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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第五話

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彼女達の対峙

 この日、雪菜にとっては二度目の島の反対側。綺麗な形の積乱雲が遠くに見える景色の良い場所で、少なからず緊張を抱きつつ桜の言葉を聞くことにする。

 正直、唐突に出会った時胸の痛みが生じたのは事実だった。けれど内心である程度覚悟はしていたし――何より優七と桜が事件で共に戦ったことを知っていたため――それほど大きな衝撃ではなかった。


 むしろ今、対面している今こそ体が固まっているような状況であり――


「えっと、そう緊張されるのもなんだか困るんだけど」


 桜が言う。雪菜は上手く自覚できていないが、どうやら緊張が克明に伝わっているらしい。

 そうした態度のせいか桜もすぐには話そうとしない。対する雪菜としては言葉を待つか、それとも頭の中に生じた疑問をぶつけてみるのが先か――


「……あの」


 少しして沈黙を破ったのは、雪菜。


「一つ、訊いてもいいですか?」

「あ、うん。どうぞ」


 頷く桜に対し、雪菜は少しばかり窺うような顔をしつつ、


「……お二人は、付き合っているんですか?」


 主語のない問い掛けではあったけれど、桜はどういう意味なのか理解した様子だった。

 雪菜自身問い掛けを口にした瞬間痛みが生まれたが、それでも前程ではなかった。とはいえそれがどういうことなのか半ば理解できていた。言ってみればそれは、目の前の人物を見てあきらめの境地に至ったとでもいえばいいのだろうか。


 雪菜の目から見ても、綺麗な人だと思う。醸し出す雰囲気などもどこか気品があるようにも見え、自分では敵わないだろうと心の底から思ったりする。


「……えっと」


 苦笑する桜。その反応に対し、雪菜はさらに質問する。


「そういうことを今話そうとしていたんではないんですか?」

「あー、まあ、そうだけど……」

「その、私にはなぜ話しにくそうにしているのか理解できないんですけど」


 純粋な疑問だったのだが、桜は詰問されていると感じたらしく、困った顔を見せた。

 そこで雪菜も口を閉ざす。沈黙が生じ、しばし両者の間に微妙な空気が漂う。


「……なんというか、正直微妙な所ではあるの」


 やがて発した桜の回答はそれ。途端雪菜は首を傾げる。


「微妙、ですか?」

「うん、そう」


 言葉と同様微妙な表情を見せる桜。


「付き合っていると断言はできない……その理由は、激変した世界によるものだけれど」

「つまり、こうして戦っているため、付き合う暇もないということですか?」

「それに近いかな」


 雪菜としてはなんとも煮え切らない回答だったが、そう述べるのが精いっぱいだと桜の顔も語っていた。

 付き合っていると明確な返答が成されると思っていた雪菜としては若干拍子抜けではあった。ただ言葉の端々から両者共どういう想いなのか認識しているのだろう、と推測することはできた。


 そして優七は記憶を失う前――自分が記憶を失うことで優七自身色々と悩んだのではないかとなんとなく思う。


「……今回話をしようと思ったのは、別に城藤さんに何かを要求するわけじゃないの」


 やがて桜が話し出す。その顔つきはどこか神妙なもの。


「その……記憶を失ったことで私や優七君について色々気にしているかなと思ったから、そういう必要はないと言いたかっただけで……」

「そう、ですか」


 根が優しいのだろうと、雪菜は思う。

 どこぞの漫画みたく「優七は渡さない」と宣言でもされるのかと思っていた雪菜にとってはやはり拍子抜けな言葉。とはいえこれは来たる戦いに際し余計な軋轢を生じさせないために腐心しているのだと理解することもできる。


「……今は」


 そして桜は語り出す。


「すごく中途半端な関係なわけだけど、もちろんそれはいつか解消するつもりではいる。ただ、近い内に大きな戦いがあるかもしれないから、今はまだ――」


 それ以上は何も語らない。けれど雪菜も理解できた。


 結局、自分も彼女も――いや、RINを始めとして全てのプレイヤーは目先にある大きな戦いに照準を合わせている。だからこそそれまでは自らの感情を排し、ただ備えている。

 それはまさしく、自分達がこの世界にいるごくごく普通の人々を守るために――優七もきっと、同じように考えているはずだった。


「……わかりました」


 雪菜は頷く。同時に息を吐き出しつつ、


「すいません……なんだか」

「謝らないで。別にそっちが悪いことをしたわけじゃないんだから」


 微笑を浮かべる桜。雪菜は心の底から綺麗だと思った。名前の通り、桜を連想させる艶やかなもの。

 自分とは、きっと生まれも育ちも違う人物で――そうやって比べるということは、少なからず自分がコンプレックスを抱いているということだろうか。


(もしかすると、過去の自分は……)


 そうやって自分と彼女を見比べ、悩んでいたのかもしれない。けれど――


「あの」

「うん、何?」

「正直、今の私は好きなのかどうかもわからないんですけど……」


 胸中にある痛みの感情を思い出しつつも、語る。


「けど、彼とは色々と話がしてみたいとは思ったんです……その、迷惑でなければ」

「私が首を横に振る権利はないよ。それに優七君なら喜んで頷いてくれると思う」

「……わかりました」


 心の中で優七と会話をしていた時のことを思い出す。憂いを帯びた表情は、少しだけ雪菜をドキリとさせる。

 きっと、記憶を失っても自分は――などと考えつつ話を終え、雪菜達は反対側まで戻ってくる。


 そこには色々と話し合う優七とRINの姿。内容は今の雪菜にとって聞き覚えのない単語がたくさん存在しており、おそらくゲームについてのものだとわかる。


「――あ、終わったの?」


 RINが問う。桜が「はい」と答えると、彼女は雪菜達に話し出す。


「優七君と話し合ったんだけど、今から前の事件の渦中にいた二宮君に会いに行ってみようかという話に」

「彼に……?」


 優七も頷いた。どうやらRINと会話をして何かしら思う所があったらしい。


「二人はどう? 優七君一人よりもいいかなとは思うけど」

「……私は、同行します」


 先んじて発言したのは、桜。


「その、私も彼と会ったことがありますし……気になっていたので」

「なら、雪菜ちゃんは?」


 問われ、沈黙する。一緒に行った方がいいのかと思ったのだが、そもそも雪菜自身はその二宮という人物と接点がないため判断ができない。

 そこで優七に視線を移す。見返した彼はちょっとばかり苦笑し、口を開いた。


「えっと、無理に同行しなくてもいいと思うよ」


 ――当然そういう返答になるとは思ったが、なんだかお前は来るなとでも言われたような気がした。

 彼にとっては配慮した言葉だったのだろうが――そういえば記憶を失う前は負けず嫌いで色々と突っかかっていたらしい。そういう性格の片鱗は、まだ残っているのだろうか。


「……迷惑でなければ、私も」

「なら、決まりね」


 指を鳴らしRINは優七へ告げる。


「まずは政府関係者と接触した方がいいかな」

「なら、江口さんですね」

「他に同行者は必要?」

「いえ、これ以上増えてもさすがにまずいと思いますし、とりあえずはこのメンバーで」


 会話を行う優七達を見つつ、雪菜は自分の両手を眺める。そこで思い出されたのは、RINに示した決意。

 自分のやるべきこと――それが正解なのかはわからない。ただ記憶を失ったからこそできることもあるのではないと、雪菜は思う。


 そして、自分は訓練を受けていてもゲームのことも詳しく知らないし、まして生じた事件のこともあまりわかっていない。

 だから、今回の件はそうした物事に触れる好機――雪菜はそんな風に思いつつ、優七がメニュー画面を開く光景を眺めることとなった。


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