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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第二話

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激戦地突破

「そろそろだな」


 牛谷は無人となったコンビニの駐車場で、腕時計を見ながら呟いた。窓からは茜色の陽が差し込み、室内を赤くしている。

 全ての準備を終え、今は目的地へと向かっている最中。カーナビがあるため道には迷わない上、魔物がいる区間を通るため誰にも見咎められず自由に行動することができた。


 車上で魔物と出会えばかなり危険――なのだが、車の速度でも並走できる使役した狼達が魔物の侵攻を察知し対応できるため、問題なかった。


「今頃、正面玄関が突破されたくらいだろうな」


 牛谷はさらに呟きつつ、ドリンクホルダーに置かれたペットボトルの水を一口飲んだ。

 三時間――実質一時間耐えるよう影名には言ってある。しかし、牛谷の見立てではそれ以上持ちこたえることはおろか、一時間も耐えられるかどうか疑わしいくらいだった。


「勝負はダンジョン化し、籠城した時点で決まっている、か」


 牛谷は呟き、戦略を想像する。

 おそらく砦の中にある高威力の爆弾で応戦しているはずだ。元々影名の連れてきたメンバーに遠距離攻撃が得意な人物はいなかった。その辺がしっかりしていればもう少し耐えられたかもしれないが、できない以上門を突破され、砦の中に踏み込まれれるのはすぐのはず。


 そしてあの砦は籠城できるような構造にはなっていない。倉庫代わりに使うための構造をしているため、もし正面玄関を突破されれば後は好き放題されると牛谷は心の中で断定した。


「とはいえ、影名も構造を見てある程度は理解しているはずだろう」


 呟きつつ、牛谷は再考する。城壁を厚くし、なおかつ魔物をたむろさせている以上善戦はするかもしれない。けれど、所詮それだけだ。抑えることはできても返り討ちにすることはできない――


 それが、牛谷の結論。


 小さく息をつく。取り立てて感情があるはずもないが、自分の所業が褒められたものでないのは自認している。

 けれど、やらねばならなかった。なぜなら――


「さて、行くか」


 呟き、ハンドルを握る。運転を再開しコンビニを出て、走り始めた。

 そして狼が数頭車と並走する。かなりの速度が出ているにも関わらず狼達は飛ぶように疾駆する。


 ゲーム上、瞬間移動や高速移動のスキルを使うと狼達は追いつけないのだが、車は徒歩移動と同じだとシステムは認識しているらしく、狼達は速度についてこれるという挙動を見せる。

 牛谷はハンドルを操作しながら、一瞬だけ対向車線を走る狼に目を移した。銀色の毛並みは茜色の光に反射してキラキラと輝いている。


 狼の名はアークウルフ――ゲーム上に存在する狼系の魔物の中で、頂点に立つ存在。


「こいつを使えば、少しは耐えられたかもしれないな」


 一匹いることで少なからず警戒したに違いない。けれど、こうした狼を使役している事実さえ、牛谷は伝えなかった。必要以上の情報を与えなかった、と言い換えることもできる。


(もし真実を知れば、影名は俺に弓を引くだろうな)


 考え苦笑しながら、牛谷はハンドルを操作する。


(ここからさらに進めば道の駅がある。その辺りで少し休むとしよう)


 牛谷は心の中でそう呟き、空を一瞥した。茜の色合いは頂点に達し、いよいよ黒が支配しようとしていた――



 * * *



 優七達が攻撃を放ったのはほぼ同時。風の刃と光槍と矢が一斉に放たれる。

 相手はそれでも気付かない。どうやら爆発音などで耳が麻痺し、靴音などが聞こえないらしい――


 結果、優七達から見て真正面にいた中肉中背の男性へ攻撃が全て命中する。


「……っ!?」


 彼は一瞬何が起こったのかわからなったか、硬直。そして全て直撃したにも関わらず、相手は耐えきった。

 同時に彼の後方にいた肩幅の広い男性が優七達へ気付き、驚愕の顔を見せた。


「――退避!」


 すかさず指示をする。その場にいた人物達は俺達を確認し行動を開始――そして、複数の人間が正面玄関に爆弾を放り投げた。

 けれど例外もある。その一つが優七達へと――


「優七君!」


 すかさず麻子が指示を送る。優七は即座に『エアブレイド』を発動し、投げられた爆弾に当てた。

 閃光と爆発。優七は目を瞑りながらどうにか爆発範囲から逃れ、


 ふいに、持っていた爆弾を横から奪い取られた。


「えっ――!?」


 驚く中、爆弾が城藤の手に渡る。まさか――咄嗟に制止しようとしたが、くぐもった残響音によりまともに声が響かず、彼女は爆弾を投擲した。

 優七はさらに後退し――轟音が生じた。閃光は煙に阻まれロクに見えなかったが、正面玄関付近で爆発したのは間違いない。


 優七は距離を取り角付近まで戻ってくると、慌てて叫んだ。


「城藤、何しているんだよ!? タイミングを見計らうって言っていたじゃないか!」

「仕方ないじゃない」


 城藤は気にする風もなく返答する。


「あのタイミングで投げろと言っても投げなかったでしょ?」

「それはそうだよ……敵が退くのを見て味方が近づく可能性だってあったじゃないか。今だって、巻き込まれていてもおかしくない」

「大丈夫よ、きっと」


 根拠のない言葉に、優七は言い返そうとした。しかし、


「はいはい、喧嘩をしない」


 麻子が横槍を入れ、二人を制止する。


「優七君、相手は爆弾を投げたみたいだし、近づいてはいないと思うよ。反撃としては悪くなかったんじゃないかな」

「……麻子さん」


 思わぬフォローに優七は麻子を見て呻く。視線を察した彼女は、優七に懇願するように小さく頭を下げた。

 矛を収めて欲しい――そういう雰囲気が見て取れる。優七はむっとしたが、やがて城藤に向き直り、


「……先へ進もう」


 言葉を押し殺し、彼女へ提言した。

 城藤は無言でそれに従い歩き出す。続いて優七、麻子と続き、残響音が止み始めた空間をゆっくりと移動する。


 煙も少しずつ晴れてくる。やがて広間が見え始めると、複数の人物の姿が見え、


「……ん?」


 こちらに気付いた。即座に獲物である長剣をかざし――優七達であることに気付くと、構えを崩した。


「味方か。どうやら奇襲を仕掛けたため、退いたようだな」

「みたいね」


 男性の言葉に麻子が反応。相手は小さく頷くと、


「私達はこのまま先へ進む。後は頼んだ」


 一方的に告げ、彼らは先へ。すると城藤がその光景にあっと声を上げ、


「待って、私達も――」

「ストップ」


 優七はすかさず彼女の前に出て手で制する。


「ひとまず、状況を確認しよう」

「状況……? 何のために?」

「指示を受けないといけないだろ?」


 その解説に城藤は不満顔。けれど優七は無視するように歩き出し、


「とにかく、残っている人に事情を訊こう」


 後方の麻子と城藤に告げ、廊下を抜けた。


 広いエントランスだった。さらに入口と向かい合うよう形で、壁となるよういくつも結界が生じていた。

 目を向けると、武装解除状態の男性二人と、床に緑色に光る石がいくつも転がっていた。それは設置型の結界を作成する魔石であり、これを防壁として猛攻を食い止めていたようだ。


「優七君」


 そこへ、正面玄関で戦っていた桜が駆け寄ってくる。背後には先ほど麻子と共に行動をしていたスーツ姿の男性二人。三人とも無事のようだ。


「奇襲は成功したみたいだね」

「うん。けど、大半は取り逃がすことになったみたいだ。あ、それと俺達が通った道にも人が倒れている」

「わかった。報告しておく」

「私も行くわ」


 桜が答えると、麻子も反応。二人は入口へと駆けて行く。それを見送りつつ、優七はさらに視線を巡らそうとした。しかし、


「優七」


 今度は背後から城藤の声。少しばかり声が硬かったので、また厄介な要望でもされるのかと覚悟しつつ、振り返る。

 そこには、優七を窺うような顔をした城藤がいた。


「一つ、訊いてもいい?」

「……戦いに関わること?」


 確認を取ってみる。次の瞬間彼女は押し黙った。違うらしい。


「城藤、ひとまず話は後にしようよ。要塞を攻略してから改めて――」

「優七君」


 そこまで言って、またも名を呼ぶ声。今度は横から。

 優七は視線を転じる。江口の姿があった。


「無事だったようだな……ひとまず私は周囲の様子を見てから、上に向かう。優七君と城藤君は敵が来ないかここで待機してもらえないか?」

「俺達が?」

「戦いは終盤で、敵も半数以上を捕らえている。けれど敵の計略がさらにないとも限らない。新たな魔物の襲来や脇道からの奇襲で退路を断たれるのが怖い。だからここに他の面々が来るまで守っていて欲しい。それに君達が後詰めにいると知れば、こちらも戦い易くなる」

「わかりました」


 二つ返事で了承。一方の城藤はやはり不満げであったが、指示には従うらしく無言を貫いた。

 そこで、上から爆音が轟いた。優七は半ば反射的に正面入り口から突き進んだところにある――大階段へ視線を移す。音は、その上からだ。


「先行した面々が戦い始めたようだな」


 江口は言いながら優七へ再度顔を向けると、


「では、頼むよ」


 そう言い残し足早に去った。

 残されたのは倒れた面々を運ぶ人と、優七達。その中、桜が戻ってくる。


「報告は済ませてきた……私は外の様子を窺って来ようかと思うけど」

「わかった。俺達は江口さんから指示を受けたし、ひとまず待機するよ」


 声の直後、またも上から爆音。気にはなったが桜と視線を合わせ、


「ここで待ってる」

「うん、頼んだよ」


 そう言って、桜は外へ出て行った。

 後に残るのは上からの轟音や振動。時折砦を揺らすようなその音から、激戦であるのがわかる。


 そうした中、城藤はおもむろに歩き始めた。行く気なのかと優七は思ったのだが、周囲をウロウロとするだけ。さらに時折、優七に目を向けてはまた歩き出す。


(……放っておこう)


 触らぬ神に崇りなし。優七は心の中で断じると先ほど江口から聞かされた情報を思い返す。

 敵は既に半数以上捕らえている。そして敵は正面玄関を突破されてしまい、尻に火が付き始めた状況と言える。


 とはいえ、油断することはできない。味方も少なからず被害が出ている。何らかの策があって、一網打尽にされる可能性だって――


「けど、それをやるにしてももっと被害が少ない時にやるはずだよな……」


 口元に手を当てながら優七は思案する。

 戦い始めた時、何かしら策略を警戒した。けれど敵は爆弾など直接的な攻撃を仕掛けるだけ。しかもそれは犠牲を大いに出す戦い方――籠城する戦略とは思えない。


(深く考え過ぎなのか……? それと、狼を使役している様子もない……)


 と、優七は工場で一目見た弓使いの女性を思い出す。


「そういえば、あの女性は?」


 呟いた時、城藤がふと足を止めた。位置としては優七から見て奥の階段を背にした場所。


「逃げたんじゃないの?」


 城藤からの声。優七は彼女へ向き直り、眉をひそめながら問い返す。


「逃げたって……?」

「ほら、よくあるじゃない。自分以外の仲間を見捨てて、逃げるとか」

「よくあるかどうかはわからないけど……そうすると牛谷という人も?」

「影も形もないならそういうことでしょ」


 肩をすくめながら城藤は応じる。

 確かに、ここにいないということはそういう話になる。けれどわざわざ結集させた戦力をここで無駄に消費するというのもおかしな話。


「それはいくらなんでも変だと思うけど……それに、どこに逃げるっていうんだ?」

「さあ?」


 首を傾げる彼女。優七は反応を見て答えが出ないと悟り、ひとまず思考を中断した。


「……その辺は、砦を制圧したら考えればいいか」

「そうね」


 端的に城藤は答え――またも優七へ窺うような視線。

 やはり、様子が変。優七はさすがに見咎めて声を掛けようとしたが、


「あのさ、優七。一ついい?」


 と、城藤の言葉が早かった。

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