新たな技と目的地到達
スラッシュウルフを倒して以後、少しばかり強力な敵と遭遇するようになった。
やはりダンジョンとして区分されているためこうした魔物が出てくるのだろうか――優七がそう考えたのは一瞬で、次に浮かんだのは疑問だった。
「出現する魔物の種類が、割とバラバラだな……」
「その辺はシステムを調べないとわからないな」
優七の呟きに、江口が肩をすくめながら答えた。
「出現する魔物が統一されているわけでもない……特定のダンジョンで出現するわけでもないし、調査が必要だな」
彼がそう発した時、信号機のあるT字路にぶつかった。
「さて、ここからだな」
「ここから?」
城藤が聞き返す。江口は彼女に目をやりつつ、
「工場は二つで、ここから左右に分かれている。どちらから先に行くか、ここで決めようじゃないか」
「別にどっちでもいいわよ。結局両方調べるわけでしょ?」
「そう言われると身も蓋もないのだが……」
江口は一刀両断した城藤へ苦笑する。
「わかったよ。それでは勘に任せ左へ曲がる」
左――優七がT字路から観察すると、坂道となっていた。
「坂の上に一つある。先も言った通り、電子関連の工場だ」
江口は喋りながら足をそちらへ向け、先導し始める。
無言で優七と城藤は従う――と、またも魔物が襲来する。今度はデュラハンとナイトスケルトンの複合。ナイトスケルトンなんかはフィールド上では夜専門のモンスターなのだが、ダンジョン扱いの場所であるため昼夜関係なく現れるようだ。
「はあ、面倒ね」
城藤は呟きながら槍を構える。優七も剣を握り直し魔物を見据え、敵がこちらに進軍してくる姿をしかと見据えた。
そして交戦開始。とはいえ全員が魔王と戦える能力を保有するプレイヤーであるため、戦いの主導権は始終優七達であった。
「はっ!」
先行してきたナイトスケルトンに対し、優七は剣を振る。それはいつもの技ではなく、素早い二連撃。ナイトスケルトンはそれによってあっさりと消滅し、他の魔物も江口と城藤が倒す。
そして奥からデュラハンが突撃してくる。優七は敵を見据えつつ、前へと進み、
「ふっ!」
牽制的な意味合いで『エアブレイド』を放った。デュラハンはそれを剣により防御するが、優七はその間に接近し、先ほど同様二連撃を放つ。
それによりデュラハンは消滅し、視界に魔物がいなくなった。
「どうやら、周囲に敵はいなくなったようだ」
江口が辺りを見回しつつ。語る。優七は彼の言葉を耳にしつつ、デュラハンが立っていた地面に何か落ちているのを発見する。
「お、ドロップか」
優七は近寄り、それを手に取る。するとアイテムが一瞬で消えた。ゲーム上では、手に取った瞬間アイテム欄に格納される。
「貴重な回復アイテムじゃない?」
城藤が後方からやって来て言う。彼女の言う通り、先ほどのアイテムはHPを五割回復させ、なおかつステータス以上全般を治療するポーションだった。
――ゲーム上の街などが存在しないため、プレイヤー達はアイテムなどを購入することができない。一応魔物がドロップするアイテムにより合成などはできるため、回復アイテムなどを作り出すことは可能なのだが、貴重であることに変わりはない。
「城藤、アイテム不足の対策って何かあったよね?」
ふと優七は尋ねる。城藤は肩をすくめつつ応じた。
「ルーム所持している人がアイテムを製造するって奴でしょ? けど素材がまるで足りないから、最低限のアイテムを作るくらいしかできていなかったと思うわよ」
「そっか……ま、いざという時有効活用させてもらうよ」
優七はそう口にして先へ進もうとした。そこへ、
「ところで優七」
隣に城藤がやってくる。
「あんたクロスソードなんて技、使っていたっけ?」
「あ、気付いた?」
「ええ。あんたのレベルで今頃そんな技使ってどうするの?」
「前の戦いから、前衛として色々できた方がいいと思ってさ。熟練度をを溜めている途中」
「へえ、そうなの。じゃあいつも使っている三つの技は?」
「スキルポイントはある程度溜まってきたし、そろそろ強化しようかと考えているけど」
――ロスト・フロンティアにおける技と魔法の習得は、大別して二種類のやり方がある。一つはゲームシステムによって決められている技を習得する。こちらはレベルや武器の熟練度によって覚えられるのが特徴。
そしてもう一つが、基本技や基本魔法として指定されている技を使い続けて強化していく方法。こちらは溜まっていくスキルポイントを割り振ることで威力や性能を強化し、発展させていく。
優七と組んでいた桜他、慶一郎や麻子などは全て後者によって技を習得していた。ちなみに技名なども任意につけることができるのだが、優七は面倒であるため初期の技名のままであったりする。
「ふうん、一から技を鍛えるなんて、面倒なことよくやるわよね」
そう語る城藤は、前者の決められた技を習得するタイプ。スキルポイントの制約上両方取るというのは難しいため、基本的にどちらか一方を選ぶことになる。
前者における長所は強力な技が特にデメリットもなく使える点。欠点は技のモーションなどに必ず癖があるため、その裏をかかれてしまうこと。
後者の長所はカスタマイズすることにより、相手にわからないよう攻撃できるようになること。反面、欠点は威力的にどうしても決められた技に劣ってしまう。
なので優七はスキルポイントを主に威力強化に注いでいた。おかげで見た目は初期技とあまり変わっていないのだが、威力だけはシステム技と遜色ない。
「戦法のバリエーションを増やすのに、連撃技を使えるようにした方がいいかなと思ってさ」
優七は城藤に説明すると、彼女は「そう」と答えると興味を失くしたか、横を通り過ぎた。
「優七君がいつも使っていた技に選定理由は、何かあるのかい?」
すると代わりと言わんばかりに江口が問い掛ける。優七は質問に対ししばし考え、
「うーん、特に理由はなかったように思いますが、基本技の中で使いやすかった奴が、あの三つだったということですね」
「そうなのか。私はシステム技を使っているけど、たまにオリジナルの技を持ちたいと考える時があるな」
――そうした会話をこなしつつ、一行は坂を上がっていく。車も来ないので道路の真ん中を歩いているのだが、魔物が無ければ爽快感すら覚えたかもしれない。
けれど道路の横にある無人の家屋を見て、すぐさま思い直す。
(この状況は非日常……早く解決して、元通りにしないと)
優七は心の中でそう呟き――やがて、坂を上り切った。
そこから左奥方向に、三階建てくらいの外見をした建物が見える。敷地としては結構広く、目的地であると優七はすぐに理解した。
「さて、いよいよだ」
江口は語ると、大剣を一度素振りし、
「もしもの可能性がある。ここからは最大限警戒して進むことにしよう」
「わかりました」
優七は承諾。続いて城藤もヒュン、と槍を軽く振りつつ頷いた。
そして移動開始。三人は横に一列になりつつ、工場へ向かう。
「敵がいた場合の対処を再度確認しておく」
道中、江口が口を開いた。
「相手に警告を出し、それに従わない場合は彼らが保有しているシステムなどを物理的に奪取する。敵が仕掛けてきた場合は返り討ち。もし来なければ、そのままシステムを奪って脱出だ」
「敵の捕縛とかはしないの?」
城藤が尋ねる。優七が一瞬首を向けた時、江口は首を左右に振っていた。
「相手が向かってくるのならばその手段もありだが……考えておくことにしよう。無理をしない方向に舵を切るなら、相手の人相や特徴などを記憶しておき、それを掲示板などで尋ね詳細を探る、というのが良いだろう」
「わかりました。それで――」
優七は彼の言葉に応じつつ、気になる点に言及した。
「もし、敵が徹底抗戦をしてきた時、どうしますか?」
「徹底抗戦とは?」
「死をも躊躇わず、戦いを挑んできた場合、とかです」
可能性は低いが、あり得ない話ではない。すると江口は考え込み、
「ふむ、特攻の場合か。そういう時は一度引き上げるしかないな。こちらが彼らを殺す、などというのはできるだけ避けたい」
「どうしてよ?」
城藤の声。倒せないことに不満を感じているという雰囲気ではなく、あくまで純粋な問い掛けのようだ。
「彼らがなぜこんなことをしているか、取り調べをしないといけないからな。生きてもらっていた方がいい」
「なるほど、了解」
彼女は納得したのか言葉を切り、それ以上の質問は行わなかった。
「相手が乗るかどうか、デュエルの呼び掛けくらいはしましょうか」
さらに優七が提案。江口は「そうだな」と答えつつ、
「できるのであれば、そちらを取ることにしよう」
「わかりました」
意見はまとまった。優七は再び工場に視線を送り――
いよいよ、入口へと到達した。正門と思しき場所に立ち、優七はまず周囲の様子を観察する。
正門以外の場所は金網によって境界を隔てている。そして正面には玄関口と思しき自動ドアと、奥には来客用の下駄箱が見えた。
正門からは左右に道が伸びており、右は裏手へと回る道。左は駐車場に繋がっているようだった。
優七は一通り見た後、索敵アイテムで魔物がいないかを確認する。
「……建物の中に、結構いるなぁ」
数としては、十を軽く超えている。
「出現した魔物が残っているんだろうな」
江口がコメント。同時に彼はメニュー画面を呼び出す。
「ちょっと待ってくれないか」
言うと何やら操作し、アイテムを呼び出した。
「魔物を外に出さないようにするには有効だろう」
続けながら手に取ったのは、青色の腕輪。優七は一目見て、それがなんであるかを理解する。
「罠ですか?」
――ロスト・フロンティアには魔物なんかにダメージを与えるため罠が存在し、物理的に設置するものと魔法を使って設置するものの二種類がある。基本的に前者の方が威力が高く、後者はせいぜい一時的に動きを止める程度の役割しかない。
しかし後者は数を気にせず使えることと、罠が発動すると設置した人がわかるという利点がある。ただ罠に魔力を使うという設定があるため、使えば使うほど能力が落ちていく。なので前線に立って戦闘を行うのは、必然的に優七と城藤の二人となる。
江口は腕輪を左腕にはめ、軽く腕を振った。瞬間、正門付近に青い粒子が振りまかれ――消えた。
「一時的に麻痺させる罠だ。プレイヤーキラーが逃げ出してもこれで多少は食い止められる」
優七は「そうですね」と同意しつつ、自動ドアを指差した。
「ひとまず、入りましょうか」
「そうだな」
「ええ」
江口と城藤は相次いで同意。そこから江口を先頭にして中へと入った。




