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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第五話

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新たな計略

 その人物は、一口に言えば政府組織の中でロスト・フロンティアに関する情報を他者へ横流しにしている存在だった。


『――というわけですので、よろしくお願いします』


 執事の男性の声に、彼は「わかりました」と応じる。そして携帯電話を切った後、思考を始めた。

 場所はとあるアパートの一室。宿舎であり、彼もまたゲームと融合したこの世界の秩序を維持するために活動を行っている。


 だが、本質的には――先ほどの執事を抱える主に忠誠を誓う人間。


「実験対象のプレイヤーか……まあ、少し調べれば見つかるだろう」


 彼は一人部屋で呟くと、軽く伸びをした――主には多大な恩がある。そのため、彼自身情報を流し主のために様々な活動を行っている。

 だからこそ、思う。今以上に報いるためにはどうすればいいか。


 言ってみればそれは過度の忠誠心だった。警戒されるような真似をするなと常々釘を刺されている。だが、主に貢献するためにはもう少し踏み込んだ行動が必要だ。

 そして何より――彼には対抗すべき存在がいた。


「牛谷……」


 別荘でロスト・フロンティアのアップデート作業を行っている人物。主がその目的のために牛谷をかくまっている事は知っている。彼とは立場が異なっているのは明確な事実だが、それでも不満は隠せない。

 もし目的を成せば――主は自分よりも牛谷に目をかけるかもしれない。


 嫉妬とは異なるが、少なくとも不快感を拭うことはできなかった。


「先ほど言われた依頼も、牛谷の行動に関するものであるのは間違いない……が、ここで少しでも貢献しておかなければ、立場が危うくなるかもしれないな」


 存在感を示す必要があった――そう彼はここで思った。

 だからこそ彼は自室にあるノートパソコンに向かう。そこにはロスト・フロンティアを調査した情報が乗っており――基本これは持ち出し禁止の情報であるが、彼は密かに所持していた。


「実験対象となりそうな人物……ふむ、候補になりそうな人物をどういう基準で選定するかが問題だな」


 呟きながら、彼はどう行動するべきか思案する。露見すれば全てが終わりだ。よって、慎重に事を運ばなければならない。

 本来ならば行動を起こすべきではないが――彼は、止まるつもりはなかった。


 主の描く未来がすぐそこまで来ようとしている。ならば、


「次のことを考えなければならないな」


 彼は呟く。未来が主の考える通りとなるならば、自分はその中で主の次に地位ある存在にならなければならない。

 それは、自分のためにであり、また主のためになるはずである――少なくとも、今の彼はそう考えた。


「ならば……」


 彼は呟いた瞬間、画面を停止させる。とある情報――それは、とある事件に関する資料。


「……ああ、そうか」


 彼は声を発すると、口元を歪ませた。


「この人物を使えばいい……ならば――」


 頭の中で策が浮かび上がっていく――そうして、彼の計画が発動することになった。



 * * *



 地元の町で生じたバグ騒動の後、『祭り』の検証が終わるまで優七は待機を命じられ――しばらくの間は、討伐をこなす以外何事もない日常が続いた。

 季節は三月に入り、いよいよ学年の終わりに近づいてきた。学校に転校してきてまだ数ヶ月の優七としては感慨もあったものではないが、それでも色々と騒動があったため思う所があるのも事実。


 二宮がいなくなって、遠藤達はどうにか統制に努め、表面上は取り立てて問題がないような状況になっている。魔物と戦う際もほとんどのプレイヤーが遠藤に指示に従うような状況になっているため、犠牲者が出て悲しみにくれた状況から、少しずつ脱しようともしていた。


 その中には優七の姿も一応はあった。けれど待機であっても魔物の討伐や調査に関しての仕事は舞い込んでくる。だから今日も別の場所で魔物の討伐に勤しんでいたのだが――


「今日は、こんなところでしょうか」


 声を発したのは、優七と同じ組織に所属する浦津誠人――桜や麻子と組んで魔物の討伐を行ったこともある人物。

 優七としては今回組んだのは初めてであり――同行者に麻子がいなければ、微妙な空気になっていただろうと思った。


「ふむ、この辺りは異常なしと」


 麻子がメニュー画面を開きメモ機能に色々と状況を記しているのを見つつ、優七は尋ねる。


「麻子さんがこうやって討伐に参加するのは、何か変化がないかを確認するため、だよね?」

「正解」


 麻子はメニューを閉じながら応じる。


 実際、ロスト・フロンティアに関するデータの解析を行う麻子だったが、そのレベルの高さもあってか前線に出ることもしばしばあった。討伐課の中には麻子も討伐課に所属していると勘違いする者までいる始末。それに関して彼女が言及したことはないが、少しくらい不満はあるだろうと優七は心のどこかで思っている。


「で、もう戻っていいのかな?」


 確認するように優七が問うと、麻子は「いいよ」と答え、


「浦津君も帰っていいよ……お疲れ様」

「直原さんは?」

「私はこのまま仕事に戻るわ……あ、そういえば」


 と、麻子は何かを思い出したかのように呟く。


「浦津君は、ちょっとだけ時間を貰えない?」

「構いませんけど、何かありますか?」

「話があるのよ。といっても仕事に関する話題じゃないんだけど」


 なぜ彼女が浦津に用があるのか。優七としては疑問を感じたが一緒に仕事をしていて何か縁があったのかもしれないと無理矢理納得し、一人家に帰ることにした。

 ルームに入り、優七は息をつく。表面上は取り立てて問題がない。しかし、政府関係者も言っていたが、間違いなく牛谷達は動いている。そして次に現れた時は、間違いなく目的を果たそうとする時だろう。


「もっとも、アップデートに関して兆候があるかどうかもわからないし……何もできないまま実行されてしまう、なんて話も考えられるけど」


 優七はルームを見回しながら一人呟いた。こうした世界が現実となり、早数ヶ月。魔物が跋扈する状況であるため気が抜けない状況が続いているのは事実だが、多くの人間がこの環境に慣れ始めているのもまた事実。事件前の様子を取り戻しつつある場所も少しずつ出始めており――だからこそ、優七達は相手の所業を止めなければならない。


(けど……)


 このゲームと現実が融合してしまった異様な世界が元通りになるのかは、まったくの未知数。解析を行う政府関係者もそれについては何もわからないという返答しかできず、根本的な解決には至っていないのが実状だ。


「俺が気にしていても、どうにもならないけどさ……」


 最初の事件や、先日生じたバグに関する事件を思い出す。ああした悲劇が、いつ何時再び訪れるかはわからない。そもそも実態がつかめていない以上、世界に大きな被害をもたらす何かが今始まってもおかしくない。

 これは言わば、地震などの大災害がいつ何時起きてもおかしくない、というのと似ている。とはいえ現在進行形で起きているゲームの症状は、災害が生じる可能性よりも高いのではと優七には思えてしまう。


「どちらにせよ、それは牛谷という人達を捕まえてからになるのかな」


 アップデートを実行しようとしているということは、即ち現実世界に顕現しているロスト・フロンティアのデータに干渉できることを意味している。だからこそ政府も躍起になって彼を探している。

 以前、江口や雪菜と共に戦った時のことを思い出す。あの時は結局逃げられた。次こそは――


 そういう気持ちを抱きつつ、優七はメニュー画面を開き、家に帰るためのゲートを作成した。


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