ることにする。君達はどうする?」

「もちろん、進むわよ」


 城藤はすかさず答える。優七は味方が来るまで待つよう進言しようとしたが、


「わかった」


 江口が同意した。優七は驚き、彼に口を開く。


「いいんですか?」

「こちらも先ほどの攻防で結構な人数やられた。けれど相手側も、残り一人か二人だろう。これ以上時間を掛けるのもまずいし、ひとまず交戦していてくれ」

「なら、江口さんが到着する前に片付けてあげる」


 城藤が不敵な笑みを浮かべ応じる。江口は笑い、


「頼もしいな」


 そう答え階段上を握りしめる大剣で示した。


「頼むよ」

「ええ」


 城藤は満足げに答えると、優七へ目配せした後歩き始めた。

 優七は江口へ一度目を合わせる。彼は小さく肩をすくめた後、申し訳ないということか左手を立てて謝るようなポーズをとった。


 それはどういう意味合いなのか――優七は色々な理由が思いつくと共に、大きく頷いて城藤の後を追う。階段に留まりぐったりしている男性達の横を通り抜け、優七と城藤は四階へ進んだ。


「結果として、私達で戦うことになったわね」

「みたいだな。よろしく頼むよ」

「ええ、任せなさい……約束は、守るように」

「わかった」


 足元をすくわれないようにしてくれよ――とは言わなかった。咎めようとすると、先ほどのように「余計なことをするな」という言葉と膝蹴りが来るかもしれない。


(なんか段々と恐れをなしてきたな……)


 自嘲気味に笑いつつ、優七は階段を上がり――辿り着いた先は、複雑な紋様の彫られた黒塗りかつ両開きの扉。


「この奥がボスの部屋ね」


 城藤は告げながら、槍の先端を地面に近づける。結界を張る体勢だ。


「優七、あの扉突き破って」

「突き破る?」

「優七の『セイントエッジ』を使えばいけるでしょ?」


 なるほど――思いつつ、優七は賛同し剣に力を加えた。

 こういうボスの部屋で待っているのは、大抵扉を開いた直後押し寄せる魔法攻撃。ゲーム上の敵ならばそんなことをせず待ち構えているのが常なのだが、プレイヤーであればそうはいかない。扉を開ける所作は確実に隙を生むため、それを見越し魔法を仕掛けるのが通例である。


 ただわかっていても防ぎにくいのがこの戦法。なぜなら、魔法を使って扉を破壊できるケースが少ないから。なぜかというと、こういう場合の扉は魔法に対する耐久力が高いため、破壊することができない。

 けれど優七の持つ『セイントエッジ』を使えば打破できる。技自体は魔力の刃だが、力により扉を突き破ることができる。しかも、扉を距離を空けて。


「行くよ」

「ええ」


 城藤が応じる。その瞳は警戒を十分示しており、先ほどの不安は杞憂だろうと優七は思いつつ――技を発動した。

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