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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第五話

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元凶の存在

 ――別荘で最初に異変を察知したのは、周囲に魔物を配置している牛谷。影名はリビングで色々とメニュー画面を操作している彼を見て、尋ねる。


「どうしたの?」

「……複数人のプレイヤーが近づいている」


 その言葉――どうやら、かなり悪い知らせだ。


「ということは、ここがバレた?」

「その可能性は高い……いや、間違いなく露見したんだろう」

「どうやって?」

「理由を調べる暇はなさそうだ」


 牛谷は別荘主のSPである鍵長を呼ぶ。すぐさま退避するよう伝え、準備を始める。

 元々、こういった事態となればどうするかの対策はしていた。短時間で屋敷を後にできるように準備は整っているし、あとは別荘主の所有するルームに逃げ込めばいい。


 だが――


「牛谷様」


 鍵長が帰ってきた。


「主が、ルームを使うことができないと」

「……何?」


 慌てて調べる。エラーによって、出入りが封じられている。


「……もしや、政府はルームの出入りを調整できるようなことが?」

「って、これまずいんじゃない? どうするのよ」


 影名の問い掛けに牛谷は口元に手を当てる。


「……別荘から脱出する、というのはさすがにリスクが高すぎるな。第一ルームの出入りを禁じるくらいだ。『千里眼』持ちのプレイヤーがいてもおかしくない」

「なら、私達の動向は筒抜けね」

「ああ。だとしたら――」

「逃げるつもりはない」


 野太い声だった。影名が視線を転じれば、そこには主が――


「牛谷君、準備を開始してくれ……私に手がある」



 * * *



 優七達が移動中、敵は一切動きを見せていない。ルームなどが作動せず右往左往しているのか、それとも他に策があるのか。


「外に出て逃げるという手も、ここでは使えない」


 江口が言う。何が言いたいのか優七にも理解できた。


「こちらは常に動向を捕捉できる上、路面は凍りつき車による移動も難しい。それでも強行的に行動する場合は……こちらも、しかるべき対応を行おう」

「かくまっている別荘の主は、どんな人なんだろう」


 桜がふいに疑問を零す。それについては誰もが疑問。


「千里眼に表示されているのは四人……その中に、いるのかな」

「注意した方がいいな」


 江口はそう述べると、プレイヤー数人に指示を送る。


「屋敷周辺及び、移動手段である車を見張ってくれ」


 プレイヤーは頷き――いよいよ目的地が近くなる。

 やはりどこまでも動かない相手。あきらめた、というわけではないだろう。となれば、答えは一つしかない。


「迎え撃つ気か」


 江口は断定。優七を含めたプレイヤー達に緊張が走る。


「やはり戦いは避けられないか……全員、準備をしてくれ」


 優七は紅の紋章剣を取り出す。桜も全力で応じるのか手には霊王の剣が。

 決戦に向け、どのような状況にも応じられるよう各々が最強の武器を手に取る。ここにいるプレイヤー達は紛れもなく百戦錬磨であり、あの悲劇的な事件をも乗り越えた面々。だからこそ、理解できる。この戦いがどれほど大変なのかを。


 別荘へ近づく。いよいよ――というところで、江口が何かを発見した。


「あれは……」


 目を細める。何事かと優七が彼の視線の先を辿る。

 そこに、一人の男性が立っていた。


「待ち伏せ、という感じではなさそうだな」

「かといって迎え撃つという様子でもありませんよ」


 桜が言う。他のプレイヤー達も佇む人物を見て、判断できない様子。


「野々矢君、彼はプレイヤーか?」


 江口が問うと、すぐさま拓馬が確認。


「……位置的にも、四人のプレイヤーのうちの一人ですね」

「わかった。牛谷の能力から私達のことは察しているのは確定だ。さて、どう出るか」


 呟きながら江口は進む。優七はそれに追随し――やがて、別荘の入口へ辿り着いた。


「お待ちしておりました」


 スーツ姿の男性。丁寧なお辞儀をした後、そう述べる。


「鍵長と申します。この度は、どうやら私達を捕まえるためにお越しになられたようで」


 ずいぶんと余裕――と、ここで江口が前に出る。


「問答するつもりはない。別荘の主に会わせてもらおうか」

「はい。ご案内いたします」


 ――あまりに無警戒で逆に優七は戸惑う。腹をくくったのか、それとも作戦があるのか。


「無論、他のプレイヤー達が屋敷周辺を監視させてもらうぞ」

「はい、どうぞ」


 鍵長はあっさりと同意し、屋敷へ入るよう手で促した。

 態度にさすがの江口も目を細める。どういう狙いなのか、見定めている。


「さすがに信用されないと思いますが」


 と、鍵長は前置きをして語る。


「罠などもありません」

「……いいだろう」


 江口が言う。どうするつもりなのかと優七が思っていると、彼は突如メニュー画面を呼び出した。


「罠に耐性ができるアイテムを使用しておく。中に入る面々は私が選抜しよう」


 そう前置きをして――準備を始めた。無論、千里眼を用いての警戒は怠らない。


 この間に何か動きがあれば――と、江口だって考えたはずだ。しかし鍵長はどこまでも優七達を見守る構えであるし、屋敷の中にも変化がない。不気味なほどで、優七としても相手の目論見が推測できない。


 単純に戦闘か、逃亡する彼らを追撃するものだと考えていた優七にとって、この上なく面倒な状況だった。


「……準備は、できたな」


 やがて江口が言う。言葉通り優七を含め罠に対する策を講じる。鍵長は表情で「そんな必要はない」と語っているが。


「では、こちらへ」


 扉を開く。江口はここで優七へ視線を向けた。


 頷き返した優七は、ゆっくりと歩き始める。選抜されたメンバーに優七の仲間はいない。桜やRINについては、能力的に外にいて逃亡を防止する役割にした方がいいだろうという判断だろう。


 別荘に入る。中は土足で入る洋風のタイプで、玄関先で多少靴を拭いた後、中へ進む。

 もしこの間に主が逃亡を図れば外で戦闘が起こるはずだが――何もなく、部屋に辿り着いた。


「こちらでございます」


 鍵長が言う。扉には『書斎』と書かれている。


 江口が鍵長に視線を送ると、彼はただ手で促すだけ。自分で開けてくれということか。

 しばし沈黙した後――江口は扉に手を掛け、開けた。


 ゆっくりと開く。優七が扉の隙間から覗き見えたのは、本棚に囲まれ椅子に座る男性だった。


「ようこそ、我が別荘に」


 初老の男性だった。年齢は五十代から六十代の間くらいだろうか。白髪で年齢を感じさせる皺を顔に刻み込んでいるのだが、その雰囲気はどこか人を圧倒させるもの。


「君達が探している牛谷君達は、別の部屋にいる。この戦いの行く末については私の判断に一任してもらった。つまり、今ここで私を倒せば戦いは終わり、ということだ」

「何が目的なんだ?」


 江口が問う。すると男性は苦笑を浮かべる。


「そう焦るな……この別荘について調べれば私が誰であるかはわかってしまうな。そこは警察にでも任せるとして……プレイヤー名くらいは言っておくか。私の名前はダクスだ」


 優七としては聞き覚えのないもの。他のプレイヤーも同様らしい。


「ただまあ、知らんのも無理はないか。魔王との戦いにだって参加しなかったからな」

「……確認だが、牛谷をかくまっていたのはあなただな?」


 江口が尋ねる。男性――ダクスは即座に頷いた。


「いかにも」

「牛谷が成したことは、許されるものではありません」

「魔物について言っているのか。確かにそうだが、大きな可能性も発見した」

「発見?」


 江口が聞き返すと、ダクスは説明を開始した。


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