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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第五話

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新天地へ――

 蒼月が最後に残したシステム干渉――まずゲーム世界がどのような状況なのかを確認するため、政府の調査団が色々と調べ回ることになった。

 当然それはプレイヤー達が行うことになる。その中には優七や桜の名前もあった。


「ま、今までよりは楽よね」


 そう語るのは麻子。優七と桜、そして雪菜は優七が所持するルームで麻子の話を聞く。

 現在は決戦から数日後。場所はログハウスの中。優七は達はお茶を飲みながら麻子の話を聞く。


「魔物については、あの戦い以後姿を確認することはなくなったわ。これにより避難の必要があった場所も大丈夫になった」


 ようやく、平穏な世界が戻ってくる――


「ただまあ、ゲームの世界が消えたわけではない……というより、どうやらロスト・フロンティアの世界は完全に現実に根付いてしまっているようね」

「それをどうにかするってことはできないの?」


 雪菜の質問。麻子は肩をすくめた。


「どうでしょうね……ここからはしっかり調査する必要があるし、すぐに結論は出ないでしょうね」


 苦笑する麻子。ただその表情に悲壮感はない。


「今後ゲームとは縁もゆかりもない人の生死に関する問題は出ないようだから、そこだけは安心かしら」

「そうですね……本当に良かったです」


 桜が同調。優七もまた頷いた。

 そして麻子は腕を組み、


「さて、しばらくの間はプレイヤー達について待機命令がいくと思うわ。魔物が出現しなくなった以上、ゲームの能力を使う必要もなくなったわけだから」

「その辺りで騒動があるかもしれないな」


 優七の発言に麻子は「まさしく」と深く頷いた。


「今後はプレイヤー達が問題を起こさないか観察する方を優先ね。まあ今までと比べて気楽だろうし、そう不安にならなくて大丈夫だと思うわ」


 プレイヤー達――ふと友人のことを思い出し、優七は複雑な思いを抱いた。

 友人と呼べる人物との戦い――色々な要因が重なった結果だが、今でも止められなかったのかと後悔する。


 そんな心境を麻子は察したのか、優七に笑みを浮かべ、


「これまでに起こった悲劇……それについても、これからしっかり向き合わないとね」

「麻子さん……」

「だから、一人で思い詰めたりせず相談してくれれば」

「そうよ」


 と、割って入るように雪菜が発言した。


「しかめっ面ばかりでこっちとしては見ていてよく思えないし」

「……そうだね」


 優七は頷き、席を立った。


「少し外で空気を吸ってくるよ」

「ええ、わかったわ」


 優七は一人で外に出た。しかし少しして追随する人物が――桜だ。


「優七君、大丈夫?」

「うん……騒動が終わって、ようやく落ち着けるんだけど、そうなったらなったでこれまでのことを思い出してしまって」


 桜が近づいてくる。そして微笑を見せ、


「優七君、麻子さんも言ったけど何かあったら遠慮無く相談してほしいな」

「桜さん……」

「それと……」


 彼女は頬をかきながら優七へ語る。


「今までよりはゆっくりとできそうだし……会える機会も増えるかな?」


 ――そうだね、と同意しようとしたのだが、その矢先に雪菜が外に出てきて口が止まってしまった。


「あ、優七」

「……あ、うん」

「何よ、その顔は」


 記憶を失う前の彼女の姿がそこにはあった――優七は心のどこかでよかったと思ったが、やっぱりこれも複雑な心境。


「ああ、そうそう」


 雪菜は次に桜に顔を向け、


「これだけは言っておかないと」

「私に?」

「ええ」


 そう言って桜に近寄る。そして彼女の耳元で何事が呟いた雪菜は――そのまますれ違った。


「話も聞いたし私は帰るわ。優七、また一緒に戦うことになるだろうから、よろしく」


 一方的に告げ、彼女はルームを脱する。優七にしてみれば何なのかと困惑するしかない。

 桜の方はどうか――首を向けると、雪菜が去って行った場所を眺め、何故か笑っていた。


「桜さん?」

「あ、うん……なんでもないよ」


 何を言ったのだろう――優七は気になったけれど、結局聞けずじまいだった。






 ――そうして一つの騒動が終わり、優七は元の日常に戻る。魔物が消えたため学校内の雰囲気もよくなった。ただ二宮が引き起こした騒動の尾はまだ引いている。これが解決するのはもっと長い時間が必要となりそうだった。

 優七が普段通りの生活を続ける間に、麻子達はゲーム世界の解析を続けた。結果、現段階でシステムそのものを抹消することはできず、この世界は新たに出現した世界と共存する、という結論に至った。


 優七が聞いた話では、政府高官の中には新たな世界の顕現を称賛した者もいたらしい。その人いわく――この世界は、紛れもない新天地であると。


「ま、世界が消える可能性が低くなったのだから、調べようと意気込むのも無理はないな」


 そう江口は語る――この場にいるのは彼に優七と桜。そして雪菜。

 場所は優七のルーム。優七が世界へ入れる権限を持っているため、代表して最初に世界へ入り込むことになった。


「最初はそう危険がないにしても、注意しなければな」


 江口の言葉に優七は頷き――桜と雪菜に視線を移した。

 二人は黙って頷き返す。覚悟はできているようだ。


「おそらく、この調査は長いものになるだろう。まだ新たな世界……『新天地』がどれほどの規模なのかもわからない」


 江口はルームの空を見上げ、語る。


「ゲームと同じ規模なのか、それとも遙かに広大なのか……全容が不明ならばさらに増員するだろう。解析班を含め、増員については許可が下りている」

「気合いが入っているわね」


 雪菜のコメントに江口は頷いた。


「そうだな……政府としても、色々と恩恵が受けられると思っているのかもしれない」


 ――政府の思惑がどうなのか優七には想像もつかないが、現実として立脚した世界である以上、共存していかなければならないのは事実。

 新たな世界――政府が『新天地』と呼ぶその場所に、果たして何が待っているのか。


「事件は終わった。悲劇はようやく収束し、新たな世界が私達を待っている」


 と、江口は言うと笑った。


「……と、モノローグを語るにしては多くの人が犠牲になった。だが、私達は進まなければならない」

「――はい」


 優七が返事をする。その瞬間、全員の顔が引き締まった。

 最初の号令は優七の口から。そう誰もが考えている様子だった。




 ――様々な悲劇があった。まだ解決していない問題もある。


 この世界に新たな世界が顕現し、蒼月の言う『魔法』が現れたことは、人類の行く末にどう関係してくるのか。

 優七はその中で思う。再度あのような悲劇を繰り返してはいけない。


 だから――自分の持ちうる力で、その全てを止めよう。




「……行こう、みんな」


 その言葉と共に、優七はゲートを起動する。目指すはロスト・フロンティアにおけるスタート地点。

 優七達は一斉にゲートをくぐる。始まりの町へと続く街道。そして、目の前には女性のNPCが一人。


 彼女は告げる。ゲームを初めて訪れた時、そのままに。


「ようこそ! ロスト・フロンティアの世界へ――!!」


完結となります。ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

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