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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第一話

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18/137

絶望と遭遇

 救援要請の地点はデーターセンターの通り道であり、優七達が道で看板を見つけたのは情報を知り十分経過した時だった。


 道を変えひたすら足を進めながら、優七は麻子から要請を行ったパーティーの詳細を聞く。


「騎士レンツを中心とした一団……総勢、五十名を超える大々的なパーティーだったはず」


 優七も聞き覚えがあった。ジェイルのパーティーのように少数精鋭ではないが、高レベルのプレイヤーがかなりの人数いる一団だったはず。

 一時彼らが魔王を倒すのではないかと噂されていたのだが、最近は魔王討伐よりもアイテム稼ぎにご執心だった。けれど、実力のあるパーティーであることに変わりはなく、彼らが苦戦するということは――


「堕天使の力が、改めて実証された形となる」

「そうだね……」


 麻子の言葉に優七は頷きつつ、索敵アイテムで魔物を確認する。進路は西側だが、まだ敵の姿は無い。もう少し距離がある。


「周辺に敵はいない……このまま、一気に接近しよう」


 優七が告げた時、遠くから激突音が聞こえた。爆発音などではない、明らかに殴打の音――


「え?」


 優七は周囲を見回した。けれどそんな音を発するものはなく、


「あ、あれ!」


 次に桜が空を指差す。見上げると、そこには――


「うわっ!」


 堕天使が飛来してくる。優七達は慌てて四方に散らばり、直後アスファルトに堕天使が衝突した。

 地面の破砕音と共に、堕天使は倒れたまま動かない。優七は鼓動が早くなっていると自覚し、剣を握らない左手で胸を押さえた。


「な、なんだよ……これ……」


 と、堕天使が飛来してくるという事実から、一つの結論を導き出す。


「そっか……『グラビティスカイ』か……」


 体術系の技の一つであり、相手を上空へ放り投げ吹っ飛ばす大技である。おそらく、レンツのパーティーメンバーが行った攻撃なのだろう。


「まったく、救援に来る人間の身にもなれって感じよね」


 麻子が悪態をつく。それはもっともなコメントなのだが、ここで愚痴っても仕方ない。


「とりあえず、彼らの状況を確認しないと――」


 そう優七が言った所で、堕天使が動き始める。優七達は慌てて戦闘態勢に入った。

 堕天使の動きは緩慢で、両腕に握る剣をかざし、この場にいる誰かを狙おうとする。


「はっ!」


 先手を打ったのは麻子。放った矢が頭部に直撃し、堕天使を大いに怯ませる。


「おおっ!」


 そこへ優七の一撃が加えられる。接近し横薙ぎを決めると、それがとどめの一撃となり、堕天使は消滅した。


「……やれやれ」


 完全に消え去ると、慶一郎が呟いた。


「心臓に悪いぞ」

「そうね。だからあの技って嫌いなのよね」


 続いて言ったのは麻子。優七も内心同意しつつ、再度進むべく呼び掛けようとした。しかし、


「ん?」


 索敵レーダーを見ると、南側に敵を示す赤色のマーキング。さらには、敵から逃げている緑色のマーカーが目に入る。

 緑色は、プレイヤーであることを意味している。これはつまり――


「――助けてくれぇぇ!」


 続いて、声が聞こえた。優七がそちらに視線をやると、必死の形相でこちらに駆ける、中肉中背で眼鏡を掛けた男性の姿。さらにその背後に、一体の堕天使が迫っていた。


「くっ!」


 優七は即座に剣を握り走り始めた。その後を桜が追い、他の二人は援護の構えを見せる。

 堕天使が剣を振り上げる。目標は男性で、このままだとヒットしてしまう。


 だから優七は反射的に、男性に叫んだ。


「横にかわして!」


 男性は声に従い、即座に横に跳んだ。体勢を崩しながらも、剣戟だけは完全に避けた。


「よし……!」

「来たれ――光神よ!」


 優七が呟いた直後、桜から光刃が放たれる。それは全て堕天使に衝突し、一時的に動きを止める。


「――はあっ!」


 その隙をついて、優七が接近し剣を振り下ろした。身に受けた堕天使は最後の一撃となったか消滅。周囲は静寂に包まれる。


「大丈夫ですか?」


 桜が男性の傍らに寄り、声を掛ける。彼は恐怖心からか声が出せず、何度もコクコクと頷くに留まる。

 だが、彼は指で逃げてきた方向を示した。何か言いたいのか――優七がそちらに目をやると、同時に堕天使が一体出現する。


「まだいるのか……!」


 優七は言いながら剣を構え直し、今度は麻子と慶一郎の援護が来た。

 紅蓮の矢と雷光の応酬が堕天使に降り注ぎ、さらに優七も『エアブレイド』を繰り出す。それらが余すところなく直撃し、堕天使はまたも消失の一途を辿った。


 優七は息をつき、逃げてきた男性に目を移そうとした――瞬間、新たな堕天使が男性や桜の近くに飛来した。


「――桜!」


 優七が叫ぶと、桜は瞬間的に反応し剣を薙いで堕天使を怯ませる。加えて男性の手を引いて後退させようとした。だが、


「うくっ!」


 男性は顔をしかめ、動きが一瞬鈍る。見ると、腹部に怪我をしていた。

 その傷が、大きな隙と呼びこんでしまう。


(まずい……!)


 そんな風に優七が思った時、堕天使の剣が男性に向け放たれた。


「っ!」


 桜はどうにかして男性を堕天使から引き離そうとした。しかし、間に合わなかった。

 男性は刃をその身に受け――途端に、光となって消えた。


「――っ!」


 その場にいた誰もが呻く。しかし優七はいち早く体勢を立て直し、剣を振り抜いた。それにやや遅れて、桜が攻撃を加える。

 風の斬撃と光が堕天使を襲い――またも、消し飛ばした。


「倒した、が……」


 優七は呟きながらレーダーを見る。周辺に敵はいない。


「……遅かった」


 桜が、声を震わせ言った。優七は彼女に何か言おうとしたのだが――爆発音が生じたことによって、中断を余儀なくされる。


「感傷に浸るのは、後だな」


 慶一郎が呟く。優七は頷いて「行こう」と言い、改めて移動を開始する。目標であるレンツの下にひたすら急ぐ。


 だがここに至り、優七の全身は休息を欲するようになっていた。できることなら座り込んでしまいたい。そんな欲求が頭の端から湧いてくるが、即座にかぶりを振り思考を振り払う。

 今無理をしなければ最悪の事態に陥るという予感を抱きつつ、レーダーを確認し突き進む。


 やがて索敵範囲内にプレイヤーと敵が出現し――優七は絶句して立ち止まった。


「……優七君?」


 気付いた桜が声を掛ける。だが応じられない。レーダーを凝視し、固まってしまう。


「どうした――」


 慶一郎がレーダーを覗き見て、優七と同様硬直する。麻子もまたそれを見て動かなくなる。最後に桜が覗き込んで、言葉を失った。

 敵を現す赤の色がざっと十はある。飛んでいた堕天使の数を考えれば、妥当かもしれない。けれど、驚愕したのはそこではなかった。


 プレイヤーを現す緑のマーキング――それも同じくらいの数だった。


「……他の、パーティーメンバーは?」


 麻子が発した。五十人以上の大所帯であるレンツのパーティー。その全てが集まったかどうかはわからないが、いくらなんでも十人でデータセンターに向かうということはないだろう。


「……急が、ないと」


 声を詰まらせながら、桜が言う。直後、全員が弾かれたように走り始めた。


(もし……レンツがフルメンバーで戦っていたとしたら――)


 優七の中で最悪な予感が駆け巡った時、背筋に悪寒が生じた。

 ボス寸前の気配――思ったと同時に、目的地に到着する。


 滑り台やシーソー程度の遊具に、砂場と砂利の道のある公園だった。広さはそれなりだが、立っている場所から全景を見渡せる程度の大きさ。

 そしてそこは、戦場――いや、虐殺の場になっていた。


「うわぁぁぁっ!」


 悲鳴を上げ、一人が消える。戦線は瓦解し、堕天使は各個撃破に勤しんでいた。優七は即座に援護したかったが、複数体の堕天使がこちらに気付き、相手をせねばならなくなる。


「くっ……!」


 力を振り絞り、優七は戦闘態勢に入る。向かってくる数は二体。地面を滑り近づくそれらに対し、先手を打ったのは桜。


「来たれ――光神よ!」


 光の刃が生み出され、猛然と堕天使を襲う。それらが突き刺さることで堕天使は確実に動きを止め、今度は慶一郎の雷光が煌めく。

 そこへ、優七の『エアブレイド』が放たれた。それにより一体を消し飛ばすと同時に、もう片方に麻子の矢が直撃する。だが、倒すには至らない。


「優七君!」


 即座に桜の指示。優七は声を発さないまま堕天使へ向かう。桜もそれに続き、二人は矢の一撃によって動きの鈍った堕天使へ一閃する。

 二つの刃を身に受けた堕天使は、たちまち消え失せた。


 優七はそこで仲間の状況を窺い――男性一人となってしまったことを知る。


「ひぃっ!」


 悲鳴を上げつつ、彼は堕天使の猛攻を脱し、こちらに近づいた。一方の堕天使達はボスである、以前見た四本腕の堕天使を中心に、固まり始める。


「大丈夫!?」


 麻子が声を掛ける。すると男性――二十歳前後の人物――が、悲鳴混じりの声を上げた。


「な、何なんだよ……あいつは! 攻撃が、ほとんど通用しない!」

「落ち着いて!」

「仲間は……四十人はいたんだぞ……! それを、あっという間に……!」


 最悪の状況だった。大半がここに集まり、そして壊滅してしまったらしい。

 顛末を把握すると、桜はすぐ優七へ言った。


「退却しよう!」


 優七は即座に頷き、男性に声を掛けようとする。けれど男性の背後に、跳躍した堕天使が迫った。


「くそっ……!」


 優七は警告を発しようとしたが、間に合わなかった。男性が相手に気付き、慌てて持っている剣で防ごうとしたが、堕天使の斬撃は鋭く、一刀の下に斬り伏せられてしまう。


「あっ――!」


 桜が震えた声を発した瞬間、男性の体が光となった。

 そして堕天使は首を優七達へやり、剣を構える。次はお前達だ――そう語っているのがわかる。さらには後方にいる堕天使達も、一斉に視線を送る。


 その中で、慶一郎が叫んだ。


「こうなったら、やるしかないのか……!」


 その声に優七苦い顔をしつつ、状況を把握する。間違いなく、絶望だった。


 目前に控えるのは十を超える堕天使。さらに一体は四本腕を持ったボスであり、その全てが虎視眈々と優七達を窺っている。


(全個体がダメージを受けているとは、思えないよな……)


 優七は今まで戦ってきたのは全て手負いの堕天使であり、健在である敵と遭遇するのは初めてだと認識する。

 最初の遭遇は木ノ瀬のパーティーが戦っていたし、今日の戦闘も一体は技によってダメージを受け、さらにもう二体も同じのはずだった。そして、先ほどの堕天使との衝突――どうにか倒せるくらいにはHPが減っていたようだが、全てが同様だとは考えられないし、中には健在な堕天使もいるだろう。


「優七君、どうする?」


 隣で剣を握る桜が問う。策を考えるが、圧倒的な数を前に退却以外の選択はない。


「……全力で逃げて、ルームに退避できればいいけど」


 ボスが半径百メートル内にいなければルームには入れる。しかし、その距離を引き離すことができるのかどうか。


「少しでも引き返せば、一斉に襲ってきそうな気配よね」


 麻子が言う。堕天使は現在、全てが優七達へ視線を注いでいるが動いていない。けれど木ノ瀬が言っていた言葉を思い出す。

 逃げれば追われる――下手に逃げ出せば、襲い掛かってくるに違いない。


「……けど、それしか選択もない」


 それでも麻子は言う。優七は覚悟を決め、殿(しんがり)を申し出た。


「俺の『セイントエッジ』を使って、敵を吹き飛ばしつつ後退する。幸い相手は近距離攻撃しか使ってこないから、距離を取っていれば安全なはず。そしてどうにか引き離して、ルームに入ろう」


 全員が頷く。それを見計らい、優七は技を発動させた――

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