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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第五話

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未知の力

 二宮の実験開始と同時に、駒場は少なからず高揚感を覚えた。


 今私達は、新たな歴史を刻みこもうとしている――思えばゲーム製作者の願望から始まった事件。現実としてあり得ない現象と遭遇し、それを受け入れる必要に迫られた現実。多くの人間が理不尽だと思ったことだろう。だがその中で、我々はとうとう未知の領域へと足を踏み出した。


 その先に存在するもの――それは、このゲームのシステムに干渉することを意味し、即ちそれは神に匹敵する行為ではないだろうかと、駒場は考えている。


「その中で、私が立つべき場所は……」


 決して、牛谷達には負けない――そういう考えと共に、彼は笑みを浮かべる。


 それほど経たない内にアップデートは果たされる。二宮の実験も上々。これを報告し、残るは――


 その時だった。突如二宮が駒場へと話し掛けてくる。


「どうした?」

「……なんとなくゲームのレーダーを確認した。そしたら――」

「ああ」


 二宮は恐る恐るといった様子で、話す。


「……プレイヤーが、ここに近づいている」


 ――それは、彼の考える理想郷が崩壊する最初のきっかけだった。



 * * *



 建物に到達した時点で、既に連絡は受けていた。


『まだ動いてはいない……けど、間違いなく二宮君については気付いているはずよ』


 麻子の声。優七は同意しつつ、どうするか桜へ視線を送る。


「ここからは、二手に分かれたいところだけど」

「なら私が周囲を見張る」


 RINが言う。そこで彼女は優七と桜に目を向ける。


「二人なら連携もできるだろうし……それに、私の能力は広い空間の方が発揮できるから」


 優七は彼女の能力を思い返し――頷いた。


「それじゃあ、お願いします」

「うん……外の方は任せてもらっていから、思う存分やって」


 言葉と共に優七と桜は走り出す。ここまでできるだけ音を立てないよう、気付かれないよう動いてきたわけだが、もうその必要もない。ここからは一気に突き進むだけだ。

 RINが後方で対応してくれる事実も大きい――なおかつ周辺にいるプレイヤーは二宮一人。これならば――


 荒廃した建物の中に入り、進む。おそらく上にいるのだろうと考え、階段を上りなおも進む。

 果たして――上階で廊下を見据えた時、人影を見つけた。スーツを着た男性。あれがおそらく――


「見つけた!」


 桜が叫ぶ。優七は同時に走り出し、その人物へ迫ろうとした。


 だが、その瞬間新たな人影。それは――


「高崎」

「二宮……!」


 声を発し優七は足を止めようとした。だが二宮は動く。


 剣を構え、優七を見据える。よくよく見ればそれは日本刀。ゲーム上、刀と呼ばれる武器がないこともなかったが、彼が握るようなデザインの刀は見たことがない。それが意味するところは即ち、何らかの手段で新たに生み出された物。


「ここで決着をつけようじゃないか」


 自信にあふれた言葉と共に、勢いよくそれを振った。直後青色の刃が生じ、優七達へ真っ直ぐ向かってくる。

 優七と桜はそれを回避した――この瞬間、デュエルを行っていない以上、二宮はプレイヤーキラーとなった。


「二宮! なぜだ!」


 声を発する。優七は相手を見据え、それ以上の言葉を紡ぐことができなかった。


「なぜ!? そんなもの、一つしかないだろう!」


 絶叫と共に刀が振られる、先ほど以上に大きい刃。それを優七は避け、後方で轟音が生じる。


「お前が、ここにいるからだ!」


 刀を構える。ここにきて、優七は躊躇った。


 殺意を所持し、今度こそ殺すつもりで二宮は優七を見据えている。そればかりではない。桜のことを半ば無視するように、二宮はただ優七を見据えていた。


 常識的に考えれば、勝ち目はほとんどないはずだった。先の事件からさして日数が経っているわけでもなく、さらにレベルだって変わっていないはずだ。それなのに二宮は襲い掛かっている――間違いなく、新たに得た刀により、気が増長している。


 優七としては、どうするべきか対応に窮した。本当に優七に対抗できるだけの力があるのか、それとも二宮が改心しているのか――判断がつかない。


「……優七君」


 桜が呟く。直後、スーツ姿のもう一人の男性が動き始める。

 上へ逃げるようだ――そこで彼女は声を発する。


「プレイヤーでないはずだけど……追う必要が――」

「わかった」


 優七は頷く。


「俺がどうにかする。桜さんは、追って」

「わかった」


 承諾と同時、彼女は駆ける。二宮は動かない。完全に眼中にないのか、それとも近づくまで待っているのか――


「心配するなよ、俺の標的は高崎だけだ」


 言葉通り、桜を素通りさせる。そこで優七は声を上げた。


「あの人が、二宮を建物から出したんだろう?」

「……ああ。だけどもう用済みだ」


 用済み。そうした言葉を聞き、優七は訝しげな視線を送る。


「それは、どういう意味だ?」

「あいつは俺に実験をして欲しかったらしい。新たな武具などを使えるかどうかを……その結果俺はこの刀を手にした」


 自身が握る刀を見ながら二宮は語る。


「本当なら、もっと実験を行うはずだったはずだ。けど、お前が来た」

「だから必要ない、と?」

「そうだ」


 切って捨てる物言いに、優七は少なからず不快感を覚える。ただ二宮自身がそう述べることも理解はできる。

 本当ならば、二宮も協力的だったはずだ。けれど、優七が現れたことで、考えを改める他なかった。


「高崎、決着といこうじゃないか」


 二宮が言う――だが優七は応じられなかった。デュエルではなく、本当の殺し合い。

 なぜそこまでする必要があるのか――いや、彼自身身の破滅を招き失うものが何もないからこその、行動なのかもしれない。


「二宮……!」


 優七は声を上げる。だが二宮は応じず、突撃を敢行した。


 そのため、優七は強制的に戦わざるを得ない。もう一人は桜が追っている。その人物を捉え、二宮を捕まえることができるまで、時間を稼ぐしかない。


 二宮の刀を優七は避ける。動き自体は以前戦った時とほとんど変わっていない。だからこそ対応できるが――問題は、刀。それがどれほどの特性を持っているか。


 優七はまず刀を受けるべく構えようとした。だが次の瞬間、二宮の持つ刀が青白く発光する。

 刹那、優七は受けるのではなく回避に移る。二宮の刀から生み出された青い光は優七の横を通過し、建物を壊す。


 優七としては戦いたくない。しかも今回はデュエルなどのような特定条件下ではなく、生死に関わる通常の戦い――迷いが、生まれた。


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