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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第二話

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彼が渇望するもの

今回は、第二話のプロローグという感じになります。

「見つかったか?」


 一室に、男性の声が響く。声を聞いた相手は、首を左右に振った。


「いえ、ここにもなさそうね」


 返したのは屈んでいる、茶髪かつショートカットの女性。どこかけだるそうな声であったためか、男性は小さく息をつく。


「不満声を上げないでくれるか?」

「不満はないわよ。あるかどうかもわからない宝探しをやらされて、疲れているだけ」

「そう言うな。もし見つかればどうなるかわかっているだろ?」

「……まあ、ね」


 女性は肩をすくめる。男性はそんな彼女に「頼む」と告げ、部屋を見回した。


 そこは泥棒にでも入られたかのように雑然としていた。壁際の本棚に入っていたと思しき専門書が床に散乱し、飾られていたと思しき皿などの骨董品は破壊されている。

 さらにパソコンラックが横倒しとなっている他、役員用の事務用デスクの上に埃が積もるなど、退廃という言葉がお似合いの場所であった。


「さすがにパソコンなんかの機器は押収されている、か」


 女性が呟く。彼女は茶褐色のダウンジャケットにジーンズ姿で、両手には怪我をしないよう軍手がはめられている。対する男性は黒いスーツに藍色のコート姿で、相反するような姿をしている。


「ねえ、二つばかり訊いていい?」


 床に落ちるがらくたを手でどけながら、女性が問い掛ける。


「事が起きる前の彼は……どういう状態だったの?」


 質問に、男性は事務用デスクへと目を移す。瞳の奥でそこに座っていた人物を思い出しながら、返答した。


「それほど見た目に変化は無かった。だが時折何かを話そうとして、言葉を止めるというパターンが多かった」

「掲示板にあったメッセージ通り、データを破壊しようとすると意志が働いて……というやつ?」

「おそらく。まあ、社長がデータを全て消せ、などと言っても誰も聞かなかったと思うが」

「でしょうね。まさかこんなことになるとは思わないもんね」


 女性はどこか陽気に告げる。男性が目を向けると、彼女は左手の軍手を外し、中指にはめられた青い石の指輪を眺めていた。


「二つ目は?」


 男性が続きを促す。女性はそこで、小さく笑みを浮かべた。


「シナリオよ」

「シナリオ?」

「ゲームのシナリオ。新天地――フロンティアを開拓していた人間達の前に魔族が襲来し、失われた新天地を取り戻すためにプレイヤーは戦った。で、勇者達は総大将である魔王を倒した。そして第二の魔王をも倒し……その続きは、どうなるの?」

「大幅なアップデートにより、別天地を用意していた。同時にいくつかシナリオ候補を用意していたよ……けれど社長は、他に考えがあったようだな」

「へえ……」


 彼女は聞きたそうに、どこか期待する様な眼差しを向ける。けれど、男性は答えない。


「もう終わったことだ」

「あ、そう……で、ここにもなさそうだけど?」


 女性は不服そうではあったが、言及はしなかった。


「全部政府が押収した、ということね……後は解析の吉報を待つしかないか」


 女性の言葉に男性は黙した。再度事務用デスクへ視線を送り、幼少の記憶でも思い出すかのように目を細める。


「ねえ、もう一ついい?」


 さらに女性の声。質問を、ということだろう。


「構わない」

「もし該当のデータが見つかったら、あなたはどうするの?」

「愚問だな」

「愚問?」

「ああ……私は社長の意志を継ぐ。ただそれだけだ」

「それは、どういう意味?」


 問い掛ける女性。男性が彼女をチラリと見る。怪しい笑みを浮かべる姿があった。


「こんな騒動を引き起こして、彼は後悔していたわけでしょ?」

「後悔は、騒動を予見したからだろう。本心は間違いなく、願っていたことを求めていたはずだ」

「ふうん、そう」

「何が言いたい?」


 なおも口の端に浮かべる女性に、男性は語気を強くする。


「さあね?」


 けれど女性は臆することなく答えると、軍手をはめ直し作業を再開した。


 男性はその姿を一瞥した後、視線を変える。室内の一角にある窓からは外の景色が見え、茜色の空と共に彼らがいる建物と同じような高さのビルが何棟もあった。

 少し前まではああしたビルの中で誰もが仕事をしていた。しかし現在は引き払ったところも多いだろう。原因は――


 その時、ピリリリという携帯の無機質な着信音。男性のものからだ。


「……私だ」


 どこか機械的な動作で電話に出る。すると、


『は、発見しました!』


 歓喜する男性の声が彼の耳に響いた。


「発見?」


 突然の言葉に男性は咎めもせず、相手の言葉を聞き返す。


「は、はい! 古いプログラムの中から、それらしいのが」

「……わかった。すぐに戻る」


 男性は通話を切り携帯を懐にしまう。そして女性を見ると、軍手を外し向き直っていた。


「見つかったの?」

「そうらしい」

「じゃ、戻りましょう」


 女性が告げると、二人は歩き出す。その中で、男性はふと考える。先ほど、自分の発した言葉の意味を。


(意志……か)


 女性に問われずともわかっていた。意志などという言葉は、詭弁でしかない。

 心の奥底では、彼のしようとしていた夢を渇望している。


(どうしようもない、人間だな)


 ふいに、彼は笑みを浮かべた。半ば無意識に顔に出たそれは、出ようとしている部屋にいた人物が最後に浮かべていた表情、そのものだった――

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