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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第二話

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奇襲へ

 以後、出現する魔物は散発的であることに加え、ナイトサイクロプス程の強敵ではなかった。優七と城藤の攻撃に加え麻子の援護があったことから、全て短時間で倒すことができた。

 よって優七達はどんどん進み――やがて、直進と左へ進む二手に分かれた道が現れた。


「……ふむ」


 麻子は耳を澄ませ、少しばかり思案した後、口を開く。


「左の方から音が聞こえるわね」


 言われて優七は視線を送る。幅の広い廊下に加え、左右の壁には一定間隔に小部屋へと繋がる木製の扉がある。

 加えて一番先はT字路になっており、左右に道が分かれていた。


「よし、このまま左へ――」

「待った」


 ふいに優七が呼び止める。麻子と城藤が首を向け、何事かと目で問う。


「気配がする」


 やや間を置いて、優七は言う。それにいち早く反応したのは麻子。


「並んでいる部屋のどこかに人がいると?」

「たぶん。その場所まではわからないけど……人数も、わからない」

「そう……どうしようかな」

「さっさと突破すればいいじゃない。レベルも低いだろうし」


 不満げに城藤が言う。優七はそれに対し手で制止し、


「例えば並んでいる部屋から一気に出現して、一斉に爆弾を投げられたら対処できないだろ?」

「……それは、そうだけど」

「人数から考えてここにいる人は少ないと思うけど……用心するに越したことはない」

「なら、一部屋ずつ調べていきましょうか」


 麻子が提案。さらに指で部屋を数え始め、


「左右四つずつ、全部で八部屋……あまり時間も掛けられないし、さっさとやろう」

「けど、どうやって――」


 優七が問い掛けようとしたその時、麻子は突如右手をかざした。

 その手先に光が収束し、一本の矢を生み出す。


「あれ? さっきまでは普通の矢を使っていたはずだけど」


 優七は声を発する。それは魔法の矢だ。


「普通の矢でもいいけど、浪費はしたくないから」


 麻子は言いながら弓に矢をつがえた。


 ――麻子は普段、アイテムとして存在している矢を使用している。製造自体それほど難しいものでもなく、慢性的な物不足である現状でも作成にはそれほど困らないし、量産もできる。けれど有限である以上、この場においては消費したくないという思いがあるようだ。

 彼女が使用する魔法の矢は、数に限りがある弓矢の救済措置と言え、弾数に限りが無く、技に区分するものである。とはいえ欠点も多く、威力自体はそれほど高くない上、追加効果など特殊なものにするにもかなりスキルポイントを消費する。


「いざという時のために密かに使っておいてよかったわ」


 麻子は呟きつつ、弓矢を引き、廊下にある部屋の中で、一番手前右側の扉に照準を向ける。


「……麻子さん、まさか」

「そう、そのまさか。木製の扉みたいだし、破壊可能」

「それなら手っ取り早いわね」


 麻子の行動に城藤が同調。彼女は槍を構え――『レイランス』を放つ体勢をとる。


「私が左をやる」

「了解……というわけで優七君。もし敵が躍り出たら『エアブレイド』を使って倒して。ホーリーシルフ持っているから、一気に倒せるでしょ?」

「いいけど……通路奥で戦っている敵にバレないかな?」

「ルームの中だったら連絡機能が使えるから、今だってバレていてもおかしくないよ……ま、来ないというのは連絡する暇もなく戦っているため気付いていないか、こちらに構う余裕がないかどちらかでしょ」


 麻子は言うと、あごで照準を定めている扉を示す。


「部屋の中に誰かがいるなら、援軍要請をしていてもおかしくない……それでも前線の戦力が削れるわけで、こちらとしては成功の部類ね」

「……わかった。援護は任せて」

「お願い」


 麻子は軽快に答えた後――矢を放った。一直線に矢が木製の扉に当たり、あまつさえ貫通する。

 さらに左側の扉を城藤の『レイランス』によって叩く。その技も麻子の矢と同様扉を打ち抜き、破壊する。


「中は……」


 城藤が部屋を注視。合わせて優七もみると、かなり小さく、四畳くらいの倉庫だった。


「物資を置いておく場所みたいね」


 麻子が言う。優七は彼女が破壊した扉を見ると、同じような間取りだった。


「お、回復アイテムが置いてある。後で戦利品としていただこう」


 城藤はどこか呑気に告げながら、槍を構え直した。


「じゃ、さっさと次に」

「こういう時だけは、嬉々としているんだよな……」

「優七、何か言った?」

「何も」


 城藤の言葉に優七は首を左右に振る。

 そして、二列目へ攻撃を仕掛ける――反応は、無し。


「お、ここには食料がある」


 さらに城藤は呟く。緊張感の無い声音であったため咎めようかと優七は思った――その時、

 優七達から見て三列目、右の扉が勢いよく開かれた。


「さすがに、出て来たか……!」


 麻子がすかさず対応し、矢を放つ。相手――革のジャケットを着た男性はそれを横に移動し避けると、右手を掲げ投球をするように振りかぶった。

 十中八九爆弾――優七は認識すると共に『エアブレイド』を放つ。風の刃は投擲する前に男性へ直撃し、大きくのけぞった。


「が――」


 男性は体を大きく傾け、背中から倒れ込む。爆弾はまだ手の中にあり、意識もあるようだ。


「よし――」


 城藤はすかさず男性へ接近。優七が驚きつつ何をするのか目を凝らすと、彼女は爆弾を持つ男性の右手首に槍の柄を押し付けた。


「ぐっ!?」

「はい、動かない」


 城藤が告げ――麻子がとどめの矢を彼の頭部へ放った。それにより相手は気絶。同時に武装解除の腕輪がはめられ、爆弾は動作することなく手の中で握ったままとなる。


「よし、これで武器ゲット」


 と、城藤は槍を離し、手の中にある爆弾を手に取った。


「おい、それ使うつもりか?」

「効果範囲が結構大きいし、使えると思うんだけど?」

「見た所衝撃を受けると爆発するタイプみたいだし、私達だって扱えるようね。いいと思うわよ」


 麻子が同調。念の為か弓を気絶する男性に向けながら、さらに続けた。


「ただそれはあくまで敵の所有物だから、こちらのアイテム欄に格納できないけど」

「なら、ほら」


 と、城藤は優七に爆弾を差し出した。


「え、俺が持っていろって?」

「ええ。剣振るのは片手でもできるでしょ?」

「いや、できるけどさ……」

「じゃあ、はい」


 城藤は押し付けるように爆弾を渡す。優七は若干ビビリつつ左手でその爆弾を握った。

 見た目は小瓶で、中に青い光が滞留していた。


「魔法の効果で炸裂する爆弾みたいね」


 麻子は言いながら、男性が出現した部屋へ向け弓矢を構える。


「念の為あの部屋にも一撃加えておく。城藤さん」

「ええ、わかってる」


 応じつつ、城藤は槍を左の一室へ。


 ――そうして扉への攻撃が行われる。三列目はそれ以上敵襲も無く、最後の四列目も人の姿は無かった。


「通路の見張りとして一人置いておいた、ということかな」

「貴重な戦力なのに、よくやるわ。魔物でも置いておけばいいのに」


 麻子の言に城藤が嘆息混じりに答える。だが麻子はさらに踏み込んだ見解を示した。


「むしろ、この道が人員を割かなければならない程重要な場所、という見方もできる」

「つまり、この先が激戦地と繋がっていて……ということ?」

「まさしく」


 城藤の問いに麻子は答えると、視線を進行方向へやった。


「まだ音は続いている……レベルはこちらが上なのに、相手はずいぶんと戦線を維持している。敵は結構備えがあるとみていいかな。それと、結局廊下から人は来なかった。戦闘が継続しているところを見ると、連絡されていても気付いていないのかな」


 呟きつつ、麻子は優七達を一瞥し、さらに解説を加えた。


「で、基本魔物以外の戦力は城内に集中している……砦に入る前に矢なんかの攻撃があったけど、こっちの基礎能力が上みたいだし、ほとんど相手にならなかった。だから爆弾を使っての肉弾戦に出たのかもね」

「直接攻撃メインの敵、という可能性もあるな」


 そこで優七が付け加えるように言った。


「遠距離攻撃ができる面々が非常に少ない……そもそもプレイヤーキラーは街に入れないから矢なんか補給できないし、直接攻撃メインの人が多いんだよな」

「でも工場の弓を持つ女性とか、砦の上から魔法を使う人がいたけど?」


 城藤が問う。優七は「そうだね」と同意しつつ、


「スナイパーばっかりのプレイヤーキラーの集団もあるにはあったけど……そんな偏った編成よりは、直接殴って倒した相手からすぐにアイテムをはぎ取れる直接攻撃がメインになるんじゃないかな」

「ふむ、その意見は一理ある……話をまとめると、最初の攻撃で遠距離は無理そうだと判断し、爆弾を投げる戦法に切り替えたと」

「たぶんね」


 優七は同意しつつ爆弾を怖々と握りしめた。

 もし爆発すれば強制送還かもしれない。余計な小細工はせず威力だけを追求した結果がこれだとしたら、厄介な事この上ない。


「激戦地が見えたら放り投げようよ」


 城藤が物騒な提案をする。優七は「そうだな」と適当に返答しつつ、麻子へ口を開いた。


「で、これからどうします?」

「もちろん進軍」


 麻子はすかさず応じると、T字路左方向を指で差す。


「覚悟はいい?」

「私はいつでもいいわよ」


 眼光鋭く城藤。対する優七は歎息しつつ「俺も」と小さな声で同意した。


「それじゃあ、行こう」


 麻子は提案し、城藤へ目配せする。彼女は意を介したか先頭に立ち、優七達を手招きしながら歩き出した。顔にはようやく本番、という鼻息すら荒くなりそうな興奮がしかと感じ取れる。


「……城藤、気を付けてよ」

「わかってるわよ」


 優七の言葉に彼女は応じながら、雰囲気にはそぐわない忍び足で移動する。


(大丈夫かな)


 所作を見て優七はそんな風に思いつつ、麻子へ視線をやった。


「……麻子さん?」


 ふいに、口から名前が出た。彼女が困った顔をしていたためだ。


「――説明しちゃったから、全部忘れようと目の前のことに集中したいんだろうね」


 そんな声がしかと聞こえた。優七は何の話かと口を開こうとしたが、


「いるわね」


 前方から発せられた城藤の呟き。優七は訊くのを中断し彼女を見る。

 T字路を左に抜けると、すぐに右へ曲がる角にぶち当たった。城藤は壁から覗き見るように角の先を窺い、


 爆音が轟いた。


「まだ戦いは続いているわね。私の目からは正面玄関に向かって爆弾を放り投げる人の姿が見える。こっちのことは、目もくれないみたい」

「なら私達のことは知らないみたいね……となれば、奇襲できる」


 麻子は言うと弓を構え、戦闘態勢に入った。優七も『エアブレイド』の準備を始め、城藤は『レイランス』を使用するためか槍の先端に光を集め始める。


「で、誰が先攻する?」

「私が行く」


 毅然(きぜん)と城藤が言う。麻子はそれに明確な苦笑をして、


「……城藤さん、言っておくけど」

「私は冷静よ」


 強い口調で言い返す。すると麻子は小さく舌を出した。


「あ、もしかしてさっきの呟き聞こえた?」

「ええ。言っておくけど、私は冷静だから」


 語気を強めた言い方に、優七は首を傾げそうになる。けれど麻子は意を介しているらしく、苦笑をやめない。


「わかったわよ……じゃあ城藤さん、お願いね」

「了解」


 返事をした後、城藤は優七を一瞥し、


「爆弾は、私がタイミングを見計らって指示するから」

「……わかった」


 優七は指示の対応に遅れないよう心で固く決意し、応じた。

 城藤は返答に満足したのか向き直り、槍を構え飛び出すタイミングを窺う。優七は小さく息をつき、一度(いさ)めた方がいいのか迷い、


「優七君」


 背後にいる麻子が、城藤に聞こえない声量でそっと耳打ちした。


「場合によっては城藤さんが危険な目に遭うかもしれない。今ここで彼女の戦力を失うのは惜しいし、援護に回ってあげて」


 優七は麻子の言葉に小さく頷き、一つ深呼吸をする。


(まあ、いつもそうしてきたしな……)


 思わず自嘲的な笑みを浮かべそうになり――城藤の体が揺れ、角の先へ出た。

 優七は我に返り彼女に続く。そこには一様に正面玄関方向を見据え、優七達から見れば横を向いている一団がいた――

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