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フュージョン・フロンティア  作者: 陽山純樹
第四話

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悲しき決闘

 経験値稼ぎに赴き犠牲者が出た以上、二宮のことを信用しない者だって出てくるかもしれない。無論信じ続ける人間だっているだろう――けれど、リーダーであり続けても軋轢が生じるのは間違いない。

 そういうことを、二宮は正常でない思考の中でも察している――だからこそ、有無を言わせないような力がいる。そんな考えなのかもしれない。


「勝負しろ」


 二宮が言う。デュエルシステムを用いた戦いをしろという意味だろう。


 優七は相手を見据え、応じなければこの膠着(こうちゃく)状態は解けないだろうと断ずる。周囲に響くような物音が生じていたので、いずれここに桜を始めとしたプレイヤーが来るかもしれない。けれどもし遠藤といったプレイヤーが来たのなら、二宮がさらに暴走し場合によっては直接人を殺めてしまうかもしれない。


 そうなればさらに事態が悪化する以上、時間を稼ぎというやり方はできないと判断。加え、思う所もあった。

 彼との件は、自らの手で決着をつけなければならない。


「……わかった」


 優七は承諾する。同時にメニューを開き、デュエルシステムを行う設定画面を起動する。


「ゲーム上の慣習として、ルール設定を主導するのは提案を受ける側だ……俺が設定する。それでいいな?」

「ああ」


 ふざけたルールならば拒否しそうな雰囲気。その中で、優七は設定を重ねていく。

 また同時に利奈に視線を送る。彼女は優七を見返しながらも、静観する構えを見せた。下手に動いて刺激するのは避けたいという判断だろう。優七は正解だと思ったので、そのままでいるよう視線で訴えつつ、設定を行う。


「ステータスの制限はいるのか?」

「いらない」


 デュエルは、レベルが離れていれば高い方がハンデを背負うこともあるのだが、それを拒否した。本来の実力で戦いたいのだろう。

 いや、全力の優七を倒す事こそが、二宮の望むことなのだろう。


 常識的に考えればレベル差もあって二宮が勝てる道理はない。だが狂気すら見え隠れする彼にはそうした思慮がなくなっているのか、それとも策があるのか――優七は、後者だと考える。


「……ステータスはそのまま。加え、ハンディキャップは無し。武器、道具、魔法の使用制限はなし……これでいいか?」

「重要なことが決まっていない」

「重要?」

「負けた場合どうするか、だ」


 まさか、デスマッチ方式に――優七が推測した直後、提言が。


「負けた場合は、強制的に麻痺するってことでどうだ?」


 ――ああ、そうか。


 優七は理解する。おそらく勝ったならば、麻痺した自分をなぶり殺しにするつもりなのだろう。

 そうなれば、利奈が止めるはずだが――とはいえ、少なからず死というリスクはある。


 当然勝たなければならない。これ以上利奈を危険な目に遭わせるわけにはいかないこともあるため――そう思いつつ、優七は「わかった」と応じ設定を完了した。

 優七の目の前に、デュエルを開始するボタンが出現。それに触れ、なおかつ二宮が了承した瞬間、デュエルがスタートする。


 ――本当に、これでいいのか。


 優七は一度二宮へ視線を向ける。見れば彼はアイテムを取り出し、薬のようなものを飲んでいた。おそらく、能力強化系のアイテムだろう。

 ロスト・フロンティアはある程度までならステータス上昇系のアイテムの効果は重複する。よって薬の質や数にもよるが、二宮のステータスならば優七と互角に戦えるまで無理矢理引き上げることも不可能ではないはずだ。


 それを見て、改めて戻れないのだろうと断ずる。優七はならば決着をつけ――自らの手でどういう形であれ終わらせるしかないと思う。


「……いいんだな?」


 優七が問う。それに二宮は頷く。準備は完全に整ったらしい。

 そして優七はデュエル開始のボタンを押す。二宮はそれに応じ――悲しい戦いが始まった。






 先手は二宮。優七にとって今まで見たことのない速度で接近し、剣を振る。


 戦う場所がリビングではあるが、剣を用いての立ち回りを行うにはずいぶんと狭い。優七の左右には雑貨が置かれているため、横に移動するような真似もできない。必然的に優七は受ける以外の選択はできなかった。

 真正面から二宮の剣と優七の剣が激突する。ステータス強化のアイテムをフルに使ったためか、斬撃は優七の想定以上に重かったが、受け切れない程ではない。


「――おおおっ!」


 二宮が叫ぶ。剣を押し込むべくさらに柄を強く握りしめるのが優七にもわかり――なおかつ、刀身に淡い光が生じる。


(二宮の戦闘スタイルは、複数の技を適切に使用し間合いをしっかりと保ちながら戦う安定重視の剣のはず……)


 だが、今の二宮は力押しだった。一度剣を引き返すと彼は、さらに剣戟を叩き込む。刀身からはさらにまばゆい青白い光が生じる。それを見て取った瞬間、優七は何を放ったのか理解する。


(これは『フォーススラッシュ』か……)


 剣技は斧や槍と比べれば単発技より連撃技の方が多いのだが――二宮が放った『フォーススラッシュ』は剣技技の中でも中級から上級入りかけの単発攻撃で、威力も終盤まで十分通用する、コストパフォーマンスにも優れた技だった。


 優七はそれを真正面から受ける。重い上に、衝撃波が追加されるオプションを付けているのか白い光がエフェクトとして舞う。その結果、いくらか優七のHPが減った。


(押し込んで通用しなくても、こういう細かいダメージを重ねていくということか?)


 優七はそんな推測を立てつつ、押し返す。優七のレベルと二宮のレベルには歴然とした差が存在する。確かに彼は限界までステータスを上昇させてはいるが、それでも優七と互角――いや、少々下に到達したに過ぎない様子。


「やっぱり、これだけじゃあ足らないか」


 推測していたのか、二宮は呟く。しかし発する言葉は、あきらめた様子はない。

 一度優七と距離を置いた二宮は剣を構え直し、不敵に笑う――ここに来て、まるで正常な思考が戻ったかのように。


「まだだ……俺の攻撃は終わってないぞ」


 ――優七はこの時点でどう動くか思案する。弾き返すことは、ステータス強化を行った二宮相手であっても十分可能。しかし、問題は彼の行動だった。

 見た目上、戦いが始まって優七のことに集中し思考が正常に戻ったように思える。だが優七は自身を見据える二宮の瞳の奥に、少なからず狂気が見え隠れしているのを理解する。


 下手に反撃し、二宮が不利な状況となれば――最悪、利奈へ牙を剥く可能性は否定できない。

 デュエルの最中であっても攻撃に巻き込まれれば他者もダメージは食らう。無論、他の人間に故意に危害を加えればプレイヤーキラーという形となる。だが、今の二宮はそんなこと気にもかけないだろう。


 ならば、どうすればいいのか――選択肢としては二つ。二宮が利奈へ気を向ける間もない程に猛攻を仕掛け倒すか、それとも場所を変えるか。


 とはいえ、無理矢理場所を変えようとしても二宮は拒否するだろう。現状優七の行動は立ち位置的に狭さもあって行動が制限されている。一方二宮はそれにも構わず力を使っている。彼にとって有利な戦況であるのは間違いなく、これを手放すつもりがないことは明白だった。

 ならば、猛攻を仕掛ける事だが――たとえば『セイントエッジ』はこんな狭い空間では使えない。となれば技を使わず押し込むことだが――二宮のステータスが確実に上昇していることから考えて、単なる力押しが通用する可能性は低い。


(残る可能性は……『グランドウェイブ』か)


 隙は生じるが、全弾命中すれば十分倒せるはず――とはいえ、その前に確認しておかなければならないことがある――現状、二宮の防御力はどれほど高まっているのか。そこを確かめなければいけなかった。


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