表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第五話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

121/137

捜索手段

 指輪が盗難されていたという事実から、政府もこの問題を危険視しそれなりに調べていた――ようなのだが、


「防犯カメラに容疑者の姿は映っていますが、詳細はわかっていません」

「彼の指輪を狙って行動していたとみるべきか、それとも偶然と見るべきか」


 警官の言葉に江口は呟く。


 今は建物の入口近くで全員集まり、話し合いをしているところ。とはいえ盗難云々のことについての情報はそれほど多くないらしく、中々厄介な事件だと優七は認識する。


「どちらの線でも考えましたが……その日、当該の人物は泥酔し部屋に入る前に階段でずいぶんとうろうろとしていたそうです」

「……盗んだ犯人はカメラに映っていた人物で間違いないとのことだが、その人物の特定はできていない、と」

「はい」

「単なる物取りという可能性の方が高そうだな。逆に言うと犯人の特定ができないため、厄介そうだ」


 ため息をつく江口。どうも人を見つけて捕まえる――という単純な話ではなさそうだった。


「指輪の行方は?」

「調査は継続中ですが、足取りについては候補がいくつもあり詳細はまだ」

「できるだけ急いだ方がいいな。実際指輪が悪用されてしまった以上は」

「はい」


 頷く警官。それから彼は立ち去り、江口は優七達へ説明を行う。


「ひとまず……待機しかなさそうだな。とはいえこうした事態に陥った以上、警察も今まで以上に本腰を入れるだろう。だが」


 と、江口は歎息する。


「問題は、こうして警察が調査している間にも敵が行動する可能性が高い、ということだ。誰が連れ去ったか調査する必要もあるし、敵が二宮君を利用して何かをするまでに捕まえらるかどうか……」

「誰が連れ去ったか調査、とは?」


 桜が問い掛けると、江口は彼女を見返し、


「二宮君がこのルームにいることを知っている人物は……というより、その情報を取得できるのは、政府関係者しかいない」


 そう断言し、江口は口元に手を当て検証を行う。


「このルームの中にいる二宮君を連れだすのに必要なものは二つ。このルームに入り込む権限と、彼がここにいるという情報。前者については指輪の盗難で解決しているが、後者についてはそもそも二宮君が事件を引き起こしたという事実を知らなければならない……つまり、そうした情報を取得できる立場の人間ということだ」


 江口はそこまで語ると、小さく息を吐いた。


「こう考えると、二宮君を連れだすために盗んだ指輪を使った輩はいるが、それと情報を取得し彼を連れ去った人間は別にいるのかもしれない」

「政府関係者は、プレイヤーでない可能性もありますね」


 RINが言う。それに同意するように、江口は首肯した。


「そうだな。だとすればルームの中でも痕跡は残らないため、判断が難しい」

「指紋とかの物的証拠は?」

「……ルーム上の、というよりゲーム上のアイテムについては、指紋といった物が検出されないようになっている。これは構造物でも同じ事だ。髪の毛でも落ちていれば話は別かもしれないが、NPC扱いの人物による髪や汗などは、時間が経つと消えるようになっている。この辺りの挙動がゲーム通りなのかわからないが……」


 となると、犯人がプレイヤーではないNPCだった場合、ここを訪れたという情報はルームの中では得られないということになる。


「こちらはひとまず情報を取得したなどのアクセスログなどを調べてみることにする。期待薄だとは思うのだが」

「それじゃあ、俺達は?」

「優七君達は少しの間待機していてくれ。協力する姿勢は理解できている……何かあったら、連絡しよう」


 とはいえ、話を聞く限りでは敵を捕まえるのは難しそうな状況――優七は「はい」と返事をして、一度RINのルームへ戻ることとなった。


「八方塞り、とまではいかないけど……俺達にやれることはないのかな」


 優七は遠くにある雲を見つめながら呟く。二宮が連れ去られた。何をするつもりなのかわからないが――いや、


「敵の、目的についてなんだけど」


 優七が言う。桜やRINは言葉により視線を注ぐ。


「新種の魔物を生み出したことから考えても、何か新しいアイテムとか、魔物とかを生み出しているんだと思う」

「アップデートをしようとしているのは、まず間違いなってことなのかもしれないね」


 桜が言う。優七は心の中で同意し――それがどういうことになるのかを想像した。

 ゲーム上のシステムが現実世界に干渉するのであれば、アップデートも同じように起こるだろう。実際敵は新種の魔物を生み出してみせた。それを考えると、アップデートと同時にこの世界に新たな影響を及ぼす。


 ただ、それは間違いなく敵にとって都合のいいものだろう。そしてアップデートという作業を行うことにより、まず間違いなくゲームの世界と現実世界が今以上に深く密接に関係することとなるだろう。


 止めなければならない――優七はそう強く思う。


「これは逆にチャンスとも言えるんだけどね……」


 RINが言う。視線を向けると、彼女は腕を組みながら語り始めた。


「敵はずっと密かに行動していた……けど、どうやら今回騒動を引き起こした。上手くこれを利用できれば、相手の所に辿り着く可能性もある」

「ここまで大々的に動いているのには、何か理由があるのかな」


 優七が疑問を乗せた呟きを放つ。それに応じたのは、桜。


「大胆に行動できる……もう隠す必要もなくなったという可能性もあるかな」

「とすると、アップデートが起きるのはそれほど遠くないってことか」

「かもしれない。早く捕まえないと」


 しかし現状、何もできない。掲示板などで情報集めをするにしても、政府側としてはまだ公にして欲しくないだろう。となれば調査もできず――優七達は江口の指示通り待機するしかない。


「……敵は」


 ふいに、話し出したのは雪菜だった。


「二宮さんを連れ出して……何をするつもりなんだろう」

「……連れ出した理由は、間違いなく先の事件に関連することだろうな」


 優七が沈鬱な面持ちで語る。


「二宮も考えがあって共にいったんだと思う……その目的は――」

「アップデートと何か関係があるのか、それが疑問かな」


 RINが語り出す。確かに、今回の件とアップデートは関係があるのだろうか。


「もし関係あるのだとしたら……二宮君を連れて行ったのは……」


 色々と考えられる――が、優七は自身、ここで二宮を連れ去るという行為のデメリットについて思い浮かべた。

 現在政府側は牛谷達の尻尾も掴んでいない状態だった。もし敵の目的がアップデートであるならば、この状態を維持し目的を果たせばいいはずだ。


 だが、それをしなかった。逆に二宮を連れ去るというリスクのある行為に及んでいる。彼を連れ去るほどまでに重要な何かをするのか。それとも――


「手が届きそうで届かない感じがもどかしいな」


 RINが言う。確かに何が――手掛かりがあればそこから何かを掴めるかもしれない。

 沈黙がルームの中を駆け抜ける。果たして自分達はどう動けばいいのか――


「……一つ、手がないこともないけど」


 唐突に桜が発言。それに優七達は一斉に反応する。


「現在、江口さん達はアクセスログなどを調べることにしているわけだけど……これには時間が掛かるはず。よって、待機と言えども今日中に片がつく可能性は低いと思う」

「確かに……」

「なら、私達は私達でできることをしたい」

「何か手がかりが?」


 優七が問うと、桜は小さく肩をすくめた。


「手掛かり、という程でもないけど、ゲーム上のプレイヤーを見つけるのなら、一つ可能性があるかなと思って」


 その言葉に、優七もはっとなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ