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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第五話

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二人の考え

「話とは、何でしょうか?」


 麻子は浦津の言葉を聞いて、一度彼の事を凝視する。その視線に首をすくめる相手。叱責でも飛んでくるのかと思っているらしい。

 やがて――麻子は、意を決して告げる。


「……優七君が遭遇したバグの騒動は知ってる?」

「はい、知っています。俺は戦闘に参加できませんでしたけど」

「そして、優七君の能力も把握しているわよね?」

「もちろんです。政府としては非常に重要な戦力であり、また守らなければならない人物だと」


 ――麻子としてはこういう横槍のような行為はあまり好きではなかった。けれど、いずれ来るであろう決戦までに、優七の心身はきちんとしておかなければならない。


「……単刀直入に訊くけど」

「はい」

「あなた、小河石さんのことが好きよね?」


 ――問い掛けに、浦津の表情は固まった。


 それと共に麻子は胸中でやっぱりかと呟く。


「私の本音としては、恋愛事情とかは仕事に持ち込みさえしなければいいと思う。浦津君に関しても同じ。けど、今回はちょっとばかり待ったをかけさせて欲しいんだけど」

「……断っておきますけど、別に告白するような意思はありませんよ」

「けど、好きなのは事実でしょ?」

「いや……まあ」


 曖昧な返事ではあったが否定はしないので麻子自身読みは間違いないと改めて思う。


「言いたいことは、なんとなくわかります」


 そこで今度は浦津が口を開いた。


「小河石さんと、高崎君のことでしょう?」

「……優七君とは今回初めて接したのよね? それでも、わかったの?」

「わかった、というより小河石さんと話をしていて彼の話題が多かったので、そういうことなんだろうと推測はしていました」


 余計な茶々入れだったかもしれないと麻子はちょっとばかり後悔。こんな横槍を入れなくても、問題なかったかもしれない。


「直原さんは、不安だったというわけですね」

「というか、いずれ来る牛谷との戦いに対し、優七君が必要だと思っただけ」

「確かに……高レベルのプレイヤーは非常に希少ですし。現状育てているとはいえ、それが実を結ぶのは敵方が動き出すよりも遅いでしょうし」


 ――現実世界とゲームの世界が融合し、魔物と相対できるのはロスト・フロンティアをプレイしていた面々だけ。それでいて最初の事件で多くのプレイヤーが亡くなってしまった。

 なおかつ、現状新たなプレイヤーを加えることができない。つまり減りはすれども増えることは絶対にない。そこに加えHPがゼロイコール死という概念が多くのプレイヤーを恐怖させ、戦う人間を減らした。


 そうして残った大半が政府組織に所属しているわけで――低レベルのプレイヤーは戦力になるよう鍛えはしている。だがHPがゼロになれば死んでしまう以上無理はできず、政府としても絶対に事故が起こらないような処置を行う必要があるため、必然的に弱い敵と戦わせるしかできず、時間が掛かっているのが実状。よって現在高レベルのプレイヤーは希少ということになっている。


 一応レベル上げに関するノウハウも数ヶ月で蓄積されており、いずれ効率の良い手法が考え出されるかもしれないが――それよりも早く牛谷達が動き出すのは必定であり、だからこそ優七が戦いに必要だった。

 バグの騒動もあったので、これ以上彼を疲弊させるわけにはいかないと麻子は考え今回浦津に告げたのだが――


「事情はわかりました。こっちとしても小河石さんに深く干渉するつもりはありませんので」

「……それでいいの?」

「いいの、というより僕自身小河石さんに対しては憧れに近いというか……」


 何やらもごもごし始める浦津。麻子としては本当にいいのかと詰問したい衝動に駆られたが、本人がそう語る以上言及するのはやめようと思い、


「わかったわ。じゃあ、そういうわけでよろしく」

「……あの」


 返ろうとした矢先、逆に浦津が話しかけてきた。


「お二人なんですけど……付き合っているんですか?」

「うーん……微妙だと言いようがないかな」

「双方想い合っているという感じですか?」

「まあ、そんなところね。事件後色々あって、なんだか有耶無耶になっているというのが実状だと思うわ」

「そうですか。なら――」


 と、浦津は笑みを浮かべる。何かするつもりなのかと麻子が聞き返そうとして、


「少しばかり、企画しません?」

「……二人について?」

「はい。高崎君についても政府だって思う所はあるでしょう。影の英雄などと呼ばれるにしても当の彼は中学生なわけですし、けれど政府としては、高崎君も小河石さんも必要な存在ですよね?」

「まあ、そうね」

「できることは非常に少ないですけれど……休息とか、リフレッシュとか、そういうのも必要だと思いますし」

「なるほど。だから私達が色々と考えて……というわけか」


 きっと桜ならば余計な事を、と言う所だろう。それに、


(雪菜のこともあるからなぁ……あんまりでしゃばるのもまずいかな?)


 ただ、そんなことを言っていたらいつまでも二人が進展しないのは明白。


(……優七君も桜も、色々思う所はあるし、今後の事を考えて一度顔を突き合わせて話をさせるのもいいかな)


 ただ、それによって逆に不都合が生じる可能性もある。恋愛の話はとかくこじれる場合があるので。


(けど……)


 今日の戦いを見て思ったのは、優七自身色々と引きずって戦っていたという事実。ある程度どこかで発散させなければ、いつか風船のように破裂してしまうかもしれないとも思う。

 メリットのデメリットをしばし頭の中で考慮し――やがて麻子は結論を出した。


「……そうね」

「では、すぐにでも段取りしましょうか」


 ずいぶんと乗り気な浦津。もしかすると彼なりに今日優七を見て思う所があったのかもしれない。


「ああ、待って。行動するのはいいんだけど、私自身色々とやりたいこともあるから」


 その中には雪菜に関することもある――記憶を失くしているとはいえ、さすがに優七達が一緒にいる間は会わせない方がいいだろう。


(長谷さんに連絡しておくか……それでたぶん大丈夫なはずよね)


「では、どんな作戦にいきますか?」


 嬉々として話す浦津。もしやこういうことが好きな人なのかと思いつつ、


「そうねぇ……」


 多少ながら麻子自身乗り気で話を始める。

 それから、色々と打ち合わせを行う。気付けばその作戦に熱中していたのは目的を見失っているような気がしてくるが――その場のノリとでも言うのか、結局止まることはなかった。


 一通り話し合いが終わった後、麻子達は解散する。そして本来仕事をする政府施設へと入り、


「直原君」


 上司からの呼び掛け。麻子は即座に現状を報告した後、彼から話を聞く。


「牛谷の捜索は遅々として進んでいないのだが……一つ、可能性が浮上してきた」

「可能性?」

「ああ。それについて少しばかり話がしたい」

「なぜ私に?」


 そういうのは機密情報では――問い掛けると、上司は渋い顔をした。


「直原君自身が、大きな戦力である点に関係している。それに最初の事件での貢献や、それに準ずる政府からの信用といったところか」

「……信用して頂けるのはありがたく思いますが、戦力である点とは?」

「いずれ、牛谷との戦いがあるだろう。そうした時、政府で陣頭に立てる人間はそう多くない。プレイヤーは大半が未成年だからな」

「なるほど」


 いざ戦うとなれば、江口などと同じように前線に立つというわけか――麻子は理解しつつ、上司に告げた。


「事情はわかりました。政府から大いに信用されているものと考え、話を聞かせて頂きます」

「すまない。では、会議室に」


 上司と共に、麻子は歩き出した。


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