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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第四話

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残る不安

 二宮が暴走したことによる一連の事件は、比較的静かにプレイヤー達に受け入れられた。

 とはいえ、反発する者だって少なからずいた。表向きの原因は政府の管理だったのだが、二宮が主導で経験値稼ぎに出かけたことは周知されており、だからこそ「あいつが原因だ」と主張する者もいた。


 優七が政府のプレイヤーであったことで、政府を擁護する者まで出てくる始末だった。優七自身は町のために必死に戦った。新種の魔物が出た時や、二宮が帰還して来た時も――だからこそ政府が完全に悪いと決めつける人間は、いてもあまり声に出せなかったかもしれない。


 そのため二宮を原因とする形で世論が形成されつつある――優七としてはそれは望まない形。よってどうにか軌道修正したいところだったが、


「正直、難しいな」


 放課後、遠藤や雨内と話し合うため公園を訪れた優七は、遠藤からそう言われた。


「政府のプレイヤー……しかも驚異的なステータスを持つ優七という存在がいる以上、あんまり政府を責めるのは、という意見もある」

「でも、これじゃあ……」

「二宮を悪役にしたくない優七の主張はもっともだとは思う。けれど……」


 それ以上遠藤は言わなかった。けれど優七にはわかる。彼だって少なからず二宮に対し思う所はあるのだろう。

 だが、混乱を生じさせない一番のやり方が現状であるのは紛れもない事実。優七としてはどうにも納得がいかなかったが、この流れを強制的に止めるのも難しい。それに、下手に二宮を擁護した場合さらなる混乱が起きる可能性もある――政府側の人間としては、そうした優七の行動は止めたいところだろう。


「どちらにせよ、今は動揺しているプレイヤーをまとめるので精一杯だ……正直、他の事を考える余裕はないな」

「そっか……わかった」


 仕方がない――不服ではあったがそうも言ってられない状況。


「遠藤達は、他のプレイヤーをまとめる役割を頼んだ……二宮の件は政府の方がやってくれるはずだから、心配はいらない」

「高崎は?」

「俺は、今後別の事をやる必要があるって」


 改めて連絡が来た時、その任務を言い渡された。それは――


「前……『祭り』の時に新種の魔物が出現しただろ?」

「あれについて調べるのか」

「うん……もう少し政府側も調査が必要らしくまだ空き時間はあるみたいだけど……いつ始まるかわからないため、いつでも動けるよう待機していてくれって言われた」

「そっちの方がよっぽど重要だと思うぞ……わかった」


 遠藤は力強く頷いた。それに合わせ雨内も優七を心配させないためか微笑を見せる。

 そんな二人に対し、優七はさらに告げる。


「もし何かあったら相談して」

「ああ。とはいっても俺達のことは俺達でどうにか対処するさ……高崎」

「ん?」

「たぶん今後言えなさそうだから、今言っておくよ……新種の魔物が出た時、高崎は政府のプレイヤーであることを明かし一人で立ち向かったよな?」

「ああ、うん」

「その時の光景を俺や雨内……いや、他のプレイヤーだってそうだと思う。あの場で戦った光景を見て、俺は高崎なら信頼できると思った」

「それは……」

「それまで信頼していなかったというわけじゃないのは言っておくけどさ、二宮とは違い打算なしでああやって動いてくれたってことはわかる……なんというか、誇らしかった」


 雨内が同意するように頷く。気恥ずかしさはあったがそれでも認めてもらえたという事実に、優七は少しばかり嬉しさがこみ上げる。


「もし逆に、何かあったら遠慮なく言ってくれ。ああやって町を救ってくれたことは事実だから、優七のためにこの町のプレイヤーは動いてくれる」

「……わかった。ありがとう」


 優七は礼を述べ、この場の話は終わる――けれど、心の中にはいつまでもくすぶっているものがある。二宮のことだ。

 彼は結果的に、この町のプレイヤーの信頼を裏切る結果となってしまった。最早彼の居場所はこの町にはないかもしれない。


 政府側もそれは懸念し、両親などの親族を含めたフォローをしているはずだが――決して、元通りになるわけではない。

 その懸念は遠藤や雨内も理解しているはずだが――それでも前に進まなければならない以上、遠藤達は二宮のことを考えず活動していくつもりだろう。


(これ以外に、なかったんだろうか……)


 やはり、後悔が胸の内に存在する。元を正せば自分自身がこの場に来たから――


「高崎」


 去り際に、遠藤は告げた。


「高崎は何もかも背負い込もうとする癖があるみたいだが……自分が全部悪いみたいな考えはやめてくれよ。高崎がいなければ、町には今よりもっと被害が出ていたんだ……特に『祭り』については」

「遠藤……」

「二宮のことが気になるのはわかるけど、悔やんでも仕方のないことだ……そうだろ?」

「……わかった」


 優七は頷く。遠藤達は前に進もうとしている。だから、自分だけ立ち止まってもいられない。


「政府の仕事でもし何かあったら、相談に乗ってくれよ」

「ああ。俺がどこまで高崎の内容に応じれるかわからないけど……頑張るさ」


 そうして遠藤達は先に公園を去った。それを見送り、少しして優七も帰るべく歩き出す。

 難題は山積みといってよかった。けれど自分には信頼できる仲間がいる――遠藤達や桜達。だから、彼らのためにも戦う。


「今は……それしかないよな」


 呟き、自分を鼓舞するように優七は気合を入れ直し、公園を出ることとなった。



 * * *



 一度ルームを訪れて以後、雪菜は度々RINのルームを訪れるようになっていた。完全なプライベート空間であるこの場所に自分が訪れていいのかという不安もあったが、RINは快く迎えてくれた。


「今回の事件は、高崎君の周辺に関わる案件だったから、結構ダメージがいっているかも」


 一連の事件後、雪菜は現場に駆け付けたRINから事のあらましを聞いていた。本来は政府の人間から聞くべき内容のはずだが、関わっていない雪菜に情報が回ってくる可能性は低く、しかし優七と知り合いである雪菜には情報が必要だろうとRINは解釈し、ルームに案内したというわけだ。


「だからもし……落ち込んでいる様子があったら、励ましてあげて」

「は、はい」


 雪菜としては戸惑う他ない――けれど、胸の痛みが生じたことを思い出し、また色々気に掛けてくれた優七の存在を思い返し、何か力になれればとも思う。


「で、高崎君の友人である二宮君は現在政府が身柄を預かっている……政府としてもどう対処するか判断できないという雰囲気みたい」

「どう、なるんでしょうか」

「わからない。政府としては無罪放免というのは難しいだろうし、かといって厳しい罰を与えるのも反発を生む可能性がある……しばらくこの件については、協議することになると思う」


 RINはそこまで言うと、微笑を浮かべ安心させるように続ける。


「けど、私達に影響のあるようなことにはしないと思う……政府もプレイヤー達の存在は治安維持に必要不可欠となっているわけだし」

「そう、ですか」


 雪菜はそこで、一抹の不安を覚えた。RINから話を聞いている分には、特に問題が生じることはなさそうな雰囲気。けれど、


(嫌な予感がするのは……なんでだろう)


 それは、高レベルのプレイヤーだった時の直感が残っているからなのか。それとも、何か別の要因なのか。

 ともかく、RINから聞いた事実に形容しがたい不安を覚えたのも事実――雪菜としてはその不安が的中しないよう、心の中で祈るしかできなかった。


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