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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第一話

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22/137

堕天使と魔王

 サーバールーム内は電気が通っていないにも関わらず冷却のためエアコンが効いていた。その上、照明も点灯している。どういう原理なのか不明のまま、優七は堕天使を倒していく。

 フロアには堕天使がかなりの数いたが、サーバーなどの構造物があるため動きが制限され、優七は的を絞り易かった。


(こんな風に魔王とも戦えればいいけど……)


 優七は胸中呟きつつ一階、二階と制覇し、三階も堕天使全てを倒した。逐一休憩を入れつつ、戦ったのは合計一時間程度。

 そして堕天使は復活しないらしく、残すは最上階のみとなる。


「優七君」


 最後の場所に向かう途中、桜が声を上げた。


「大丈夫? 疲れていない?」

「ああ、大丈夫」


 スタミナを回復するドリンクを飲みながら、優七は答える。


「薬の効果もあるし」

「そう。じゃあこのまま――」


 と、言った所で優七の背筋に悪寒が走る。場所は最上階のサーバールーム手前、両開きの扉。間違いない、ここが終着点だ。


「桜さん」

「ええ。わかってる」


 応じる桜。さらに彼女は、一度剣を離し優七の開いている左手を握った。


「私が、絶対守るから」

「……うん」


 心に打つ言葉――同時に、優七もまた自然と口が開く。


「俺も、絶対桜さんを守るから」


 言いながら手を離し、ドアノブに手を掛ける。それをゆっくりと押すと扉が開き、室内の全貌が明らかとなる。

 中はやはり堕天使の巣。だが一点だけ違う。四本腕の堕天使が二体と――その奥に二本腕の漆黒の騎士が一体。その横には堕天使の身長はある大剣が一本。


 騎士に見覚えがある。ゲーム上で魔王を倒した後出現した、あの映像。


「あれが、魔王か……」


 優七が呟くと同時に、室内の冷気が当たる。二人は一度互いに目を合わせた後、部屋に入った。堕天使達は反応し、一斉に動き出す。

 先行して動いたのは桜。聖剣の力を用いて入口付近から敵全体の動きを止める。


 そこへ優七の『セイントエッジ』が入る。横薙ぎによって堕天使が消滅し、さらに後続の堕天使も同じ結末を迎える。


(倒せる……か……?)


 正面奥にいる魔王らしき存在に目を向けながら、優七は胸中呟く。これまでと同様余裕で倒せる。これなら――

 やがて向かってくる敵を倒すと、今度は四本腕の堕天使が動き出す。しかし桜の攻撃によりやはり動きが鈍り、優七の放った『エアブレイド』が双方に直撃、消滅した。


 これにより突撃してくる堕天使がいなくなる。残すは、正面に佇む魔王一体。


「……動かないね」


 桜は聖剣を握り直しながら言う。魔王はその場に佇み、沈黙を守っている。

 優七は試しに『エアブレイド』を放ってみた。真っ直ぐ魔王に突き刺さったのだが――結界でも張られているのか、壁のようなものに衝突して消えた。


 優七はイベントでも発動するのだろうと高をくくった――瞬間、声が聞こえてきた。


『ここまで来るとは、ずいぶんと骨のある勇者だな』


 エコーを響かせた声。優七と桜は立ち止まり、魔王を注視する。漆黒の鎧に身を包んだ魔王は、声と共に威圧感を強く放ち始める。


『我が軍勢を破り、ここまで来たことを褒めてやろう。しかし、快進撃はここまでだ。お前達は、私の剣によって滅ぼされる運命にある』


 軍勢――きっと、堕天使やアクティブ化した魔物のことを言っているのだろう。これはおそらく、ゲーム上で発生するはずだった魔王のイベント。

 優七にとっては、嫌に耳に障る声。


『決着を付けよう、勇者。そしてこれからの世界……歴史は、私が生み出す』


 魔王は動き、ゆっくりと傍らに置いてある大剣を手に取った。優七は剣を構え直し、戦闘態勢に入る。

 来るか――優七が呼吸を整えた時、新たな声が聞こえた。


「……ここまで来たこと、まずは礼を述べよう」


 太い男性の声――唐突さに優七は驚き、魔王を凝視する。


「感謝しても、し足りないくらいだ……これは本来、私が決着をつける事だったのに」

「……あんたは、まさか」


 優七が零す。声は正面の魔王から生み出されていた。エコーすらない、男性な声。

 その言葉に反応したのか、魔王は答える。


「君の推測通り、真下蒼月だ。君達がここに来たことにより、理由は不明だが一瞬だけ私が表に出て来られた」


 優七はそこで、一歩足を踏み出した。すると、魔王もまた相対するように剣をかざす。


「体の自由はほとんど効いていない。今は私の意志でどうにか抑えているが……もし飛び掛かれば魔王は襲い掛かるだろう。今はまだ、突撃はしないでくれ」


 優七は言われ、動くのをやめた。そして黙ったまま、彼の言葉を待つ。


「時間がないだろうから一つだけ……この魔王は以前の魔王と同様、五重の結界を構築している。単に一撃加えただけでは倒せない。そして結界が一枚破壊されるごとにカウンターが発動する。そして……君の剣は……」


 間を置いた。優七の握る剣を見つめているのだろう。


「死天の剣……この魔王も天使と融合し属性が天使となっている。結界を突破したならば、倒せるはずだ」


 言った直後、魔王が僅かに動く。優七と桜は警戒し、一歩後方に下がる。


「時間が無いな……倒した後のこととしては……君達には申し訳ないが、魔王を倒してゲームの機能が現実から消えることはない。ゲームの世界はもう現実と融合し、日常の一つに生まれ変わってしまった。その点については、悔やまれるところだが――」


 さらに、魔王が動く。彼も最早時間がないと悟ったか、話を切り上げにかかった。


「ここまで来てくれたこと、感謝する。そして、この戦いに終止符を打ってくれ。頼む――」


 直後、魔王の雄叫びが生じた。優七と桜は改めて戦闘態勢に入り、魔王を見据える。


「優七君!」

「ああ!」


 桜の声に応じ、優七は頷く。


「ここで、魔王を倒す!」


 自らを鼓舞する声――瞬間、魔王との戦闘が始まった。






 先手を打ったのは魔王。握る剣が振られ――剣風のようなものが飛来してくる。


「はあっ!」


 攻撃だと直感した優七は即座に『エアブレイド』を放つ。すると中間地点で衝突音が響き、完全に相殺した。


「攻撃も天使属性みたいだな」


 優七は断じると、今度は『セイントエッジ』を生み出し魔王に迫る。相手の間合いの外から上段に振り下ろしたのだが――それを魔王は剣で防いだ。


「一筋縄じゃいかないか――!」


 断じると後方に跳んだ。すると魔王はさらに剣風を飛ばし――今度は桜がそれを遮った。聖剣の刃が風と衝突する。


「くっ!?」


 だが、完全に受け切れない。すかさず優七は『エアブレイド』によりフォローに回り、事なきを得る。


「強い……さすがに、魔王ってところね」


 桜は言うと、腕をかざす。聖剣の力ではない。魔法戦士として使ってきた、強力な魔法。


「来たれ――光神よ!」


 瞬間、無数の刃が眼前に生み出され、照射される。優七はここぞとばかりに再び『セイントエッジ』を発動。刃と共に駆けた。

 魔王はまず桜の魔法を振り払う。けれど消したのは一部でかなりの数が突き刺さる。


 そこへ優七の剣戟が入る。横薙ぎを浴びせ――しかと、相手の体に触れた。直後、ガラスの割れるような音と共に結界が破壊される。


「これで一枚――!」


 と、声を発した直後、前方から身震いするほどの気配が生じる。

 それはきっと、ゲームで言う所の魔力――優七は即座に身を翻す。高速移動のスキルを併用し、一足飛びで距離を取る。


 次の瞬間、桜の放った光が弾け、闇が魔王を包みこんだ。


(カウンター……!)


 先ほどの蒼月の言葉――闇は、魔王を包みこんだかと思うと、四方に拡散した。津波のような奔流を生み出し、優七と桜へ襲い掛かってくる。


「っ――!」


 優七は避けられないと判断し、普段使用しない防御技『プリズムシールド』によって結界を張る。桜もまた魔法によって結界を生み出した。二重の防御――それはきっと、ジェイルが倒した魔王の攻撃すら防げたかもしれない。


 しかし闇が直撃すると、結界は溶けるように消えた。天使属性の闇攻撃――矛盾した属性の効果により、結界が無為になる。

 即座に、優七は移動スキルと身体強化スキルを最大限活用し、隣の桜を片手で抱き寄せ、跳躍した。一歩が恐ろしい程の距離を生み出し、一気に入口付近まで到達する。


 その時、後方から爆発音が生じた。優七が反射的に振り向くと――闇が弾け、つぶてとなって迫る光景があった。


「――っ!」


 つぶては部屋中に拡散し、回避できない。優七はすかさず部屋の出入り口の扉に目を向けた。扉を閉めることができれば――そう考えた矢先、つぶてが飛来する。


「ぐっ――!」


 つぶてが何個か直撃し――優七は桜を庇うように外に出た。どうやら扉などに直接被害を及ぼさないらしく、つぶては構造物に衝突すると弾けて消える。

 そんな中優七は開け放たれた扉の横に難を逃れ、息をついた。


「はあ……はあ……」


 スキルをフル活用したためか、息が上がる。無理に体を酷使したためか、あちこちが痛んでいた。

 次にHP残量を確認する。一気に四分の一となっていた。


(数発、直撃しただけなのに……)


 天使としての攻撃力に加え魔王の攻撃力が上乗せされているのか、カウンターの威力が凄まじいことになっている。さらに結界で防ぐこともできない。今回は運良く避けられたが、もし次カウンターが来れば回避できる保証はない。


(どうすれば……?)


 優七は考え始めた時、HP残量から総毛立った。抱えた桜は――


「……優七、君」


 彼女の声。見ると隣で息をつく彼女がいた。HPを確認すると、残り一割を切っていた。


「かなり……ギリギリだったんじゃない?」

「ああ、そうだな……」


 優七は答えながら、部屋の中を入口から覗きこんだ。魔王は依然変わらぬ場所に立っている。こちらに来る気配は、無い。

 追ってこないのを理解すると、優七は回復アイテムを使用する。それによりHPは完全回復したが、疲労は消えない。


 即座にスタミナ回復のドリンクを出し、飲みながら考える。つぶて数発でこの結果。闇の渦に巻き込まれれば、瞬殺に違いない。


「どうする……優七君?」


 桜が問う。優七はドリンクを飲み干した後、思考する。

 多重の結界に、カウンター。そして自分の所持する技を照らし合わせ――


 やがて、優七は口を開く。


「……多重の結界一枚にああしたカウンターが来るとなると、次あの攻撃が来て回避できないかもしれない……それに、さっきの攻撃よりも強力なのが来るかもしれない」

「そうだね……」

「けど、一つだけある。勝つ方法が」


 優七は言った。桜が驚き視線を向ける。


「それは?」

「俺の持つ連撃技『グランドウェイブ』だ」


 そして剣を握りしめ、なおも続ける。


「あれは五連撃だから、結界一枚を一つの攻撃が破壊すると考えれば……さっき一枚破壊したから、最後の一撃は魔王に届く」

「確かに、そうだけど……」


 桜は不安を覚えたのか、濁した言い方となった。優七もそれに同意するように深く頷く。


「懸念材料はある。結界の破壊自体にイベントは生じなかったから連続で破壊することは問題ないはず。けど隙の生じるこの技をどうやって放つのか……そして、真下蒼月の言葉があるにしろ……一発だけで倒せるのか」

「でも、やるしかないんだよね」

「うん」


 優七は答えると桜はゆっくりと立ち上がり、声を上げた。


「なら、それでいこう」

「……桜さん」

「私が、絶対に優七君を守るから」


 断言。優七は一瞬、逃げるべきか思案し、それを押し留めた。


「わかった」


 優七も覚悟を決める。けれど、いざとなれば――胸に秘め、魔王を見据える。

 魔王は動かない。扉を開けたまま静かに近づくと、咆哮が響き渡る。優七は唾を飲み込み、しかと相手を見据え、桜に言う。


「チャンスは……一度だけだ」

「わかった」


 彼女の了承を機に、優七は走る。魔王が剣を構え、闇が刀身に集まり始める。結界を一枚破壊したため行動パターンが変化した――だが、優七は構わなかった。

 同時に『グランドウェイブ』を放つため剣を床面に近づける。途端に力が収束し、技を放てる体勢となる。しかし――


(振りかぶる体勢で、どうしても隙が生じる)


 そこへ、魔王が剣を振り下ろす。狙いは優七。即座に身を捻り避けようとして、横から桜の剣戟がそれを弾いた。


「優七君!」


 直後、桜の声。理解していた。魔王の動きが僅かに鈍り、その隙に剣の間合いに入る。今しかない――優七はすかさず、剣を振り上げようと腕に力を入れた。

 だがその時、魔王の握る剣から闇が生まれた。突如一筋の帯になったかと思うと――優七に迫ろうとする。


「っ!?」


 虚を衝かれた――攻撃する態勢であったため対応が遅れる。真っ直ぐ闇の塊が優七へ突きこまれる。避けられない。


「――君!」


 だが、横手から桜が優七を突き飛ばした。それにより数歩横に移動しながら、闇を回避することができた。


 優七は桜に視線を送る。彼女は突き飛ばした体勢からすぐに剣を構え――正面の魔王が、剣を振り下ろそうとしている光景に気付いた。

 頭上に掲げられた魔王の剣。それを桜が受ければ、命は無い。


「――――っ!」


 優七は走る。魔王との距離は数歩分。スキルを使用しコンマ数秒でも速く近づこうとする。

 同時に剣先に力を集中させる。まだ『グランドウェイブ』の効果は続いている。このまま一閃すれば、勝利できるはず。


 けれど、きっと目の前の彼女はいなくなってしまう。


(させる、か……!)


 魔王の剣先が動く。桜は決定的に回避が間に合わず、剣を凝視することしかできない。

 その間に優七は間合いに入る。即座に地面から魔王に向かって剣を放つ。


 けれど、悟ってしまう。その一撃は、桜に届く剣よりも、少し遅い。


(――桜!)


 心の中で叫び、さらに力を込める。それで速さが増すかどうかはわからない。けれど、体が壊れてもいい。この一時だけ、ほんの僅かでいいから、相手を越える斬撃を――


 優七の剣が魔王に迫る。確実に到達する。けれど桜に迫る剣もまた、届いてしまう。同時では駄目だ。滅ぶ前に、きっと桜に剣が当たる。


(もっと、もっと速く!)


 祈るような心持ちの中、優七の剣が魔王に触れようとする。

 その時、ほんの刹那の時間――優七には、魔王の剣が止まったように見えた。


「――ありがとう」


 声が、聞こえたような気がした。


 もしかすると真下蒼月の最期の言葉だったのかもしれない。魔王に対する最後の抵抗として、ほんの僅かな時間、剣を押し留めてくれたのかもしれない。

 声がした瞬間、優七の剣が魔王に直撃する。同時に剣先から衝撃波が生じ魔王を包み、結界を破壊していく。多重に構築されていた結界はその全てが順々に破壊され、最後の一撃が、魔王の体をしかと撃った。


 次に聞こえたのは、魔王の声。しかし先ほどまでの威圧させるものとは違った。それは言わば、断末魔。

 そして、衝撃波に包まれる中魔王が消える。優七は体勢を崩し、剣を離さないまでも床に倒れた。


 横を見る。剣を受けずに立っている桜の姿が見えた。


(良かっ、た……)


 思うと同時に、急速な疲労感が湧き上がる。過剰なスキル併用により、肉体が消耗し意識すら途絶していく。

 そうした中、魔王の姿が完全に消えるのを確認し――優七の意識は暗い闇の中に引きずり込まれた。



 * * *



 ――優七が次に目を開けた時、桜が顔を覗き込んでいた。


「桜……さん」

「良かった……本当に」


 安堵した表情。目に涙すら浮かべ、優七を見下ろしている。


「優七君、倒したよ……魔王を」

「……そっか」


 優七は答え、首の動く範囲で周囲を見る。


 サーバールームの状況は一変していた。電源が落ち、電気の必要な機器は全て動いていない。今は桜の生み出したと思われる白い光が、周辺を照らしている。


「魔王が消えた直後、突然暗くなったの」


 答えが彼女から来た。優七は小さく頷いた後、ゆっくりと上体を起こす。


「……敵は?」

「周辺にはいないよ」


 答えを聞くと、優七は頷き体を確認しながら立ち上がる。


「倒したんだよな……本当に」

「うん」

「なら、帰らないと。戦勝報告、しないと」

「そうだね」


 桜は優七と隣に立つと、肩を支えるようにして歩き出す。


「行こう……仲間の所に」


 優七が告げる。桜が無言で頷き――二人は帰路に着いた。

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