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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第五話

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答えのない決着

「くっ!」


 優七は後退しつつ二宮を注視する。彼は刀を利用しさらに仕掛ける。刃が放たれ、それを避ける度に建物が大きく損傷していく。

 このままではまずい――そう思った優七だが、他に手が無いのも事実だった。


(どうにかして止めないと――!)


 だが、手が思いつかない。刀をどうにかして弾き飛ばせばいいのかと最初考えたが、下手をすると彼を倒してしまうことになる。それはつまり、彼の死を意味する。

 逃げるにしても、桜がもう一人を追っている。そちらへ向かわれると、桜が危ないばかりでなく上へと進む男性に逃げられる可能性だって出てくる。


 やるしかない――だが、と優七が胸中で思っている間にも攻撃は行われる。壁や床に青い光が着弾し、廊下を容赦なく破壊していく。


「どうした高崎!?」


 吠え、さらに苛烈に攻め立てようとする二宮。どうすることもできないのか――と優七が考えた直後、二宮が新たな動きを見せた。

 このままでは埒が明かないと悟ったか、さらに刀に力を込めたらしく、刀身にさらなる光が生じる。仮にそれをまともに受けても一撃で倒れることはないはずだが――


 優七は反撃に転じることができず、剣を構え防ごうとする。だが次の瞬間、嫌な予感がして方針を変更。光に対抗するべく『エアブレイド』の準備を行う。


「その気になったか!」


 二宮声を上げ、剣が振られる。それによって生じた光に対し、優七も風の刃を放った。

 光と風が激突する。拮抗していたのは一瞬。結果として『エアブレイド』が押し勝ち、光を飲み込み弾き、風を周囲に拡散した。


 余波が多少なりとも二宮に届いてしまうか――優七が悟ると同時に、二宮は笑う。


「やるじゃないか」

「……二宮」


 優七は声を発する。


「その刀、強力なのは間違いない。けど、それ一本で勝てるほど、二宮の能力は――」

「そうやって言っているのも、今のうちだぞ」


 構え直す二宮。優七はなんとなく操られている可能性も考えたが――どのような理由であっても、目の前の二宮が止まらないのは明確な事実。

 二宮がさらに動く。どのように言っても止まらないであろう彼。優七はもう手はないのかと悩み――それでも、


「おおおっ!」


 雄叫びを上げ迫る二宮。その瞬間、優七は彼を見据え、


「……二宮っ……!」


 苦々しく、優七は剣を握り締める。

 決断しなければならない。そして優七は――二宮が剣を向ける。それを、まずは平然と受け流した。


 だが二宮は怯まない。刀の光をさらに強くし、一気に決着をつけようとする。

 そこで優七の剣が放たれた。当然二宮はそれを受けるが、次の瞬間彼の体が大きくグラついた。


「っ!?」


 予想外だったのか――正常な思考の彼ならばレベル差を考慮しこの程度のことが起こると予想できていただろう。けれど、


 優七はさらに追撃を仕掛ける。一度は二宮も弾いたが、それ以上の攻防は最早意味を成さなかった。

 刹那、二宮の首筋に剣を突き立てる優七。その瞬間彼の姿が、どこか処刑を待つ罪人のように見えた。


「……勝負はついた」


 優七が声を発する。


「刀をしまうか捨てて抵抗はやめてくれ、二宮」

「――言うことを聞くと思うか?」


 二宮は笑う。優七としては予想の範囲内ではあった。


「この戦いは、どちらかが死ぬまで終わらないんだよ」

「……勝てると思っているのか?」

「その上からの言い方が気に入らないな。吠え面かかせてやるよ」


 はっきりと明言し、二宮は動こうとする。だがそれを見越した優七は、剣を振るった。

 その一撃は、優七なりの手加減があった。とはいえ二宮としては驚異的な攻撃には違いなく、だからこそ大幅に減ったHPを見て彼もまた動揺する。


「……まだだ」


 けれど二宮は、どこまでも戦う意志を表した。


「いや、終わりなんだよ……二宮」


 それを挫こうと、優七は語り出す。


「どれだけ戦おうとも……刀の力を使おうとも、俺には勝てない」

「黙れ」

「二宮だってわかっているはずだ。あの時のデュエル……そこで、思い知ったはずだ」

「黙れ!」


 刀を振る。それを優七は容赦なく弾いた。

 結果、力の関係なのか衝撃により二宮がのけぞった。


「無理だって……気付いているんだろ?」


 優七は問う。それに二宮は、一時沈黙する。


「刀の力は確かに大きいかもしれない。けど、以前のデュエルを通して差があることはわかっているはずだ。武具で埋めようにも、追いつけない事実が」


 二宮は再度攻撃に動こうとする。だがそれを優七はまたも容赦なく弾く。


「二宮……!」


 諭すように――僅かに彼の瞳が揺らいだのを見て、あと一押しだと優七は思う。


「これ以上罪を重ねたら、今度こそ……」

「今度こそ、何だよ」


 二宮が言う。その声音には、明確に憎悪が宿っていた。


「どれだけ俺が政府のために働いても、俺のせいで何人も死んだ事実は変わらないぞ」

「それは……」

「けど、あの人はそれを帳消しにできる術を教えてくれた」


 その言葉に優七は反応する。それは一体――


「だから、俺はあの人を利用する……けどまあ、それもどうやら叶わないみたいだが。だからこうして、最後にお前と戦っている」

「最後……?」


 自虐的な笑みを浮かべる二宮。


「なあ高崎。どの道は俺はどうしようもないんだよ。仲間を間接的に殺した事実は永久に消えない。だからもう街には戻れない。多くの人に迷惑も掛けた」

「自棄になるな、二宮」

「他にどういう方法があるっていうんだ? もう俺は、どうにかできる手段なんてないだろ? だから、こうやって――」


 剣を振る。光も生じないただの斬撃。それを優七は、真正面から受けた。


「お前と戦い、全てを終わらせる気でいる」

「二宮……まさか」


 殺してくれ、と言いたいのか。


 優七は何も答えられない。もうどうすることもできないという虚無的な心情が頭の中を支配し、優七はそれに言葉を掛けることができない。

 二宮が言った通り、彼がやってしまった事実は変わらない。先ほど行動を共にしていた人物は、その事実を利用し甘言を吹き込み二宮をここに誘い込んだ。


「もう遅いんだよ……全部……」


 奥歯を噛み締める二宮。優七は何一つ、声を発することができない。

 苦い感情が頭の中を支配する。打開する術はない。優七は握る剣の力を弱めそうになる。


 その時、二宮が動いた。声にならない叫びを上げ、疾駆する。

 止められないのか――優七はそう思い迎え撃とうとした、その時だった。


 優七の視界に、上階から下りてきた桜を発見する。


 彼女は一目見て、すぐに動いた。即座に走り、二宮の背後から迫る。

 優七は二宮と桜を交互に見据える――血走った彼の眼は優七だけを捉えているようで、桜の登場など最早気付いている様子はない。


 そして優七は二宮の剣戟を真正面から受けた――衝撃波が体を響かせるがダメージはない。そして、

 桜が二宮の背後から迫り、剣を持たない左手を押し当てた。


「――ごめん」


 一言。それと同時に二宮の体が一度大きく震えた。


 次の瞬間、彼の体から力が抜ける。眠らせる魔法――桜はそれを使用して、対処した。


「ありがとう……桜さん」


 優七は息をつき倒れる二宮を見る。眠っても、手に握る刀だけは離そうとはしていない。


「上へと逃げた人も捕まえた。これで、事態は大きく進展すると思う」


 桜が言う。優七はそれに頷き――連絡すべく、メニュー画面を開いた。


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