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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第二話

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33/137

獣使い

 曲がり角まで退避した優七達は、それぞれ顔を見合わせ、状況を確認し合う。


「……とりあえず、降りてきた奴は倒した、よね?」

「私が見る限りは」


 優七の問いに城藤が答える。

 先ほど襲撃を仕掛けた狼は倒した。だがレーダー上では魔物は依然残っており、警戒から一度退避したのが現状。


「ふむ……」


 江口は三人の先頭に立ち、壁の端から階段を覗き見る。


「ひとまず来る気配は無いな……で、結論が出たな」


 彼の言葉に、優七は頷く。


「はい……獣使いでしょうね」


 ――獣使いとは、ロスト・フロンティアに存在する魔物の内、動物系統の魔物を使役することができる職業。ただ使役できる魔物はレベルやスキルによって変化するため、狼ばかり操ったり、鳥類全般を操ったりと幅はある。


「見た所、狼ばかりだったわよね」


 城藤が声を上げる。確かに襲撃してきたのは全て狼系の魔物。


「建物の中だからそれほど巨大な魔物はいないと思うけど……どうするの?」

「……どうするかな」


 江口は顎に手をやり考え始める。その間に、優七も考えをまとめようと頭を回転させ始めた。


 敵は間違いなくプレイヤーキラー。魔物を使役する職業のプレイヤーも故意に他のプレイヤーに仕掛ければ自動的にプレイヤーキラー扱いとなるため、少なくとも二人この工場にはプレイヤーキラーがいることになる。

 そして先に奇襲を仕掛けた『スターライトレイン』使用者――ここからレベルも相当なものだと推測する。優七は自分達よりは低いが、それでも上位モンスターとやりあえるぐらいの力を持っているのではと見当をつけた。


「一番の問題は、狭い場所で矢と魔物の波状攻撃を仕掛けられれば、こちらも危ないということだ」


 やがて江口が声を発した。


「相手のレベルの多寡は……城藤君が攻撃を防げたのだから私達よりは低いだろう。しかし、結界なしで攻撃を受け続けるのはリスクが高い」

「で、突っ込むの?」


 城藤が問う。表情からさっさと進むべきだという主張が見て取れる。


「いや、少し考えさせてくれ……優七君、残っている魔物の動向は?」

「動いていませんけど」

「そうか……」


 言いながら、江口は服のポケットから携帯電話を取り出した。


「報告する。見張りを交代してくれ」

「わかりました」


 優七が承諾し、前に出る。そっと壁から顔を出すと、静けさが戻っていた。


「江口です」


 電話が繋がったらしい声。会話が始まり、それを期に城藤が優七の隣へやって来る。


「優七はどう思う?」


 唐突な問い。先ほどの続きなのだろうと優七は認識する。


「出現している魔物が確認できれば動けるけど」

「魔物?」

「スラッシュウルフくらいならどうってことないのはわかると思うけど……」


 そこまで言って、優七はゲーム上に出てくる狼系モンスターを記憶から引き出す。


「そうだな……例えばアークウルフとかダイヤウルフとか出てきたら」

「狼系の最上位種が、ねぇ……」


 優七の意見に城藤はどこか疑わしそうに呟いた。


「相手のレベルは私達よりも下でしょう? そんな上位種を捕まえている可能性は低いんじゃない?」

「けど、ゼロじゃない。もしそういう狼がいて、なおかつ敵が攻撃を仕掛けてきたら……江口さんはそう考えているんだと思うよ」


 答えた直後、江口の電話が終わった。


「とりあえず連絡はした。しかしここに人を寄越すのはすぐにできないから、私達三人で上のプレイヤーキラーをどうにかする必要がある」

「作戦とかありますか?」

「まずは使役している狼の確認だ。君達の会話を聞いていたが……スラッシュウルフくらいのレベルならば問題なく倒せるため、強行突破もできる」

「わかったわ。私が――」


 と、城藤が突然足を踏み出す。優七は咄嗟に彼女の襟首を掴んで、押し留めた。


「ちょっと待った」

「何よ、離してよ」

「策もなしに突っ込むのは自殺行為だよ」

「大丈夫よ」


 何の根拠があって――優七は問おうとして、やめた。このまま話していると、口論になると確信したためだ。


「とにかく、江口さんの言葉に従って」


 優七は気を取り直し告げる。城藤は動きを止め引きさがりつつ、襟首を掴む優七の手を振り払いつつ江口へ言った。


「で、どうするの?」

「なんだか、城藤君が上司である気がしてきたな」


 苦笑を伴い、江口。優七も内心同意しつつ、二人のやり取りを見守る。


「では城藤君、さっきみたいな結界はいつでも使えるな?」

「できるわよ」

「ならば君が先頭だ。その後方に優七君。何かあれば君が援護に入れ」

「わかりました」

「で、私は後方に敵がいないか注意を払う。もし出てきたら君達に警告しよう」

「はい」

「任せなさい」


 単に返事をする優七に対し、城藤は胸を張って応じた。


「じゃあ、優七。ついてきなさい」

「……わかったよ」


 優七は何度目かわからない、あきらめに近い感情を押し殺し頷いた。

 一行は歩み始め階段付近に到達。優七達が発する物音以外はなく、先ほどの襲撃が嘘のよう。


「先へ」


 江口が指示。城藤は槍を構えつつ無言で承諾し、階段を上がる。続いて優七。そして後方を江口が進む。


(一番危ないのは、ここだよな……)


 胸中優七は思う。階段で挟みこまれると、さすがにこちらも危険だが――


 何事もなく踊り場へ到着。優七が上を確認すると、もう一つ踊り場があった。

 さすがに階段での強襲は避けたい――優七が考えた時、城藤が先導してさらに階段を進む。


「問題は、ここからね」


 優七が上の踊り場へ到達した時、彼女から声。見ると、廊下へ続くと思われる扉が上に見えた。

 ここに至り城藤も槍を握り緊張した面持ちを見せる。優七は彼女の横顔と扉を交互に見た後、再度レーダーで魔物の数を確認した。


「位置的には、あの扉の先に魔物がいると思う。けど……」

「けど?」


 聞き返したのは後方の江口。優七は彼の顔を見返し、さらに扉から続く三階への階段を見ながら口を開いた。


「レーダーは平面的なので上にいるかもしれませんし、上とこの階とで分かれているかもしれません」

「ふむ、だが魔物を掃討する必要性があるのは変わりないだろうな」

「そうね。さっさと魔物を倒しましょ」


 城藤が応じると、上がり始める。優七が後に続き、扉の前に辿り着く。

 窓も無い鉄製の扉であるため、奥を窺い知ることはできない。


「どうする?」


 扉を見やりながら城藤。優七はまず耳を澄ましてみる。ここで音でも聞こえれば魔物がいるのは確定だが――


「……さすがに、甘くはないか」

「行くしかなさそうだな」


 続いて江口。彼も同様の見解を抱いたらしい。


「なら、私が先行するわよ」


 城藤は告げると、左手をドアノブに伸ばす。そして空いている右手で槍を逆手に持つと、刃先を地面へ落とす。結界をいつでも張れる体勢だ。


「行くわよ」


 声の直後、城藤は扉を勢いよく開ける――次の瞬間優七達の眼前に狼が見え、それらが同時に突進を仕掛けた。


「はっ!」


 同時に、城藤が槍を床に突き立てる。結界が新たな扉であるかのように生じ、狼達の進路を阻んだ。

 狼は結界に衝突し、弾き返される。その間に優七は狼の数と種類を確認。中にはスラッシュウルフを超える能力を持った魔物もいたが、懸念していたレベルのものはいない。


 なおかつ数は――レーダーに表示されていた数と同じ。


「これで全部だ!」


 優七は二人へわかるように告げながら建物の構造を確認。幅の広い、左右に伸びる廊下だった。


「私がまず狼を分散させる。で、怯んでいる間に全員扉から出て一気に倒す」


 城藤が告げる。優七と江口は黙ったまま頷いて承諾し、結界が解除されるのを待つ。

 狼達は結界のためか優七達を警戒している様子を見せる。そして僅かな沈黙が生じた後、城藤が結界を解除した。


 同時に数頭の狼が優七達へ再度攻撃を仕掛け――


「ふっ!」


 城藤がすかさず槍を地面から上へ薙ぎ払った。結果、刃先から旋風が生まれ、扉外で四方八方に駆け巡る。

 優七は『ウインドスプラッシュ』という範囲攻撃だと理解する。薙いだ場所を中心に扇形に風が拡散し、敵を僅かに吹き飛ばす効果がある技だ。


 狼達は攻撃により倒れはしなかった。しかし優七達が廊下へ侵入を果たす程度の時間怯む。


「今!」


 城藤は叫び、廊下から出た。続いて優七も廊下へ躍り出る。

 加えて、優七は『エアブレイド』を狼へと放つ――それは握っている『ホーリーシルフ』の効果により、威力及び攻撃速度が上昇。狼が回避行動をするよりも早く攻撃が到達した。


 優七の目の前で一頭の狼が消滅する。加えて突進を仕掛けてきた狼をひらりとかわし、一撃を加える。これにより、二体目を撃破。

 そこで視線を周囲に向ける。まっすぐ突き進む廊下には先ほどの女性はおらず、魔物しかいない。そこで差し迫る狼一頭を視界に捉え、『エアブレイド』を放った。


 それにより三頭目。優七はさらに周囲の状況を窺い――城藤が槍を豪快に振り回し周囲にいた狼を一気に倒す。それにより、視界から魔物がいなくなった。


「ずいぶんと、あっさりね」


 城藤は呟きつつ、優七へ目を移す。


「で、魔物は?」

「ああ……いなくなっている」


 マーカー表示が全て消滅。優七は一息つきつつ、


「これで残るはあの女性と、仲間だけとなったけど……ここからどうやって相手を見つけようか」

「モタモタしていると逃げられるだろうな」


 今度は江口が告げる。


「罠を張っているから、もし敵が逃げたらこちらも気付く……が、建物の中で決着をつけたいな」

「もし逃げたのがわかったら?」


 優七が問う。江口はそこでニヤリと笑い、


「お二人の俊敏スキルにものを言わせ追いつこう」

「……無茶な作戦ですね」

「仕方ないんじゃない?」


 城藤がなぜか擁護――獲物に食らいつこうとする野性的な目をしていた。様子から、是非とも逃げて欲しいようだ。


「広い場所の方が火力振るえるし」

「……あんまり周りの物とか壊さないようにしてよ」


 優七は言いつつ、ひとまず江口へ指示を仰ぐ。


「で、ここからですけど」

「魔物はいないようだから、敵の攻撃を警戒しつつ慎重に進むことにしよう」


 ――彼の言葉に従い、優七達は進み始めた。挟撃される恐れもあるため、城藤が先頭に立ち、後方には優七。間に江口が周囲を注視。いつ来ても対応できるように身構え――やがて、廊下の角へ到達。


「……いないわね」


 先を見ながら城藤が言う。


「ここからもずっと通路が続いているわね。このまま進むってことでいい?」

「ちょっと待ってくれ」


 すかさず江口が声を上げた。彼は城藤に代わり先を見据え、


「……どうも、変だな」


 そう呟いた。


「このフロアではないのか……?」

「あの、江口さん?」


 優七が呼び掛ける。対する江口は優七や城藤に視線を送り、口を開く。


「敵はここで何かをしている……とすれば、十中八九クリーンルームの外で作業をしているはずだ。あの部屋は密室であり、追い込まれれば逃げ場も無くなるからな。加え、廊下にいるというのも考えにくい。一階事務所のように座れる場所やデスクがあるような所にいるはず」

「とすると、このフロアのどこかにそういった場所が?」


 優七が問う。しかし、江口は廊下を見回し否定する。


「壁の向こうはクリーンルームで間違いないだろう。そしてこれだけの規模を持つ工場なら、一階の事務所以外に製造現場の管理をするための事務所があってもおかしくない……事務所としてのそれなりの大きさも必要だろう。面積的に足りない」

「上じゃないの?」


 城藤が応じる。江口は彼女へ視線を移し、


「かもしれない……しかしそうなると、敵がなぜここに戦力を集中――」


 言った時、江口が硬直した。ここにきて優七も気付いた。それは、


「それが敵の狙いか――!」


 彼は来た道を走り出す。優七もそれを追い、一人意を介していない城藤が後方から叫ぶ。


「ちょっと、どういうこと!?」

「陽動だよ! 全部!」


 優七が答える。だがそれでもわからないのか城藤はなおも叫ぶが――優七は無視し走った。

 階段まで戻る。優七が先頭となり扉を抜けると、今度は上へ。踊り場を抜け一気に到達した三階にはまたも扉。


「江口さん――」

「城藤君」


 優七が呼び掛けると、江口は後を追う城藤へ声を掛けた。


「ちょっと、その前に説明してよ」


 彼女は不服そうに返答。けれど江口は首を小さく振り、


「後で説明する。今はここに突入する用意を」

「……わかったわよ」


 城藤は渋々ながら答え、優七達の前に出る。そして槍を構え、ドアノブを握り、


「いくわよ」


 一言。優七達が頷くのを見た後、彼女は勢いよく扉を開けた。

 同時に槍を床に突き立て結界を発動。しかし、敵からの攻撃はない。


 扉の先に見えるのはカーペットの床で構築された廊下。さらに正面に扉があり、それにはめられたガラスからは事務用デスクが僅かに見えた。


「ここだ」


 江口は断言する。


「二人とも、同じ方法であちらの扉を開ける」


 すかさず江口は指示。優七達はそれに従い結界が解除された後、もう一枚の扉へ近づく。

 城藤がドアノブを握り、さっきと同じように扉を開ける。結界が張られた後、優七は室内を見渡し、誰もいないことを確認した。


「……ここも、外れですか?」

「いや、当たりだ。城藤君、結界を解除してくれ」


 江口が言うと、城藤は言われるまま槍を床から離し結界を解除。彼はすぐさま室内に入り、部屋中に視線を送る。

 優七も室内に入り込み辺りを見回す――優七から見て事務用デスクが横に何列も並んだ、右の壁一面がガラス窓となっている部屋。明かりは点灯しており、誰かがいたような気配を見せているのだが――


「ねえ、一体どういうこと?」


 城藤が優七の袖を引っ張りながら問い掛ける。


「……わかった、説明するよ」


 優七は彼女を抑えつつ後方の扉を閉め、部屋の中を進む江口の後を追う。


「敵は逃亡するため、わざと自分達がいないフロアに魔物を置いておいたんだ。俺達はそれに対応する必要があったし、戦闘せざるを得なかった。そして、そのフロアに敵がいると思い込み進む羽目となった」

「その間に、逃げたということ? でも地上には罠が張られていたじゃない」

「うん、そうだ。つまり――」


 言おうとした時、優七は正面で一点を見据える江口を視界に捉えた。

 彼は右端にある小部屋のような場所に視線を送っていた。優七も釣られてそちらを見ると、


「あれは?」

「サーバー室だ」


 問いに江口は簡潔に答える。中はいくつものパソコンや、仰々しいラックなどが置かれ――


「やられた……」


 江口が疲れた声を発した。

 そこに至り、優七も理解できた。原因は、正面に置いてある大型のパソコン。


 それはケースが開けられ中のマザーボードなどが露出していた。これはもしや――優七が胸中呟くと、江口から答えがやって来た。


「記録媒体を抜きとって、逃亡したということだろう」


 彼は言いながら、天を仰ぐように顔を上げた。優七はそんな彼と解体されたパソコンを見ながら――厄介な事件だと、心の底から思った。

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