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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第二話

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砦内の遭遇

 散発的に出現する魔物を逐一倒しつつ、優七達三人は城内へと侵入する。入り込んだのは砦の隅の方。前線に立っていたメンバーの多くは正面突破を仕掛け、現在は魔物と戦っているはずだ。


「ふっ!」


 その中、桜の剣戟が正面にいたデュラハンに放たれ、見事打ち倒す。レベル的にも十分対応できており、この調子ならば苦も無く制圧できるのだが――


「ねえ、優七」


 城藤が構える槍を左右に振らしながら、問い掛ける。


「狼型の魔物が主軸じゃないわね。私はてっきり使役できる魔物が主軸だと思っていたけど」

「この砦を守るには、獣使いの戦力じゃ足らないってことじゃない?」

「でも、確かルームをダンジョン化した場合の魔物って、簡単な命令しか受け付けなかったわよね? どんな命令にも従う狼がいてもおかしくないと思うけど」

「……言われてみれば確かに」


 優七は城藤の言葉に同意し、違和感を抱く。

 魔物の動きは迫る敵の迎撃のみで、簡単な命令しか受けていないのは確定的。相手としては物量で押し切ることができない以上、細かい命令を与えることができる狼を使うことは有用なはず。


「可能性は二つだね」


 そこで、桜が剣を持たない左手で指を二本立てる。


「一つは策を仕掛けていて、その段取りなんかを狼が担っている。もう一つは、獣使いがここにはいない」

「いないって……」

「あくまで可能性だから。でも、いない方が厄介だよ。こちらとしては楽だけど、捕まえることができないし」

「確かに、面倒ね」


 城藤が桜の言葉に応じた――刹那、前方から魔物が出現した。


「お、来たか」


 城藤は槍を構え直し、魔物を見据える。二メートル以上の体躯を持ち、なおかつ黒い鎧を着た一つ目の魔物。名はナイトサイクロプス。


「あいつ、結構強くなかったか?」

「高レベルのダンジョンにいたと思う。HPがかなり高いから、今戦っても厄介ね」


 桜の返答に、優七はホーリーシルフを構える。中には強敵もいるようだ――


「さっさと倒しましょう」


 城藤はあくまで余裕を含みながら告げ、走り出した。


「ちょっと待て――!」


 優七はすかさず呼び止めようとしたが、彼女はスキルを併用し一気に間合いを詰め、槍を一閃した。ナイトサイクロプスは動作が緩慢でその攻撃をまともに受けた。しかし一撃では倒れず、後退。

 城藤は追撃を仕掛けようと再度接近を試みる。優七は内心大丈夫だろうかと思いつつ、周囲に目を向け、


「……っ」


 体の奥底で、何かを感じ取った。


(今のは……?)


 違和感とでも言うべき感覚が頭の先から足へと駆け抜け――同時に城藤がナイトサイクロプスへ突き込んだ。

 刃の先端が僅かに刺さり、魔物は動きが止まる。だがそれでも消滅しない。HPが高く、彼女の攻撃でも簡単に倒せないらしい。


 そこへ、桜が走った。剣を握り城藤を援護すべく優七の前に出る。その間に城藤は一度槍を魔物の体から抜き、距離を置こうとする。

 直後ナイトサイクロプスが反撃に転じる。一足飛びで城藤へ接近すると、右腕を彼女へ差し向けた。


 攻撃に、城藤は僅かに戸惑った。槍で弾くかさらに後退するか――けれど、右横から桜の風をまとった剣が放たれ、拳を押し返す。だがそれは一瞬のこと。ナイトサイクロプスは押し勝ち、二人へ魔の手を伸ばす。

 けれど到達する寸前で二人は回避した。そして魔物は腕を限界まで伸ばし、ほんの少しだけ硬直する。


 それは明確な隙。優七や城藤のレベルにとっては、確実な勝機。


「――ふっ!」


 城藤は即座に体勢を立て直し反撃。横薙ぎがナイトサイクロプスの体を打ったが、まだ倒れない。


「耐久力ばかり高いのも考えものね――!」


 悪態をつくように城藤は連撃の体勢に入る。そこで、優七は再度違和感を覚える。


「っ……!」


 違和感――ここに至り、優七は別の何かを感じ取った。その表現は少し違う。言ってみれば、直感とでも言うべきもの。

 城藤の攻撃が決まろうという直前で、優七は刀身に力を込めた。そうしなくてはならないと体が警告し、視線を城藤や桜が戦う奥へ向ける。


 槍が魔物の体に入る。さらに桜が駄目押しとばかりに風を加えた刺突を決め、ナイトサイクロプスは光に包まれる。

 その時だった――廊下奥にある柱の影から手が伸び、何かがこちらへと投げ込まれる。


「――っ!」


 それが何であるかを理解した瞬間、優七は全力で剣を振った。同時に発動させたのは『エアブレイド』だった。

 剣先から風の刃が放たれ、山なりで向かってくる何かへと真正面から衝突する。


 瞬間、生じたのは目を覆う白い光、粉塵、そして爆発音。優七は目を瞑りつつ、桜達が立っていた場所へと駆け、目が見えないまま両腕を伸ばし、筋力スキルを両腕に使用。

 両腕の先が、二人の体に触れる。優七はすかさず片腕ずつで両者の腰を抱き、そのまま大きく飛び退いた。


「ちょ――!」


 左腕で抱えた城藤から文句が生み出されたが、優七は無視。立っていた場所からさらに飛ぶように下がり、相当な距離を取った。

 やがて光が消える。優七はチラつく目を凝らしながら状況を窺うと、真正面に黒い煙が上がっていた。


「ナイトサイクロプスを餌にして、爆弾か何かを使ったんだな……」


 特に、魔物を倒した瞬間は気が緩みがちとなる。そこを狙い、攻撃したというのが真相であった。


「攻撃力はどの程度かわからないけど……もしかすると一撃でやられる可能性も――」


 さらに続けようとした矢先、左から頭に拳が入った。


「いてっ!」

「離しなさいよ!」


 城藤の声。優七はすぐさま両腕を離し、城藤を見る。


「あのさ、さっきのはどう考えても危なかった――」

「違うわよ! 退いたんだからすぐに解放しなさいよ!」


 と、叫び距離を置く城藤。優七はその言い草はないだろうと思いつつ、口を開こうとして、

 彼女と目が合った。


「ぐ……」


 視線が合い、城藤の言葉が止まる。


「な、何だよ?」


 けんか腰というわけではないが、優七は言う。槍を握り口を堅く結んでいる彼女は、左手を優七が触れていた腰に当て、顔を紅潮させていた。


(顔を真っ赤にするようなことだったか? 今の?)


 優七は胸中で呟きつつ、ひとまず角が立たないように「ごめん」と謝った。


「次からは気を付けるよ」


 どこかあきらめた調子で告げた後、再度彼女を確認。口を閉ざしているのは相変わらずで、何か言いたそうな様子だったのだが――


「そ、そうね」


 と、誤魔化すように言うとクルリと背中を向けた。


「……何よ?」


 そして、今度は桜へ矛先を向ける。呼ばれた彼女はなんだか複雑な表情をしていた。

 優七の目には、何かを察したかのような顔つきに見えたのだが――


「いや、何でもないよ……」


 と、表情は変えぬまま濁した言い方をして、真正面を見た。

 優七は反応を気にしたが――煙が晴れてきたため、そちらに注目する。


 人影はいなかった。さらに構造物は多少ながら破壊され、爆発した場所の横手にある白く太い柱は半ばまで抉れ、破片が床に落ちている。


「で、攻撃してきた奴は?」


 城藤は改めて槍を構え問い掛ける。優七はじっと観察してみたが、いない。索敵アイテムを使用しようと思い至ったが、元々レーダーに映っていないことに気付く。


「……迷彩系のアイテムを使っているようだし、目視じゃないと発見できないな」

「あれって、結構レアリティ高かったよね?」


 桜が問う。優七は彼女を一瞥してから、唸りつつ答えた。


「レーダーを見るとプレイヤーキラーだと一発でわかるし、彼らにとっては必需品だと聞いたことがある。効果時間は……一時間くらいだから、解除するまで待っているのも難しいかな。呼びもあるだろうし」

「そうなんだ……とすると、強行突破? でも……」


 桜は口元に手を当て前を見る。煙が完全に晴れ、爆発によって砕けた破片が嫌に目につく。


「せめて敵の人数くらいは判断したいよね」

「うん、そうだな」

「範囲攻撃でも使っておびき出してみる?」


 城藤は振り返り優七へ尋ねる。


「周辺に攻撃すればいいでしょ?」

「そうだね。それじゃあ城藤――」


 と、そこでまたも違和感。いや、違う。それはどちらかというと悪寒。


(あの事件で堕天使のボスと戦った時のような、本能的な何か……)


 優七はすぐさま視線を巡らす。桜と城藤は何事かと目を見張るのだが――

 すぐに自分達の背後に人影を見つけた。


「そこだ!」


 優七は剣を振り『エアブレイド』を放つ。それが直線状に一本の柱に直撃し、破砕音と共に大きく傷を作った。

 攻撃によるためなのか、直後壊した柱の影から靴音が響く。


「囲まれている!?」


 桜が驚いたその時、優七はナイトサイクロプスを倒した場所で、顔を覗かせている男性を目に留めた。


「この廊下に、潜んでいたみたいだ」


 呟きつつ、戦闘態勢に入る。前方を注視し、相手が顔を出さないかしかと見始める。


「城藤。後方の敵、どうにかできる?」

「ええ、任せなさい」


 優七の言葉に意気揚々と答える彼女。その顔には「隠れてないで出てきなさい」という無言の圧力が込められていた。


「優七君、ここは私が」


 続いて桜が優七の目に立ち発言。どうやら策がある様子。


「わかった。気を付けて」


 優七は引き下がる。もしあぶりだせたら改めて援護をすればいい――


「食らいなさい!」


 城藤が先攻する。槍を両手で握り締め、突き込むように大きく構えると、


「やあっ!」


 掛け声一つ、槍を放った。

 それにより刃の先端から光が生まれ、一筋の矢と化し柱へ向かう。


(あれは……)


 確か『レイランス』という名前の、基本技――なのだが、柱の直撃した途端太いそれを抉り、なんと貫通した。


「熟練度、かなり上げているな?」

「まあね。槍系は飛び道具が少ないから!」


 叫び、さらに『レイランス』を放つ。すると耐え切れなくなったか男性が一人柱の影から飛び出した。

 そして優七達へ振りかぶる。先ほどと同様の爆弾――優七は判断すると剣に力を込め、


「はっ!」


 『エアブレイド』を放った。相手は投球モーションに入っていたが投げるには至らず、直撃。爆弾も床に落とし、


「城藤!」


 叫び優七は目を手で覆った。城藤もすぐさま手で前方を見ないようにして――爆発が起こった。

 耳をふさぐことはできなかったので、轟音が耳を振動させるが、気にしていられない。優七は手で目元を隠しつつ振り向き、桜の状況を窺うことにする。


 そこには、魔法発動寸前の彼女がいた。周囲には多数の光弾が存在している。


「――放て!」


 くぐもった轟音の中桜は叫び、魔法が射出された。十数の光弾が陰に隠れていると思しき柱周辺へ降り注がれ――回避するために男性が一人飛び出した。


「ふっ!」


 すかさず優七は再度『エアブレイド』を放った。相手は攻撃を察知したか、右腕を掲げる。そこには、全身を守るような大盾があり、

 直後『エアブレイド』との衝突音。さらには盾が壊れる破砕音が響き、双方が相殺した。


「――な」


 盾が破壊されるのは予想外だったらしく、男性は呻く。そこへ、桜がとどめの一撃とばかりに剣を振った。

 放たれたのは螺旋状に渦巻く風の刃。それが男性の真正面から直撃し宙に浮き――数メートル吹っ飛んで動かなくなった。


 次の瞬間、彼の体から光の粒子が発生する。砕けながらも残っていた盾が綺麗さっぱり消滅し、両腕の手首に青白い光がまとった。


 それこそ、武装解除された証だった。

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