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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第五話

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緊急事態

 優七が江口を話し合い始めて数分……相手からは『そうだな』という返事を聞くことができ、


『うん……一度、反応を見てみるのもいいかもしれないな』


 ずいぶんと好意的な言葉を漏らし、江口は優七達が二宮と会うのを賛同した。


『話によると、精神的にもだいぶ落ち着いてきているらしい。一度引き合わせて話をするのもいいだろう』

「もし、問題が生じたら……」

『その時は私達も色々と動くさ。案内しよう』


 江口が言う。それに優七はお願いしますと告げ、


「では、どうやって行きますか?」

『現在、RIN君のルームだそうだな? 私もそこに入ることができるから、迎えに行こうじゃないか。ただすぐには難しい。一時間程待ってくれ』

「わかりました」


 優七は承諾し、通信を切った。それから昼食をとることにして、RINの案内に従いルームの中にあるログハウスへと向かう。


「料理は私に任せて」


 RINはずいぶんと張り切った様子で声を上げ準備を始める。優七達はそれを見送りつつ、リビングにあるテーブル席に腰掛けることとなった。

 彼女が料理をしている間、優七達は二宮と出会った時のことについて桜達と話を行う。


「まず俺が話し掛けた方がいいのかな?」

「いきなり飛び掛かってくるようなことにはならないと思うけど……まず、優七君が口を開いてみて反応を窺うのも一つの手と言えば手だけど……」


 桜が言及。やはり不安はあるのか、難しい表情をしている。

 その雰囲気が伝播したのか雪菜も似たような表情。とはいえ会いに行くと決めた以上、どんなことがあっても覚悟はしておかなければならないだろうと優七は思う。


(今でも、恨んでいるのかな……)


 優七は考え――当然だろうという考えが頭の中を埋め尽くす。

 どういう経緯であれ――あの事件は二宮が引き起こしたことであったとしても、最終的に居場所を奪ったのは優七自身である。


 逆恨みと言われてしまえばそれまでだが、二宮は決して納得しないだろう。だからこそこの問題はどこまでもついて回るし、何より犠牲者も出てしまった――どう足掻いても解決策がない。


「優七君が話し出すよりも江口さんと合流した段階で、それとなく二宮君の様子を確認してもらうのがいいかもね」


 そこで桜が声を上げた。


「もし様子がおかしかったら、会うのを中止するしかないかもしれないけど……」

「それも仕方ないと思う」


 優七は頷く。とはいえ、二宮がそういう変調を面に出すとは考えられない。


 戦いとなったら、どうするべきか――こういうことを考えている時点で会うのは時期尚早のような気がしないでもない。いや、こんなことを会いに行こうとしていちいち考えていてはいつまで経っても会えないだろう。


「ま、今はとやかく言っても始まらない。まずは江口さんと合流してから、かな」

「そうだね」


 桜が頷き――優七達はRINの料理を待つことにした。


 それほど経たずして完成した料理は、煮込み料理を始め結構手の込んだもの。ゲーム機能を使えばそれほど時間をかけずに完成できるのだが、それでもスキルを所持していない人間と比べれば短時間であり、料理系のスキルが相当高いのだろうと優七は思う。


(あんまり使わなかったけど、料理にはパラメーターを上昇させる効果もあったんだよな)


 ゲーム上の料理は、それこそ普通の食材ならば単なる趣味的スキルなのだが、良い食材と高いスキルを磨けば、一時的にステータスを上昇させることができる。


 中には丸一日効果を持続するものまである――料理にも目を向けて欲しいということで運営が考案したシステムだが、料理スキルを極めること自体が趣味の領域であったため結局あまり使われなかった。しかし料理を用いてステータスを上昇させ活躍したプレイヤーを幾度も見たことがあるため、持っていて損はなかったのだろうと思ったりもする。


 現実世界となった今はどうなのか――薬などもきちんと効果があるため、もししかるべき食材を使用したならばその効果が及ぶかもしれない。ただ食材自体魔物からのドロップしか入手方法がなくなったため希少価値が高い。ずっと保存できることを考えれば、後生大事に持ち続けてもおかしくない。


「いただきます」


 RINが言うと優七達も同じように声を出し、食事が始まる。


 優七が何気なく視線を向けると、RINがサラダなどをよそい、なおかつ色々と目を掛けてくれているような感じ。ここは彼女のルームであり、優七達は招待客だからというのが理由だと考えられるが、それでもなんとなく遠慮してしまうのは彼女が有名人であるためなのか。


「おかわりもあるから、ドンドン食べてね」


 言われるがまま優七は食事を行う。優七としても料理は非常に美味で、スキルが上がるとこういう味も変化するのだろうか――などと思ったりする。

 やがて一通り食事が済んだ段階で、一度江口と連絡を入れる。調理時間が短かったためまだ一時間は経過していない。しかし――


『今から行く』


 そう言い残し江口は通信を切った。先ほどと異なり、声音がずいぶんと硬かった。

 それは言ってみれば、多少ながら切羽詰まった状況――それを桜やRINも認識したのか食事の時の和やかな表情から硬質な顔に変わっていた。


 何があったのか――優七の来事の中に不安が頭の片隅に生まれる中、江口がRINの家へとやってくる。


「全員いるな……問題が発生した」


 一体――優七達が言葉を待っていると、江口が語り出した。


「二宮君が……脱走した」

「え……?」

「誰かが手引きしたのは間違いない。だがその所在についてはわからない。魔法などによって証拠が隠滅されてしまったようだ」


 優七は呆然となる――これは何の因果か。


 いや、もしかすると二宮がこういう行動を起こすために、優七達は何かしら感じ決断をしたのかもしれない――ありえないのだが、そんな風に思えて仕方がなかった。


「できれば、現場検証を含め君達に協力を願いたいのだが」


 江口としても無茶な要求だと理解しているのか、やや控えめな口調だった。


 彼自身優七達の参加は消極的な雰囲気だったが――この場にいる誰もがまずい状況だと理解できているはず。優七は即座に頷き、さらに桜やRINも同様に頷いて見せた。


 そして、問題は――


「君は、どうする?」


 雪菜に問う江口。問われた彼女は一度優七達を見回した。

 誰も何も言わない。それは雪菜の判断に任せるという意味合い。


「……私は」


 声を出す彼女。しばし沈黙が生じた後、


「……行きます」

「よし」


 江口は呟き、優七達全員に視線を送る。


「私が案内する。予定していなかった事態となったが……協力してくれ」


 そう言い、先んじて屋敷から出た。それに優七達は無言で追随し、RINのルームを去ることになった。


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