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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第四話

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対抗策は――

 優七の手持ちにある連撃『グラウンドウェイブ』ならば、決定打としては十分。しかし、二宮だって強力な攻撃を想定して防御能力を高めているのは間違いない。よって、攻撃一つでどれだけダメージを与えることができるのかを確認する必要がある。


「どうする?」


 二宮が挑発的に問う。普段の優七ならばそれに応じたりはしない。なおかつ罠の臭いもある。静観するのが一番なのはわかっている。しかし、

 優七は一転、踏み込んだ。罠に乗る――それが果たして良いのかわからないが、それでも状況が変化することを狙って動いた。


 二宮も応じる。だが明らかに防御を捨てた動きであり、優七は驚きながらも剣を振るった。

 双方の剣が交差。優七の斬撃はしかと二宮に入り、また二宮の剣戟も優七に入った。攻撃により、優七自身のHPは想定よりは減っていない――とはいえ、相当強化しているのか通常ならば彼のレベルでひねり出せるダメージ量でないのは間違いない。


 対する二宮の方は――優七が思っていた以上に、減少していない。


「どうだ?」


 HPの減少量は二宮の方が上だったが、それでも彼は不敵な笑みを浮かべた。同時に、そのHPが少しずつ回復していくのを見て取る。


(自動回復のアイテムも使っているか)


 さすがに一騎打ちとなれば回復アイテムなど使う暇もないので、二宮がこういう処置を行うのも至極当然。なおかつ、攻撃よりも防御を優先させているのが推察できる。

 もしかすると、二宮は今までこうやって優七と戦う時どういう手でいくか作戦を組み立てていたのかもしれない――さすがに利奈をどうにかするということや、この狭いリビングで戦うことまで想定の内に入っていたとは思えないが、現状全ての要素が二宮に追い風をもたらしているのは間違いない。


 優七としても、HPが多少なりとも減少した以上警戒しなければならない――さすがに回復アイテムはメニューを開かなくてはならない以上使えない。さらに優七は補助を一切なしの状態で戦う必要がある。


(自動回復の効果切れを待つか……? いや、二宮がその作戦を想定していないはずがない。長期戦になれば、何をしでかすかわからない)


 デュエルと共に冷静さを見せ始めた二宮だったが、その心の内がどうなっているか優七には想像もつかない。今は優七に集中しているため精神的にも落ち着いているが、補助の効果が切れ焦り始めれば、何をしでかすか――

 二宮が動く。再び捨て身の攻撃。優七は今後こういうやり取りを続けることにより、どちらのHPが先になくなるかを瞬時に勘定。結果、自動回復が生じたとしても、優七の方に分があるとは思った。だが、


(二宮は俺を倒すために突っかかって来ている以上、それを埋める策がどこかに存在するはず)


 さすがにこのやり取りだけで決着がつくとは彼も思っていないだろう。となれば――優七と二宮は先ほどと同じように剣を交わした。当然、どこかで変化が起こるはず。

 そこで優七は選択を迫られる――変化が起こる前に動き出すべきか。それともその変化に乗じ二宮をいなすか。


 再度後退する二宮。視線は優七を決して外さないが、なんとなく理解できていた。こちらがあまりに消極的であれば、利奈を狙いかねないと。

 だからこそ、優七は自身がどう動けばいいか必死に考える。


(二宮のHP減少量から考えて、俺の手持ちの技からどれだけ減らせられるか……)


 考える間にもHPは回復していく――それに合わせ二宮は再度突撃を行う。三度同じことが繰り返され――さすがに三度も似たような斬撃を受ければ、優七のHPも大きく減った。

 まだ半分以上残っている上、回避できないこともない。だが、劣勢に立たされているのは間違いなく優七だった。


 不利な状況だが、その中で二宮を打ち崩す策を構築していく――彼は性格上優位に保ちたいと思うだろう。下手な挑発はむしろ逆効果だし、なおかつ優七の誘いに乗るようなことをするとは思えない――ただし、ある場合を除いて。

 現在の二宮は捨て身の攻撃を仕掛けていながら、優七の動きを警戒している素振りも窺える。優七が放つ技に強い警戒を抱いているのは間違いなく、それが来た場合の対応策も、ある程度はしているだろう。


(……だからこそ)


 優七は呼吸を整える。そして、


「……俺に勝つため、色々と策を講じたみたいだな」

「ああ、そうだな」


 二宮は剣を構えながら優七の言葉に応じる。


「だけど……二宮。お前は俺に勝つことはできないよ」


 らしくない発言だと思った事だろう。挑発し思考が鈍った所で何か仕掛けるのだと二宮も認識したらしく、それには乗らないという意味合いでか、彼は鼻で笑った。


「自信があるようだな」

「ああ……こうなった以上、二宮にこの町を任せることはできない。だから、俺がその代わりをやってやる」


 さすがにこれは反応があった。しかしまだ表情は崩れない。


「そうやって安い挑発で俺を誘導する気か?」

「……なら、その勝てない理由を教えてやるよ」


 優七は左手でメニュー画面を起動させた。二宮は動いてもおかしくない状況だが、彼は動かない。優七の思わせぶりな態度が気になったことと、自動回復により時間経過で自身が有利になることを考慮しての反応だろう。


 優七は素早く画面を操作し、目的の武器にカーソルを合わせ、一瞬止まる。

 これが成功すれば、二宮の動きをある程度誘導することができる。しかし失敗すれば――状況が悪くなるわけではないが、劣勢に立たされている状況である以上、その度合いが危険水域まで高まるかもしれない。


 だが――優七は断じ、ボタンを押す。それによって生み出された物は――


「見たことは、あるんだろ?」


 死天の剣。


 二宮はそれを見て凝視する――プレイヤー全体のアイテム所持数はとあるアイテムを使えば把握することができる。その中で死天の剣の所持数は一本――実は今後天使が出ないとも限らないということで、プレイヤーが保有していた物は政府が管理することになっている。しかし、優七だけは政府も持っていて欲しいと要望され、ずっとメニュー画面の中に眠っていた。


「お前……」


 握っていた剣を戻し、死天の剣に持ち替えた優七に二宮は呻く。


「――そうだ、俺が影の英雄だ」


 断言。無論信用されないという可能性もゼロではなかったが、ステータスなどを知っている彼からすれば、そうだと認識できたことだろう。


「この身分を明かせば、この町のプレイヤーは誰だってついてくるだろう……そして、二宮。お前のことを利用させてもらう」


 挑発的な言動。それに二宮の顔が見る見るうちに変貌していく。


「犠牲者が出たことを利用し、お前を悪者にする……それに合わせ影の英雄であることを明かせば、誰もが俺についてくることだろう」


 本当にやるかどうかは別として――その行動によって、間違いなく統制がとれるのは正常な思考ではない二宮でも認識したらしく、怒りで顔が染まっていく。


「……元々、俺は二宮の立ち位置を狙っていた」


 そして、さらに追い打ちをかけるように優七は語る――無論、これは嘘だ。


「俺が影の英雄だってことを明かせば、誰だって従う……けど、ここには二宮という強いリーダーが存在していた。だから俺は、待つことにした。政府の人間であることも隠し、二宮がボロを出すのを……俺のステータスを見て動揺した二宮は、まさに俺が想定していた形で崩れたというわけだ」


 刹那、二宮が叫んだ――それは紛れもない、怒りの咆哮だった。


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