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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第二話

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29/137

目的地と餞別

 優七がルームから転移した時、江口から声が聞こえた。


「結構大きい家だな」


 そんな言葉が聞こえ。優七が目を向ける。二階建ての一軒家が眼前にあった。


「小河石君は、自宅に戻ったんだっけ?」

「はい」


 江口の言葉に桜は頷く。


「あ、もし良かったらお茶でも飲みます?」

「いや、いいよ。これからすぐ調査に向かうさ」


 江口は誘いを丁重に断った後、優七達へと振り返る。


「さて、二人とも。行こう」


 快活に告げる彼。城藤は彼の言葉に小さく「はい」と応じ、優七も頷いて応じる。

 そうして三人は桜に見送られその場を後にする。優七としては少しばかり尾を引くものもあったが、任務である以上仕方ないと割り切ることにする。


 江口を先頭として、一行は進む。その途中、


「ずいぶんとまあ、ご執心なのね」


 歩きながら、唐突に城藤が優七へ声を発した。


「何よ、ずいぶんと鼻の下伸ばして」

「いや、別にそういうつもりは……」


 自覚があるわけではないのだが、もしかすると周囲にはそう見えたのかもしれない――


「というかさあ、単にパーティー組んで一緒に戦っていただけなんだから、勘違いしない方がいいわよ? アバター結婚しているとか知っているけど、所詮それだってゲーム上の関係なわけだし」


 なんだか高圧的な物言い。途端に優七は黙り込む。


「あんたなんかここで剣振る以外能が無い人間なんだから、身の程をわきまえなさいよ」

「あ、うん」

「何よ、その気の無い返事」


 優七としては、確かにそう思う時期もあった。けれど、そういうのは前の戦いで乗り越えてしまっている。

 ただ桜から告白されたにも関わらず、現在は宙ぶらりんな状況となっているのは気に掛かっている。


(忙しいからだと思うんだけど)


 先ほどの笑顔を見て、優七は心のどこかで思う。


「……わかった、もういいわよ」


 そんな中、城藤はあきらめたように声を上げる。


「勝手に妄想に耽っていればいいじゃない」

「いや……うん、わかった」


 きっと頷かないと終わらないだろうと思い、優七はそう応じた。

 すると、城藤は目を細め――はあ、とこれ見よがしにため息をつく。


「忠告してあげているんだから、感謝しなさいよ」

「どうも」


 優七は答え――ふと、前を進む江口の背中が震えているのに気付いた。


「江口さん?」


 問い掛けると、彼は口元を手で押さえつつ振り返る。


「ああ、すまん」


 どうやら笑っていたらしい。


「いや、青春していると思ってな」


 今の会話のどこに青春があるのだろうか。優七は眉根を寄せるのだが、


「いやはや、すまない。さて、任務だ」


 自己完結してしまったようで、江口はそれ以上言及しなかった。

 なので、よくわからない空気感の中会話が終わる。優七は多少のやりにくさを感じつつ、


「あの、江口さん」


 改めて前を歩く彼に声を掛けた。


「これから調べるのは、どこになるんですか?」

「ん? ああ、伝えていなかったな」


 江口はどこか申し訳なさそうに、優七へ言った。


「これから行くのは二ヶ所。両方とも操業を停止している工場だ」

「工場、ですか」

「ああ、魔物が近くにいるということで、避難を命じられたところだな」

「避難?」


 声を上げたのは城藤。江口はその言葉に頷きつつ、


「二人は、調査結果で出た魔物の出現条件については把握しているのか?」


 問い掛けを行った。優七と城藤は立ち止まり互いに顔を見合わせ、やがて優七が答える。


「システム上なんらかの規則に基づいている……でしたっけ?」

「正解だ。そしてアクティブ化も、その規則に関係しているはず」


 江口は深く頷いて答えた。


 ――魔物が現実世界に出現したというケースは、モニター画面などから現れたという事実で一致している。しかし事後調査の結果、条件を満たしていても魔物が出現しない場所や、一つのモニターから複数の魔物が出現したパターンなどもあった。

 推測としては現実世界がダンジョンや街などの設定がなされ、それによって魔物の出現数が調整されているというもの。しかしどこからが街でダンジョンなのかはシステムを見なければわからないため、明確な線引きはできていない。


 また、魔王の消滅によってアクティブ化は解除された。しかし中には例外もある。特定のダンジョンではNPCであっても襲ってくる場所があり、そのシステムで動いている場所が散見されたのだ。


「今から行く場所は、大量に魔物が出た場所だ。アクティブ化がなくなり、本来は安全なはず……だが、その場所ではアクティブ化が戻らない魔物が多数いた。そのため避難を行い、さらには現在、魔物の数が増加しているのではという憶測が広がっている」

「憶測、というのは?」


 優七が尋ねると、江口は肩をすくめながら答えた。


「策敵アイテムなどを使った結果、周辺にいる魔物の数が増加しているらしく、今後都市部に来ないか警戒しているらしい」

「現状、一定の敷地からは出てこないと?」


 優七は多少の確信を持って尋ねると、江口はすぐさま頷いた。

 これもまた調査による結論だが、フィールド上をウロウロとする魔物であれ、ダンジョン内の魔物であれ、一定の範囲内から外には出ないようなっている。とはいえ境界線が具体的に判明できたケースはほとんどないため、意味のない情報となっているが。


「で、魔物を蹴散らしながら私達は調べると」


 城藤が言う。江口は「そうだ」と答えつつ首を後方にやって二人を一瞥し、


「で、どういう態勢でいく? 一応全員が前衛張れるが」


 問いに、優七は思案を始めた。

 職業は優七が騎士、城藤が魔法戦士。そして江口が剣闘士である。一応城藤は後衛としての役割も持っているので、彼女を後方に立たせ援護させながらというのが、堅実な戦い方である。


「城藤はどうしたい?」


 優七は問う。その言葉は、どこか一縷の望みを託すようなもの。


「そんなの、決まっているじゃない」


 対する城藤は、意気揚々と返事をした。


「三人が前衛で戦える以上、魔物を蹴散らしながら突き進むべきよ」

「……だ、そうですけど」


 優七はどこかあきらめた様子で江口に話を振る。すると、


「予定外のことがなければ、それでいこう」


 彼女の態度を見て説得は無理と悟ったか、彼は同意した。

 優七もわかってはいた。そもそもパーティーメンバーでリーダー的な立ち位置だった城藤は、最前線で戦っていたことが多かった。本人曰く「これこそが私の立つ場所」だそうだ。後衛に回るなど、あり得ないと思っている。


(大丈夫か……? このメンバー)


 途端、不安になる。正直魔法があまり使えない優七と江口の能力から、援護できる彼女に後方を請け負ってもらいたいのだが――


「ああ、そういえば優七君」


 そこへ、江口が思い出したかのように言う。


「小河石さんからの伝言だ」

「伝言?」

「ああ。ログハウスで報告を聞く前に言われた。アイテム欄を確認してくれと」


 言われ、優七はメニュー画面を開き中を確認。そこには、


「あれ……いつのまに」


 二本の剣が入っていた。

 おそらく、密かに桜が入れたのだろう――アイテムのやり取りは相互の承諾がなければできないのだが、アバター結婚している優七と桜の場合、メニュー画面上で相互にアイテムの受け渡しができる。


「餞別、だろうな」


 近寄り、画面をのぞき見た江口が言う。優七は「ですね」と答え、内心桜に感謝した。


「アイテムは両方剣……で、『霊王の剣』と『ホーリーシルフ』だ」

「お、ずいぶんとまあ……」


 感嘆の声を上げる江口。彼の反応は当然で、両方とも剣の中でも上位に位置する物だ。


 特に『霊王の剣』は勇者として名を馳せていたジェイルが使っていた形見の品。現在その攻撃範囲が強力なことから重宝され、所有者を何度か変え魔物を殲滅している。今回偶然桜の手元に戻っており、それを優七に渡した形となるだろう。

 もう一本は元々桜が所持していた風属性の剣で、同系列の武具の中で上位の攻撃力と、ある特殊能力を持っている。


「よし、『ホーリーシルフ』があれば、俺が二人の援護をできる」


 優七は装備ボタンを押し、正面に剣を生み出した。現れたのはいくぶん細身で、黒い刀身に金縁の装飾が施され、王様などが腰に差すような高貴なイメージを抱く剣。

 柄を握ると僅かな重みが生じる。けれど、優七が普段使用している『死天の剣』よりもずっと軽い。これが、この剣の特殊性を表しているとも言える。


「というわけで、俺は今回、前衛後衛両方やるから」

「あっそ……ところで、鞘は?」


 城藤が剣をじっと眺めながら問う。


「腰に差さないの?」


 ――そう問うのは、優七が剣しか出していないことに由来する。


 元々剣に対応する鞘が付属品扱い(それで攻撃をすることも一応できる)であり、出し入れについてはオプション設定ができる。優七他、桜も腰に差すのが面倒だったため、基本剣だけを装備している。

 ただゲーム上は、腰に差している方が見栄えがよくなるのだが――


「かさばる物は身につけたくないし、制服姿に鞘というのも」

「……それもそうね。じゃ、頼んだわね」


 城藤はどこか興味なさそうに応じると、スタスタと歩き始めた。

 話題を振っておいてこの対応。優七は小さくため息をつく。


「……なんだかな」


 そしてちょっとばかり不満を入れ呟くと、江口が笑みを浮かべ小声で言った。


「ま、戦闘となればしっかりしているのだし、我慢してやってくれ」

「はあ……」

「実際、すぐに戦うだろうから」


 江口はやや警戒を込めながら続けた。同時に、優七はそうした態度の原因を理解する。

 進む方角に、多少遠くはあるが鳥のように翼を広げ飛ぶ存在が一つ。けれど形状から明らかに鳥類ではない。それは紛れもなく――


「ワイバーンね」


 前方から城藤。優七は彼女の声に合わせ、じっと魔物に視線を送る。距離はある。けれど戦うことになるかもしれない。


「なんというか、本当にゲームの世界みたいだな」


 改めて、優七は口に出す。


 転校した学校でもロスト・フロンティアの魔物を倒し、なおかつ政府に従い魔物を倒すという日々。全て二ヶ月前までは空想上の話でしかなかったし、人に危害を加える魔物を倒す、などという言葉を現実で使うとは夢にも思わなかった。

 考える間にも、江口と城藤は先へと進む。優七は気持ちを切り替え、剣を強く握り、足を動かし始めた。

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