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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第二話

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任務へ

 魔物とプレイヤー共通の事項なのだが、政府が検証を行った結果、優七達のようなプレイヤーや魔物の攻撃は現実に効果が及ぶようになった。攻撃が当たった場合HPが減少し、それがゼロとなれば、光となって消え――ロストする。


 攻撃を受ければ消え去るのはプレイヤーではない一般人――NPCも例外ではない。ここでいうNPCとは、人間を含めた生物全てが対象となる。ちなみに植物については調査時点で該当していないとの判断なのだが、ゲームと同じ挙動を示す境界線は明確にされていないため、例外があるかもしれない。


 そして、ロスト・フロンティアのシステムは通常の物理法則の上位に位置している。例えばゲーム上でプレイヤーではないNPCが優七に石を投げた場合、衝撃はあれど痛みもなくHPは減らない。つまり優七はプレイヤーではない人から攻撃を受けても、衝撃を受けるが攻撃が一切通用しない。逆の場合は、武具などを使用しなければ物理法則通りの挙動となり、相手は痛みを発することとなる。


 そしてプレイヤー同士の場合――現実世界の武器が通用しなくなっており、ゲーム上の武器を用いるしかない。


「ゲームの物理法則が優先されてしまうから、例えば俺が鉄パイプで相手を殴ったとしても、相手は衝撃を受けるだけでダメージはゼロとなる。プレイヤーキラー扱いになることはないと思うけど、通用しない以上この方法は無理だ」

「ふうん……そうすると――」


 優七の解説に、城藤は確認の意味を込めて問い掛ける。


「プレイヤー同士がゲームの効果を排して攻撃するのは、不可能ってこと?」

「そういうこと。で、NPCからの攻撃はイベントも発生していない以上ゼロとなる」

「つまり、私達はプレイヤー以外の攻撃を受けないと」

「そうなる」

「……拳銃とかの扱いはどうなるの?」

「そこは俺も気になっているけど、試すわけにもいかないだろうし」


 優七が答えた時、ログハウスの入口が開き、江口が現れた。


「待たせたな……ん、眉間にしわを寄せてどうした?」

「いえ、もしプレイヤーが相手だとしたらどう対処するか悩んでいたんですが」

「そこは別に深く考えなくて良いぞ?」


 江口が言う。優七は彼の口上に首を傾げた。


「気にしなくていい、とは?」

「もし怪しい人物達がいたら、尾行もしくは監視に入る。で、敵の本拠がわかり彼らがシステムをいじくっていると判断できた場合、まずは交渉を行う」

「交渉……? 相手は目的があるわけですし、通用するかどうか――」

「で、交渉が決裂した場合はシステムの強奪にかかる」

「……はい?」


 優七は聞き返した。城藤や桜も驚き江口に注目する。


「こちらの目的は、あくまでシステムを操作する何かだ。もし相手がそれを阻もうとしても、相手だって攻撃できない。システムを守ろうとすれば、当然こちらを排除する必要があるため、相手はプレイヤーキラーにならざるを得ない。その手段を取ったのなら、精鋭である優七君の力を借りるまで」

「ああ……なるほど」


 物理攻撃が効かないというのは相手も同じ。ならばそれを逆手にとればいい――そういう話だ。


「相手がどれだけ厳重にしようとも、俺達はプレイヤーの攻撃がなければ止まらないでしょうしね」

「そういうことだ。もし敵が多く、色々と面倒な事態となれば、連絡をとって増援を呼べばいい。方法はいくらでもある」

「わかりました」


 優七もここに至り納得。視線を転じると他の二人も同様の態度だった。


「では、任務に関する情報を伝えるぞ」


 江口はさらに続ける。優七達は次の言葉をじっと待つ構え。


「内容は調査……だが、もしかすると他のプレイヤーと交戦するかもしれない……そこだけは覚悟しておいてくれ。そして、場所についてだが」


 と、彼はログハウスの端へ歩む。そこには鞄が一つ置いてあった。

 それを手に取り、彼は戻る。机の上に置き、中から紙を取り出した。


「ここに書いてある……のだが」


 彼は資料を取り出し優七達へ見せる。


「かなり、バラバラだ」

「バラバラ?」


 優七が聞き返すと、江口は資料に目をやりながら答えた。


「怪しい場所……特に魔物の目撃件数が多くなっている場所をリストアップし、そこから調査を行うことになるのだが……日本全国に散らばっている」

「そこを全部調べるんですか?」

「いや、転移ゲートが作れる場所の都合上、行けない場所もある……そこは、協力者が必要だな」


 ――転移ゲートで行ける場所は、ゲーム上ではスタート地点と、各プレイヤーが転移した場所のみ。ただ検証の結果、スタート地点でのゲートは開かないようになっており、実際はプレイヤーが入った場所だけが該当する。

 またいくつかルールがあり、ルーム内で転移場所を記憶するようメニュー画面で設定しておけば、いつでもその場所に戻れるよう設定することができる。


 優七は現在自宅を転移場所として指定しており、メニューでもそれを記憶させている。この状態で他人の転移ゲートを利用し外に出て、ルームに入った場合も優七自身が転移ゲートを作れば、自宅に帰ることができる。


「場合によっては、近くにいるメンバーに協力を仰ぐ必要があるが、ひとまず手近な候補地から当たることにしよう」


 江口は語ると資料を優七達に見せ、そこに記載されている中の一点を指差した。

 優七が注目する。その場所は――


「……この、場所って」

「小河石君が近かったはずだな?」

「はい」


 江口の質問に桜は頷いた。

 その場所は優七が以前両親と暮らしていた場所に、近い所。江口は場所を明示しつつ、桜へ口を開いた。


「では早速だが、小河石君のゲートから行くことにしよう。場所は?」

「自宅の庭先です」

「そうか。申し訳ないが」

「いえ、大丈夫です」

「では、頼むよ」


 話はまとまり、一同ログハウスを出る。すぐさま桜が転移ゲートを生み出し、先導してルームから出ていく。


「二人とも、頼んだぞ」


 次に改めて告げる江口が言い、ゲートをくぐる。そして、


「ま、頑張りなさいよ」

「……そっちもね」


 強い口調の城藤に続き、優七はゲートへと入りこんだ――



 * * *



「どうだ?」


 モニターを睨むパーカー姿の男に対し、スーツ姿の男は訊く。


「やはり、これ以上のことはできないようです」


 返ってきたのは、スーツ姿の男にとっては好ましくない言葉。


牛谷(うしや)さん、方法を変えてみますか?」


 そして男から彼――牛谷へ問い掛けの言葉。


「色々とやり方を変えてはみましたが、まだ手段があるかもしれませんし」

「……そうだな。続けてくれ」


 声に男は「はい」と威勢よく答えた。


 そこで牛谷は部屋を見回す。場所はとある建物の一室。扉と相対する壁一面にラックが置かれ、大量のパソコンが部屋の半分を占める狭い部屋。冬場だというのにエアコンを付ける必要があるほど、熱気が生じている。

 唯一ある窓にはブラインドが降ろされ外を窺い知ることはできない。しかし太陽の光がブラインドの隙間から見えているので、時計を見ないながら昼くらいだろうと牛谷は推測する。


「しかし、牛谷さん。まさかこういう方法があるとは思いませんでしたよ」


 男が雑談のつもりが話し始める。牛谷が「ああ」と相槌を打つと、気を良くしたのか男はさらに続ける。


「原理までは解明できませんが……このモニターに表示されているのは間違いなく稼働しているロスト・フロンティアのシステム……そういえば牛谷さん。どういった仕組みでこれが表示されているのかとかも調べますか?」

「その辺りはいい」


 牛谷は首を左右に振り、男へ応じた。


「爆弾の仕組みは知らなくとも、武器として使うことはできる」

「なるほど。違いありませんね」


 どこか嬉しそうに語る男。牛谷はそんな相手に小さく息をついた。


(彼は、この作業によってどういう現象が起きているのか理解していない)


 ――それを意図的に伏せているのは自分自身だ。


 プログラムの中身を見ることが出来ている彼だが、その全貌まで把握していない。しかし牛谷はモニターに映るプログラムの内容を、はっきりと理解している。

 なぜか――当たり前だった。これは自分が指示して作らせたプログラム。見たことのあるコードも並んでいる。


 それを目の前にいる男性に資料と共に渡し調査させている。もし彼が事実を知れば――牛谷はそこで、考えるのをやめた。


「変化は確認されている。以後も、検証を頼む」

「はい、わかりました」


 男は元気よく答え、牛谷は部屋の外へと出た。

 閉塞感のある一室の先には、広いOAフロアと使われていない事務用デスクが並ぶ、事務所のような部屋。


「成果、出た?」


 女性の声。見るとブラウンのダウンジャケットを羽織る女性。

 彼女は一席に座り足を組みつつ、牛谷は肩をすくめていた。


「今のところ、まだ」

「そう。となると制御できたのは極一部というわけね」

「だが影名(かげな)、全てを調べたわけではない以上、可能性はある」


 牛谷の言葉に女性――影名は薄い笑みを浮かべた。


「本当に?」

「本当だ」

「確証がないことを語っているのは、あなたが一番理解しているでしょ? あのデータからサルベージできたシステムが何なのか、あなたは話していたじゃない」


 牛谷は無言。対する影名は小さく笑う。


「ま……いいわ。今回は検証できただけでも良かったじゃない。で、私としては一度戻しておくべきだと思うのだけれど」

「戻す?」

「このまま魔物を野放しにしておくのは危険でしょ?」


 言われ――ふと、牛谷はとある考えを抱く。


「どうしたの?」

「……いや」


 言葉を濁しつつ、思案を始める。


(最初見た時は、設定自体が何らかの処置によって停止していた。それを現在、起動させたとなると――)


 直感した時、牛谷は先ほどの部屋の扉へ駆け寄り、開けて中にいる人物に呼び掛けた。


稲瀬(いなせ)、プログラムの修正は効くか?」

「修正ですか? いえ、値を変えることができるだけなので、書き換えることはできません」

「そうか……」

「何かわかったの?」


 影名の言葉に、牛谷は振り返り、


「ああ、取り返しのつかないことをしたのは確定だ」

「そんなことを語る表情じゃないわよ、あなた」


 足を組み直しながら彼女。牛谷は即座に苦笑する。


「そうかもしれんな……で、影名。唐突だが、人を集めることはできるか?」

「人?」

「ああ。協力者が今以上に必要となるはずだ」

「それって、あんたの酔狂な計画に乗っかる人間が必要ってこと?」

「そうだ」


 頷く牛谷。影名は聞いて口元に手を当てつつ、


「ふむ、まあ頭のネジが飛んでいる奴もいるし、多少ならなんとか……けれど、使い物になるかどうかはわからないわよ?」

「構わんさ」

「捨て駒にする気満々ね」

「今更何を言っている?」


 問う牛谷に、影名は途端に吹き出した。


「それもそうか……わかったわ。けどすぐ、ここに来れるかどうかわからないわよ」

「かなりの箇所で同じような処置を施している以上、ここに来る可能性は低い。それに、もし来たとしても手はある」

「プレイヤー名ジュガの、本領発揮というわけね」

「ああ」


 答えながら、牛谷は左腕の袖をまくった。

 本来ならば腕時計などをはめる場所――そこには、金細工が施されたワインレッドのブレスレットがはめられていた。

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