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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第二話

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32/137

工場内で――

 工場内は電気が通っているようで、自動ドアが動作し中にあっさりと入れた。下駄箱近くに土足厳禁の看板が見受けられたが、優七は申し訳ないと思いつつ靴のまま上がる。

 下駄箱を越えると、今度は受付と思しき一角と、横手には一枚の扉。それには窓があり、奥には事務所らしき場所が見えた。


「管理本部系統の事務所だろうな。製造だけでなく本社機能もあったようだ」


 江口はここにも罠を出しながら呟く。その言葉に応じたのは、優七。


「管理本部?」

「ん? ああ、わかりやすく言うと外回りして仕事取ってくる人とか、売上とかお金の計算をする人達がいるところだ」

「はあ、なるほど……で、それがあると何か?」

「つまり……社長なんかも、ここにいただろうということだ」


 江口は語りつつ、真正面に続く廊下を指差す。


「先に進もう」


 彼の言葉と共に移動開始。フロアカーペットの廊下を真っ直ぐ進み、今度は工場へ続くと思しき鉄扉が視界に映る。


「魔物がいるようだから、注意は払う。優七君、動向はどうだ?」

「まだ距離はあります」

「よし、進もう」


 なおも三人は進む。途中、二階へ上がる階段を見つけるが、江口は無視するように工場の扉へ向かう。


「まずは魔物を倒す」

「はい」


 江口の指示に優七は頷いた。


「その方がじっくり調べられるしね」


 城藤が同調する様な声を上げる。その時江口は扉を開き、工場内へ進入を果たした。

 優七は彼に続いて工場に入り、周囲を見回す。扉を抜けた先はL字型の廊下となっており、正面は先へ続くと思しき扉が一枚。右は途中で行き止まりとなっている。


「この壁の奥に、クリーンルームがあるわけだな」

 江口は壁を手で示しながら呟くと、一度優七へ顔を向けた。

「魔物の配置は?」

「……まだ、遠いですね」

「となるとあの扉の奥か。クリーンルーム内に魔物がいるかどうかは、今ある情報ではわからないな」


 江口は語りつつ扉に目をやり、そちらへと歩んでいく。

 そこから優七達は黙り込み、進み続ける。すぐに扉へ到達し、それを開け先へ進もうとした――その時、


 前方に、人影が見えた。


「っ!?」


 視界に変化が生じたことにより、優七達は足を止める。直後、相手から十数もの光の筋が迫ってくる――


「ちっ!」


 それに、舌打ちしながら城藤が応じた。前に出て槍を斜め前に地面へと突き立て、


「来い――盾よ!」


 叫んだ。同時に槍の先端が発光し、半透明な青い結界が垂直に伸び、壁のように出現した。

 直後、光が結界に直撃。優七は間一髪と思いつつ、剣を握り前方を見据える。


 既に人影はない。しかし、優七は先ほどの人物の容姿とどういった格好なのかをしかと記憶していた。


「女の人、だったよな……」

「しかもダウンジャケットを着ていたな」


 江口が続ける。彼もまた相手を捉えた様子。


「いきなり当たりだったことに驚きを禁じ得ないが……さらに相手から何の前触れもなく攻撃してくるとは、予想の上を行く事態だな」

「驚いている風には見えませんけど……」


 淡々と語る江口に、優七は返す。


「内心では驚いている」

「そうですか……で、どうしますか?」

「交渉の余地はなさそうだな。おまけに敵は交戦する気マンマンと来ると……少し困ったな」

「捕まえましょうよ」


 城藤が結界を解除しながら提言。けれど目は前方を見て離さない。


「複数人いるかもしれないけど、一人くらいならどうにかならない?」

「……そうだな。一人くらいならどうにかなるか。城藤君、麻痺させる魔法なんかは使えるか?」

「できるわよ」

「なら君にその役目を頼む。優七君は敵をひきつける役だ」


 江口が話した時、城藤は不満げな顔を示す。後衛に回ることを良しとしない様子だが――


「頼む」

「……わかったわ」


 江口の要求に城藤も首を縦に振った。


「では、再度遭遇したらそのように動く」


 言って江口は優七達を一瞥し、歩き出した。


「江口さん」


 そこへ、優七はメニュー画面を開きレーダーを確認しながら声を上げる。


「敵はレーダーで捕捉できません。なので、十中八九迷彩系の魔法かアイテムを使っています」

「わかった。こちらは動きを追えないというわけだな」

「はい。だから気付くのも遅れた……で、先ほどの攻撃は――」

「その辺りはわかっているよ。あれは『スターライトレイン』だろ?」


 答えに、優七はそれ以上の言及をやめた。この場にいる面々はゲーム上では百戦錬磨。不問だと確信したためだ。


 ――江口が語った『スターライトレイン』は、弓系の上位技の一つである。合計十六本もの光を同時に射出する広範囲攻撃。とはいえ今回は一本道で打たれたため、結界がなければかなりの数直撃することもあり得た。単発の威力は低めだが、クリティカルなどが入ればHPがゼロになる可能性がある。用心するに越したことは無い。


 そして優七は推測できたことが一点。相手は容赦なくこちらへ攻撃してきた――迷彩系のアイテムを使っている以上、逃げる選択もあったはず。しかしそれをしないというのは、逃げることのできない理由があるということ。


(やっぱり、システムの類があって、身動きが取れないのかな)


 結論が導き出された時、優七達は角を曲がった。

 道がまっすぐ伸びる通路と階段に分かれていた。直進方向の廊下の壁には誘導灯のマークがあるため、裏口か何かに繋がっているようだ。


「上、だろうな」


 江口が階段を見ながら呟く。


「裏手から逃げるのに、わざわざ人がいると教えはしないだろう。ただ相手は、レーダーか何かにでこちらに気付いていたようだから、逃げる準備くらいはしているはずだ」


 解説した後、彼は突如腕輪を振った。


「ならば、やっておくべきだな」


 そこまで言って江口は片膝をつき、腕輪をはめる左腕を床に押し当てた。


「いでよ――精霊の檻!」


 告げた瞬間、彼の触れた床面が青く発光――それが周囲の床に伝わった後、光は消えた。


「一度罠を全て解除し……建物を含め、この辺一帯に罠を設置した」


 そう言って、江口はゆっくりと立ち上がる。


「相手は上にいる以上、逃げるためには地上に来る必要があるだろう。これなら例え窓から逃げようが敵の居所を把握できる」

「罠の魔法って、そういう応用があるんですか」


 優七は驚きつつ告げる。すると、


「罠の効力を極限まで弱くして、効果範囲を引き伸ばしているだけさ……これを使うと能力はかなり減るから、戦闘は二人に任せるぞ」


 語った後江口は一度言葉を切り、優七に問い掛ける。


「それで優七君。魔物はどうなっている?」

「あ、はい」


 再度レーダーを確認。先ほどと同様魔物を表す赤いマーカーだけ。


「……あれ、そういえば」

 優七はここに至り気付く。レーダー上少なくとも魔物はいる。けれど、先ほど奇襲を仕掛けた人物が上で戦っている気配がない。

「優七君、現状魔物はどうなっている?」

「微動だにしていませんけど……」


 語ったところで、魔物が一斉に動き始めた。それはゆっくりと集結し始め、

 二階から、唸り声が聞こえ始めた。


「ねえ、もしかして」


 城藤が言う。優七は彼女を見返し、さらに江口も視線を合わせる。

 全員が、同じ見解を有している――優七は理解し、代表して口を開いた。


「相手は、間違いなく――」


 けれど後が続かなかった。二階から、狼らしき雄叫びが聞こえたためだ。

 即座に戦闘態勢に入る優七達。それと同時に、一頭のスラッシュウルフが先陣を切り階段下へと降り立った――



 * * *



 戻ってきた影名は、少しばかり焦った口調で牛谷へ告げる。


「あれ、ヤバイわよ」

「どういう意味だ?」

「たぶん……というか間違いなく、三人とも私達よりレベルが高い」


 その結論に、牛谷は眉をひそめる。


「根拠は?」

「私の最強攻撃が一人の手によって、いとも容易く防がれた」

「最強攻撃って『スターライトレイン』のことか?」

「ええ」

「何を言っている……それよりも攻撃力の高い技もあるだろう」

「熟練度や命中性能を考えれば一番よ」


 弓を携え告げる影名は、嘆息しつつなおも続ける。


「正直、まともにやりあったら勝ち目ないわ。あれは間違いなく、魔王を倒したメンバーと同等くらいの実力を持っている」

「政府も、ずいぶんな面子を選んだな」

「荒事だと思って精鋭送ったんじゃないの?」


 指摘に、牛谷は「なるほど」と答える。


「その通りだろうな」

「悠長に構えたままでいいの?」

「もうすぐ撤退準備は終わる。そのくらいの時間は稼げるさ」

「魔物達を使って? けど、あのレベルだと……」

「心配するな、手は打ってある」

「……そう」


 影名は応じると、なおも弓を握ったまま近くの椅子に腰を下ろした。


「でも牛谷。見つかった以上、どこかで彼らと戦うんじゃないの?」

「かもしれないな。ちなみに集めた仲間のレベルはどうだ?」

「私達と同等か少し下くらいね。下にいる人達には及ばない」

「ふむ、そうか。ならば、問題ないな」

「問題ないってどういうこと?」


 問う影名。牛谷は笑みを浮かべ、彼女に応じる。


「レベルが足りないならば、それを補う手段を使う……策としては想定していた可能性の範疇だ、心配ない」

「なら、その策に期待しておくわ」


 どこまでも余裕の牛谷に、影名は多少呆れた風に言った。


「で、今は目前の状況をなんとかしないといけないわけだけど……どうするの? 突破されれば手はないんじゃない?」

「相手方はこちらをレーダーなどで捉えることができない。だから人数の多寡も分からない上、魔物が押し寄せて警戒しているだろう。ならば時間を稼いで撤収は可能だ。それに――」


 牛谷は、左手の指輪を見ながら話を続ける。


「彼らは一つ、大きな間違いをする」

「……間違い、ねえ」


 影名はなおも何か言いたそうに構えた。しかし、牛谷はそれを押し留める。


「まあ見ていろ。相手は、私の考え通りに動くことを証明してやろう」

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