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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第一話

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新たなるルール

 その場でまず自己紹介をする。最後の女性――ゲームでマナと名乗っていた彼女は直原(ただはら)麻子(あさこ)という名前だった。


「私と話す場合、改まったりしなくていいからね。堅苦しいのは嫌いだから」


 外見通りのハキハキした声で、彼女は自己紹介を締めくくった。

 それから優七達が簡単に自己紹介をした後、ひとまず食事でもしようという話になり、優七と桜はログハウスへ戻った。


「食べられるのかなぁ……?」


 疑わしげに桜は呟きながら、倉庫の中にある食材をピックアップしていく。一方の優七はキッチン近くでそれをぼんやり眺めていた。


 ――ゲーム上における食事は体力などのパラメーターを回復させる効果があるため、長時間プレイする時はルームに戻り食事をするようにしていた。そのためログハウスの倉庫の中には、結構な食材が入っている。

 桜がメニューを操作すると、食材が出現する。パンが一斤出てきて、桜はそれを掴むと重さを確かめるように言った。


「うん……本物みたいね。信じられないけど」


 なおも疑わしげだったが、彼女はそこからいくつか食材を選定し、調理を始めた。

 ルームで食事を作るのは当番制。こんな状況で当番もへったくれもないのだが、桜は「やらせて」と自分から申し出た。


「でも、調理方法は簡易的なものだね……」


 テキパキとアイテムを調合するように調理を進め、やがて料理が完成した。所用時間としては五分に満たない。現実世界のことを考えれば、驚くべき速度だ。


 できあがったのは鍋一杯の具だくさんのスープに、取り分けられたサラダと、綺麗にカットされた食パン。スープの香りが優七の鼻腔をくすぐり、無意識の内に唾を飲み込む。


「たくさん作ったから、全員分はあると思う」


 そう言うと、桜は母親を呼んだ。そして食事を取るよう伝えると、木製のトレイをキッチン引き出しから二つ取り出し、四人分のスープとサラダ、そしてパンをそれぞれ載せる。


「あ、優七君。片方持って」

「わかった」


 承諾するとスープのトレイを持つ。桜は母親に「食べていて」と言い残し、家を出た。その後を優七が追随する。

 パーティーメンバーが食事をするのは外。原っぱでキャンプをするようにたき火を囲み、食事兼作戦会議をするのが恒例となっているため、今回もそのような形となった。


 外に出るとすっかり夜となっており、夜空にはたくさんの星が見えた。優七にはそれがルーム内だけの偽物の夜空であるのはわかっていたが、降り注いでいる光を見ると、なんだか安心する。

 優七達はたき火のある場所へ歩み寄る。そこには星の下、慶一郎と麻子が隣同士で会話をしていた。


 優七達が近づくと、二人は視線を送る。そして二人の内麻子が、串に刺さった焼き魚を食べながら口を開いた。


「お、メインディッシュ?」

「……何で魚?」

「いやぁ、待ちきれなかったんで」


 優七の問いにそう答えると、麻子は串を地面に差した。


「改めて思うんだけど、きちんと体の中に入っていくね。バーチャルじゃないみたい」

「うん、私も味見をしていて思った」


 応じたのは桜だった。


「疑いながら調理していたけど……やっぱり、現実になっているみたい」


 答えながら桜はたき火を挟んで麻子の正面に座る。対する優七も座りトレイを地面に置いた。位置的には、たき火を挟んで慶一郎と向かい合う。


「食べながら話そう」


 桜が言うと、優七はそれぞれにスープと木のスプーンを渡す。

 それに加えパンとサラダが行き渡ると、まず桜が口を開いた。


「えっと、麻子さん……確認だけど、そっちはどういった状況でこのルームに?」

「私は強制ログアウトされて、魔物が間近に現れた。で、それを振り切って逃げている最中、指輪のメニューが動くことに気付いて、武器を取って戦った。最初はこっちが優勢だったけど、次第に数で負けそうになった。絶体絶命の時にルームが使えることがわかり、飛び込み助かった。こんなところ」

「間近に現れた……?」


 優七は驚愕しつつ聞き返すと、麻子は深刻な顔つきとなって答える。


「そ、いきなりパソコンのモニターから抜け出るように現れた。今考えると、インターネットを介しロスト・フロンティアに繋がっている端末から、魔物が出現していたのかも」


 彼女の情報は、優七にかなりの衝撃を与える。


「じゃあ、出現場所ってパソコンから?」

「そうみたい。後はそうね……パソコンに準ずるダプレット型の端末とかからも出現しているのを見たわよ。ゲームに入る機器からではなくパソコンからというのが少しおかしい気はするけど……とにかく魔物は、そういった端末から飛び出るように出現している」

「それでは、通信を途絶すれば解消するんだな?」


 慶一郎の言。対する麻子は頷きはしたが、顔は曇ったまま。


「たぶんね。けど早い段階で携帯が圏外になっていたし、走り回っている時も通信エラーを表示していたパソコンもあったから、騒動初期に出現条件はなくなっていると思う。けれど、世界にどれだけこうした端末があると思う? もう出現することはないにしても、恐ろしい数の魔物が発生していると見て、間違いない」


 深刻な内容。そしてそれは、事実に違いなかった。

 そうした麻子の言葉に、さらに慶一郎は問う。


「なら、どうする?」

「一番重要なのは、魔物のアクティブ化を解除すること」


 彼女は一度目を伏せてから答える。それに反応したのは優七。


「何か方法が?」

「アクティブ化は時限イベントの一種で、ある時期まで町の人を襲うようにプログラムされているわけ。その時期を越えればイベント発生前のように戻り、魔物がNPCを故意に襲うようなことはなくなる」

「やけに詳しいね」

「当然」


 優七の言葉に、麻子は頷いた。


「一応これでも、ロスト・フロンティアのシステム担っている人間だからね」


 発言に――優七他三人は驚き麻子を凝視する。途端に彼女は小さく手を振り、付け加えるように話し出す。


「あ、言っておくけどシステムの末端よ? 新しい武具の調整やバグ対応なんかを一部任されていたというだけ。下請けだから、重要部分まではわからない。けど、新たな魔王が登場して以降のスケジュールは知っている」


 どうやら仲間内に、情報源があったらしい――彼女の言に最初反応したのは、桜だった。


「なるほど……それで麻子さん。時限イベントは、いつ終了するの?」

「……それが」


 問いに、麻子は険しい顔つきで答えた。


「一週間後」

「そんな……」


 優七が呻く。とてもではないが、そこまで待っているなどできない。


「一応言っておくけど、この場にいる面々だけなら、一週間は食糧あるし大丈夫よね? なら選択として、イベント終了まで待機することもできる」


 麻子はそこで、自身の見解を述べる。


「皆も魔物にやられる人を見たと思うのだけれど……プログラム上、キャラがロストするとシステムとやり取りして復活するという流れを取る。現状どういう理屈で魔物や武器が現実に出ているかは不明だけど……システムとやり取りしているとは思えないから、もしロストしたらデータは消滅――つまりロストは、死だと考えていいと思う……みんなだって死ぬのは怖いでしょ? だからここに閉じこもり続け、嵐が過ぎるのを待ってもいいんじゃないかな?」


 麻子はぐるりと優七達を見回し――わかっているという風に肩をすくめた。全員が決意の眼差しを向けていたため、そうした態度を示したのだろう。


「……なら、残る選択は一つしかない。すなわち、原因の魔王を倒すこと」

「できるのか? 現状のレベルで」


 慶一郎が尋ねる。麻子は腕を組み、悩ましげに返答する。


「私も魔王に関するデータまではわからないからどうとも言えないけど……このイベントは新たな魔王を期間内に倒せるかどうかでその後の展開が分岐していた……逆説的に考えれば、新たな魔王は倒せるレベルということ。だから、魔王を倒せたメンバーならレベルは大丈夫なはず」

「その後の展開とは?」

「そこまでは……あ、でももしイベントクリアできなかった時のことは知ってる。様々な魔物を取り込んだという名目で、新たな魔王が強化されるはず――」


 語った時、麻子は口元を抑えた。


「そっか……イベントが通り過ぎたら魔王が強化される。もしその状況でアクティブ化が解消されなかったら、アウトね」

「となると、やっぱり戦うしかないわけか」


 優七が言葉を漏らす。全員が沈鬱な面持ちでたき火を見つめ――やがて桜が口を開いた。


「……しんみりとしちゃったね。話は一区切りにして、食べようか」


 言いながら彼女はスープに口をつけた。優七や他の二人もそれに賛同し、話をやめて食事を始めた。

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