表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第五話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

114/137

彼女なりの決意

 雪菜はRINと共に買い物を始めたのだが――彼女の言う通り、確かにバレるようなこともない。一応帽子を被ったりとRINはそれなりに格好を変えているのだが、怪しまれることもないのはRINが上手くやっているからだろう。

 また、雪菜も買い物を開始して一時間もすればRINと共に行動することが慣れてしまい、リラックスしながら買い物を続けていた。


「ねえ、雪菜ちゃんはあんまりオシャレとかに興味はない?」


 ふいに放たれたRINの疑問。それに雪菜は首を傾げ、


「いえ、ありますけど……」

「にしては、あんまり食いつきがよくないかなと思って」


 言われ、雪菜は店頭にある洋服を眺める。流行りの服を見て欲しいなとは思った。雪菜は命を賭けて戦っているため、中学生にも関わらずお金も持っているから買える。

 けれど、次に感じるのは別にいらないのではないかという感情。そう思ってしまうのは、記憶を失ったことと関係しているのだろうか。


「……ふむ、そうだね。カフェにでも行ってお昼でも食べる?」

「あ、え、えっと」

「遠慮しないで」


 RINが笑う。雪菜は毒気が抜かれたような感覚を抱きながら、小さく頷いた。

 彼女の案内に従い、雪菜は店に入った。注文を済ませた後向かい合うRINを見て、意味もなく申し訳ない気持ちになる。


「どうしたの?」


 問い掛けるRIN。すると雪菜はさらに申し訳ない気持ちになり、


「大丈夫。怒ってなんかいないから」


 やんわりとRINは言う。それで全面的に安心したわけではなかったが、雪菜は「はい」と返事をして再度リラックスするよう努めた。

 それから注文を品がやって来た時、おもむろにRINは話し始めた。


「雪菜ちゃんは、記憶を取り戻したいと思う?」


 今までの世間話めいたものから一変し、雪菜はしばし考え込む。


「話したくないのなら、別に――」

「いえ……その、正直、わからないというのが本音です」


 結局、自分がどうしたいのかなんてわからない――まだ雪菜の頭の中は記憶を失って混乱の渦中にあった。

 このままでいるのも迷惑になるけれど、かといって記憶を戻したいという強い気持ちもない。結局自分がどうしたいかわからないため、心の中でグダグダと考え続ける。


「そっか……私自身そうした体験がないから上手く言えないけど……今の雪菜ちゃんがしたいようにしてみてもいいんじゃないかな」


 今の自分が――それで本当にいいのかと問おうとした矢先、さらにRINから声を掛けられた。


「記憶のことについては戻るかもわからない……冷たい言い方をすれば、仕方ないと割り切ることだって必要かもしれない」

「割り切る、ですか」

「記憶が戻る可能性だってゼロではないから、雪菜ちゃんとしては選択肢が二つあるかな。記憶を取り戻すために行動するか、それともそれをあきらめて今の自分であり続けることを選ぶのか」


 雪菜としては、難しい選択だった――ただ、雪菜自身それでも今までとは異なる鬱屈とした感情は出なかった。

 選択が目の前に出現したからかもしれない――今までどうすればいいのかもわからなかったので。


「……どちらにせよ」


 雪菜はフォークを手に取りながら言う。自分が何をすべきなのか、ようやく明確になり出した。


「それを決めるためには、戦うか戦わないかを決めないといけないですよね」

「そうだね」


 RINは頷く――彼女はきっと、雪菜の心情を把握しこうやって話を持ちかけたのだろう。


「私は、雪菜ちゃんに戦って欲しいと要求するつもりはないよ。けれど、事実だけを言えばもし記憶を取り戻したいと願うのなら、戦う選択をしないといけないと思う」

「それは……」

「雪菜ちゃんが記憶を失ったのは誰かに魔法を掛けられたわけではなく、現実になったゲーム世界によるもの。もし今後記憶を手にできるとしたら、そうしたゲームと干渉する必要があると思う。政府としては当然、戦いに参加する人をシステムに触れさせると思うし――」


 その言葉の直後、雪菜は一つ思い出した――記憶を失ったのは、自分ばかりではない。

 雪菜以外にも、白い光に取り込まれ記憶を失った人間がいる。誰もが望んだことではないだろう。政府の見解として『バグ』に取り込まれ、ゲームをやっていた記憶を全て引きはがされた。


 その中で雪菜は高レベルのプレイヤーであったため、政府も懸念を抱き訓練させている――政府側が直接そんな風に語っているわけではないが、そういう意図があるのだと雪菜もなんとなく理解できる。だから政府関係者である長谷を傍に置いている。


 もし、自分のやれることがあるとしたら――


「……RINさん」

「何?」

「見つかりました。私がやるべきこと」


 雪菜が言うと、RINは目を瞬かせて、聞き返す。


「教えてもらっていい?」

「はい……私がやるべきことは、記憶を失ったを取り戻すこと……けれど、それは私だけの記憶ではありません」

「……つまり?」

「記憶を失くした人間だからこそ、というのもありますけど……政府の方からも言われました。記憶を取られたため、ゲーム上でも他のプレイヤーと何か違うことがあるかもしれないと」

「だから、記憶を取り戻せるのではないかと?」

「はい。根拠なんてないですけど」

「でも、私もそうした可能性があるんじゃないか――と、思ったりもする」


 RINは言う。その顔には、確かな微笑が刻まれていた。


「そっか……そういう意志を固めてくれるなら、こうやって誘った意味があったかな」

「もしかして、そのために?」

「戦って欲しいなんて思っていたわけじゃないの。雪菜ちゃんには何かしら……戦うにしても戦わないにしても、結論を出して欲しかった」


 きっと、余程思いつめていたように見えたのだろう。関わってそれほど経っていないのにこうやって目を向けてくれることに、雪菜は感謝しなければならないと思った。


「あ、あの……」

「さて、冷めちゃうしこれ以上は食べてからにしようよ」


 RINに言葉を止められる。もっともなので雪菜は小さく返事をして、食事を始めることにした。






 それからどうするのかRINと少し話しあった後――雪菜は、少しばかり訓練がしたいと申し出た。

 このまま意志を固めたのだから、その気持ちが強い内から色々と行動したいという思いからだった。もちろんRINには申し訳ないということで謝ったのだが、


「とんでもないよ。なら、私も一緒にやっていい?」


 むしろ好意的な雰囲気だった。雪菜が自らの意志で動き出したことが嬉しいような様子だった。


「は、はい……あの、ルームに入りますか?」

「うーん、確かにそれでもいいけど……ちょっと政府の人と連絡してみようか」


 提案を受け、RINはどこかに電話を掛ける。それを黙ったまま待つ雪菜。同時に思考し始める。

 自分には、戦っていた経験値だけは残っている。長谷との訓練でそれらを少しずつ思い出してはいるけれど、完全とは程遠いため政府側もまだ戦わせるべきではないという結論に至っている。


 今まではどこか身が入っていなかったこともある。けれど、意識が変わった今ならば、以前よりもずっと――


「連絡取れたよ。とりあえずルームに入ろうか」


 RINが言う。雪菜は「わかりました」と答え、移動するべく足を動かそうとした。

 けれど、次の瞬間動きが止まる。


「……雪菜ちゃん?」


 RINが問う。けれどそれには反応できず、ただ一点を見つめる。

 雪菜は視界にはっきりと捉えていた。こちらに向かってくるのを見て、隠れた方がいいのではとさえ思ったが、結局できなかった。


 RINが視線を移した時には、すでに手遅れで相手もまた気付いていた。


 その相手は――優七と桜だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ