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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第五話

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指輪の性質

 当該のルームに辿り着き、二宮のいた部屋へと優七達は入り込む。外観が物々しく部屋も無骨なものだと想像していたのだが、生活に必要なものは整えられており、むしろ快適とさえ言えるものだと感じた。


「どうもここに入って来た人物がいたらしいのだが……ここを管理している者は、記憶にないと語っている。そして、ルームのログなどを調べてみたのだが……」


 そこで江口は苦い顔をした。


「調べた所、盗難された人物だった」

「盗難……?」

「ゲーム上ではログインする際IDとパスワードが必要だったはずだ。けれど現実世界ではそのようなことがなくなり……盗まれやすくなった」


 ――とはいえ、指輪には防犯機能が施されている。これはゲーム上にある固有の仕掛けで、もし指輪が使用者の手から離れた場合は警告が表示されるようになっている。実際優七も指輪を外した場合そうした警告が出るのは実生活でも認識している。


 指輪を盗まれた場合は、強制的にログアウトするなどして一度ゲームを離れればまた指輪は復活しているためそこまでデメリットにはならない。重要なものならば外せないようにするべきなのだが、指輪自体をアタッチメント方式で変更できるような設定だったため、このような形となっている。


「知っての通り、指輪を外せば警告が現実世界でも出る……ただこの警告は五分もすれば止まってしまうため、例えば眠っている間に抜き取られるなどした場合は気付かない可能性もある」

「音も発するので気付くような気がしますけど……」


 優七の言及に、江口は肩をすくめた。


「例えば泥酔状態などではどうだ?」

「ああ、なるほど」


 確かにそれなら気付かれない――となると、


「指輪はおよそ一ヶ月前に紛失届があった。今回のことに利用するために指輪を盗んだかどうかはわからないが、何か悪だくみをするために確保していた可能性は高い」

「指輪は、他人がはめても使えるんでしたっけ?」


 桜が問うと、江口は頷いた。


「検証済みだ。もっともプレイヤーとして活動していた人物でなければ、使うのは難しいと思うが」

「となると、盗んで使ったのは例えば引退したプレイヤー?」

「どうだろうな……その辺りについては選択肢を狭めない方がいいだろう。二宮君を連れ去った人物……あらゆる可能性を考えるべきだ」

「でも……なぜ、二宮を……」


 優七の言葉に、江口は小さく肩をすくめた。


「わからん。だが以前の事件……背景などを鑑みて、利用価値があると考えたのかもしれない」


 そう言うと、江口は室内を見回した。


「争った形跡がない以上、二宮君自身が任意で出て行った可能性が高いとも考えられるからな」

「……だとすると、俺は一度家に戻った方がいいですか?」


 もし二宮が独自に行動するなら、故郷に戻るのでは――すると江口は「問題ない」と答えた。


「一報を聞いた時点でプレイヤーを数人派遣している。二宮君と比べて能力の高い人物ばかりだ。もし自身の家に戻っても、そのプレイヤー達で対応できるだろう」

「そうですか。なら、俺達は――」

「現在盗まれたプレイヤーについて話を聞いている。ただ盗難届の資料によると、元々率先して戦っていたプレイヤーではないため、いつ盗まれたのかわからないくらいに指輪に対する認識が欠けていた。よって、誰がそうしたことを行ったかがわからない……一つ一つ調べていくしかないな」


 長丁場になりそうだ――本当なら警察の仕事なのだが、プレイヤーでなければ対処が難しい以上、優七達も行動するしかない。


「警察側のプレイヤーには既に働きかけてある。ここに来るよう言い渡しているため、到着した段階で私達も行動を開始する」

「盗まれたプレイヤーの情報を受けて、行動するんですね?」


 桜が確認すると、江口はすぐさま頷いた。


「そうだ。盗んだ側から考えると、指輪を抜き取る行為を気付かせないようにするには、寝ている時などに限られる。となると彼の親しい友人か……まあ、何の関連もない人物が適当に狙いを定め寝込みを襲ったなどという可能性もゼロではない。調べるのは厳しいかもしれないな」


 言った後、江口はため息をつく。


「まあ、もう一つの可能性の方から追及していくべきか」

「もう一つ?」


 優七が問い返すと、江口は重い表情で首肯した。


「二宮君の事件に関してはプレイヤーに話が出回っている……が、彼がやったという事実や、さらに彼がこの場にいるという情報は、政府関係者しか知らなかった」

「となると、相手は……」

「そうした情報を調べられる人物……少なくとも情報に触れることのできる人物ということになる」

「……そんなリスクをしてまで、犯人は二宮を?」

「何か、目的があるんだろうな」


 そんな難しい言葉が漏れた時、建物の管理者がやって来た。


「警察の方が」

「来たか。私は少し話をしてくる。待っていてくれ」


 江口は立ち去る。残された優七達は、一時沈黙したが――やがて、


「……止めないと、いけないね」


 桜が声を発した。それについては全員同意し、大きく頷く。


「嫌な、予感がする」


 次いで声を発したのは、優七だった。


「二宮をどうするのかはわからないけど……この事件、牛谷とかいう人と大きく関係しているようにも思える」

「その可能性は十分あると思う」


 RINが同意。彼女は腕を組み、室内を見回しながら言う。


「彼らの目的……それが何であるかはまだ判然としていないけれど、色々と動いているのは間違いない。その一つとして二宮君を利用するとしたら……」

「それにもう一つ、問題がある」


 桜が続ける。全員を視線を注いだ時、彼女は重い声を発した。


「どういう形であれ、二宮君は連れ去られた……それだけじゃない。見た所争ったような形跡も見受けられない。二宮君はゲーム上の能力については放棄されていなかったらしいし、そうなると一方的に脅された、というのも考えにくい」

「自分の意思で、ついていった可能性もあるってことか」


 優七の言葉に桜は頷く。


「それが意味していることは……」

「わかっているよ」


 優七は拳を握りしめる。結局会えないままであったが、まだ二宮の心には優七のことが燻っていると理解できる。


「……ともかく、探さないと。二宮がどういう目に遭うのかわからないけど……手遅れになる前に、どうにかしたい」

「ええ、そうね」


 桜は頷き、優七は彼女と視線を合わせる。できる限りのことはする――そういう意思が視線を通して伝わって来た。

 次いでRINや雪菜を見る。二人もまた桜と同じような意思を持っているのだと確信できた。


 優七はそこで礼を言いそうになった――が、桜がそれを止めた。


「私達は、こういったことを解決する人間……でしょ?」


 関わるのは当然――優七は小さく頷き、同意を示す。

 そこで江口が戻ってくる。警察の人間を連れており――いよいよ、捜索が始まろうとしていた。


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