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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第五話

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父親の軌跡

 なぜ麻子がこんなことをするのか甚だ疑問ではあったのだが――最近バタバタしていたということもあり、優七と桜はログハウスで話をすることにした。


「きっと騒動もあって、休ませたかったんじゃない?」


 桜はそんな言葉で今回の状況をまとめた。それは――


「麻子さんがこんな行動をしたのは、俺のため? それとも桜さんのため?」

「難しいけど……優七君の方だと思う」


 ――優七自身暗い気持ちを抑えていたつもりなのだが、それはダダ漏れだったのかもしれない。


「まあ、麻子さんがやってくれたことはひとまず置いておくとして」


 と、桜はどこか嬉しそうに語る。


「こうやって会った以上、遊ばないと損だよね」

「……何も決めていないけど」

「わかってる。それじゃあプランは一度外に出てからにしない? 私の方のゲートを開くということでいいよね?」

「うん。俺の方は何もないし」

「何も無くても、色々と案内してもらえるだけでも嬉しいんだけど……ま、その辺りはまた今度ということで」


 桜が言うと優七は頷いた。

 降って湧いたような状況――もっとも麻子達の計略のせいではあったのだが、優七自身今回の取り計らいに感謝することにした。


 ルームを出る。自宅の庭先だったらしく、目の前には家が見えた。


「それじゃあ行こう。適当なお店に入って決める?」

「うん」


 桜の言葉に従い歩き始める――道中、今日を過ごす予定とは違った雑談が花開いた。

 内容はとりとめもないもの。基本は仕事に関することだったのだが、それでも話のタネは尽きない。もっとも基本話をするのは桜であり――これについては、きっと彼女なりの配慮があったのだと予想できる。


 そうした会話をしながら、優七は桜が政府の中でもずいぶんと株を上げている事や、私生活でも充実していることが理解できた。それは優七にとっても非常に嬉しい部分だったのだが、自分とは違うなと思ったりしたのもまた事実であり――


「優七君」


 ふいに、桜が声を発した。


「顔に出てるよ。自分とは大違いだって思っているでしょ?」

「え、いや……その」

「言っておくけど、戦いの重要性とかを考えなら、優七君の方が政府の人としては大切なんだからね?」

「……そうなの?」


 邪険に扱われたことなどないが、そう言われるのもなんだか複雑。すると桜は頷いて、


「優七君は公表はしていないけど『影の英雄』と呼ばれていて……なおかつ、事件後も色々と活動して調査なんかもしてくれている」

「白い光の件とか?」

「そう」


 確かに言われてみると色々仕事はしている気がする。他のプレイヤーだって同じだろうと思ったりもしたのだが、優七は少しばかり事情が違うようだった。


「政府としては、優七君のことをもっと宣伝したいみたいだけど」

「勘弁してほしい」

「わかってる。えっと、今は待機の状態なんだっけ?」

「うん。牛谷という人の調査をしているから、いつでも動けるようにって」

「それは正解だと思う。優七君を戦力としては欲しいだろうし――」


 と、そこまで言って桜は口をつぐんだ。


「……さて、お仕事の話は終わり」


 言ったと同時、近くに喫茶店の看板が目に入った。優七としてはああいう店に入るには少々抵抗があるのだが、彼女にとっては苦もないのか、もしくは馴染みの店なのか、何の躊躇いもなく入店した。

 桜が手招きする。優七はそれに従い店に入り適当な席につくと、彼女は携帯電話を取り出し何やら操作を始めた。


「映画でも見る? それとも、どこか遊びに行きたい所はある?」


 特に優七としては思い浮かばない。注文に来たウェイターに桜は手早く「紅茶二つ」と告げた後、優七と目を合わせた。


「何か要望があれば」

「うーん……買い物とかは?」

「それ、優七君自身欲しい物があるの?」


 言われても何も思い浮かばない。すると桜は苦笑し、


「こういう取り計らいなわけだから、優七君のしたいことを優先した方がいいかなって思うんだけど」


 そこまで気を遣わなくても――とは思ったのだが、彼女はそういう意向であるらしく、言葉を待つ構えだった。

 沈黙が生じる。それが少し怖くなって優七は外に視線を移した。休みであるためか優七や桜と同年代の人達が通りを歩いている。


 ふと、優七は事件前休日どう過ごしていたかを考えてみる。基本的には『ロスト・フロンティア』をやり続けていたし、さらに家族でどこかへ行くような機会も無かった。

 ゲームをやり始める前はどうだったのだろうか――そこまで考え、ふと口について出た言葉があった。


「……絵」

「ん?」

「絵画展とかは?」


 桜はきょとんとなった。そういう答えが返ってくるとは思わなかったらしい。


「……意外そうな顔をしているけど」

「えっと、なぜ絵画?」

「父親は美術館巡りが趣味だったんだよ。小学校低学年の時は一緒に行っていた。でも『ロスト・フロンティア』をやり始めて俺は行かなくなったんだけど」


 こういう機会でもなければきっと思い出す事だってなかったかもしれない。けど、時間が空いて自由な時間ができたのなら、父親の軌跡をたどってみるのもいいかもしれない。


「えっと、ちょっと待ってね。この周辺でそういう所があるか調べてみる」


 桜は携帯を操作し始めた。検索自体はそれほど時間は掛からず、あっさりと結果は出る。


「あ、うん。いくつかあるね。有名な画家さんのおっきな美術展から、今の絵描きさんによる個展まであるけど」

「なら、その有名な人にしようか」

「わかった。えっと、電車で二駅」

「うん、了解」


 というわけで紅茶を一杯飲んだ後、優七達は店を出る。


「なんか、こういうのも悪くないね」


 ふいに桜が口を開く。優七はそれに首を傾げ、


「悪くない?」

「いや、正直優七君の口から美術展の話が出るとは思わなかったし」

「俺もふと思い出しただけだから……それに父さんの趣味を追っかけるのも面白いかなと」

「うん、いいかもね」


 と、そこで桜は助言するように言う。


「ゲーム以外にも趣味を作った方がいいかもしれないね」

「それには同意するよ……桜さん」

「ん? 何?」

「ありがとう」


 その言葉に、桜は苦笑する。


「私は麻子さんに引っ掛けられてここにきただけだから……あ、もし何かあったら相談してね」

「うん」


 優七は頷き、桜と共に駅へと向かう。

 道中、思う。事件の時から桜とは色々あったわけだが――結局、進展はしていない。状況がそれを許さなかったというのもあるけれど、こうして落ち着いて話をするのは久しぶり――いや、それもまた少し違う。


(思えば、ゲーム上で話をしていたのはあくまでプレイヤーキャラであり、こうやって面と向かって色々と話をするのは初めてなのかもしれないな)


 なら、少しは楽しまないと――そういう思いと共に、優七は心の中で麻子に礼を告げた。

 二人は駅に到着し、電車を待つ。それから目的地に到着するまでもやはり話題は尽きず――優七の顔にもきっちりと笑顔が存在していた。


 電車に乗った時に、ほんの少しだけ雪菜のことを思いだした。自分に告白をして、答えも言えずに記憶を失ってしまった彼女。

 けれど、桜が絶え間なく話しかけてくるためほんの一瞬の出来事だった。すぐに話題を振られ優七は返答する。会話を行いながら電車を降りて、桜の案内によって目的地へ到着する。


 入場チケットを購入し、優七達は美術館へ入る。それからしばし、優七達は色とりどりの絵画を見ながら、ゆったりとした時間を過ごすこととなった。


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