表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第二話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/137

目標と調査

 彼女の名前は城藤(しろふじ)雪菜(ゆきな)。 ロスト・フロンティアに関わる事件で生き残ったプレイヤーの一人であり、優七と同じ勇者ジェイルの露払いを行っていた人物である。彼女はジェイルが仲間を募った時点で遠方にいたため、戦いに参加せず助かった。


 そして現在、彼女は優七と共に戦っている。最初両親は反対したらしいが――というより、大抵の親は戦わせたくないと思っていたはずだが、魔物というまったなしの存在から、なし崩し的に戦うケースが多い――最終的には武器を握ることとなった。

 そして彼女が組んでいたパーティーは先の戦いで亡くなっている。だから優七も色々と複雑な思いを抱いているのだが、


「相変わらず能天気な顔つきね」


 どこか高圧的に語る彼女に、優七は辟易してしまう。


 何度か優七と城藤はゲーム上で行動したことがあるのだが、その時からそりがまったく合わなかった。死天の剣を持つ優七にもっと強力な剣を使えなどと延々言っていたし、騎士であることから活躍させるとか言い出し、無理矢理前線に立たせ盾役にさせられたこともある。

 彼女がそうした態度を取るようになったのは、ひとえに所属していたパーティーが原因であった。わかりやすく言えば、チヤホヤしてくれる人間ばかりを集めていた――故意かどうか、優七は知らない――ため、女王様気質が表に出てしまっているのだ。


 そしてその状態は、今でも変わっていない。


(そこが直れば、もう少し接しやすくなるんだけど)


 優七としてはどうにか是正してもらえればと考えているのだが、任務をやっていても同じような態度を取るのが現在の彼女。改善の余地はないだろうなと、心のどこかで思っている。


(ま……仕方ないか)


 どこからあきらめに近い心情を抱きつつ、優七はログハウスへ入った。


「全員集まったな」


 直後、守山から声がした。リビング中央にある四角い木製テーブルと椅子。そこに優七と城藤以外は座っていた。

 優七と城藤も速やかに座る。位置としては、正面に城藤、左隣に桜。そして桜の正面に江口が座っている。守山は会議の議事進行をするため、本来四人掛けのテーブルに別所から椅子を持ってきて、桜と江口の横に面する位置に着席していた。


「さて、今回は指導課の説明で聞きそびれた小河石さんにも参加してもらっている」

「よろしくお願いします」


 桜は江口と城藤へ小さく頭を下げた。丁寧な態度に江口は笑い、城藤はなぜか表情を険しくする。


(……彼女からすると、面白くないんだろうな)


 元々桜がオウカとしてプレイヤーをやっていた時、彼女とも仲が良くなかった。城藤はそれなりに有名であった桜を妬む人間の一人だったためだ。

 なおかつこうした事件後プレイヤーとしてではなくリアルで関わるようになり――素性を聞いて城藤が面白くない顔をしていたのを、優七はしっかり憶えている。


(プレイヤーとしての実力もあり、事件解決の一翼を担い、なおかつ頭の良い高校に通っていると隙がないからな……)


 城藤にしてみれば、目の上のたんこぶ――内心では自分こそが主役にふさわしいなどと考えているのかもしれない。


「では、早速調査結果から説明させてもらう」


 そんな様子の中、守山は話し始めた。


「二週間ほど前から、調査課にいる複数のメンバーで魔物の調査にあたっていたのは、ここにいる面々も知っているはず。内容は、最近魔物の出現頻度が増えているという連絡を受けたこと……彼らは多角的な面から調べたのだが」


 守山は一度言葉を切ると、難しい顔をした。


「結論から言うと、統計的に有意な水準に達しているとの結果が出た。つまり、現在魔物は新規に出現していると考えられる」

「……有意、というのは?」


 城藤が尋ねる。その言葉を聞いて、守山は彼女に視線を送った。


「わかりやすく言うと、偶然ではなく何かしら理由があって、魔物の数が増加しているということだ」

「理由、ねえ」


 城藤は毛先を指でいじりながら相槌を打った。


「その理由というのは、わからないの?」

「わからないな……ロスト・フロンティアのシステム自体どうなっているのか不明である以上、明確にするのは困難だ」


 守山は小さく肩をすくめながら、なおも語る。


「ここにいるメンバーは、LF管理対策本部の活動目標が何であるのかは理解しているはず。で、この件はもしかすると……第一目標であるシステム解明の大きなきっかけとなるかもしれない」


 ――現在、政府はロスト・フロンティアに対しての活動目標がある。その一つにして最終目標が『システムの解明』である。


 製作者である真下蒼月の話によれば、ロスト・フロンティアは彼の手によって現実世界と一つとなった。実際、今もゲームが現実世界上で動き続けている。果ては優七と桜が侵入したデータセンターのように、電気が通っていないにも関わらず全て動き続けていた、という事例もある。

 こうした本来、現実で起こり得ない状況を解明するのが第一の目的であり、それを解析することでロスト・フロンティアそのものを現実と切り離すことが、政府の最終目標となっている。


「だから、今回の調査はかなり重要視されている」


 そう言って守山は、さらに続ける。


「システムに携わっていた人の話によると、事件直後魔物の新規発生は見られなかったので、魔物の出現はオフなのだと解釈していた。しかし、それが何らかの理由でオンになった。イベントなどの発生予定もなかったそうだから、何かしら人為的な要因があるのではと、その人は語っていた」

「人為的、ですか……どうやって?」


 優七が尋ねると、守山は首を左右に振った。


「不明だ。それに人為的であるという見解もあくまで推測でしかない……けれど、もしそうなら誰かが故意に魔物を出現させていることになる。それは止めなければならないし、人為的に操作できるということは、何らかの方法でロスト・フロンティアのシステムを変更できるということだ。この事実は非常に大きい」


 優七も理解した。ロスト・フロンティアのシステムに干渉できるのであれば、この変容してしまった世界を元に戻せるかもしれない。


「そういうわけで、詳しく調査することになった」


 全員の顔を一瞥した後、守山はそう続けた。


「本来なら調査メンバーの方が事情も詳しいし、活動させたいのだが……魔物の発生をオンにさせるようなプレイヤーと衝突するかもしれない。だから君達に、というのが上層部の意見だ」

「荒事が、私達の領分ですからね。仕方ないでしょう」


 そこで沈黙を守っていた江口が声を上げる。顔つきは、どこか硬い。


「で、場合によってはプレイヤーキラーと戦うわけですが」

「システムに干渉しているとはいえ、プレイヤーキラーなのかはわからないぞ」

「ああ、確かにそうですね。ではそうした相手に遭遇した場合、どう対処を?」

「その辺りは、実を言うと結論が出ていない。というより方針を決める人間は、私を含めロスト・フロンティアについて詳しくないからな」

「私達で決めていいと?」

「ああ」


 江口の問いに守山は頷くと、全員を見回し告げた。


「調査資料については、江口に渡してある。そして任務については、今から始めるということで頼む。敵対勢力と遭遇した場合のケースは……申し訳ないが、君達で協議してくれ。あと、小河石君には別途任務が伝わると思うから、よろしく頼む」


 守山はそこまで語ると、締めに入った。


「これで報告については終了する。わからない点があれば、私に連絡をしてくれ」


 言うと彼は立ち上がり、小さく頭を下げた。


「では、私は失礼させてもらう。後の協議は、君達に任せる」


 言葉と共に、彼はログハウスを出て行く。続いて江口が立ち上がり、彼に追随した。守山はプレイヤーでないため、ゲートについては江口が作成しているためだ。

 そして残されたのは優七を含め三人。僅かな時間沈黙していたのだが、やがて城藤が声を発した。


「敵がプレイヤーだとすると、厄介よね」

「……だね」


 優七は同調。城藤は返答を聞いて、面白くなさそうに天井を見上げた。


「先手必勝なんかやったら、こっちがプレイヤーキラーになるし」

「そこが問題だよ。怪しい人を見つけたら、どうしようかという話になる」


 彼女の言葉に、優七は嘆息した。

 現実世界であっても、ロスト・フロンティアのルールは存在している。優七はそこで、プレイヤーキラーに関するルールを記憶から引き出しにかかった。


 ゲーム上で故意に人を殺す等の犯罪行為を行なった場合、プレイヤーキラーとしてシステム的に処理される。ロスト・フロンティア内にはプレイヤーキラー系の組織も存在していたが、優七の記憶でどういった人が加入していたかなどは思い出せない。


 プレイヤーキラーとなった場合、メニュー画面に『PK』と書かれたアイコンが追加される。表示としてはそれだけだが、街に入ろうとすると天使が現れる他、一般のプレイヤーの指輪がオレンジ色に発光し警告がなされるなどの処置がなされる。

 だがここで優七は疑問に思う。もし現状プレイヤーキラーとなった場合、どういったことが起きるのか――


「プレイヤーキラーになった場合、現実世界ではどうなるんだろうね」


 ふいに桜が呟いた。優七と同じことを考えていた様子。


「試すような怖いことはできないけど……ま、ならないよう気を付けるのが一番だね」

「そうだね」


 優七は同意。城藤も桜に対しやや敵意の目を向けはしたが、小さく頷いた。


「で、どうする? デュエルでも申し込んで決着つける?」


 城藤が提案する――のだが、優七はそれを否定した。


「そもそも、相手がデュエルを受諾するはずがないし」


 ――プレイヤーキラーにならずプレイヤーと交戦する方法の一つとして、デュエルシステムがある。名前の通り決闘を申し込み、相手が受諾すると戦いが始まる。ルールはカスタマイズが可能で、多人数での戦闘などの方法もある。

 ただ、これは相手側が応じなければ意味が無い。


「けど、だとすると……うーん」


 優七は首をひねり始める。プレイヤーキラーとならず相手を捕まえる――考えると厄介な話だ。


「あ、そうだ。これならどう?」


 そんな中、城藤がさらに提案を行う。


「ロスト・フロンティアの機能を使うから問題であって、単純な物理攻撃とか」

「……つまり、ゲーム機能を使わず相手を直接殴ったりするということ?」

「そう」

「俺達にそんな技量があるのかは置いておいて……それも無理だ」

「どうして?」

「指輪を身に着けたプレイヤーの攻撃は、全てゲーム内における攻撃だと認識する」


 ――優七が次に語ったのは、以前守山から聞いた、とある調査報告だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ