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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第五話

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エンカウント

 優七自身、美術館を見て回った後適当な場所で解散しようかとも考えていた。麻子の配慮はありがたかったけれど、それでも急にこうした場を用意されて戸惑ったのは事実。


(とはいえ、桜さんは怒るかな……)


 彼女に対してこういう考えは申し訳ないかなと思いつつ――遅めの昼食をとろうとして店を選んでいる最中、雪菜たちと遭遇した。


「えっ……」


 まさかこんな所で会うと思っていなかったのは誰もが一緒。なおかつ雪菜の隣にいるのは紛れもなくRIN。桜も絶句し、言葉を失う。

 四人が一斉に硬直する――この時点で優七はまずいと悟る。これだけの人数硬直すれば周りから注目される可能性がある。周囲の状況からRINの正体がバレているわけではないが、注目されればどうなるかわかったものではない。


 だから優七は半ば強引に口を開いた。


「ああ、えっと……そっちはどうしたの?」


 とはいえ、咄嗟にいい言葉が思い浮かばなかったのだが――RINは優七の意図を理解したらしく、微笑を浮かべた。


「ああ、ごめんね。えっと、私達はこれから訓練に行こうとしていたんだけど」

「ああ、そうなんですか」


 どうやら周囲には露見されていない模様。とりあえずフリーズからは脱したので、優七は改めて二人を観察する。

 買い物をしていたようで、両者共紙袋を持っている。雪菜の方は優七達を見てまだ驚いた表情が張り付いたまま。


 桜がRINと会話を始めたが、それでもまだ雪菜の表情は解けない。何か声を掛けた方がいいのかと思った時、


「……ねえ、優七君」


 ふいに桜から話し掛けてきた。


「ちょっといいかな?」

「え? あ、うん」


 少し離れた場所に移動。その間にRINは雪菜に話しかけ、別所に移動する様子。


「どうしたの?」

「……私自身、雪菜と会うのは久しぶりで、少し話をしてみたいと思うんだけど……」

 提案に、優七は沈黙する。それについて優七自身首を振るような権利はないのだが――

「えっと、つまり?」

「その、麻子さんの好意を無駄にしてしまうかもしれないけれど……こうやって遭遇した以上、私としてはきちんと話をしておきたいの」


 桜の言葉は真剣。表情から桜自身雪菜のことを慮っているのがはっきりとわかったため、優七としても頷いた。


「わかった。いいよ」

「ごめんね……えっと、RINさんのルームに行くらしいけど」

「どこかでまた合流するってこと?」

「そういうことになりそう……ごめん」


 謝る必要はない――と思いつつ、優七は首を縦に振って桜の言葉に改めて了承する。


 そこから優七達は移動を行い、またRINと連絡をしつつ彼女のルームへと入る。優七としては以前入ったことのある孤島。一方の桜は初めてであるためか、やや興味深そうに周囲を眺めていた。

 家の前でRINと雪菜が合流し、どうするかを協議。そこで桜は雪菜と少し話したいと申し出て、二人は別所に移動した。


「……大丈夫かな」


 これはRINの発言。さすがに騒動にはならないだろうと優七は口を開こうとしたのだが、


「なんというか……いきなり決闘とかしないよね」


 どうやら事情は知っているらしいが――優七はその辺りについては問わず、別のことを思う。


(……漫画とかドラマとかの見過ぎのような気がする)


 桜自身穏便に済ませようとするだろうし、雪菜だって戦う意志はないだろう。

 話す内容はさすがに訊けなかったが、主だった会話内容は優七自身のことだろう――そう思うと不思議なため息が口から漏れた。


「どうしたの?」


 RINが問う。優七は見返し、誤魔化すように笑みを向けた。

 正直な所、優七自身は自分に二人に想われる要素はないんじゃないかと思ったのだが――麻子などにしてみれば「もっと自信を持ちなさい」という話なのだろうか。


 ともかく、桜達が戻って来るまでは時間があるだろう――優七は少し緊張しつつRINへと話しかけた。


「俺が雪菜を紹介してから……会っていたんですか?」

「ん? そうだね」


 頷くRIN。一緒に買い物をするような仲なので、それなりに進展しているのだろう。


「優七君は……小河石さんとデート、だったわけだよね?」

「……麻子さんに引っ掛けられたんですけど」

「麻子さん? ああ、直原さんのことか」


 RINは苦笑。次いで優七に視線を合わせ、


「きっと優七君の表情が芳しくないからだね」

「……そんなに落ち込んでました?」

「そうは見えなくても、事件に関して知っている人は大なり小なり思う所はあると思う」


 そういうことか――優七は小さく嘆息しつつわかりましたと応じる。


 そこで優七は、ふと二宮のことが頭に浮かんだ。現在は政府の監視下にある彼だが、現在はどうしているのか。


(江口さんの話によると、政府プレイヤーのルームの中にいるらしいけど)


 どうやってプレイヤーを押し留めるのかなど疑問はあるが、まあ政府の事だし大丈夫だろうとは思う。

 ただ、一度気になり始めると考えがそちらへ行ってしまう。


(もう一度、話をしたいところだな)


 一方的に糾弾されるだけかもしれないが、それでも優七としては話がしたいと思った。


「……優七君?」


 ふいにRINから呼び掛けられる。そこで優七は我に返り、


「あ、すみません」

「何か気になる事が?」

「あ、その……俺が関わった以前の事件で捕まえた友人のことなんですけど」

「会いたいってことか」

「まだ話のできる状態ではないかもしれませんけどね」


 肩をすくめる優七。とはいえいつかは向かい合わなければいけないこと。

 引きずっているのはむしろ当然かもしれない――それを是正するには、どういう形であれ二宮と話をしなければいけないと、優七は思う。


「うーん、そうだね」


 RINは優七の言葉を聞いて短く唸る。何やら考えている様子だが――


「それなら、今から会いに行く?」

「……へ?」

「善は急げと言うでしょ? 何か抱えていることがあるなら、早い方がいいよ」


 まさか彼女から提案が――優七は多少驚きつつ、彼女の言葉を聞く。


「それに、事件の後満足に話ができていないのなら、きちんと決着はつけるべきだと思うし」

「……とはいっても、二宮は俺の事を恨むばかりのような気がしますけど」

「心変わりしている可能性だってあるじゃない」


 ずいぶんとポジティブな思考。


 それに政府としては、もしかするとまだ優七とは会わせられないということで、拒否されるかもしれない。そうであればあきらめる他ないが、二宮の現状がわからない以上、一方的に無理だと決めつけるのは早計だろう。


「……一度、政府側と話をしてみましょうか」


 優七の言葉にRINは「それがいい」と応じる。


「なら、雪菜ちゃん達が戻って来たら早速移動しようか?」

「え……全員で行くんですか!?」

「一人よりは、複数いた方がよさそうな気はしない?」


 何も答えられない優七。ただ、二宮と話をするまでは一人で行動するのは不安であるのも事実。


「優七君の事なら雪菜ちゃんも小河石さんも納得すると思うけど」


 一方的に話が進められる。間違いなく彼女のペースに巻き込まれていると感じつつ――優七は同意するように頷く他なかった。


「よし、それじゃあ決まり」


 指を鳴らしRINは結論を口にする。思った以上に行動的だと優七は彼女に対する評価をしつつ、優七は桜達が戻って来るのを待つことにした。


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