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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第二話

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首謀者と是正すべき態度

 サーバールームの前で優七達は情報を整理することとなり、全員立ったまま話をする。


「結論は、一つだろうな」


 先んじて、携帯電話により報告を済ませた江口が口を開く。


「罠は反応しなかった。解除したとしても私が気付くため、敵は地上に下りることなく逃げたことになる」


 そこで彼はため息一つ。


「これは予想外だったよ……敵は間違いなく、ルームを所持している」

「なるほどね」


 彼の言葉によって、城藤も理解した様子。


「敵はあのパソコンからハードディスクを抜き出す時間を稼ぎ、それができたからルームで逃げたというわけね」

「そういうことだ。私達は陽動にまんまと引っ掛かったわけだ」


 零し、江口は頭をかきながら続ける。


「とはいえ、わかったことは二つある。一つは敵がハードディスク……つまり、データで記録されている何かを所持し、それを守っていること。そしてルームを所持していること。この二点は非常に大きい。大きいが……」

「せめて相手の顔くらいは見るべきでしたね」


 優七が告げる。江口はまさしくと苦い顔をした。


「私達が把握しているのは、一瞬だけ見えたダウンジャケット姿の女性のみ。彼女はプレイヤーキラーのようだが、ゲーム時代からそうであったなら辿り着くかもしれないが……」

「その女の人と関係あるかどうかわからないじゃない」


 城藤が言う。江口は「そうだ」と答えながら深く頷いた。


「この二ヶ月で世界の状況は変わっているからな。調べてみないとわからないが、手詰まりに陥る可能性もある」


 江口は零しつつも、どこか楽観的に話を続ける。


「だがまあ、ある程度情報は揃っている。ここで重要なのはルーム所持者という点だ。今回襲ってきた面々の中か、仲間にルーム所持者がいるわけだ。そこから調べることが――」


 語っている時、着信音が鳴り響いた。江口の携帯だ。


「おっと……はい、江口です……はい……はい、わかりました」


 と、彼は突如優七達に携帯をかざし、何やらボタンを押す。すると、


『優七君、城藤君、聞こえるか?』


 電話口から守山の声が聞こえた。スピーカーフォンにしたらしい。


「はい、聞こえます」


 優七が応じると相手は『ありがとう』と礼を告げ、


『敵がいなくなってしまったわけだが、戻ってくる可能性がある。申し訳ないが、増員が来るまで待機していてくれ』

「増員、ですか?」


 優七が聞き返す。


「警察の人間とかですか?」

『ああ。三人だがロスト・フロンティアでアカウントを持っていた人だよ。彼らが来るまで待っていてほしい』

「わかりました」

『あ、それと……江口の報告から、一つ結論が出た。それを今から述べさせてもらう』

「はい」


 優七は電話に向かって頷く。そこから、守山の解説が始まった。


『実を言うと、ルーム所持者については政府側も危険度が高いと判断し、誰が持っていたかを多少なりとも調べていた。無論全部というわけではないが、それでも今回主犯に関わったであろう人間の推察はできた』

「推察? 根拠は何よ?」


 城藤は問う。相変わらずのタメ口。


『相手の能力だよ』


 けれど咎めはせず、守山は答えた。


『獣使いに弓使い……これはロスト・フロンティアがゲームであった時組んでいた面子らしい』

「その情報は、誰からなの?」

『プレイヤーなんかを調べていた雑誌編集者からだ。先ほどの職業に加えなおかつルーム所持者……この組み合わせでビンゴだったよ。獣使いの名は牛谷(うしや)俊生(としき)。十中八九、彼が首謀者だ』

「彼が?」


 優七が聞き返すと、


『ああ……彼は、ロスト・フロンティアの製作者の一人だった』


 驚愕の事実が発せられた。


『話によると、例の事件後何やら不穏な動きをしていたらしい。製作していた人がそれを追求したら声を荒らげる場面もあったとのこと。そして二週間ほど前から姿をくらまし、今に至る』

「その人が……今回の騒動を?」


 にわかに信じられず優七は問う。対する守山の答えは明瞭だった。


『彼のプレイヤー名はジュガ。私的に使っていたアカウントらしく、今回の件ではそのキャラによって組んでいた面々と動いているようだ。その中で弓使いは、ゲーム時代からプレイヤーキラーだったのは、判明している』


 語る守山は、次にやや声のトーンを落とす。


『そしてここからは推測だが……彼はシステムの核心部分に触れる機会があった。よって、何らかの方法……江口からの報告を考慮すれば、パソコンを使って現実で動いているロスト・フロンティアのデータを操作していたのではないか……その結果、魔物が出現するようになった。一応、筋は通る』

「断定は、まだですよね?」


 優七が質問。守山は『そうだね』と答え、続ける。


『彼らが本当に魔物出現と関係あるのかどうかはわからない。けれど、調査に入った君達を倒そうとしていた……この事実だけで、他のプレイヤーに害を成す人物なのは明瞭だ。ひとまずはそういう名目で、彼らを捕まえることにする』

「俺達はどうすれば?」

『さっきも言った通り、増援が来るまで待ってくれ。こちらも牛谷との知り合いは調査済みだから、今は事情を訊きに人を動かしているところだ。その中でルームの鍵を所持している人もいるだろうから、準備が整い次第その人を介し、牛谷のルームに乗り込む』

「わかりました」

『では、しばし待機していてくれ』


 そう言葉を残し、守山との通話が切れた。江口はポケットに携帯電話をしまい、改めて優七達へ口を開く。


「というわけだ。私達はひとまずここに残り増援を待つ」

「わかったわ」


 城藤は槍を引っ提げ歩き始めた。


「どこに行く?」

「事務所の中を歩き回るだけよ」


 江口に質問に答え、彼女は近くに置いてある机や椅子に目を向け始める。戦いが終わりつまらなくなったと思っているのが、優七にはわかった。


「ま、ここからは上の判断に任せよう」


 最後に江口の言葉。優七は頷き、剣を握りながらも小さく息をついた。






『……結構、危なそうな話だけど』


 桜が画面上で声を掛ける。対する優七は小さく肩をすくめ、


「敵に関する情報はわかっているから、後は居所を探るだけかな」

『そうね……私も、協力することになると思う』


 彼女は表情を変えないままではあったが、いくぶん硬い声で言った。

 守山の電話からおよそ十五分後、優七の下に桜から通信が来た。状況を聞きたかったらしく、優七は声が響かないよう狭いサーバー室の中で、扉を背にして会話を行っている。


「あ、そういえば桜さん。剣、ありがとう」

『ん? あ、気にしなくてもいいよ。何せ、優七君とは夫婦なわけだし』

「……どうも」


 優七は笑みを滲ませながら答えると、桜は残念そうな顔で応じた。


『……といっても、こういった仕事をやるようになって、あんまり会えなくなっちゃったけど』

「仕方ないよ。部署とかも違うわけだし」

『それはそうなんだけどね……』


 呟きながら、少しばかり不満そうな顔を見せる。


『上長を通じて配置換えを頼もうかな』

「いや……適任だと思ってそっちに配置されたわけだし……」

『そうだけどさ』


 桜は言いながらも表情を戻す。優七が反応しないのを見てやめたのかもしれない。


『ま、今は少しでも早くこの状況をどうにかするのが先決だしね』

「うん、俺もそう思う」


 先ほど見た耕されることのない田んぼを思い出しながら、優七は同意した。そして――


「もし解決したら……その……」

『その?』

「その……」


 一緒に入れるから――そういう風に返そうと思って、後が続かない。


「……やっぱり、いいや」

『え、何? 気になるよ』

「本当に何でもないんだ」


 言葉を濁しつつ、優七は自分の度胸のなさに心の中でため息をつく。

 彼女は好きだと言ってくれた。ならそれに応えないと――気持ちがありつつも気恥かしさが優先されてしまい、言葉を出すのに二の足を踏んでしまう。


(なんとかしないと……この辺りは)


 思いつつ、優七は話を戻した。


「それで……俺達は増援が来たら一度戻ることになると思う」

『そっか。時間もまだあるし、戦うことになるかもしれないけど』

「俺は大丈夫だよ。というか、ここにいる三人はどうってことないと思う」

『そっか。情報ありがとう、優七君』

「うん」


 通信が切れる。優七の目の前にはメニュー画面が表示され――ふいに、頭を抱えた。


「なんとかしないと……本当に……」


 意気地の無さをもう少しなんとか――思いながらメニューを消し、閉ざされたサーバー室の扉を開けようとした。

 その時、先に扉が開き、優七の目に城藤が映る。


「やあ」

「……何?」


 眉をひそめる優七。対する城藤は興味深そうに口を歪める。


「何の話をしていたの?」

「連絡が来たから、喋っていただけだよ」

「そう、相手は小河石さんだったようだけど?」

「よくわかったね……気になって連絡を寄越したんだと思うよ」

「ふーん、そう」


 腕を組み、なぜか憐れむような目で優七を見つめる。


「何だよ?」


 態度に優七は苛立ち、少しばかり語気を強めた。


「言いたいことがあるのか?」

「いえ……単純に」


 と、彼女は肩をすくめる。


不憫(ふびん)だなと思って」

「不憫……?」

「いつも思うんだけど、なんだか浮かれているような気がしてね。なんというか、見ていてイライラするのよ」


 城藤は高圧的な声で優七へ告げる。


「パーティーを組んでいたからって、調子に乗っている……そんな風に見えるわけ」


 ――ここで優七は、事件が起きた以後の話を一切合切喋ろうか迷った。きっと事あるごとにこういう会話がある気がしたので、だったら話した方が精神衛生上良いのではないかと思ったわけだ。


(でも、目の前のこの人が信じるのか……?)


 それがちょっと疑わしかった。説明して「妄想どうも」と返されたら目も当てられない。


(仕方ない……ここはとりあえず適当に応じるか)


「……俺の勝手だろ、そんなの」


 優七はできるだけ話を速やかにまとめようと声を上げた。しかし、


「あんたの将来を思って忠告しているのよ?」


 そんな風に返された。


「期待するのはやめた方がいいという話よ」

「……ああ、わかったよ」


 優七は何度も頷く。しかし、城藤は一切引かない。


「何よ、その適当な返事は」

「いや、だって」

「そういう対応をして誤魔化すのが、一番嫌いなのよ」


 ――これ、どうすればいいのだろうか。


 優七は困った顔をして、助けを求めようと城藤の向こう側にいる江口へ視線を送ったる。そこには、


「……どうしたんですか?」


 腹を抱えている彼がいた。


「ああ、すまない」


 江口はすぐさま謝罪。とはいえ、優七にとってはどういう意味合いの謝罪なのか皆目わからず、眉をひそめるしかない。


「あの……?」

「いや、単純に青春していると思っただけだ」


 以前も聞いたセリフ。二度目だったため、優七は聞き咎めた。


「青春って何ですか?」

「いや、青春は青春だろう」

「そんな風に見えます?」


 尋ねたところで――彼はさらに笑う。


「ああ、私の目にはそう見える」

「ジジくさいわねぇ」


 どこか馬鹿にするような声音で城藤が言った。けれど彼は笑みを消さない。


「いや、二人の会話を聞いていて思い出したことがあってな」

「思い出した?」


 城藤が聞き返すと、江口は笑みの色を変えた――まるで、子供が悪戯をするようなものに。


「いや、以前聞いたことがあったからな。城藤君と、レクナの話を」


 ――直後、なぜか城藤が固まった。


「……レクナ?」


 反面優七は首を傾げる。その名は聞き覚えがあった。ゲーム上における、城藤の知り合い――


「そ、それが、どうかした?」


 城藤がすぐさま声を上げる。腕を組み、あからさまに動揺している様子。


「ああ、すまない。茶化しているわけじゃないんだ」


 そんな彼女に江口は返答し、表情を戻しながら告げた。


「ただ、なんというか……そういうのを思い出すとなんだか懐かしいというか、そういう気分になるため、笑ってしまうだけだ」


 彼の言葉に城藤は口をつぐむ。けれど足は動かし、江口に近づき何やら話を始めた。


(何だ?)


 優七は流れが読めずじっと事の推移を見守るしかない。


「もし言ったら……」

「そんなことはしない……」


 断片的に、そうした会話が優七の耳にも届く。しかし、それ以上はわからない。

 やがて、両者の会話が終わる。城藤はなぜか弾かれるように優七へ近づき、一言。


「忠告しといたからね」


 一方的に告げ、そっぽを向いてしまった。


「……何だ?」


 優七は再三の呟き。けれど、結局答える者は現れなかった。

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