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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第五話

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光の先の世界

 一時、優七の周囲が白く染まる。だがやがて切れ目が見え、そこを越えた瞬間、視界に幻想的な世界が広がった。


「これは……」


 優七は呟く。目の前に現れたのは、草原。

 竜が降り立ち、優七達はその背から一度下りる。指示を受けているのか竜は待機し、再び背中に乗るまで飛び立ったりはしない。


 優七は後方を見る。空中に光が見え、あそこからここへ来たのだと理解できる。

 そして、目の前に広がる光景は――


「ゲームの世界、だよね」


 桜が言う。そう、目の前にあるのは紛れもなくゲームの世界――『ロスト・フロンティア』の世界だった。


「場所に見覚えがある。どうやら始まりの町の近くだな」


 江口が口を開く。優七も同意し、発言した。


「王都へ行くんですよね」

「ああ、その通りだ……距離があるな」


 指差す彼。かなり遠くに、城壁が見えた。


「おそらくあそこだろう……そう時間もない。竜を使って目指そう」


 江口の指示により、優七達は再び竜へ乗る。飛翔し、突き進む優七は眼下を見下ろす。


 そこにあったのは、どこまでも果てしない草原地帯。スタート地点から王都までは、初級の魔物が散発的に出現する草原地帯。ゲームにおけるマップはそれほど大きくないが、見下ろす草原は相当な規模だ。

 やがて優七達は王都へ到着する。城壁近くで竜を止め、徒歩で城門へと向かう。NPCらしき兵士が立っており、優七達が近づくと敬礼した。


「まるで、異世界にやってきたみたいね」


 雪菜が呟く。優七は心の中で同意した。


 目の前に広がっているのは、間違いなくゲームの世界。まるで機械を介しゲームの世界へ舞い戻ってきたような錯覚も一瞬あったが、優七は自身の格好を見てそうではないと断じる。

 ここはまだ現実と融合した場所――その最たる場所。


 NPCの横を通り城門を抜ける。そこに広がっていたのは、まさしく優七が記憶にあるロスト・フロンティアの王都だった。

 目抜き通りにはたくさんのNPCが歩き、商人の呼び掛けも聞こえてくる。優七としてもとても見覚えがあった。とても懐かしい光景。


 とはいえ思い出に浸っている暇はない。目指すは――


「見えたぞ」


 江口が言う。優七達の目の前には、王城が。

 ここが最終目的地。果たして、この先に何があるのか――


 足を踏み入れる。本来この場所はイベントでなければ入れない。だが門は開け放たれ、誰もが通行可能になっている。

 城の中へ続く扉もまた、開いていた。まるで手招きしているかのよう。ただここは町の中なので戦うことにはならないはず――


(っと、いけない)


 何が起こるかわからない、と優七は心の中で呟く。


 そう、いきなり魔物が現れ交戦する可能性だって考えられる。現実世界に具現化したゲームの世界――この場所がゲームの法則通り動いていると考えるのは早計だった。

 やがて、優七達は玉座の間に到達する。麻子の報告によれば、ここにシステムの勧奨地点がある――


「ようこそ」


 声がした。武器を構えようとして、優七は玉座に男性がいるのを捉える。

 一言で言えば、場違いな格好だった。黒いスーツ姿で、どこか疲れた顔をしている男性。何の予備知識もなければ訝しむ状況だが、優七には見覚えがあった。


 それは江口も同じようで、


「……真下、蒼月か」

「ああ、初めましてかな」


 微笑を浮かべる蒼月――その顔はやはり、疲れ切った顔をしていた。


「よく、ここまで来た……といっても、私には外がどうなっているのかわからないのだけれど」

「あんたは、ずっとここにいたのか?」

「気付いたら、この玉座に座っていた……かな。私がこの場所に来る前で思い出せることは」


 と、彼は優七と桜を見た。


「……君達二人が、天使を倒し世界を救ってくれたことだ」

「そこは、憶えているのか」


 優七の言葉に彼は首肯した。


「争うつもりはない……といっても、君達の様子はただならぬものを感じる。何があったのか説明してもらえれば、協力を約束する」

「時間はそう長くない。今から数時間といった程度だ」

「そうか。ならば手短に……この世界について私は語ることができる。きっと役に立てるはずだ」


 ――優七達は、そこから簡潔ではあるが説明を行った。牛谷達の暴走と、この世界がどうなっているのか。そして、屋敷上空に現れた光――


「……牛谷達のことはひとまず置いておこう。というより、私がどうこう言える立場ではないからね。問題は、この世界をどうするべきか」

「システムに干渉できる場所はここらしいが、それらしいものはあるのか?」


 江口が問う。蒼月は微笑を見せ、


「ついてきてくれ」


 一方的に告げ、歩き出す。優七達が彼の案内によって訪れた場所――それは城の中庭だった。

 その場所に、極彩色の光の球体が存在していた。城内の中に明らかに異質な存在。これこそ、ゲームのシステムと干渉できるものだというのか。


「システムへの干渉方法は、この光に手を当て念じるだけでいい……が、君達ではおそらく無理だ」

「何故だ?」


 江口の問い掛けに、蒼月は光を眺め、


「操作自体はプログラム干渉と同じだからね……この光はシステムそのものを封じているんだけど、それを変えるには記述そのものを変えなければならない。その知識、君達にはないだろう?」


 ――麻子を連れてくるべきだったのかもしれないが、それでもおそらく優七は無理だと感じた。プログラムの記述を変えるということは、システムの中身を理解していなければならない。麻子は事件前ロスト・フロンティアのシステムに携わっていたとはいえ、それは末端部分。解析するにも長い時間を要するだろう。


 となれば、残り時間が少ない現状では何もできない。頼れるのは目の前にいる蒼月だけ。


「……私達は、今ある悲劇を止めるために来た」


 江口が言う。それに蒼月は頷いてみせる。


「ああ。私自身、この世界に何ができるかをずっと考えていた……協力させてもらうよ」

「ただ、私達もどうすればいいか完全に結論は出ていない……そもそも、どの程度システムに干渉できる?」

「ちょっと待ってくれ」


 蒼月は光に手を触れながら目をつむる。


「……なるほど、牛谷達が干渉したせいでできることが増えているな。選択肢はいくつかある。まず、このゲーム世界を現実世界と融合させる」

「ダクスという首謀者のプレイヤーも同じことを語っていた。しかしそれは、やってはいけないことだろう」

「ならば、このシステムを一度押し込め、現状維持……ただし、それをやると再びこうしてシステムに干渉することができるのか、わからない」

「理由があるの?」


 桜が問う。蒼月は彼女を見返し、


「システムの干渉権限が目の前に現れていること自体、牛谷が無理矢理やったものだからね……現状、ゲームシステム自体不安定な状況なのだけれど、それを無理矢理押し込めたら二度と出てこないかもしれない」


 ――時間はない。だが、ここで選択をしなければならないのは間違いなさそうだった。


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